従軍慰安婦は公娼だったか?
「わめくな!人前で、くろんぼのことなんかで、メソメソする奴があるか−」
だが、妻のすすり泣きに、ティースは沈黙した。婦人は目を拭いた。「私何度も言ったのよ。『ルシンダ、残っていてくれれば、お給金は上げるし、良かったら週に二度お休みをあげてもいいから』って。
「よく聴け、シリー。契約書だ。『私はサミュエル・ティース氏のために、二〇〇一年七月十五日より二ヵ年間労働いたします。辞める場合は四週間前に予告し、代理の者が見つかるまで労働を続けます』どうだ」ティースは目を光らせて、書類を叩いた。「お前がそういう気なら、出る所へ出て黒白つけたっていいぞ」
安倍首相の変節?を受けてか、従軍慰安婦問題に対するネトウヨどもの論議が変化しているようだ。旧日本軍が慰安所の設置、運営、慰安婦の移送に関わっていた事が明らかになってしまった事もあるのか
・公娼制度は(当時は)法律違反ではない。
・慰安婦は高給取りだった*1。
・借金のかたなら個人の問題だ*2。
・他の国にも慰安所があった。
というような論点を持ち出すようになった。だが、こんな事が通用すると思ったら大間違いである。もし、アメリカに伝えられる事にでもなれば、さらに印象を悪くするだけだろう。
なぜなら、このような論点は黒人(マイノリティー)差別の正当化にも使われた論理だからだ。
・奴隷制度は(当時は)法律違反ではない。
・黒人でも白人より多く稼ぐものもいた。
・借金のかたなら個人の問題だ
・他の国にも奴隷制度はあった。
・奴隷を売ったのは、アフリカの黒人奴隷商人だ。
こうした言葉は、マイノリティー問題に関して良く出てくる言葉なのである。
冒頭に置いたのは、火星年代記の中の一章から引用した部分。アメリカで被差別状態に置かれている黒人が、その境地から脱するため火星に移民しようとする。それを南部の白人が苦々しく感じている。
南北戦争時に奴隷から解放されたはずの黒人たちがどのような扱いを受けていたか、それに関しては幾らでも文献があるから詳しく説明はしない。しかし、奴隷として扱われていた時も給与や、休みが無かったわけではない。奴隷としての境遇より解放されてなお、差別状態の是正にどれほど苦闘したか、今なおし続けているか。それを考えれば、給与の有無などが奴隷的境遇を正当化できるはずも無い事は判るだろう。
「奴隷」は、被差別的で選択の余地が無い状況を指す。彼女たちはそうした状況に置かれ、軍はそれを是正するつもりなど無かった。それを上記のような論理で正当化しようとすれば、マイノリティー問題にもまったく無知で無神経だと触れ回るようなものである。アメリカという今なおマイノリティー問題と向き合っている国のセンシティブな部分を刺激してしまう。
それから、一番問題なのは「当時は公娼制度は違法でも何でもなかった。」と述べる連中だ。
当時は問題ないだぁ?バカか、オマエ等は。
ナチのユダヤ人差別だろうが、アメリカの公民権法制定前の黒人差別だろうが違法じゃないのだ。当時の法律とやらと照らせば。問題なのは合法か違法かなどではない。基本的人権を侵していたかどうかだ。それが合法だとすれば、その「法律」がおかしいのである。
しかも、その当時は「違法」では無いにせよ、その事態が存在した事を明らかにするのは現在の我々の責任である。そして、過去の事実と向き合い、どう対処していくかが問われるところなのだ。つまり、「過去」の問題なのではなく「現在」の問題なのだ。
「過去」に起きた事自体に対しては我々の責任は存在しない。だが、その「過去」を是正しようとしないのなら我々の責任となる。キチンと事実を認め謝罪することは、過去を直視し不当行為を行わないという決意表明になる。それを”見直し”たりすれば、疑いを招くだけだ。
目を通した中で慰安婦の境遇を的確に表現していたのがbaisemoi_bulletさん。
エクストラレポート・ルーム 【早分かり編】「国による強制なかった」発言
http://blog.livedoor.jp/baisemoi_bullet/archives/53160983.html
付記:アメリカだけでなく、もちろん日本にもマイノリティー問題は存在するわけだが、日本ではアメリカほどそれが自覚されていないのも確かだ。だが、日本における差別もアメリカでの差別に良く似ている。日本で朝鮮人差別に対して「(北朝鮮への)帰国事業」があったように、アメリカではアフリカ系差別に対して「リベリア」があった。
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追記:写真は藤枝下伝馬商店街裏の「置屋」跡