実感主義の危険性
先日、ほぼ15年ぶりにミャンマーを訪問してみた。しばらく、メディアが伝える情報のみでミャンマーの状況を捉えていたので、軍事政権の圧政によって経済も停滞し、人々の生活も厳しいものだろうと考えていた。しかしそれは全くの思いこみだった。ヤンゴンの街は他のアジア諸国に負けず劣らずの活気に満ちており、走っている車も建物も、15年前に比べると格段に進歩している。何よりも、人々の表情が活き活きと明るいことに、私は大きな感銘を受けた。街のあちこちにあるパゴダ(仏塔)は、国中の信者達から寄せられる寄付で壮麗になっており、そこに集う大勢の親子連れや若者達には陽気で前向きなエネルギーが溢れている。政治に形はどうであれ、この国の人々はより良い未来に希望を持って生活していることが感じ取れた。
メディアは大きな風を作り出すことがままある。その風が吹くと、情報は一つの方向を与えられ、別の方向からの情報は遮断されてしまう。ミャンマーに関して、我々民主主義国家の多くが接している情報も、そうしたものといえるのではないか?情報の方向を定めているのは「自由と民主主義を抑圧する軍事政権」というイデオロギーだろう。しかし、良い政治か悪い政治かを決定するのは誰なのだろうか?限られた情報しか持たない海外の人間が他国の内情を判断することには限界があると思う。
ヤンゴンでは、現地商工会の人々とも会談したが、彼らは一様に日本に対する大きな期待感を持っており、親日感情も強かった。風の流れが変わり、ミャンマーと我が国がより親密な関係を築ける日が来ることを願ってやまない。
まず、谷内正太郎・元外務事務次官にはこの財界人の感想をどう思うのか聞いてみたいものだね。
参考:日本外交のニヒリズム
http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20101225/p2
それにしても、独裁政権下における街の様相が活気があって、「抑圧されているなんてウソじゃね?」という話は別にミャンマーに限った話じゃなくて、チャールズ・リンドバーグはナチス支配下のドイツの様相を同様に語っている。
その一方で、ウィリアム・シャイラーは名著「第三帝国の興亡」の基となるルポをものとしているわけで、要は表層だけを見るのではなく、掘り下げて実勢に迫れるかどうか、だろう。
とりわけマイノリティの苦境は不可視化されているわけで、ナチス支配下でのユダヤ人、障碍者、社会主義・共産主義者らや、ミャンマー各地の少数民族の様相などは判りにくいだろう。それを、旅行の感想で
「ミャンマーに関して、我々民主主義国家の多くが接している情報も、そうしたものといえるのではないか?」
と云ってしまう財界人、というのはどういったものだろう。
日本でとにかく残念なのは財界人に人権意識というものが感じられないことだ。イリーガル、アンモラルを黙認・許容しがちな日本では、競争というものはイリーガル、アンモラルに振る舞う事に躊躇無い人間が有利と云うことになる。だから、トップに座るのはそういう輩なのだろうな、と思うのだった。
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