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アメリカの名作映画「12人の怒れる男」をパロディした演劇/映画である。12人の陪審員が集められるところも、建物の雰囲気なんかも原作を忠実になぞっている。
- 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
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原型はアメリカの話であり、12人の陪審員は全員アメリカの、それぞれの立場を象徴するキャラクターとして描かれる。全員がほぼ一致で「有罪」と思われた事件だが、一人が議論を求め敢えて無罪票を投じるところから始まり、あらゆる可能性を論理的に追求し流れは徐々に無罪へと傾いてゆく。
三谷版はそれをあらゆる点で逆転させながらも忠実に織り込んであり、端々でにやりとさせられる。12人はみな「いかにも日本人的」なキャラクターとして描かれており、「周囲の意見に流され易い人」「印象だけで結論を出す人」「自分で判断せず多数の側に立とうとする人」「結論に興味なく、ただ議論を早く打ち切りたいだけの人」、そんなメンバーばかりでまともな議論にならない。満場一致で無罪として終了しそうなところを、一人の有罪票から議論が始まり、徐々に有罪を匂わせる論拠が出はじめ……
原型では一人の理論家が中心となって検証が進行してゆくが、三谷版では中心と言える人物が存在しない。知的で渋い人物が格好悪いところを見せ、かと思えばはっきりした意見のない人が時折鋭い洞察を見せたりする。主導的に見えても途中で他と交代し、議論の行方は最後まで解らない。また議論の大半は論理的でなく感情的に行なわれ、見ていてなんとも居心地悪い。しかしそういうところまで狙い通りというか、見終わればこれは実に面白い作品であった。
「怒れる男」はストイックな作品である。偏見による不良少年への冤罪を晴らしつつ、社会構造の歪さを暴くような「正義」を持つ。昨今のハリウッド的な単純エンタテインメントでこそないが、そこにはアメリカらしい知性主義が見える。
対して「優しい日本人」は実に優柔不断で感情的でいい加減な日本を反映している。ブラックユーモアを混じえ、徹底的にディフォルメしてシニカルな笑いを描き出す。それなのに、終着は実に理知的だ。
ある意味では原作の持つ直線的な単純構造による「結論が読める」欠点を、混沌に落とし込むことで解決して見せたとも言える。その副作用として生じたドタバタコメディ的な居心地の悪さをどう評価するか、そこで意見が大きく分かれそうな気がする。