近年医療業界で注目を集めているのが、チームステップス(Team STEPPS®)です。チームステップス(Team STEPPS®)は、ミスコミュニケーションによる事故を防止して、医療安全文化を高めるために生まれたチームワークシステムですが、具体的にはどのような取り組みを行えば良いのでしょうか。
本記事ではチームステップスの概要やチーム構成、4つのコア・スキル、チームステップスを導入する流れについて分かりやすく解説します。患者さんの安全性を高め、質の高い医療を提供するには、患者さんを中心として医師を含めた医療従事者がチームワークを高めることが必要不可欠です。本記事を参考にして、チームステップスがどのようなものか正しく把握しましょう。
- チームステップス(Team STEPPS®)とは、アメリカの国防総省と医療研究・品質調査機構によって開発された医療現場のためのチームワークシステム
- 医療従事者だけでなく、患者さんを含めてチームを構成するのがチームステップスの特徴
- リーダーシップ・状況モニタリング・相互支援・コミュニケーションの4つのコア・スキルが求められる
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目次
1.チームステップス(Team STEPPS®)とは?
2.チームステップスのチーム構成
3.チームステップスの4つのコア・スキル
3-1.リーダーシップ
3-1-1.ブリーフ(Brief)
3-1-2.ハドル(Huddle)
3-1-3.デブリーフ(Debrief)
3-2.状況モニタリング
3-2-1.クロスモニタリング
3-2-2.STEP
3-2-3.I’M SAFEチェックリスト
3-3.相互支援
3-3-1.カス(CUS)
3-3-2.DESCスクリプト
3-3-3.2回チャレンジ
3-4.コミュニケーション
3-4-1.SBAR
3-4-2.チェックバック
3-4-3.ハンドオフ(I PASS The BATON)
4.チームステップスを導入する流れ
5.チームステップスを導入して医療安全文化の向上を目指そう
1.チームステップス(Team STEPPS®)とは?
チームステップス(Team STEPPS®)とはTeam Strategies and Tools to Enhance Performance and Patient Safetyの略称で、質の高い医療の提供と患者さんの安全を高めることを目的としたチームワークシステムのことです。チームワーク向上による患者さんの安全推進を目的として、アメリカの国防総省(Unired States Department of Defense)と医療研究・品質調査機構(Agency for Healthcare Research and Quality)が開発しました。
従来医療現場では患者さんの安全を推進するために「事故は起こり得る」と想定したシステム対策が多く採用されてきました。しかし医療事故の多くはコミュニケーションエラーに起因しており、従来のシステム対策では患者さんの安全を守るために十分な対策ができていたとはいえません。
いくら個々の医療従事者が高いスキルや知識を持っていても、チームワークが構築できていなければ、十分にそれらを発揮するのは難しいです。チームステップスによって、それぞれの医療従事者がお互いの業務内容を理解し、尊重してスキルや知識、気づきを共有することで、より良いチーム医療を提供できます。また円滑なコミュニケーションを行うことで患者さんの安全性を高め、事故を未然に防げる「医療安全文化」の醸成を目指せます。
2.チームステップスのチーム構成
チームステップス(Team STEPPS®)では医療従事者と患者さんの信頼関係を構築するため、患者さんを含めてチームを構成します。チームステップスの構成するメンバーを大きく分けると、以下の4つです。
●患者さん
●コアチーム(担当医・看護師・非常時対策チームなど)
●調整チーム・補助的支援チーム(病棟長・看護長・技師・補助員など)
●管理・運営部門(事務・看護部長・病院長など)
上記のメンバーで、Multi Team System(MTS)と呼ばれる患者さんをトップとしたピラミッド型のチームを作ります。
患者さんを重要な話し合いに同席させたり、情報伝達の役割を担ってもらったりして、チームメンバーとして参加してもらうことが、チームステップスのポイントです。
3.チームステップスの4つのコア・スキル
チームステップス(Team STEPPS®)では以下4つのコア・スキルを習得し、実践することが求められます。
●リーダーシップ
●状況モニタリング
●相互支援
●コミュニケーション
各コア・スキルの詳細やそれぞれのコア・スキルで求められるものについて見ていきましょう。
3-1.リーダーシップ
チームステップスにおけるリーダーシップでは、以下のような能力が求められます。
●適切なチーム形成や人員配置を行い、明確な目標を提示する
●チームメンバーから情報や意見を集めて意思決定をする
●チームメンバーが活発に意見交換できる環境を作る
●良好なチームワークを作り、チーム文化を醸成する
