「オルタナティブ」とか「カウンター」として、いままで捉えられていたものが、「国際的なアジェンダ」としてセットされて、メインカルチャーとして浸透していく…。2020年は、まさにそうした、新しい基準とか価値観への移行がはじまる年となるでしょう。ーーNEW STANDARD株式会社の久志尚太郎氏による寄稿。
本記事は、NEW STANDARD株式会社の代表取締役社長を務める、久志尚太郎氏による寄稿コラムとなります。
「オルタナティブ」や「カウンター」としていままで捉えられていたものが、「国際的なアジェンダ」としてセットされて、私たちのライフスタイルにメインカルチャーとして浸透していく。2020年は、まさにそうした新しい基準や価値観への移行が顕著になるでしょう。
それを象徴する言葉のひとつが、「SDGs(Sustainable Development Goals)」。さらに、テクノロジー的な側面としては「5G」や「AI」、マーケティングや経営の観点からは「OMO(Online Merges with Offline)」や「CX(Customer Experience)」、「D2C(Direct to Consumer)/DNVB(Digital Native Vertical Brand)」などが、これまで以上に欠かせない当たり前のキーワードとなると思います。2020年以降、これらを巡って大きな変化が訪れる。
ただしこの変化は、一気に雪崩を打って、引き起こされるようなものではありません。今後5年から10年くらいをかけてじわじわと、しかし確実に変わっていくものでしょう。完全に移行した段階で、「全然違った時代になったよね」というように捉えられる変化です。つまり、基準や価値観が変わってしまうのです。2019年は日本にとっては、SDGs経営元年でした。そして2020年は、ブランドやコミュニケーションを通じて、時代のアイデンティティとして新しい基準や価値観が、私たちのライフスタイルに浸透しはじめます。当社もグローバルでの変化を背景に、国内での需要の高まりから、SDGsをブランドアイデンティやコミュニケーションコンセプトに活かすための、レポート&ワークショップの販売を2020年1月より開始しました。
このビッグウェーブの予兆を捉えて、いかに乗りこなしていくか。それが、2020年のマーケターに求められる戦略になるはずです。その際、適切な判断を下すために、次の5つの視点は欠かせないものとなると思います。
1. 「分断の時代」の意味を見直し、ビジョンを打ち出す
いまは「分断の時代」とよく言われています。でも、実はその表現は、間違っていると思います。なぜなら、もともと分断されていたから。それが、テクノロジーの進化によって、可視化されただけだと思うんです。
スマートフォンの普及は、ある種、情報の非対称性を解消しました。いままでは、一部の人しか知り得ない、どんなに頑張ってもアクセスできない情報や、どんなに声をあげても届かない主張というものがありましたが、そうした不平等をなくしたといえます。
つまり、いまスマートフォンを介して、みんなが同じアジェンダについて語りはじめている。そのなかで、さまざまな意見があって、離合集散したりして、「分断」しているように見えるけど、それはもともとあったものなんです。ただ、テクノロジーによって、可視化されただけ。
SDGsやテクノロジーがリードし、世界的なビジョンを示すことで、世界は前に進むことができる。これからの企業は、そうした世界中で共有されているビジョンをコミュニケーションやマーケティングの軸へ、いかに反映できるかというのがポイントになってくる。それをしなければ、国際社会のなかで生き残っていけない時代になったと思います。
2. 「新しい基準」を前提に、ビジネスを構築する
リアルビジネスに対してデジタルで支援するという意味の「O2O(Online to Offline)」に対してOMOは、デジタルを起点にリアルを含めたビジネスを考えるという意味の言葉です。「インターネットがリアルを飲み込む」という表現もされますが、このコンセプトをはじめて聞いたとき、すごく明確でわかりやすいと感じました。
OMOは、元GoogleチャイナのCEOである李開復(リ・カイフ)氏が、2017年に提唱しはじめた言葉といわれています。ですが、いまや中国でもアメリカでも、あまり使われていないようです。なぜなら、それが当たり前だから。わざわざ表現する必要がない、もはや前提となっているんですね。でも、日本はそうでない。
「失われた20年」という言葉があるように、残念ながら平成は停滞の時代でした。バブルのころは、アメリカを追い越したつもりでいたのに、いまとなっては周回遅れです。このような状況が引き起こされた背景には、日本人がOMOのような新しい基準や価値観を前提にビジネスを構築できていないという部分もあると思います。「ハードウェアをソフトウェアが飲み込む」という概念を日本人が理解できなかった頃と、まったく同じ問題が起こっているように感じます。
これはSDGsも一緒です。OMOやSDGsが、すでにカウンターではなく、メインストリームとなっている。今後、ビジネスを構築していくには、このような状況をしっかり踏まえる必要があると思います。
