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「油すましと6本のイチモツの邂逅、捜索は楽しかばい!」
山形県は白鷹町にて第二次最上川捜索・2日目。本日は第二次捜索の3日間でもっとも時間をかけて捜索できる日である。ぶっちゃけ、今遠征の成否に関わる勝負の日なのだ。2日目の捜索は『総員最上川に突入・各個奮戦小判を発見せよ大作戦』(略称・ソ作戦)を実行。『ソ作戦』とは、一列横隊になり川下から上流へ向かって川底を捜索し、目標物の『アマ壁』や『大石』の存在、そして小判を探す総力戦なり。
朝5時に起床。宿舎の大広間に降りて、テレビで天気を確認する。本日は気温が32度で夕方まで曇りの予報。雨は持ちそうでよかった! 6時前に皆が集合して、いよいよ2日目の捜索に出陣。隊員一同、顔色も良く気合が感じられる。まずは最上川の「つぶて石」まで向かい、川底に広がる岩盤『アマ壁』をみんなに実際に見てもらう。『アマ壁』は砂泥が凝固した岩盤で、水に浸かっている部分はもろく、部分的に素手でも壊せる。
隊員一同から「これがアマ壁か。こういう感じなんですね」って理解を得られた。よし、これで『アマ壁』の共通認識が出来て、捜索も捗るだろう。我々は「つぶて石」を後にして、最上川の鮎貝側からベース基地まで移動。昨日の藪漕ぎの効果もあって、獣道ができていた。テントも無事に建っていたし中の捜索道具も無事で、ほっとした。『ソ作戦』の決行の為、一同イチモツをお天道様に晒して、捜索服(水着)に着替える。20代・30代・40代のポコチン6本がプラプラしている様はまさに圧巻。お互いのイチモツをそれとなくチラ見して、安心したりショックを受けたりして士気を高めた。
午前7時、目標地点である荒砥鉄橋の上流200メートル付近から、『地蔵跡』までの水中を捜索するため、安全監視役の1名(ゴーイチ隊員)を岸に残して、他5名が全員最上川に突撃。浅い場所は川中で腹ばいになり、深い場所は潜りながら一列横隊となって川下から『ソ作戦』を実行する。アタシは最も流れの強い中央部に入ったのだが、バケツいっぱいに石を詰めたウェイトを抱えていてもその場に留まれず流されてしまった。
昨夜考えた激流捜索法も早々に敗れ、中央部分の捜索は諦める。最上川は昨日より確実に水量が増えていて、水中も濁っている。上流で雨が降っているのかもしれない。手で泥を仰いで散らし、ジャリの中に小判や二分金、二朱銀がないか確認しながら上流に前進する。各自必死で捜索する我が隊だが、ジャリの上に溜まった泥で視界が悪く、思うように捗らない。捜索に集中していて、あっという間に1時間が経っていた。
岸へ上がり、作戦会議。各自ジャリを掘ってみたが掘り下げられず、『アマ壁』も確認できない。ムムム、捜索は簡単じゃねえ。休憩後、ウエダ隊員を安全監視役に残して再び突撃。捜索開始地点から100メートルくらい遡上したが、一向に目標物は見当たらない。そもそも雰囲気がないのだ。10時過ぎまで捜索するも、なかなか厳しい感触。
再び作戦会議を行い、ダイゴ隊員から「思い切って荒砥側に渡河し、対岸を探ってみたら?」という意見が出される。確かにこの鮎貝側の捜索していても、T親方の言った小判への手がかりである『アマ壁』も『大岩』も発見できない。しかし、渡河をするには中央部の深い激流を超えなければならない。歩ける深さではないし、必ず流されるだろう。全員が激流にビビって黙り込んでしまう。
すると意外にもゴーイチ隊員が「俺、渡ってみましょうか?」と名乗り出た。隊員の中で一番体重が重く流されにくそうなガタイではあるが、本当に大丈夫だろうか?「腰にロープを付けるんで、流されたら引っ張ってくださいー」本人が軽く言うもんだから、自信があるのだろう。ダイゴ隊員のライフジャケットをゴーイチ隊員に装着させ、腰ベルトに25メートルロープを3本繋いでくくりつける。ロープをみんなで握って、いざという場合に備える。
