麻酔科医の主な仕事は、手術室や集中治療室などで患者さんの全身管理を行うことです。近年、緩和ケア病棟やペインクリニックなどでの需要も高まっているものの、医師全体の割合でみると麻酔科医の数はそれほど多くありません。そのため、麻酔科医がどんな働き方をしているのかイメージしにくいこともあるでしょう。
この記事では、麻酔科医の仕事内容や一日のスケジュール例、やりがいについて詳しく解説します。
<この記事のまとめ>
- 麻酔科医とは、「麻酔科領域」の研修を経て、麻酔標榜医、もしくは麻酔科専門医の資格を取得した医師のこと。
- 麻酔科医の仕事は、周術期にかかわる、集中治療・救急対応、緩和医療での痛み緩和、ペインクリニックでの疼痛コントロールなどが挙げられる。
- 麻酔科医になるには、「麻酔科」の専攻医として研修を受け、専門医合格後、「麻酔標榜(ひょうぼう)医」を厚生労働省に申請、取得するのが一般的。
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1.麻酔科医とは
麻酔科医とは、新専門医制度における基礎領域の1つである「麻酔科領域」の研修を経て、麻酔標榜医、もしくは麻酔科専門医の資格を取得した医師のことです。麻酔科医は特定の疾患や臓器を診るのではなく、手術時に使用する麻酔の管理をしたり、麻酔をかけた患者さんの血圧や脈拍、呼吸、疼痛などの全身管理を行います。
そのほか、麻酔科医はICUなどの集中治療室や救急病棟、ペインクリニック外来、緩和医療の分野などで活躍しています。通常、主治医になることはなく、患者さんと直接かかわる機会はほとんどありません。ただし、ペインクリニックなどでは主治医として患者さんの人生に深くかかわることもあります。
厚生労働省が行った「令和4年(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況調査」によると、医療施設に従事する麻酔科医の数は、全体の3.2%にあたる10,350人でした。
また、麻酔科医の男女構成を見ると、男性が57.2%、女性は42.8%でした。内科医の男女比が男性78.2%、女性21.8%であることを考えると、麻酔科医は女性が多く在籍しているといえます。
2.麻酔科医の仕事内容
麻酔科医の職場はさまざまですが、勤務場所によって仕事内容が異なります。代表的な麻酔科医の仕事内容をみてみましょう。
2-1.周術期にかかわる
病院で働く麻酔科医は、手術の中核を担う存在です。安全に手術が行えるように、手術全体の流れと、手術内容を踏まえたうえで、対象となる患者さんに適した麻酔方法や薬剤を選択、処置を行います。
手術中は酸素飽和度や血圧など、モニターに示される数値からデータを分析し、リアルタイムで対応しなければなりません。刻々と変わる患者さんの全身状態を観察しながら、麻酔の深度、血圧や心拍などの循環管理、呼吸管理を行い、緊急事態にも冷静に対処できるスキルが必要です。痛みの有無は体の回復に影響するため、術後も患者さんの疼痛管理に携わります。
超高齢社会を迎えた日本では、高齢者の手術件数も増加傾向で、手術の難易度も上がっているといわれています。麻酔科医は、専門的知識を活かしながら、高度な手術にも対応できるスキルが求められています。
2-2.集中治療・救急対応
集中治療室(ICU)では、各診療科の主治医とともに、患者さんの全身状態を整える業務を担います。予断を許さない状況で最適な全身管理を行うには、麻酔科医の専門的な知識が欠かせません。
病院によっては、集中治療室に麻酔科医が常駐しているケースもあり、集中治療チームの要として活躍しています。
救急でも同様に、麻酔科医が中心的役割を担っているところもあります。初期治療から集中治療まで一貫して麻酔科医がかかわることで、変化する患者さんの状態に合わせた全身管理を行い、最適な治療ができる環境を整えています。
2-3.緩和医療での痛み緩和