●チームパフォーマンスを最適化して目標達成を促進する
●対立する意見などを解決する高い論争解決能力を持つ
●適切なチーム活動(ブリーフ・ハドル・デブリーフ)を行う
適切なチーム活動に関して、詳しく見ていきましょう。
3-1-1.ブリーフ(Brief)
ブリーフは日本語で「打ち合わせ」のことです。ブリーフィングやブリーフィング・タイムアウトとも呼ばれます。計画を立てるために行う業務開始前に実施する短時間の打ち合わせで、以下のような内容を確認します。
●チーム構成
●チーム目標への理解と同意
●各チームメンバーの役割や責任
●各チームメンバーの業務量
●患者さんの状態
●治療計画
●業務への障害となる問題点
●使用可能な人的・物的資源
●予測されるリスクへの対応や緊急時対応
ブリーフを行う際は、チームメンバーが手を止めて参加しなければなりません。ブリーフを行うことで全チームメンバーが現状を把握し、問題点やリスクを考慮しながら、状況に即した業務を行えます。
3-1-2. ハドル(Huddle)
ハドルは日本語で「途中協議」のことです。アメリカンフットボールで試合中に円陣を組んで作戦を立てるハドルに由来しています。
業務開始前・業務中・業務終了後に実施する打ち合わせで、ブリーフは全員が手を止めて行うのに対し、ハドルは立ち話的に臨時の状況確認や調整を行うものと位置付けられています。状況によって異なりますが、ハドルで話し合い・共有を行うべき事項は、以下の通りです。
●重要な問題
●新たな出来事
●問題点
●結果や想定されるリスクの予測
●役割分担
3-1-3.デブリーフ(Debrief)
デブリーフは日本語で「振り返り」のことです。デブリーフィングとも呼ばれます。
手術や検査などの活動終了時に行われるもので、活動を振り返って課題を見つけ、今後のより良いチーム活動に生かすために行います。デブリーフィングで確認するのは、以下のような点です。
●明確なコミュニケーションが取れていたか
●各チームメンバーが役割や責任を理解していたか
●活動中に状況把握が継続できたか
●各チームメンバーの業務量は適切だったか
●必要に応じて業務支援の要請・提供はできたか
●エラー発生時にうまく回避できたか
●人的・物的資源を十分に活用できたか
●何がうまくいったか
●今後改善すべき点は何か
3-2.状況モニタリング
状況モニタリングは「状況監視」とも呼ばれます。
状況モニタリングでは後述する手法を使って、状況モニター(個人の技術)・状況認識(個人の結果)・情報共有(メンタルモデル共有)を繰り返します。自身だけでなく患者さんや自分以外の医療従事者の状況を分析して共有することで、チーム内で共通認識を持ち、エラーの発生を未然に防ぐことが目的です。
3-2-1.クロスモニタリング
クロスモニタリングとは各チームメンバーがお互いの状況を監視し、状況認識を行うためのものです。状況に応じてメンバー同士が積極的に助言や提案を行い、場合によっては指摘して是正を求めます。
3-2-2.STEP
STEPとは状況モニタリングのチェックポイントです。大きく分けて4つのポイントで構成され、それぞれの以下のような内容をチェックします。
Status of the Patient(患者さんの状況) | ●病歴 ●バイタルサイン ●服薬状況 ●精神・身体所見 ●治療方針 |
Team Members(チームメンバー) | ●施設情報 ●業務負担 ●業務遂行度合い ●技術レベル ●ストレス度合い |
Environment(環境) | ●疲労 ●管理情報 ●人的資源 ●物的資源 ●トリアージ力 |
Progress Toward Goal(目標に向けての進捗状況) | ●患者さんの状況 ●目標の達成度合い ●援助の必要性 ●計画の適切性 |
3-2-3.I’M SAFEチェックリスト
I’M SAFEチェックリストは、各チームメンバーが自己管理を行うためのチェックリストです。
●Illness(病気・健康状態)
●Medication(体調に影響がおよぶ服薬)
●Stress(過度のストレス)
●Alcohol and Drugs(飲酒・薬物)
●Fatigue(過度の疲労)
●Eating an Elimination(食事・排泄)
自己管理は各チームメンバーの責任ですが、問題があったときに躊躇なく申告できるチームの雰囲気を作ることも大切です。
3-3.相互支援
相互支援はお互いの状況やニーズを把握し、状況に応じて作業を分担してバランスを取る能力のことです。以下のようなことが求められます。
●各チームメンバーの業務負担を見極め、必要に応じて労働支援を行う
●各チームメンバーが積極的に支援を求め、支援を提供できる環境を作る
●各チームメンバーの知識を評価し、必要があれば是正や情報支援を行う
●意見の対立を解決する
●患者さんを擁護し、守るための主張をする
相互支援で行うべき主な行動を紹介します。
3-3-1.カス(CUS)
カス(CUS)はConcern(心配)・Uncomfortable(不安)・Safety Issue(安全上の問題)の頭文字で作られた言葉です。心配・不安・安全上の問題を感じた際に、はっきりと意思表示を行うことを意味します。