「じゃあ、行ってきますねー」全く緊張を感じさせない口調で、ゴーイチ隊員は川に入った。順調に進出し、水が腰辺りまで浸かると「ああ、結構ヤバイっす!」と、笑いながら叫んだ。まだ笑う余裕があるのかと感心していたら、急にゴーイチ隊員の体が沈み「ダメだー!」と叫びながらあっという間に流された。もう泳ぐことも出来ずにただただ流されていく。
みんなで全力でロープを引っ張って、流されゆくゴーイチ隊員を岸まで上げる。姿が消えた瞬間ヒヤッとしたが、本人はそこまで危機感を感じてなかったみたいで「ダメっすねー。流れが強くて渡れないっすー」なんて言っていた。コイツは頭のどっかがバカになっていて、恐怖を感じない体質なのだろう。ゾンビ物の映画で最初に殺されるタイプだ。
「やっぱり渡河作戦は無理だな」隊の安全を担うアタシが宣言したら、ダイゴ隊員が「え? タイチョーは行かないんすか?」と、半笑いで言う。あ、この人悪い人だ! 笑いながら他人を陥れる人だ!「や、無理っすよ。流されちゃいますって」すると特攻精神盛んな最年少のウラヤマ隊員が「俺行きますよ、押忍」と手を挙げた。コイツも恐怖のタガが外れちゃっている残念な子だ。
しかしアタシは内心ホッとして「おお、ウラヤマ行くか!」とウラヤマ隊員に渡河を押し付ける為にワザと大声で言ったら、今度はウエダ隊員が「ここはタイチョーが行かないと連載的にも話になんないでしょ」なんて言いやがる。いやいや、連載なんてどーでもいい。アタシャ死にたくねえんだって。ウラヤマ隊員も「そうっすね。やっぱタイチョーが行くべきだか」なんて同調し、唯一の良心ギョー隊員まで頷きながらアタシにロープを渡す始末。
なんだこの流れは! アタシは必死で「渡れないぞ、危険すぎる!」って言ってるのに、みんな無言で渡河準備を始める。ゴーイチ隊員が「急に深くなるから気を付けてくださいねー」とライフジャケットを着せてくる。もう、イモひける雰囲気じゃなかった。これって少数意見を有する者に対して、暗黙のうちに多数意見に合わせるように誘導する「同調圧力」そのものじゃないっすか! アタシは「同調圧力」に屈し、嫌々ながら腰にロープを結んで川に入ったのだった。
中央の激流部は流されながら泳いで渡るしかない。一同に「渡ってる最中はロープを絶対に引っ張らないで」と伝え、覚悟を決めて川を進む。やはり1/3辺りまで川を渡ると流れが強くなり、体をもって行かれそうになる。踏ん張りながら激流部に足を入れると、ガクッと川底が落ち込んでいて一気に体が流された。あぶねえ! ゴーイチが言ってたのはココか!
瞬時の判断でアタシは古式泳法の立ち泳ぎのごとく流れに対して体を横に向け、川に流されながらも見事に激流部を渡りきる。危機を脱しなんとか対岸の荒砥側護岸にたどり着いたアタシは、すぐに川底の違いに気付いた。荒砥側の川底は泥とコケで滑りやすいのだが、念願の『アマ壁』が露出していたのだ! それこそT親方の証言通り『アマ壁』のえぐれた部分にジャリや川石が溜まっている! こっちが正解じゃねえか!
アタシが腰につけたロープを岸に固定し鮎貝側から張られたロープをたどって、特攻野郎ウラヤマ隊員が渡河する。二人で周辺を偵察し『アマ壁』が露出している事を対岸にいる隊員に報告する。「アマ壁があるし、T親方の言ってた岸はこっちだ! 小判の雰囲気がビンビンだぞ!」アタシ達が興奮しながら大声で叫ぶと、対岸のメンバーがざわついて協議している。隊長として捜索場所の転戦を決定するべく「みんなで荒砥側に渡って探そう!」と叫んだのだが、対岸から返事はない。しばらくするとダイゴ隊員から「ベースごと荒砥側に移動しましょう! 一回戻って撤収作業してください!」と、耳を疑うような声が届く。え? 戻るの?
