誰がログ

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歯切れが悪いのは仕様です。

第50回衆院選の投票をしてきました

第何回かなんて今まで気にしたことなかったんですけど衆院選は今回で第50回なんですね。

いろいろ立て込んでいて期日前投票に行く余裕がまったくなかったので、久しぶりに投票日当日に投票してきました。

私の選挙・投票に関する考え方は以前次のような記事を書きましたので良ければどうぞ。投票先を書いたのはこのときが例外で、ふだんは書きません(今回も)。

すべての投票した人に感謝(しなかった方は次の機会に) - 誰がログ

江東区の投票率は11時で8%弱、14時で19%弱だったそうです。江東区は入場券が割と早く届いた方なようですが、まだ届いていないところもあるというような話も見かけましたし、なんだか全国的に雨模様でもありますし、全体の投票率はあまり高くならないかもしれませんね。

以前つくば市に住んでいたときに他地域開催の学会か何かから帰ってくる予定がかなり遅くなってしまって投票終了時刻ぎりぎりに投票したことがありました(これがきっかけでできるだけ期日前投票で済ませるようになった)。投票所が早く閉まることに関する話題が出ていますが、

衆議院選挙:投票所「夜8時まで」は立会人に負担…きょう4割で早じまい、経費節減も : 読売新聞

投票しようと思った人が投票できないというケースはできるだけ少ないと良いのですけれど。

共著書『形態論の諸相』が刊行されました(読み方とか訳語とか)

はじめに

乙黒亮さんと共著で書いた形態論(言語学)の教科書・概説書が無事刊行されました。

電子書籍もちゃんと読めますし(自分で買って確かめた)、予約していた方のところにも届いているようです。買ってくださったみなさんありがとうございます。

これまでもいくつか紹介の記事を書きましたので、今回は読み方に関する簡単なガイドと訳語に関する裏話的なものを書いて宣伝記事の締めにします。もちろん今後補足やリアクションの必要が出てきたらその都度何か書きます。過去の宣伝記事は下の2つです。

  1. 形態論(言語学)の教科書・概説書を書きましたので少しだけ補足と宣伝 - 誰がログ
  2. 本を書いたので宣伝2(LaTeXとか共著者とか) - 誰がログ

読み方ガイド

教科書(としても使える)と言っても概説書に近い形態のものなので、読む方の興味や現在持っている言語学に関する知識に応じてある程度自由に読むことができるとは思います。

とは言っても、やはり理論や概念は少しずつ導入していきますし、「6つの現象」も完全に独立したパラレルな関係にはありませんので、特に本書に書かれている内容になじみが(あまり)ないという方は下記のポイントも参考にしてみてください。

2章の次は3章を(ほぼセット)

第1章は本全体の紹介という感じで内容的なイントロではないので読み飛ばしてもそれほど支障はないはずです。各章のまとめは比較的詳しく書いてあるので、どの章を読もうかなという参考としてお使いください。読んだ後の理解の確認のサポートにもなるかもしれません。

第2章が内容としてのイントロです。形態論はどのような問題に取り組む領域なのかということとごく基礎的な用語についての導入に続いて、形態論の理論に関する研究史の概観と現代における分類が紹介されます。本書で何度か出てくるように、分散形態論 (以下DM) とパラダイム関数形態論 (以下PFM) は多くの面で対立している理論ではあるものの、具現的 (realizational) という点では共通しているというところが重要です。

2章でDMとPFMの基本的なメカニズムについても導入していますが、特に初学者の方はここだけで理解を深めるのは難しいでしょう(理論に強い人はここだけでもいけるのかな)。そこで、この枠組みを使って実際にどのような分析ができるのかということを知るためにぜひ2章の次は3章「融合」を読んでください。2章と3章は実質セットと言ってもよい関係になっています。

また、本書では融合 (syncretism) と補充法 (suppletion) を標準型屈折とどのように違うのかという形で捉え(直し)ていますので、3章は「屈折とは何か」ということについても理解を深める助けになるはずです。そのため、融合という現象にそれほど興味がなく形態論についてすでに知識がある人も3章はまずある程度消化してしまうことをおすすめします。

3章の次は…

特にこだわりがなければ3章の後も順に読んでいくのがもちろん一番おすすめではあるのですが、4章「補充法」も屈折形態論の研究としてはかなり優先度が高いものでさらに3章との結び付きも強い内容になっていますので、4章までは続けて読むのが良いと思います。

