2023 年 58 巻 1 号 p. 10-17
オゾンなどの大気汚染ガスにより、植物には葉の可視障害や成長抑制などの様々な障害が起きる。この障害の起きる機構を解明することは、植物の環境ストレス応答機構を理解することであり、植物の障害に対する防御機構を明らかにするとともに、植物にストレス耐性を付与するための重要な知見となる。オゾンなどによる植物の障害の原因物質として活性酸素があるが、その発生から障害が発現するまでの機構は非常に複雑であり、その中で活性酸素の消去、および障害(細胞死)に至るシグナル伝達が重要であることが明らかにされてきた。また、オゾンなどの葉への吸収経路である気孔の開閉制御の重要性も示されている。ここでは、筆者らが1980年代後半から現在にいたるまで行ってきた、活性酸素消去系酵素の遺伝子操作による大気汚染ガス耐性植物の開発、植物の大気汚染ガス耐性における植物ホルモンの働きの解明、そして突然変異体を用いた分子遺伝学的研究による植物の環境ストレス応答機構全体像の理解について概説し、機構解明のために用いた手法とその結果得られた知見について紹介する。