2019年07月のバックナンバー : 映画批評的妄想覚え書き/日々是口実
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『ホットギミック ガールミーツボーイ』 ライバルは多いほうがいい?

 『溺れるナイフ』などの山戸結希監督の最新作。
 原作は相原実貴の漫画『ホットギミック』

山戸結希 『ホットギミック ガールミーツボーイ』 乃木坂46の堀未央奈が主役を演じる。

 主役を演じるのが乃木坂46の堀未央奈で、女子高校生の主人公が3人の男子に言い寄られる話と聞くと、よくある“キラキラ映画”なのかと思うのかもしれない。しかし冒頭すぐにそれは間違いだったと気づくことになる。
 主人公のはつみが妹・茜(桜田ひより)に渡すのは、妊娠検査薬とコンドームであったりするところからして“キラキラ映画”とは言い難い。さらにその妊娠検査薬を亮輝(清水尋也)という元いじめっ子に取られてしまい、弱みを握られることになった初は、亮輝の奴隷として過ごすはめになる。
 亮輝のちょっかいに困っている初を助ける王子様キャラとして登場するのがモデルの梓(板垣瑞生)だが、観客のほうが気恥ずかしくなるほどのうぬぼれ度合いで、初に対して「かわいい」を連発して迫ることになる。そして、それらを見守る形で兄の凌(間宮祥太朗)がいるのだが、凌は初に近親相姦的感情を抱いているらしい。

『ホットギミック ガールミーツボーイ』 亮輝(清水尋也)に奴隷として扱われることになる初(堀未央奈)。

◆違和感?
 とにかく前半部分の違和感が著しい。原作漫画をちょっとだけ読んでみると、映画版とほぼ同様のストーリーなのだが、漫画のほうにはそれほど違和感はない。というのも亮輝に奴隷扱いされる初は、漫画では心のなかでこっそりとツッコミを入れている分、不快な印象がやわらぐのだ。それに対して映画版では、ほとんど一方的に亮輝に小突き回されているように感じられてしまう。しかも映画版ではこうした残酷な場面に、なぜかカノンという心洗われるような旋律を重ねることで、さらに違和感を強調しているようなのだ。
 前半部分に感じた違和感は、観ている側が勝手に予想していた女子高校生の青春模様とはまったく相容れないものだったからなのだろうと思う。ポスターなんかのビジュアルから想像するジャンルからすると予想もしない展開だからこそ、観客として居心地が悪く不快なものを感じるのだろう。
 ちなみに『ハウス・ジャック・ビルト』というシリアル・キラーものを撮ったラース・フォン・トリアーも、観客の期待とは違ったもの作ることを狙っていたようだ。そうして出来た作品はやはり不快なものとなっていたわけで、その部分では似ているところがあるのかもしれない。
 ただ、本作は途中でそうした違和感はなくなっていくようにも感じられた。というのは梓というキャラの本来の目的が判明することで、女の子が恋に悩むとかの青春を描くつもりはないということが理解できるようになるからだ。

◆「ボーイ・ミーツ・ガール」ではなく……
 山戸監督の作品『おとぎ話みたい』『5つ数えれば君の夢』ではそれなりにキラキラした女の子の世界が描かれていたように思えるが、『溺れるナイフ』では主人公の女の子は男の子との関わりで葛藤しつつも、それを乗り越えていったとも言える。
 今回の『ホットギミック ガールミーツボーイ』では、初は初恋の人である梓でもなく、いつも初のことを肯定してくれる凌でもなく、初のことをバカ扱いする亮輝を選ぶことになる。そんな亮輝というキャラは、ツンデレを極端に誇張したような人物でなかなか屈折している。
 亮輝は初に「おれの言うことが正しいから従え」と言いつつも、もっと自立することを求めるし、奴隷にすると言いつつも彼女にしてやってもいいと譲歩したりもする。自信過剰な亮輝からすれば、求められたからと言って梓に裸を見せてしまうような優柔不断で確固たる自分を持っていない初は、自分と一緒にいれば多少はバカじゃなくなって、自立することを学び、最終的には多くの男のなかでおれ様のことを選ぶことになるということなのだろう。つまり、亮輝は「ボーイ・ミーツ・ガール」のような通常の恋愛ものの図式を否定していて、タイトルにも「ガール・ミーツ・ボーイ」とあるように、初の自立を促しつつ、もっと主体的であることを求めているのだろう。
 山戸監督の『おとぎ話みたい』や『5つ数えれば君の夢』における女の子の自己完結的なモノローグならば、その意識の流れを把握することはそれほど骨は折れないのだが、頭脳明晰な亮輝の突飛とも言える論理展開についていくのは、初ではなくともなかなか大変だったという気もする。