5章から先はトピックごとの独立性が高いです。5章「ゼロ形態」6章「虚形態」は形式と意味のどちらが欠けているかという点では対照的ではあるものの扱いはかなり異なりますので、書いてある内容は切り離せないというほどの関係にはなっていません。また、7章「阻止」は派生形態論寄りの話、8章「迂言法」は統語論寄りの話ですので少し応用的な位置付けのトピックです。派生形態論や生成統語論についてすでに知識がある方は3章の後はこちらから先に読んでも楽しめるかもしれません。

各章の読み方

2章から8章まではそれぞれ理論に寄らない一般的なイントロのあと、DMの話、PFMの話と続く構成になっています。

各章の一般的なイントロのところだけまず読むという読み方をしても良いと思います。理論的なところについては人によってはかなり消化するのが大変かもしれません。また、DMとPDMはそれぞれの理解を前提としない関係の理論なので、たとえばDMに興味がない場合は一般的なイントロのあとすぐにPFMのところを読むという読み方をしてもほぼ大丈夫です(少しだけDMの分析に言及しているところもあります)。

理論に関するところをあまりうまく消化できなかった場合でも、各章の終わりにある「まとめ」のところは読んでみてください。各章の内容に合わせてそれぞれの理論の特徴と対立点や共通点について概説してありますので、簡潔ではありますが理解の助けになると思います。

練習問題とコラム

この本の目標はきちんとやれば自分でそれぞれの理論を使った分析ができる(書ける)ようになるというものなので、問1としてかなり具体的な練習問題を付けてあります。理論の勉強はこういう自分で実際に書いてみるというのがかなり重要ですので、ぜひチャレンジしてみてください。

一方、問2の方はちゃんとやると1つの論文になるかもしれないというくらい大きな(大きくなりうる)トピックを取り上げています。よければ卒業論文のネタ探しなどにも使ってみてください。

コラム、特に「純形態的 (morphomic)」については英語文献を含めてもそれほど解説は多くなく貴重だと思います。「構文 (construction)」も今は認知言語学関係の文献では日本語で多くの解説が読めますが、HPSGやConstruction Morphology以外の形態論との関係から(も)書かれたものという点であまり見ない内容のものではないでしょうか。

訳語の話

用語の訳語対応一覧のようなものは付いていませんが、事項索引が実質的にそのリストになっています。

特に理論関係の用語については英語に対応する日本語として定訳がないものが多く、新しく考えたものが多いです。極端なことを言うとその用語や概念が表している内容が正確に理解できれば良いのですが、教科書でもありますし、できるだけ理解の助けになる適切な訳語を付けたいのですよね。

DM絡みで厄介だったのが削除系の形態操作の "Impoverishment" と "Obliteration" で、言語学にはすでに「消す」ことに関する用語が複数存在するので(ellipsis, deletion, ...)どう訳し分けようかけっこう困りました。結局前者を「消去」、後者を「切除」としました。後者は節点の削除であることをそこそこうまく表せたかなと思います。あとはDMの方針としてよく言及される "Syntax all the way down" も苦労しました。西山國雄氏はかなり意訳していましたね。PFM関係では "Identity Function Default" が難しかったようです。結局無理に漢語にするよりはということで「恒等関数デフォルト」になりました。

伝統的な用語についても逐一確認はしました。たとえば、「融合 (syncretism)」は現代では通時的な背景が必須というわけではないので「同形(性)」のようにした方が分かりやすいのではないかという話が出たりしましたが、教科書ということもありある程度定着しているものについては伝統的なものを使っています。

訳が難しいものについては、言語学以外の分野で同じ用語が使われていないか、その訳語はどうなっているかについて調べたり、日本語のシソーラスを引いたり、打ち合わせでもけっこうな時間を使ったような記憶があります。

書けなかったこと:日本語周り

日本語については形態論関係でいろいろ重要な研究が出ていますが、日本語研究の観点からのものはむしろ比較的情報がありますので、ほとんど取り上げませんでした。たとえばDMを使った日本語の分析例としては西山國雄氏の下記のものがかなり具体的です。個別の文献も探せばいろいろ出てくるでしょう。