3. 「CX=商品」と考え、ストーリーを語る
「モノ消費からコト消費へ」というトピックは、すでに議論されつくされているかもしれません。しかし、あえてその思想を先鋭化すれば、「CX(顧客体験)こそが商品(プロダクト)である」ということがいえると思います。ただ、いいものを作るだけでは通用しない。そのものを売る前から売ったあとまで、顧客が触れるすべての体験こそ、企業が提供する商品だと思うのです。
昨年の夏に、ニューヨークのソーホー近郊にできた新しいショッピングモール、ショウフィールズ(Showfields)へ視察に行ってきました。ミレニアルズ向けのD2C/DNVB製品が集まるショウフィールズは、「没入型シアター方式」の小売施設と呼ばれています。なぜなら、そこの販売員はディズニーランドのキャストのように来訪客をもてなし、彼らのプレゼンに導かれモノを体験する場所となっているからです。
D2C/DNVBのムーブメントは、プロダクトアウトではなく、ユーザー起点の発想からビジネスが興りました。人々は、大きなブランドやマスメディアから提示される商品が欲しいのではなく、自らの経験をもとにした、独自の欲求を満たすものを求めているのです。だからこそ新興ブランドは、共感やストーリー、そして体験価値を重要視しているのです。
ただし、D2C/DNVBのような新興ブランドはレガシーに対してCXで一矢報いていますが、製品そのものはまだ劣るものもあります。そもそも製品が優れている老舗ブランドがCXまで網羅するようになったら、新興ブランドにとって厳しい局面も出てくるかもしれません。
4. いままでの常識を超えて、「変容」し続ける
日本は世界基準に立ち遅れているかもしれませんが、独自の強みもあります。それは、変容し続けられるということです。ヨーロッパは、古い街並みが魅力で完成されています。でも、日本は木造文化ということもあり、街をどんどん作り変えることで、発展してきた。そうした強みは、OMO・CX時代にまさに求められるものだと思います。
というのも、5G以降のOMO・CX時代は、まさしくインターネットが主体となり、さまざまなもののリデザインを誘発するからです。
たとえば、「歩きスマホ」。確かに危険ですし、迷惑ですから、いまのところは人間が自制するのは当然でしょう。でも、安全に「歩きスマホ」できるような、新しい街の仕組みやARグラスが生まれるかもしれない。同じような観点で、信号機もいまのスタイルになって長いと思いますが、信号機とさまざまなものが通信するようになって、もっと根本的ななにかが変わるかもしれないのです。
そうしたOMO・CX時代を前提としたリアルの変化を示す、いい例が東京にも増えてきました。たとえば渋谷PARCOは3年弱の歳月をかけて、昨年の11月にリニューアルオープンしましたが、その素晴らしさに圧倒されました。渋谷でしかできないコンテンツ、渋谷の街の歴史、そういったコンテキストを紐解いて、ひとつの新しい渋谷というカルチャーを、CXとして体現しているんです。そこには、OMO的なもの、D2C/DNVB的なものもすべて詰め込まれている。まさにショッピング体験の価値をアップデートしているんですよね。
5. 新旧の価値観において、足を引っ張りあわない
いままで、新しい基準や価値観について語ってきましたが、これは従来のカルチャーに対して中指を立てるべき、と言いたいわけではありません。なかには、新しい世界に踏み入れたくない方もいるでしょう。音楽配信が爆発的に普及した一方でレコードやテープの価値が見直されているように、スマートフォン全盛期のいまだからこそ黒電話がカッコいいと思えるように、従来のカルチャーの素晴らしさもたくさん残っています。
だからこそ、新旧の勢力でお互いに批判し合ったり、足を引っ張ったりしないというのは、すごく重要でしょう。日本企業における管理職はだいたい47歳以上と言われていますが、その方々はぜひ若い人たちのチャレンジを後押ししてほしい。新しい基準や価値観へ移行したあとは、新しい世代が頑張らなきゃいけないのですが、旧来の世界から移行するには、どうしてもその方々の助力も欠かせません。
そういった意味でも2020年が、とても重要なマイルストーンになると感じています。いまこそ、新しい基準や価値観で世の中を捉え直して、新しいマーケットを作っていく機会です。きっと「2020年くらいから、まったく違った時代になったよね」と、10年後には語られているはず。
NEW STANDARD株式会社は、SDGsなどを背景にミレニアルズから生まれた世界の新しい基準や価値観をまとめた独自のレポート「GLOBAL CREATIVE REPORT」の販売を開始。また、企業向けの定例勉強会やNews Letterを通じて情報配信をしている。
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Written by 久志尚太郎
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