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医師のキャリアは年代で変わる?年代別キャリアチェンジの理由と転職事情
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医師は生涯活躍することができる職業です。長年にわたって第一線にいられる仕事だからこそ、多様なキャリアの選択肢があります。また一般的な会社員と比べて転職回数が多い傾向にあり、キャリアチェンジのタイミングが多いのも医師のキャリアの特徴です。医師は常に必要とされており比較的転職がしやすい職種ですが、より転職をしやすい時期を把握しておくとキャリアチェンジの際に役に立つでしょう。今回は医師の代表的なキャリアプランを紹介しながら、年代によって訪れるキャリアの分岐点と転職事情について解説していきます。
この記事のまとめ
- 医局に所属し続けるかどうか、開業をするかどうか、生涯現役で働くかどうかなど、医師ならではのキャリアの分岐点がある。
- 30代後半からスキルアップのための転職や将来の開業を見据えた転職を開始する医師が多い。一方、ワークライフバランスを重視した働き方を選択する医師もいる。
- 40歳前後は医局離脱や転科など、大きなキャリアチェンジをしやすい最後の時期。また50代は研鑽してきた経験やキャリアが花開く年代で、開業を実現させる医師も多い。
この記事の目次
1. 医師はキャリアチェンジが多い職業
医学部を卒業した後、医師は専攻医を経て専門性の高い知識・スキルを身につけていきます。医局という人事組織がある点や肉体的・精神的なタフさが求められる点、プライベートとの両立にも労力を要する点など、医師特有の働き方が影響してキャリアプランに迷いが生じることも多いでしょう。
スキルアップ、ワークライフバランス、開業、転科などキャリアチェンジの理由はさまざまですが、中にはタイミングに気を付けなければならないものもあります。そのため、年代によってキャリアプランを見つめ直す機会が多い職業でもあります。
2. 専攻医でも転職できる
大学卒業後、初期臨床研修を終えた医師は「専攻医」として専門研修プログラムを受けることになります。19の基本領域から選択した1つの領域で3年以上の期間研修に取り組み、基本領域の専門医資格を取得します。
かつては初期研修を終えた医師を「後期研修医」と呼び、医師は後期研修後に各学会によって運用されていた専門医制度にのっとり資格を取得していました。この運用が改められ、2018年からは日本専門医機構が主導する新専門医制度によって「専門医」の認定研修が実施されています。
専攻医は大学医局に所属して研修を行うか、大学医局に所属せずに専門研修プログラムを受けられる医療施設で研修を行うかを選択する必要があります。医局に所属するかどうかは、その先のキャリアを決定づける重要な選択です。かつては医局の影響力は非常に強く、ほとんどの医師が医局に所属していました。しかし、現在は以前と比較して医局に所属しないという選択をする医師も増えてきています。
そして重要な選択だからこそ、一度選択したのちに変更したいという希望も出てきます。「特定の診療科を選んだけど転科したい」「大学病院や関連病院の体制が肌に合わず市中病院に行きたい」「市中病院を経験したものの、やはり医局に所属したい」というような理由でキャリアチェンジをするケースもあります。
かつては研修期間中の転職はご法度と考えられていました。しかし今では決して珍しくなくなり、一度決定したキャリアを変更することも可能になっています。
3. 【30代医師のキャリア】スキルアップかプライベート重視か
30代半ばの医師は、認定医や専門医の資格を取得している人も多くなります。体力もあり、医師としてのスキルを磨くために多少自分に負荷をかけてでも経験を積みたい時期でしょう。そのため、30代半ばの医師はスキルアップのための転職を検討するケースが増加します。幅広い症例を経験できる医療機関や高い診療実績を誇る医療機関への転職を希望するケースが多いようです。
また、将来的な開業のためのキャリア形成をする医師もいます。例えば、開業を検討している地域の病院へ転職をしたり、クリニックの非常勤勤務を通して経営を間近で見る経験をしたりするケースです。