◆山戸結希が次世代を担う?
 先日、テレビのドキュメンタリー番組『7RULES』で山戸結希監督が出演している回を観たのだが、そのちょっとうつむき加減で話す印象とは違い、今回の作品でも果敢にさまざまなことを試している。
 前作では長回しが印象的だったが、本作ではかなり細かいカットをつなげていく。初などの主人公たちの姿はあくまで美しく撮りつつも、周囲で悪評を流す女の子の描写では、瞳は血走りし悪口をもらす口元を極端なアップで異様なものとして映し出していく。予想されたジャンルとはズレていくように感じるのも、積極的な攻めの姿勢なのだろう。
 先のドキュメンタリー番組では、山戸監督は後輩となる女性監督への支援について語っていた。『21世紀の女の子』というオムニバス作品では、山戸監督がプロデュースを買って出てまで後進の女性監督の育成に努めているとのこと。「ライバルが多いほうがもっと遠くに行けるはず」という言葉もあり、その静かな言葉とは裏腹に山戸監督自身の映画に対する意欲を感じさせる番組だった。本作の初が主体的に生き方を選んでいくというのも、女性監督としてのメッセージが込められているようでもあり、今後もやはり注目しておいたほうがいい監督だと思えた。

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Date: 2019.07.06 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (3)

『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』 まだまだ人生もシリーズも続く

 監督は『スパイダーマン:ホームカミング』と同じジョン・ワッツ
 『スパイダーマン:ホームカミング』の続編であり、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)シリーズとして『アベンジャーズ/エンドゲーム』のその後を描く作品でもある。

ジョン・ワッツ 『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』 スパイダーマン=ピーター(トム・ホランド)とミステリオ(ジェイク・ギレンホール)。

 『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』では、人類というか地球の存亡を巡るような壮大な話になっていたわけだが、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』では広げすぎた風呂敷を元に戻すような作品となっている。
 前作『スパイダーマン:ホームカミング』ではアベンジャーズに入りたくて仕方なくてうずうずしていたピーター(トム・ホランド)。本作では一変してニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)からの電話を無視したりもする。
 これまでの闘いでヒーローであることの辛さを学んだということなのかもしれない。ピーターも指パッチンで消えた側にいたわけだし……。それでも誰かがアイアンマン=トニー・スタークの代わりをしなければいけないという正義感もあって葛藤することになる。

 スパイダーマンは“親愛なる隣人”とされていて、地球の平和を守るといった壮大な目的とは縁遠い。そもそもピーターはまだ高校生だし、未だクラスメートの女の子に夢中。世界の平和よりも自分の幸せのほうが先に立つのは当然と言えば当然かもしれない。
 前作と同じようにヒーローものでありつつも、うぶな高校生の青春映画としても楽しめる作品となっていたと思う。前作のヒロイン・リズはフェイドアウトして、前作からピーターのことを見守っていたMJ(ゼンデイヤ)がヒロインとなる。ふたりの初々しいやり取りはとても微笑ましいものだったし、ネッド(ジェイコブ・バタロン)も棚からぼた餅みたいにベティ(アンガーリー・ライス)と仲良くなって幸せそう。ついでに言えば、後見人みたいな役割のハッピー(ジョン・ファヴロー)もメイおばさん(マリサ・トメイ)といい関係になってと、『インフィニティ・ウォー』では大変な事態になったけれど、まだまだ人生もこのシリーズも続いていくということらしい。