3-3-2.DESCスクリプト
DESCスクリプトとは、チーム内で論争や意見の食い違いが起きた際に、解決するための取り組みのことです。以下の流れで対立の解決を目指します。
●Describe:具体的なデータを提供して、問題となる状況・行動を説明する
●Express:問題となる状況・行動に対する懸念を伝える
●Suggest:代案を提示して説明し、同意を求める
●Consequenses:チームの目標を軸に結論を出す
DESCスクリプトは医療上の問題はもちろん、個人的な論争、私的な対立にも用いられます。
3-3-3.2回チャレンジ
2回チャレンジとは、患者さんの安全を守るために最低でも2回は自分の意見や考え、気づきを発信するルールです。
意見や考え、気づきを発信して否定されたとしても、そこで引き下がるのではなく、情報を追加したり言い方を変えたりして相手にしっかりと伝えます。またチーム内では、安全を重視した意見や考え、気づきは非難されるべきでないという雰囲気を作ることも大切です。
2回チャレンジのルールに沿っても納得できる反応が得られない場合は、管理責任者や指導者に相談するか、さらに強い行動を起こさなくてはなりません。
3-4.コミュニケーション
コミュニケーションは、さまざまな手段で情報を正確に共有できる力のことです。
アメリカで公表された報告によると、医療事故の根本原因の7割程度はコミュニケーションエラーとされています。事故を未然に防ぐには、コミュニケーション方法も見直さなければなりません。
チームステップスでは実践すべきコミュニケーション方法として、さまざまな方法が示されています。代表的な方法を見ていきましょう。
※参考:公益社団法人 日本産婦人科医会「1.コミュニケーションエラー」
3-4-1.SBAR
SBAR(エスバー)は緊急対応が必要な状況や、緊急性のある注意喚起が必要な場合の情報伝達ルールです。以下のポイントを押さえて、正確に素早く情報を共有します。
●Situation(状況):患者さんに起こっていること
●Background(背景):臨床的な背景
●Assessment(評価):この状況に対する自身の考え
●Recommendation and Request(提案・依頼):状況解決のための提案や依頼内容
3-4-2.チェックバック
チェックバックとは、情報伝達を行う際に「繰り返します」「その通りです」といった言葉を意識して使い、発信した側から会話を閉じる方法です。
情報発信者からの情報を認識した受け手は、「繰り返します」と前置きした上で、受け取った内容を復唱して、間違いがないか確認します。そして情報発信者は「その通りです」と前置きし、再度発信内容を復唱します。チェックバックが行われない場合は「チェックバックをお願いします」と伝え、復唱を促さなければなりません。
3-4-3.ハンドオフ(I PASS The BATON)
ハンドオフ(I PASS The BATON)は、申し送りをする際に患者さんの情報を正確に伝え、安全を維持するための方法です。以下の内容を伝えて、情報の引き継ぎを行います。
●Introduction(紹介):自分の役割や業務
●Patient(患者さん):患者さんの名前・ID・年齢・性別・所属
●Assessment(評価):主訴・バイタルサイン・症状・診断
●Situation(状況):現状・変化・処置後の反応
●Safety Concern(安全上の懸念事項):懸念すべき検査結果の有無・アレルギーの有無・危険信号
●Background(背景):患者さんの既往歴・服薬状況・家族の病歴
●Actions(対応):これまでの対応・今後の対応
●Timing(タイミング):緊急レベル・優先順位
●Ownership(責任の所在):対応責任者(患者さんやその家族を含む)
●Next(予測):今後起こる変化の予想
ハンドオフと前述したチェックバックは、セットで行うことが大切です。
4.チームステップスを導入する流れ
チームステップスを導入する流れは、以下の通りです。
1.事前評価を行い、危機感を共有する
組織の準備状況を確認し、チェックリストを作成する
2.計画を立ててチームステップスを実施する
必要に応じてトレーニングを実施する
3.チームステップスを継続して実践する
医療安全文化の醸成につなげる
この流れを基本とし、状況に応じて2・3を行き戻りして、問題点があれば改善しつつチームステップスを実践します。
効果的なチームステップスを実施するためには、事前評価をしっかりと行うことが大切です。本格的な導入のハードルが高い場合は部分的に導入し、少しずつ院内に浸透させましょう。
5.チームステップスを導入して医療安全文化の向上を目指そう
部分的にでもチームステップスを導入する医療機関は増えています。チームワークを高めた環境でご自身の力を発揮したいなら、転職を検討するのも一つの方法です。転職を考えている現役医師の方は、医療求人情報専門のマイナビドクターにご相談ください。
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