形態論とレキシコン (最新英語学・言語学シリーズ09) | 西山 國雄, 長野 明子, 加賀 信広, 西岡 宣明, 野村 益寛, 岡崎 正男, 岡田 禎之, 田中智之 |本 | 通販 | Amazon

日本語研究の研究者としては日本語研究との関連もいろいろ気になるところですがそちらも言及はしないことにしました。Rootと川端善明の「形状言」などがどの点で違う/同じかということや、工藤真由美のテンスアスペクト関係の語形の位置付けが形態素基盤/パラダイム基盤モデルという観点から見るとどうか、というようなことについてはこれまでも論文の脚注などでちょこちょこ書いてきましたので、機会があれば簡単にでもまとめてみたい気はします。

日本語関係の話をこれだけおさえて自分がどれだけ書けるかというのは自分にとってはかなりチャレンジだなと思っていたのですが、結局はこれ以上ボリューム的に内容を増やすのは無理でしたので良かったのかもしれません。

おわりに

形態論についてはこれまでも良い教科書や入門書がいろいろあり、またこれからも出るものもあるようですので、ほかの書籍に関する読書ガイドを作ることも考えています。ただすぐにというわけにはいかないのでしばらくお待ちください。

人によっては一通り読むのもなかなか大変な本かもしれませんが、何度も書いているように日本語で読めるものとしてはレアな内容がいろいろあります。部分的にでも楽しめたり参考になるということがあれば嬉しいです。

本を書いたので宣伝2(LaTeXとか共著者とか)

はじめに

言語学の形態論と呼ばれる領域の教科書・概説書がもう少しで刊行されます。これはその2つ目の宣伝記事です。前の記事はこちら。

形態論(言語学)の教科書・概説書を書きましたので少しだけ補足と宣伝 - 誰がログ

書籍に関するページは以下です。電子書籍版も購入可能な状態になったようです(発売日の10月10日に配信)。予約・購入の際は刊行形態にご注意ください。

LaTeXによる執筆

本書はすべてLaTeXで執筆・編集・組版を行い、ほぼ完成版の形にして入稿しました。といっても私はLaTeX歴はそれほど長くなく、編集や形式面の調整、組版はほぼすべて共著者の乙黒亮さんがやってくださいました。

以前もLaTeXで論文やハンドアウトを書いたことはあって、樹形図や例文が特にきれいに書けるのは体感していたのですが、私はふだん依頼原稿も投稿や申し込みの場合も最終的にはWordで書くように求められることが多く、LaTeXをメインの環境にする利点がいまいち薄くてそれほど使えていませんでした。これは今も同じ。

Wordとの比較は難しいですね。今やWordもかなり機能が豊かになりましたし。ただ今回書いてみて、書籍のような長い文章を時間をかけて書く場合にはLaTeXで書くと形式面での一貫性を保ちやすいかなというのは感じました。

今は生成AIに頼めばLaTeXでどうやって書けば良いのかすぐ出してくれそうですが、この本を書いていた期間のほとんどは現在の生成AIの登場以前でしたので、樹形図をうまく書くために海外のLaTeXのフォーラムを一晩中さまよう、みたいなことをけっこうやりました。今でも1冊の本をきれいに作り上げるほどの技量・知識はありませんが、本書の執筆過程でかなりできることは増えました。

LaTeXの環境としてはAtomというエディタで書くのが自分にはとても合っていたので開発修了になったのは残念です。Zedが良い感じになってくれると良いなあ。VS Codeは使えないわけではないのですがなんとなく合わなくて…Obsidianももっと早い段階から使えていたらいろいろ捗っただろうなあと思います。最後の方だけでもだいぶあって助かったので。

あと合わせてZoteroに出会えたのも良かったです。元々は乙黒さんとの文献情報の共有というのが大きな目的でしたが、プラグインを使うとBibTeXを文献リストから自動で生成してくれたり、Wordでも文献の挿入ができたりして今や手放せないツールの1つです。個人的にはEndNoteより使いやすいと思います。

本書には事項索引だけでなく、言語索引(言及した言語の索引)、著者索引(言及した文献の著者)も付いています。これも少なくとも私が関わる分野・領域の和書ではけっこう珍しいのではないかと思います。

