レコーディングやシンセサイザーの専門書を読んでいると、「倍音」という言葉が出てきます。「倍音」と書いて、「バイオン」と読みます。
音を扱う作業において、決して無視することはできない倍音ですが、おさらいの意味を込めて、あらためて確認したいと思います。
倍音って何?
早速倍音の説明に入ります。
例えば、ピアノでC3「ド」の音を弾いたとしましょう。もちろん「ド〜」っと鳴りますが、実は「ド」の音に、「ド」以外の音も含まれています。
これはどういうことかというと、「ド」の音を鳴らした際、「ド」の音の1/2、1/3、1/4、1/5・・・の音が「ド」の音に含まれています。この1/2、1/3、1/4、1/5・・・の音のことを倍音と呼びます。
基準としている音のことは、基音と呼びます。この場合は、C3「ド」が基音です。
1/2、1/3、1/4、1/5の音というのは、ギターのハーモニクスを考えると分かりやすいと思います。
ハーモニクスとは、弦に少しだけ触れた状態で弾くとポーンっと鳴らす、奏法のことです。
ギターの12フレットで出すハーモニクスは、開放弦の基準音に比べて1オクターブ高い音になります。これは、弦の長さのちょうど半分のため、振動する速度が2倍になるためです。
ちなみに「ド」の音の1/2、1/3、1/4、1/5の音というのは、以下のようになっています。
- 1/2の音:1オクターブ高いド
- 1/3の音:ソ
- 1/4の音:2オクターブ高いド
- 1/5の音:ミ
この「ド」と「ソ」と「ミ」をみて、何か思い浮かびませんか?
そう、Cメジャーのコードです。Cメジャーの構成音は、「ド」と「ミ」と「ソ」ですよね。「ド」の音の倍音に、「ミ」と「ソ」が含まれることから、「ド」「ミ」「ソ」の音を同時に鳴らすと、とてもよく響きます。
この倍音が、どのように含まれているかによって、音色は大きく異なります。
この倍音の含まれ方(倍音構成)は、楽器毎に異なります。そのため同じメロディーを弾いたとしても、各楽器で音色に違いが生じます。
この倍音ですが、シンセサイザーを使った音作りと、密接な関係があります。
シンセサイザーの音作りの最初の行程は、オシレーターで波形を選択するところから始まりますが、波形によって倍音構成は様々です。
では、シンセサイザーの代表的な波形は、どのような倍音構成になっているか確認してみましょう。
※ シンセサイザーの音作りについては、「シンセヒーローへの道」で詳しく解説を行っております。
波形の倍音構成を確認する前に、音と波形の関係性を考えます。
音というものは、空気の振動です。この空気の振動が鼓膜を震わせることにより、人間は音を感知することができます。
そしてこの空気の振動は、下の図のように表すことができます。
振動は、空気中を伝わる一種の波として考えることができ、下の図は波の形ということで、波形と呼びます。
このように、音は波形として表示することができます。
また、波形に記しているように、波の揺れの大きさは音量を、波の揺れる速さは音程を、波の形は音色を表しています。揺れの大きさが大きければ、音量は大きく、揺れる速さが速ければ、音程は高いということになります。
ちなみにこの音量、音の高さ、音色を音の三大要素といいます。
そして、シンセサイザーのオシレーターには、様々な波形が用意されています。では、代表的な波形と倍音構成を確認します。
※ 倍音構成を表すグラフですが、横軸の1が基音で、2以降が倍音を表しています。
ノコギリ波
波形の見た目が、ノコギリの歯のように見えることから、ノコギリ波と呼ばれます。
このノコギリ波は、たっぷりと倍音が含まれているため、非常に派手な音です。
短形波
矩形というのは、長方形のことです。ノコギリ波に比べ、偶数位置の倍音がありません。
そのため、ノコギリ波に比べると、若干丸い音をしています。
三角波
三角波は、矩形波と同じく偶数位置の倍音がありませんが、矩形波ほど倍音が含まれていません。そのため、矩形波よりもさらに丸い音になっています。
サイン波
サイン波はご覧のように、倍音が全く含まれておりません。基音のみです。
そのためサイン波は、ブザーやチャイムのように人の注意を惹き付ける音として使用されます。
ちなみに、倍音が全く含まれていない音は、自然界には存在しません。
このように、倍音構成によって、音色は大きく変化します。
また、これらの知識を使えば、シンセサイザーの音作りで非常に役立ちます。
例えば、「バキバキのベースを作りたい」と考えた場合、波形の倍音構成を把握していれば、「派手な音を作りたいから、オシレーターには倍音を多く含んでいるノコギリ波をセットしよう」や、「エレピに似ている優しい音を作りたい」と考えた場合は、「倍音が少なくて、丸い音がする三角波を選んでみよう」というように、結果を予測しながら音作りが行えます。
結果を予測しながら作業を行うことができれば、音作りの効率は非常に高くなります。今まで倍音について全く意識してこなかった方も、知っていると得をすることばかりなので、興味をもたれた方はさらに奥深く調べてみてください。