マイナビDOCTOR 編集部からのコメント
がん標的治療トランスレーショナルリサーチ分野の衣斐寛倫分野長の研究グループが、がんの薬物療法に使用される分子標的薬の新たな薬剤耐性メカニズムを発見。6月6日、その克服法を示したと愛知県がんセンターが発表しました。分子標的薬は長期間使用すると薬剤が効かなくなることが知られているため、これまで、その原因の解明と克服が求められていました。
愛知県がんセンターは6日、がん標的治療トランスレーショナルリサーチ分野の衣斐寛倫分野長の研究グループが、がんの薬物療法に使用される分子標的薬の新たな薬剤耐性メカニズムを発見し、その克服法を示したと発表した。【新井哉】
遺伝子には、正常な細胞が機能するためのプログラムが入っており、遺伝子に異常が生じるとがんの発生につながる。分子標的薬は、遺伝子の異常により生じ、がん細胞の生存・増殖に重要な役割を果たす異常なタンパク質をピンポイントで抑える薬剤で、現在、多数の分子標的薬が患者の治療に用いられている。ただ、分子標的薬は長期間使用すると薬剤が効かなくなることが知られているため、その原因の解明と克服が求められていた。
分子標的薬耐性は、これまで標的の遺伝子に新たな遺伝子異常が加わることで起きると主に考えられてきたが、近年、遺伝子異常ではない耐性化のメカニズムが注目されている。衣斐分野長のグループも2020年に上皮間葉移行と呼ばれる細胞の性質の変化が分子標的耐性を誘導することを明らかにしていた。
この上皮間葉移行は薬剤に長期間さらされると起きると考えられてきたが、今回、薬剤投与後のがん細胞の状態を詳細に観察したところ、上皮間葉移行が薬剤投与後24時間以内に起きることが判明。細胞膜に存在する複数のタンパクの位置関係の変化が、がん細胞の生存を維持する細胞内シグナルを活性化することも発見した。
さらに、がんに発生する遺伝子異常のうち、最も頻繁に見られるKRAS遺伝子の異常に対し、阻害薬投与後の状態を観察した結果、上皮間葉移行による生存シグナル活性化により、MRASと呼ばれる新たなタンパク質が、がん細胞内に出現することを明らかにした。MRASの出現により、KRASを抑制してもがん細胞内の機能は維持されており、両者を抑えるとKRAS遺伝子異常を持つ腫瘍に対する治療効果が著しく向上することが、マウスモデルで判明した。
今回の発見は、分子標的薬の投与によって、細胞膜に存在するタンパク質の配置が変化することが薬剤耐性化の原因の1つであることを示しており、「これまで全く考えられていなかった新しい薬剤耐性のメカニズム」と説明している。MRASタンパク質については、創薬のターゲットとなる可能性が複数の製薬企業や研究グループから報告されているが、今回の発見は、MRASをターゲットとした薬剤開発の有用性をさらに裏付けるとともに、KRAS阻害薬の効果を改善する可能性を示しているという。研究の成果は「Nature Cancer」のオンライン速報版に掲載された。
出典: 医療介護CBニュース
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