『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』 MJ(ゼンデイヤ)とスパイダーマンは空中デート。

 今回の敵となるのはミステリオ(ジェイク・ギレンホール)。別の地球からきたヒーローを謳い、ピーターに近づきトニーから受け継いだAIを奪い悪巧みを企む。
 ミステリオはトニーの元部下で彼に恨みを抱いていたらしい。AIとドローンを駆使して幻覚を見せつつ実際に攻撃もするという技術は、本作ほど精巧ではないにしてもある程度現実的なものにも感じられる。フェイクニュースなどが溢れる昨今だからこそリアルな敵だったと言えるかもしれない。最後のオマケではピーターはフェイクニュースによって悪者にされてしまうのだが、続編ではどうなるのだろうか。

 MCU版のスパイダーマンは、スパイダーマンという存在が有名だからか、いろいろなエピソードを端折っているようだ。サム・ライミ版やマーク・ウェブ版ですでに描かれていることは前提になっているのだろう。
 本作ではムズムズ(スパイダーセンスと言うらしい)が失われたという設定だったが、前作ではそれに対する言及はない。原作漫画とかほかのバージョンでは描かれている、スパイダーマン・ファンにとってはお馴染みのネタなのかもしれない。スパイダーマンについて知っている人のほうがより楽しめる部分も多いのかも。
 オマケの部分に登場したJKシモンズは、サム・ライミ版でも同じキャラを演じていたわけで、今後のマルチバース的展開はあり得るということなのかもしれない。トビー・マグワイアアンドリュー・ガーフィールドの歴代スパイダーマンが揃い踏みするとしたら確かに盛り上がりそう。
 大昔に流行った連続活劇では「次に続く」というところで終了し、続きを見たさに観客は映画館に通ったらしい。MCUは一応単品でも完結しているが、「次にも続く」というのはうまいやり方だと改めて感じた。
 ついこの間までは『アベンジャーズ』シリーズのほとんどを観てなかったのだが、観始めたらあっという間だった(『キャプテン・マーベル』『エンドゲーム』も一応劇場で観た)。遅まきながらの参戦だが、フェーズ4も楽しみ。

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Date: 2019.07.03 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (4)

『凪待ち』 時化るときも凪のときも

 『凶悪』『彼女がその名を知らない鳥たち』など白石和彌監督の最新作。
 本作はオリジナル脚本で担当は加藤正人。ノベライズ本も出ている。

白石和彌 『凪待ち』 ギャンブル依存症の木野本郁男を演じるのは香取慎吾。


 ギャンブル依存症の木野本郁男(香取慎吾)は、恋人・亜弓(西田尚美)と一緒に彼女の地元の石巻でやり直すことを決意する。石巻では末期ガンの亜弓の父・勝美(吉澤健)と、まだ高校生の亜弓の娘・美波(恒松祐里)との生活が始まるのだが、ある日、亜弓が殺されるという事件が起きる。

 やり直しを図って田舎へと向かった郁男。未だ籍は入れていない郁男と亜弓だが、娘の美波は口うるさい亜弓よりも郁男のほうに馴染んでいるくらい。しかし、事件は悪い偶然が重なって起きてしまう。
 その日、美波は母親の亜弓とけんかし、友達と遊びに行ったまま母親からの電話を無視し続ける。心配になった亜弓が郁男と一緒に美波を探しているうちに、些細なことでふたりは言い争いになり、郁男は亜弓を車から放り出してしまう。そして、その後に亜弓は殺される。
 郁男は亜弓の死を自分のせいだと考え、自分を責めることになる。さらには石巻ではよそ者である郁男を、周囲の目が追い詰める。警察は郁男を犯人と疑い、職場の同僚も都合の悪いことを郁男のせいにするようになる。自暴自棄となった郁男が向かうのはギャンブルであり、際限なくそれにのめりこんでいくことになる。

 ※ 以下、ネタバレもあり!