日本緩和医療学会は、緩和医療チームにおける疼痛マネジメントについて、WHOガイドラインの5原則に沿った鎮痛剤の処方が行われているかの確認が必要としています。治療困難な例には、神経ブロックも適応としており、疼痛管理を専門とした麻酔科医の需要が高まっています。
(参考:特定非営利活動法人 日本緩和医療学会|緩和ケアチーム活動の手引き)
ただし、がん患者さんの場合、痛み以外にも呼吸困難や悪心・嘔吐、腹部膨満感などの身体的アセスメントが必要です。そのため、緩和ケアにおいても麻酔科医が主治医になるケースはほとんどなく、主治医からの苦痛緩和に関するコンサルテーションを受ける役割を担うことが多いでしょう。
2-4.ペインクリニックでの疼痛コントロール
麻酔科医は、薬剤を用いて、できるだけ安全に患者さんの痛みをなくす、もしくは軽減させる技術を持つ専門家です。疼痛コントロールの知識を持つ麻酔科医は、痛みのエキスパートとして、慢性的な痛みをケアするペインクリニックでの需要もあります。
痛みの根拠となる身体的所見が見つからない場合には、患者さんの置かれている状況や背景を分析したうえで、個々に異なる対応を検討しなければなりません。加えて、痛みだけにアプローチするのではなく、痛みに伴う不快感や不安感なども軽減させるスキルが求められています。自身で開業した場合や、麻酔科医が1人しかいない場合には、主治医になることもあります。
3.麻酔科医のやりがい
麻酔科医のやりがいとして、以下のような点が挙げられます。
●患者さんに適した全身管理を実施し、無事に手術が終えられた達成感
●痛みが緩和された患者さんからの喜びと感謝の声にモチベーションが上がる
●全身を専門とするため、さまざまな症例を学ぶ機会がある
●どの診療科でも必要とされるため自由度の高い働き方が選択しやすい
麻酔科が働く現場は、多くの場合、手術などの緊急性の高い状況にあります。患者さんの命に直結する場合が多く、臨機応変な対応が求められるなか、無事に手術が成功した時の達成感は得難いものです。また、緩和医療・ペインクリニックでは、患者さんのQOL(生活の質)に大きくかかわります。痛みの緩和で患者さんの生きる喜びを支えることに、医師としての充実感を得られることでしょう。麻酔科医の関わる診療科は多岐に渡り、対象も子供から高齢者までさまざまです。全身管理に携わる麻酔科医ならではのやりがいといえるでしょう。
4.麻酔科医の一日のスケジュール例
麻酔科医の一日は、働き方によって異なります。主に手術現場で働く場合、手術が行われる時間帯に合わせて、早朝出勤や午後からの出勤になることもあります。一方で、緩和医療に携わる場合、終末期や慢性期疾患の患者さんに対応するため、通常の診療時間と変わりません。
以下は、手術と緩和医療、それぞれを担当した場合のタイムスケジュール例です。なお、病院によって時間の経過は異なり、手術を担当しない日は、救急業務に携わることもあります。
麻酔科医の一日のスケジュール例
時間 | 手術を担当 | 緩和医療を担当 |
---|---|---|
7:30 | 出勤・麻酔準備・患者確認 | |
8:00 | 術前カンファレンス | 出勤 |
8:30 | 集中治療室回診 | カンファレンス |
9:30 | 麻酔導入・手術開始 | 病棟回診 |
12:30 | 交代で昼食 | 昼食 |
午後 | 手術・術後訪問・術前診察など | 訪問診療・面談・回診 |
18:00 | 終業 |
このほかにも、翌日の症例準備、ケースカンファレンス、勉強会などの自己研鑽の時間など、状況によって勤務時間が長引くこともあります。
5.麻酔科医になるには
麻酔科医になるには、新専門医制度の基礎領域「麻酔科」の専攻医として研修を受け、専門医合格後、「麻酔標榜(ひょうぼう)医」を厚生労働省に申請、取得するのが一般的です。専門医を取得していなくても、麻酔標榜医の資格は取得できますが、条件を満たすことを考えると、専門医取得を目指すのが近道です。