若くてスキルをもつ医師は転職市場で引く手あまたのため、さまざまな医療機関から歓迎されるという特徴もあります。
一方で、激務ではない働き方やワークライフバランスを重視した働き方を求めて転職をする医師もいます。中にはフリーランス医として働く選択をする医師もいます。キャリアプランやプライベートに合わせた選択をそれぞれが行い、働き方の多様性が出てくるのもこの時期です。
4. 【40代医師のキャリア】医局に残るかどうかを決断する
40歳前後は、医局に所属する医師にとってとくに重要な時期です。医局における派閥の関係や自らの立ち位置をある程度把握できるようになっていて、医局内でどの程度まで昇進できるのかを意識するようになります。昇進の見込みをふまえて、医局に所属し続けるか、それとも医局を離れて市中病院でキャリアを築いていくかを選択することが多い年代ではないでしょうか。
また40歳前後は転科をする最後のチャンスとなる可能性が高い時期です。一般的に転科は若い年代のほうが有利です。未経験の診療科のことを一から勉強する必要があるため気力・体力ともに充実している若い年代のほうが吸収しやすく、また受け入れる病院側としても若い年代を歓迎するためです。診療科にもよりますが、もしも転科を検討しているなら40歳前後のタイミングを最後のチャンスと考えてキャリアチェンジをすることをおすすめします。
5. 【50代医師のキャリア】開業医になるか勤務医を続けるか
50代の医師には開業をするか、勤務医を続けるかというキャリアの分岐点が訪れる傾向があります。かねてより研鑽してきた経験やキャリアが花開くのがこの年代であり、開業を実現させる医師もいれば、重要な役職に就く勤務医もいるはずです。
一方で、新たなキャリアアップやキャリアチェンジをするのは相当ハードな年代ともいえます。しかし、病院の院長職や部長職などの求人が出ることも中にはあります。勤務先で院長職や部長職に就くことが難しい場合でも、症例経験が豊富で管理職の経験がある医師であれば、他の病院に入職することもできます。求人が出ることはまれなので、希望する方は転職エージェントに登録をし、キャリアアップを望んでいる旨を伝えておくとチャンスが広がるのでおすすめです。
また開業を検討していたものの、資金面などの事情で断念した場合などは医院継承による開業を検討してみてはいかがでしょうか。医院継承とは、引退を検討している開業医から医療機関の経営を引き継ぐ開業の形態で、医師の高齢化が進むいま注目が集まっています。開業をしたい医師にとっては、開業する際の費用を抑えられる点や開業直後から既存の患者さんに来院してもらえる点などのメリットがあります。開業を成功させるには現経営者との細やかな引き継ぎが重要となりますので、医院継承の仲介をしてもらえるエージェントなどに相談してみるのも一案です。
6. 【60代医師のキャリア】老健や特養への転職が人気
医師は生涯現役で活躍できる職業です。生涯現役で活躍するために、体力面に配慮をしたキャリアを開始するのが60歳前後からではないでしょうか。60代以降は介護老人保健施設(老健)や特別養護老人ホーム(特養)への転職が好まれる傾向があります。
老健や特養に入所している高齢者の健康管理を担う施設管理医は、回診や軽度な感染症・外傷などの治療を行います。高度な治療を必要とする場合は適切な医療機関へ紹介したり、入所者が安全で快適な生活を送れるよう助言したりすることも重要な役割です。日当直やオンコール業務がありますが、急患の来院はないため医療機関のようなハードワークにはなりづらいでしょう。
医療機関で経験した知識や経験を活かすことができ、地域医療に貢献できるやりがいの大きい仕事です。
7. 医師一人ひとりが多様なキャリアを描ける
医師の代表的なキャリアプランと年代ごとに訪れるキャリアの分岐点の傾向を紹介してきました。ここでご紹介しただけでもさまざまなキャリアの選択肢があり、さらに診療科によっても異なるため一人ひとりが多様なキャリアを描けることがわかります。医師は生涯現役で活躍することができ、また常に必要とされている稀有な職業です。キャリアチェンジを検討したら、転職エージェントを利用するなどしてどのような医療機関に転職が可能か相談してみてはいかがでしょうか。
文:太田卓志(麻酔科医)