『ホットギミック ガールミーツボーイ』 ライバルは多いほうがいい?
『溺れるナイフ』などの山戸結希監督の最新作。
原作は相原実貴の漫画『ホットギミック』。
主役を演じるのが乃木坂46の堀未央奈で、女子高校生の主人公が3人の男子に言い寄られる話と聞くと、よくある“キラキラ映画”なのかと思うのかもしれない。しかし冒頭すぐにそれは間違いだったと気づくことになる。
主人公の初 が妹・茜(桜田ひより)に渡すのは、妊娠検査薬とコンドームであったりするところからして“キラキラ映画”とは言い難い。さらにその妊娠検査薬を亮輝(清水尋也)という元いじめっ子に取られてしまい、弱みを握られることになった初は、亮輝の奴隷として過ごすはめになる。
亮輝のちょっかいに困っている初を助ける王子様キャラとして登場するのがモデルの梓(板垣瑞生)だが、観客のほうが気恥ずかしくなるほどのうぬぼれ度合いで、初に対して「かわいい」を連発して迫ることになる。そして、それらを見守る形で兄の凌(間宮祥太朗)がいるのだが、凌は初に近親相姦的感情を抱いているらしい。
◆違和感?
とにかく前半部分の違和感が著しい。原作漫画をちょっとだけ読んでみると、映画版とほぼ同様のストーリーなのだが、漫画のほうにはそれほど違和感はない。というのも亮輝に奴隷扱いされる初は、漫画では心のなかでこっそりとツッコミを入れている分、不快な印象がやわらぐのだ。それに対して映画版では、ほとんど一方的に亮輝に小突き回されているように感じられてしまう。しかも映画版ではこうした残酷な場面に、なぜかカノンという心洗われるような旋律を重ねることで、さらに違和感を強調しているようなのだ。
前半部分に感じた違和感は、観ている側が勝手に予想していた女子高校生の青春模様とはまったく相容れないものだったからなのだろうと思う。ポスターなんかのビジュアルから想像するジャンルからすると予想もしない展開だからこそ、観客として居心地が悪く不快なものを感じるのだろう。
ちなみに『ハウス・ジャック・ビルト』というシリアル・キラーものを撮ったラース・フォン・トリアーも、観客の期待とは違ったもの作ることを狙っていたようだ。そうして出来た作品はやはり不快なものとなっていたわけで、その部分では似ているところがあるのかもしれない。
ただ、本作は途中でそうした違和感はなくなっていくようにも感じられた。というのは梓というキャラの本来の目的が判明することで、女の子が恋に悩むとかの青春を描くつもりはないということが理解できるようになるからだ。
◆「ボーイ・ミーツ・ガール」ではなく……
山戸監督の作品『おとぎ話みたい』や『5つ数えれば君の夢』ではそれなりにキラキラした女の子の世界が描かれていたように思えるが、『溺れるナイフ』では主人公の女の子は男の子との関わりで葛藤しつつも、それを乗り越えていったとも言える。
今回の『ホットギミック ガールミーツボーイ』では、初は初恋の人である梓でもなく、いつも初のことを肯定してくれる凌でもなく、初のことをバカ扱いする亮輝を選ぶことになる。そんな亮輝というキャラは、ツンデレを極端に誇張したような人物でなかなか屈折している。
亮輝は初に「おれの言うことが正しいから従え」と言いつつも、もっと自立することを求めるし、奴隷にすると言いつつも彼女にしてやってもいいと譲歩したりもする。自信過剰な亮輝からすれば、求められたからと言って梓に裸を見せてしまうような優柔不断で確固たる自分を持っていない初は、自分と一緒にいれば多少はバカじゃなくなって、自立することを学び、最終的には多くの男のなかでおれ様のことを選ぶことになるということなのだろう。つまり、亮輝は「ボーイ・ミーツ・ガール」のような通常の恋愛ものの図式を否定していて、タイトルにも「ガール・ミーツ・ボーイ」とあるように、初の自立を促しつつ、もっと主体的であることを求めているのだろう。
山戸監督の『おとぎ話みたい』や『5つ数えれば君の夢』における女の子の自己完結的なモノローグならば、その意識の流れを把握することはそれほど骨は折れないのだが、頭脳明晰な亮輝の突飛とも言える論理展開についていくのは、初ではなくともなかなか大変だったという気もする。
◆山戸結希が次世代を担う?