5-1.麻酔科専門医
4年以上の麻酔科医専門研修プログラムを経て、筆記試験・口頭試問・実技審査に合格することで取得できる資格です。5年ごとに更新の必要があります。
受験申請の基準となる要件は以下のとおりです。
●単一施設で継続して週3回以上の麻酔科業務に従事していること(ただし、基礎研究のみ従事している期間は除く)
●申請する年の日本麻酔科学会の会費を完納していること
●学術集会等への参加や学術発表等による実績として所定の10単位を収めていること
●申請する年の5年前の4月1日から申請する年の3月31日までの間にAHA-ACLS(※1)、またはAHA-PALSプロバイダーコース(※2)を受講し,実技試験申請時にプロバイダーカードを取得していること
●以下の経験症例数を満たすこと
小児(6歳未満)の麻酔 | 25症例 |
---|---|
帝王切開術の麻酔 | 10症例 |
心臓血管手術の麻酔(胸部大動脈手術を含む) (※2019年以降に研修プログラムを開始した専攻医のみ) |
25症例 |
胸部外科手術の麻酔 | 25症例 |
脳神経外科の麻酔 | 25症例 |
※1:AHA-ACLS……アメリカ心臓協会(AHA)が提供する二次救急処置の提供技術の講座
※2:AHA-PALSプロバイダーコース……AHAが提供する、小児患者を対象とした呼吸器系や心血管の緊急事態および心停止の処置技術を学ぶコース
5-2.麻酔標榜医
麻酔科専門医の取得にあわせ、麻酔標榜医の資格取得も必要です。この資格がなければ、クリニックの看板等で麻酔科を名乗ることができません。資格審査の要件として、以下の2つの基準があります。
●基準1:医師免許取得後、麻酔の実施に関して十分な修練(麻酔指導医の実地の指導の下に専ら麻酔の実施に関する医業を行うこと)を行うことのできる病院等において、2年以上修練をしたこと
●基準2:医師免許を受けた後、2年以上麻酔の業務に従事し、かつ、麻酔の実施を主に担当する医師として気管への挿入による全身麻酔を300症例以上実施した経験があること
上記いずれかを満たしたうえで、必要書類を申請後、医道審議会による書面審査に合格することで資格が得られます。更新の必要はありません。
6.麻酔科へ転科をする際の注意点
麻酔科医へのキャリアチェンジを考える場合、注意しておきたい点もあります。
まず、麻酔科医に転科すると、主治医になる機会がほとんどありません。そのため、これまで患者さんに深くかかわりながら診療してきた場合、とまどうこともあるでしょう。
また、先にもお伝えしたとおり、麻酔科医になるには4年以上の研修プログラムを履修する必要があり、一人前の麻酔科医として活躍するまでに時間を要します。加えて、同じ麻酔科医であっても、手術現場とペインクリニックでは求められるスキルが異なる場合があるため、キャリアプランを明確にしたうえで、効率よくスキルアップに励む必要があるでしょう。
また、ワークライフバランスがとりやすい傾向にある麻酔科医ですが、麻酔科専門医資格の更新条件の1つに、週3日以上の勤務が挙げられています。麻酔標榜医の資格のみでも麻酔科医として働けますが、専門医資格を維持したい場合には、勤務日数を確保する必要があります。
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7.幅広く活躍できる麻酔科医を目指そう
麻酔科医が働く場所は、手術や集中治療の現場以外にも、がんなどの緩和医療、痛みを抱える人に対応するペインクリニックなどがあります。患者さんの命にも直接関わる麻酔科医には、変化を見逃さない優れた観察力や、迅速に対応する判断力が必要です。豊富な知識を活かして幅広く活躍できる麻酔科医ですが、転科を考える際には自分に向いているかどうかを検討したうえで、決断しましょう。
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