『凪待ち』 郁男を見守る亜弓の娘・美波(恒松祐里)と亜弓の父・勝美(吉澤健)

◆凪と時化しけ
 『凪待ち』では海という自然現象とわれわれ人間の状態が重ねて描かれていくことになる。舞台となるのは石巻であり、東日本大震災の被害が甚大だった場所だ。劇中の石巻の海の様子は特に荒れた様子もなく凪いでいる。しかし、海は常に凪いでいるわけではない。時に大時化になるときもあるし、地震が来れば津波を引き起こすこともある。
 タイトルの「凪待ち」は亜弓の死後、荒れに荒れて自暴自棄な行動を繰り返す郁男に対する周囲の気持ちを表しているのだろう。郁男は決して悪い人間ではないのだが、ギャンブルとなると自制が効かないこともあり、亜弓のへそくりにも手を出したりもする。それでも亜弓は郁男のことを信じていたし、亜弓亡き後は周囲の人々が郁男を助けることになる。
 亜弓の家に出入りする小野寺(リリー・フランキー)もそのひとりで、小野寺は身を挺して暴漢から郁男を救い、金も用立て、仕事まで世話したりもする。それから最初は素っ気なかった亜弓の父・勝美も、郁男を助けるために自らの船を売ってまで金を作ることになる。そこまでして郁男を助けるのは、郁男は今は荒れているけれど、時が来れば必ず収まるはずだという気持ちがあるからだろう。

 登場人物がそんなふうに考えるのは、海も荒れるときもあれば凪のときもあることを知っているからだ。亜弓は津波によって全部ダメになったと語っていたが、漁師である勝美が見るにはそんなことはない。石巻の海は津波で一度は壊滅的な被害を受けたかもしれないが、それによって新たな海に生まれ変わったというのだ。
 だから郁男も堕ちるところまで堕ちたあとには、生まれ変わることも可能だということなのだろう。ただ、ラストでカメラが捉えた石巻の海の底には、未だに津波で流された家財道具などが沈んでいる。穏やかな海上とはまったく違った世界が垣間見られるわけで、郁男の今後の人生も凪と時化を繰り返していくことになるのだろう。

◆犯人は? ネタバレ注意!
 凪と時化を繰り返すのはほかの人も同様で、勝美はかつて暴力団にも恩義を売っていたほどの人物。それが亜弓の母と出会ったことで落ち着いたとされている。亜弓の元夫(音尾琢真)もかつては亜弓に暴力を振るう男だったが、今では別の女性と新たな家庭に収まっている。
 そして、実は亜弓を殺した張本人であった小野寺も同様だったのだろう。普段の小野寺は凪の状態にあるように見えるが、時化るときもあったのだ。だから小野寺が郁男に示した親切も決して嘘というわけでもないのだろう。何か魔が差した瞬間があって亜弓を殺してしまったわけだが、小野寺は亜弓のことが昔から気になっていたのだ(元夫が語るように亜弓は地元の人気者だったらしい)。だから亜弓が行きたがっていた島のことも覚えていた。亜弓を殺した後の親切は、もしかすると罪悪感も手伝っていたのかもしれない。自暴自棄の郁男に「あんたは生まれ変わった」と諭していた小野寺だが、その言葉は自らも大時化の時を迎えたからこそ出た言葉だったのかもしれない。

 本作の郁男は憑かれたようにギャンブルに金をつぎ込み、自殺を望んでいるかのような行動に走っていく。引き返すチャンスは何度もある。ただ次の勝負で逆転できるかもしれないというギャンブル熱(世の中が傾くようなシーンが印象的)は、郁男をさらなるどん底に叩き落とすことになる。郁男も自らがどうしようもないろくでなしだとわかっているからこそ痛々しい作品だった。
 主役を演じた香取慎吾は白石組の個性的な面々のなかにあっても違和感なかったし、その佇まいはよかったと思う。郁男の同僚を演じた黒田大輔の小悪党ぶりもよかった。郁男に追われてゲロを吐きつつ逃げるところがウケた。

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Date: 2019.07.01 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (3)
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新作映画(もしくは新作DVD)を中心に、週1本ペースでレビューします。

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