共著者の乙黒さん

この本を書いて一番得をしたのは私で、たぶんしばらくは私が一番なんじゃないかなと思います。その理由は乙黒亮さんと一緒に書けたからということに尽きます。

まず本書の内容に関わるところでは、立場や用いている理論は対立しているけれども研究に関する問題意識は共有できる方と長い時間さまざまなトピックについて雑談めいたものから学術的な議論までいろいろなやりとりをすることができました。形態論の理論的研究は問題設定を共有してもらうこと自体がけっこう難しいので、研究の立場上は対立していると言っても、「そもそもこういう話ができること自体がありがたいな」みたいな嬉しさがあります。結果として、やっぱりここは対立しているなというところも改めて明確にできましたし、こういうところは結局似てくるみたいなこともいろいろ書けました。

私自身が乙黒さんから学んだこともものすごくたくさんあります。

そもそも私が形態論に本格的に取り組んだのは修士論文以後なので勉強量が足りておらず、基礎的なところ、特に研究史については私にとってもとても良い整理ができました。研究史についてはそれほどページを割けませんでしたが、IA, IP, WPモデルに関する流れ(特にHockett以降)とか、言語学をやっていると必ず出会う「形態素 (morpheme)」という概念が「形式と意味のペア」という形では(形態素基盤モデルですら)採用されていないというような話は、和文文献としては特に貴重だと思います。分散形態論についても、生成統語論研究の視点からだとSelkirkやLieberの統語論的アプローチの後継として位置付けられることが多く、間違ってはいないのですが形態理論の研究史としてはけっこう物足りない感じです。じゃあ何が違うの/新しいのって話についてはぜひ本書をお読みください。

あと乙黒さんは言語類型論も専門なので、本書で取り上げるに当たってさまざまな言語について検討や議論ができたこともたいへん勉強になりました。形態論の文献としてはもともといろいろな言語のものを読んではきましたが、やはり自分の専門は日本語という個別言語なので、実際に研究している方と話ができたのは大きいです。乙黒さんの専門のパラダイム関数形態論についても具体的な分析方法やStump 2001以降の発展などで理解があやふやだったところがアップデートされました。

LaTeXについてもほんとうにお世話になりました。特にトラブルシューティングは自分で調べたり試してもいまいちうまくいかないのに詳しい人に聞いたらすんなり、ということがままあります。こういうのも今だと生成AIに聞けば独力でもなんとかなるんですかね。上にも書いたようにそもそも全体の編集や組版についてはお任せしたところがほとんどでした。

今後、本書に出会ったことでこんな私より得をしたと言える人が出てきたらたいへん嬉しいことです。

くろしお出版の荻原さん

くろしお出版で本書を担当してくれたのは荻原典子さんでした。企画から刊行までかなりかかってしまいましたが、辛抱強く付き合ってくれました。

そもそも、入門書を書いていないのに入門書の次のステップの教科書を書きたいという希望を受け入れてもらっただけでもありがたいです。しかもかなり理論理論しているので、ぜったいたくさんの人に読まれる、という形ではなかなか宣伝しにくい本という感じがします。

しかし最初の記事にも少し書いたように、入門書や入門レベルの概説書はかなり充実してきているにもかかわらず、そこから実際に自分で専門的な研究ができるようになるまでのステップをつなぐ中間的な教科書が少ないのは、個人的にはけっこうその研究分野にとって嬉しくない状況なのではないかという思いがかなり以前からありまして、今回の企画を形にしていただいたのはほんとうに嬉しいです。

荻原さんとは私が最初に書籍に原稿を書いた下記の論文集で原稿をチェックしてもらったことで関わりができました。

活用論の前線|くろしお出版WEB

このときから「すごく鋭い質問するな…」という印象があったのですが、今回も原稿を丁寧に読んでくれて、体裁など形式的なところ(理論系は記号が多いので…)から内容に関わる表現まで多くの修正・改善のサポートをいただきました。専門的な知識を持っている出版社の方の存在のありがたさを改めて実感しました。

おわりに

次の宣伝記事は発売日を予定していまして、改めて本書の特徴やウリ、読み方の簡単なガイドなどと、専門用語の翻訳について書いて刊行に関する宣伝の締めにしたいと考えています。

…ただ日本語文法学会の研究発表の予稿集を提出する締め切りがちょうど発売日(10月10日)なのでいつ頃アップできるかはちょっと不安です。