先日、テレビのドキュメンタリー番組『7RULES』で山戸結希監督が出演している回を観たのだが、そのちょっとうつむき加減で話す印象とは違い、今回の作品でも果敢にさまざまなことを試している。
前作では長回しが印象的だったが、本作ではかなり細かいカットをつなげていく。初などの主人公たちの姿はあくまで美しく撮りつつも、周囲で悪評を流す女の子の描写では、瞳は血走りし悪口をもらす口元を極端なアップで異様なものとして映し出していく。予想されたジャンルとはズレていくように感じるのも、積極的な攻めの姿勢なのだろう。
先のドキュメンタリー番組では、山戸監督は後輩となる女性監督への支援について語っていた。『21世紀の女の子』というオムニバス作品では、山戸監督がプロデュースを買って出てまで後進の女性監督の育成に努めているとのこと。「ライバルが多いほうがもっと遠くに行けるはず」という言葉もあり、その静かな言葉とは裏腹に山戸監督自身の映画に対する意欲を感じさせる番組だった。本作の初が主体的に生き方を選んでいくというのも、女性監督としてのメッセージが込められているようでもあり、今後もやはり注目しておいたほうがいい監督だと思えた。
原作は相原実貴の漫画『ホットギミック』。
主役を演じるのが乃木坂46の堀未央奈で、女子高校生の主人公が3人の男子に言い寄られる話と聞くと、よくある“キラキラ映画”なのかと思うのかもしれない。しかし冒頭すぐにそれは間違いだったと気づくことになる。
主人公の
亮輝のちょっかいに困っている初を助ける王子様キャラとして登場するのがモデルの梓(板垣瑞生)だが、観客のほうが気恥ずかしくなるほどのうぬぼれ度合いで、初に対して「かわいい」を連発して迫ることになる。そして、それらを見守る形で兄の凌(間宮祥太朗)がいるのだが、凌は初に近親相姦的感情を抱いているらしい。
◆違和感?
とにかく前半部分の違和感が著しい。原作漫画をちょっとだけ読んでみると、映画版とほぼ同様のストーリーなのだが、漫画のほうにはそれほど違和感はない。というのも亮輝に奴隷扱いされる初は、漫画では心のなかでこっそりとツッコミを入れている分、不快な印象がやわらぐのだ。それに対して映画版では、ほとんど一方的に亮輝に小突き回されているように感じられてしまう。しかも映画版ではこうした残酷な場面に、なぜかカノンという心洗われるような旋律を重ねることで、さらに違和感を強調しているようなのだ。
前半部分に感じた違和感は、観ている側が勝手に予想していた女子高校生の青春模様とはまったく相容れないものだったからなのだろうと思う。ポスターなんかのビジュアルから想像するジャンルからすると予想もしない展開だからこそ、観客として居心地が悪く不快なものを感じるのだろう。
ちなみに『ハウス・ジャック・ビルト』というシリアル・キラーものを撮ったラース・フォン・トリアーも、観客の期待とは違ったもの作ることを狙っていたようだ。そうして出来た作品はやはり不快なものとなっていたわけで、その部分では似ているところがあるのかもしれない。
ただ、本作は途中でそうした違和感はなくなっていくようにも感じられた。というのは梓というキャラの本来の目的が判明することで、女の子が恋に悩むとかの青春を描くつもりはないということが理解できるようになるからだ。
◆「ボーイ・ミーツ・ガール」ではなく……
山戸監督の作品『おとぎ話みたい』や『5つ数えれば君の夢』ではそれなりにキラキラした女の子の世界が描かれていたように思えるが、『溺れるナイフ』では主人公の女の子は男の子との関わりで葛藤しつつも、それを乗り越えていったとも言える。
今回の『ホットギミック ガールミーツボーイ』では、初は初恋の人である梓でもなく、いつも初のことを肯定してくれる凌でもなく、初のことをバカ扱いする亮輝を選ぶことになる。そんな亮輝というキャラは、ツンデレを極端に誇張したような人物でなかなか屈折している。
亮輝は初に「おれの言うことが正しいから従え」と言いつつも、もっと自立することを求めるし、奴隷にすると言いつつも彼女にしてやってもいいと譲歩したりもする。自信過剰な亮輝からすれば、求められたからと言って梓に裸を見せてしまうような優柔不断で確固たる自分を持っていない初は、自分と一緒にいれば多少はバカじゃなくなって、自立することを学び、最終的には多くの男のなかでおれ様のことを選ぶことになるということなのだろう。つまり、亮輝は「ボーイ・ミーツ・ガール」のような通常の恋愛ものの図式を否定していて、タイトルにも「ガール・ミーツ・ボーイ」とあるように、初の自立を促しつつ、もっと主体的であることを求めているのだろう。
山戸監督の『おとぎ話みたい』や『5つ数えれば君の夢』における女の子の自己完結的なモノローグならば、その意識の流れを把握することはそれほど骨は折れないのだが、頭脳明晰な亮輝の突飛とも言える論理展開についていくのは、初ではなくともなかなか大変だったという気もする。
◆山戸結希が次世代を担う?
先日、テレビのドキュメンタリー番組『7RULES』で山戸結希監督が出演している回を観たのだが、そのちょっとうつむき加減で話す印象とは違い、今回の作品でも果敢にさまざまなことを試している。
前作では長回しが印象的だったが、本作ではかなり細かいカットをつなげていく。初などの主人公たちの姿はあくまで美しく撮りつつも、周囲で悪評を流す女の子の描写では、瞳は血走りし悪口をもらす口元を極端なアップで異様なものとして映し出していく。予想されたジャンルとはズレていくように感じるのも、積極的な攻めの姿勢なのだろう。
先のドキュメンタリー番組では、山戸監督は後輩となる女性監督への支援について語っていた。『21世紀の女の子』というオムニバス作品では、山戸監督がプロデュースを買って出てまで後進の女性監督の育成に努めているとのこと。「ライバルが多いほうがもっと遠くに行けるはず」という言葉もあり、その静かな言葉とは裏腹に山戸監督自身の映画に対する意欲を感じさせる番組だった。本作の初が主体的に生き方を選んでいくというのも、女性監督としてのメッセージが込められているようでもあり、今後もやはり注目しておいたほうがいい監督だと思えた。
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