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ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とは?概要や必要性についても解説|医師の現場と働き方

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とは?概要や必要性についても解説

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)という取り組みをご存知でしょうか? SDGsの一環で、医療に関わる開発目標として国際的に注目されています。今回は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)について、その概要や背景、必要性について詳しく解説します。

<この記事のまとめ>

  • ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)は、世界全体で「誰もが支払い可能な費用で適切な保健医療を受けられる社会にする」取り組みのこと。
  • UHCのさらなる強化には予防接種の推進や疾患の早期発見のための健診、総合的な予防医療を推進していくことが大切。
  • UHCの達成には、「物理的アクセス」「経済的アクセス」「社会慣習的アクセス」の3つのアクセスが重要であり、日本においても改善は必要。

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1.ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とは?

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health CoverageUHC)(※以下:UHC)とは、世界全体で「誰もが支払い可能な費用で適切な保健医療を受けられる社会にする」取り組みを指します。

日本では国民皆保険制度や介護保険サービスなどが導入されており、他の先進国と比べてもUHCの実現が進んでいます。しかし、今もなお、医療体制が不十分な国や、治療費の支払いで貧困に陥る人が多い国は少なくありません。そうした世界的な課題を改善するために、WHO(世界保健機構)はSDGsの目標の1つとして、UHCを掲げています。

(参照:グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン|目標 3 あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する

1-1. UHCは基本的人権を守るための国際目標

WHO(世界保健機関)は、1984年の設立時に「健康は基本的人権である」と宣言しています。そうした健康を守る活動を世界的に進めていくために、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」の一環としてUHCの概念が提唱されました。
「持続可能な開発目標」には、17の目標と169のターゲットで構成されており、UHCはターゲットの1つに該当します。
目標3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」ことが掲げられ、そのなかで、財政保障や質の高い医療サービスの提供、安全で効果的な医薬品やワクチンへのアクセスを含むUHCの実現(ターゲット3.8)が提示されています。

1-2.日本はUHCを達成した国の1つ

先にもお伝えしたとおり、日本では1961年に国民皆保険制度が成立し、現在ではすべての国民が公的医療保険に加入する仕組みが整っています。また、医療が必要なときに、受診する医療機関を自由に選択できる「フリーアクセス」制が採用され、かかる医療費は一部負担のみです。こうした環境は、UHCを満たすものであり、日本はUHCを達成していると考えられています。

その結果、医療費の増加といった課題もあるものの、日本は他の先進国と比較しても、医療・福祉に関わる制度が充実している国です。海外においては、先進国のなかにも保険制度を導入していない国も存在しており、そういった国では治療を受けられても、高額の治療費が用意できず、貧困に陥る要因となるケースが多く見られます。

1-3.新型コロナのパンデミックによるUHCへの影響

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)のパンデミックとその長期化は、各国の保健・医療サービスに多大な影響を及ぼし、UHC実現を足止めしてしまいました。国際的には、今も大きな影響が残りっています。
WHOの調査において、特にコロナの影響を強く受けて、保健・医療サービスの提供が滞ってしまった分野として、以下が挙げられています。

●栄養不良
●がん検診
●家族計画や避妊
●緊急歯科治療
●高血圧・糖尿病などのその他の非感染性疾患
●精神・神経・薬物使用の障がい
●熱帯病、結核、HIV、B型・C型肝炎など

上記の保健・医療サービスが影響を受けた原因として、感染への懸念に加えて、該当分野での労働力が不足している点や地域住民の不信感などが挙げられています。UHCを達成したとされる日本においても医療機関にさまざまな混乱を招き、一時的に受診控えが出たのも事実です。しかし、従来より医療体制が充実していたこともあり、他国ほどの大きな影響が続かなかったと考えられます。

2.UHCはなぜ必要?

そもそも、UHCはなぜ必要なのでしょうか。続いて、その主な理由3つについてご紹介します。

2-1.世界中で妊産婦と子どもの健康が守られていない

子どもは、将来を担う大切な存在です。子どもの健康が守られなければ、人類としての発展も難しくなります。しかし、多くの国では子どもや妊産婦の健康を守る仕組みが不十分です。

ユニセフ(国連児童基金)らがおこなった2020年の最新推計によると、妊産婦死亡率(出生10万人当たりの死亡率)の世界平均は223人である一方で、深刻な人道危機に直面する9カ国において年間500人を超えたことが報告されています。一方で、厚生労働省が発表している「人口動態調査 人口動態統計(確定数 乳児死亡)」を見ると、2020年の日本での妊産婦死亡率は2.8人でした。
また、ユニセフの「世界子供白書2023」によると2021年の年間5歳未満児死亡率(出生1000人当たりの死亡数)は、最多のナイジェリアが152人であるのに対し、日本は2人でした。

日本ではあまり意識されないUHCですが、世界では医療体制が不十分な国が多いことが伺えます。生活環境や保険制度の違いを加味しても、世界中の誰もが安心して暮らし、生命を維持するためにUHCの達成が必要です。

2-2.世界三大感染症をいまだに制御できていない

毎年約250万人もの命を奪い続けているエイズ、結核、マラリアは、「世界の三大感染症」と呼ばれ、現在も世界中で感染拡大が続いています。特に、サハラ以南アフリカにおいては重複感染を引き起こし、深刻な問題となっています。

マラリアを例に挙げると、世界の感染者数は2億4500万人(2020年)で、いまだ拡大傾向にあります。日本において、マラリアは感染予防も治療も可能な疾患であることが知られており、国内においては蚊が媒介した最後の発生例となるのは1959年です。しかし、国内での根絶後も、輸入マラリアの患者数は増加傾向にあります。1991年には輸血による輸入マラリアが発生し、その後の発生は輸入例のみが報告されています。新型コロナウイルス感染症の影響で一時的に輸入例が減ったものの、2020年~2024年の期間における年間症例数は5~15件ほどで推移しています。
また、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告では、地球温暖化に伴い2100年までに3~5℃気温が上昇すると、世界のマラリアの潜在感染危険地域が大きく拡大し、将来的に西日本一帯が該当する可能性があるとして危惧されています。
世界的なUHCの実現は、日本での感染症拡大を予防するためにも大切な取り組みです。

2-3.保健医療サービスへの支出が増加し続けている

日本だけでなく、世界的にも高齢化が進んでいます。世界中で総人口に占める65歳以上の者の割合(高齢化率)は2015年で8.2%でしたが、2060年には17.8%にまで上昇すると推計されています。
世界的な高齢化に伴い、認知症の罹患者数が増加し、世界中で5,500万人以上(2023年WHO公表)に上ります。また、その60%以上が低・中所得国に住んでいることが分かっています。

国内外で、認知症に関する保健医療サービスへの支出は年々増加し、公的支出だけでなく各家庭での負担も増えています。また、介護者の収入の減少による貧困につながり、社会問題にもなっています。こうした状態をできるだけ緩和するためにも、認知症予防への取り組みが必要です。その一環として、UHCの実現が推進されています。

3.UHCの実現に向けた医師の役割とは

UHCの実現には、基本的医療サービスの提供が土台となります。その点では、地域格差が残るものの、日本ではおおむね実現しているといえるでしょう。そのうえで、さらなるUHCの強化を目指すために、感染症への対策や医療費削減に取り組むことが、医師の役割といえます。
具体的には、予防接種の推進や疾患の早期発見のための健診をはじめ、健康教育などを実施しながら、総合的な予防医療を推進していくことが大切です。
また、今後世界的なUHCの実現に向けて、国際的な協力・連携体制の構築が進められます。そうしたなかで、医師として海外に情報を発信したり、指導を求められたりする可能性も考えられます。グローバル化に伴い、ビッグデータを用いた医療DXの活用も求められるかもしれません。各国でおこなわれているさまざまな取り組みや、新たな医療サービスへの理解を深めながら、UHCの世界的な実現に貢献するのも、日本の医師の役割といえます。

その一方で、UHCを実現した日本では、医療費の増大が課題視されています。世界的にUHCが拡大しても、同様の課題が生じる可能性があるでしょう。UHC先進国である日本から、医療費削減に関わる取り組みを積極的に進めるため、医師による予防推進・プライマリケアの充実も大切な役割だと考えられます。

4.UHC達成に向けて必要な「3つのアクセス」の改善

UHCを実現するためには、保健医療サービスを利用しやすい環境にあることと、利用にあたって費用の問題が生じない状況を作る必要があります。加えて、個人や家庭内、社会的な問題で医療機関を受診することが妨げられることを防がなくてはいけません。

UHC達成に向けて、以下の3つのアクセスを改善させることが重視されています。

1.物理的アクセス
近隣に医療施設がない、医師や看護師がいないといった物理的な問題

2.経済的アクセス
医療費の負担が大きい、医療機関までの移動費が高い、患者本人や家族の収入減といった経済的な問題

3.社会慣習的アクセス
ヘルスリテラシーが低く受診の必要性を意識できない、家族の許可が得られない、言葉が通じない、治療のために賄賂を要求されるといった社会慣習的な問題

日本においても、3つのアクセスの改善は必要です。例えば、地域の医療格差は物理的アクセスに課題があると考えられます。また、昨今、課題視されている介護者の収入減による貧困問題は、経済的アクセスの課題でしょう。そのほか、職場で受けた検診で再検査を指導されているのに、再検査を受けずに悪化させてしまうケースは、社会慣習的アクセスの課題といえるかもしれません。UHCを達成しているといわれる日本においても、まだまだ課題は残ります。

5.UHCの理解を深め未来へ備えよう

すでに日本は、UHCを達成した国として世界的に注目されています。そのため、日々の業務のなかでUHCを意識することは少ないかもしれません。しかし、医療の地域格差や医療従事者の人手不足など、UHCに関わる課題は残っています。また、医療体制が充実している分、医療費が増大し、今後の医療体制に不安が残るのも事実です。そうしたなか政府主導によるUHCのさらなる推進が検討されていることから、今後の医療体制にもなんらかの影響が出る可能性があります。新しい情報を確認しながらUHCへの理解を深め、未来に備えましょう。

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PROFILE

監修/小池 雅美(こいけ・まさみ)

医師。こいけ診療所院長。1994年、東海大学医学部卒業。日本医学放射線学会・放射線診断専門医・検診マンモグラフィ読影認定医・漢方専門医。放射線の読影を元にした望診術および漢方を中心に、栄養、食事の指導を重視した診療を行っている。女性特有の疾患や小児・児童に対する具体的な実践方法をアドバイスし、多くの医療関係者や患者さんから人気を集めている。

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