つーかその判断は隊長であるアタシが下すことじゃねえのか!? ゴーイチ隊員はすでに道具を片付け始めているし、ギョー隊員に至ってはテントをたたみ始めた。ウラヤマ隊員が「じゃあ戻りますか」って言うより早く渡河を始めている。おいおい、これじゃあ隊長の権威なんて全くないし、そもそも命がけで渡った意味がないじゃん。参っちゃうなあ。ウラヤマ隊員が無事に渡り終えたので、アタシもロープを再び腰につけて再び鮎貝側に戻る。
川の中央の激流部で流されそうになったので慌ててロープを引いたのだが、不思議なことにロープを引けば引くだけ伸びてくる。アタシは流されながら「もっと引っ張ってくれ!」と叫ぶが、一向にロープに力が加わる感覚はない。だいぶ流されたが命からがら激流部を渡りきり、鮎貝側の岸を見たら、驚く事に誰もロープを掴んでいなかったのだ! ギョー隊員とウラヤマ隊員は機敏にテントをたたんでいて、ゴーイチ隊員とダイゴ隊員は道具を片付けている。
ウエダ隊員はクーラーボックスから取り出した麦茶を飲み干すのに夢中で、誰一人として対岸から帰ってくるアタシの介助をしていなかった! バカヤロー、流されたらどうするんだ! あまりの仕打ちにアタシがプリプリ怒鳴ると、麦茶を飲み終えたウエダ隊員が「まあ、帰ってこれたからいいじゃないすか。マツーラさんはタイチョーだから一番重いテントとクーラーボックス運んでくださいね」と、命令してきた。バカタレ! アタシャ奴隷じゃねえぞ!
ベース基地ごと撤収し、陸路で鮎貝側の堤防へ移動。隊長であるアタシは堤防から川に出るルートを探す。最短距離で川岸に出るルートは、背丈が2メートル以上ある笹薮が広がっていた。奥が見えないのでどこまで藪が続いているかわからない。ひとりで藪を漕いでルート工作をするが、想像以上に川岸まで距離があったため最短ルートでの進出は諦めた。しばらく歩いて『地蔵跡』の雑木林から川岸に出るルートを藪こぎする。
こちらは比較的笹薮も少なく川岸に出れたが、岸から川に入って目標地点まで水に浸かりながら移動しなければならない。必要最小限の道具しか手にしていない隊員は川中も移動できるが、カメラを抱えたゴーイチ隊員やウエダ隊員は難儀なのでみんなで介助しながらの移動。撮影機材は介助するのに、なんで渡河する隊長を介助しなかったのか不審に思うが、グッと堪える。一同、目的地に移動して実際に露出している『アマ壁』を見て「やっぱりこっちじゃないですか!」「なんで鮎貝側を探していたんだ?」「時間の無駄でしたねえ」なんて好き勝手言ってる隊員にイラっとしたが、耐え難きを耐え「午後は荒砥側の岸から急流部までを捜索する。
泥が堆積しているので泥を流してからジャリやアマ壁のくぼみをくまなく調べること。泥が散ると視界が見えなくなるので、下流から上流に登りながら捜索すること」と極めて冷静に命令を下したが、誰も聞いていなかった。メイメイが勝手に川に入って捜索を始めていたのだ。自主性を重んじる我が隊なので、歯を食いしばってここも堪える。アタシも川に入って捜索開始。
堆積した泥は手で仰ぐとすぐに散るのだが、1分くらい泥に覆われて視界が悪くなる。水が澄んでくるとアマ壁に溜まったジャリや大石がクリアに見える。ジャリをすくって探したり大石をめくってひっくり返す行為が、いちいちドキドキする。なんと言えばいいのだろう?「お宝」がありそうな期待感がビンビンでエキサイティングなのだ!
鮎貝側のジャリ底では全く感じられなかった感覚。視界が澄むたびに「この石の下に小判がある!」って期待感で先走り汁がダダ漏れてしまう。アタシだけではなく、捜索する隊員全員がそれをバキバキに感じて作業に没頭している。泥を払って石をめくる。泥を払って窪みのジャリをすくう。休憩の時間も忘れて捜索活動に没頭するのは、作業が楽しくて仕方ないからだ。
意外だったのは編集長のウエダ隊員が、最深部の急流を物ともせずに潜って捜索していたこと。安全面での判断や天気予報の確認という重要な任務も忘れて、狩りをするオットセイのごとく、何度も潜っては顔を出して呼吸するを繰り返していた。特攻野郎ウラヤマ隊員は「楽しくて時間がわかんなくなる!」と叫んでいるし、ダイゴ隊員に至っては集中しすぎて全く喋らなくなっている。
ゴーイチ隊員は撮影したり川でウンコしたり、捜索以外で忙しそうだ。冷静に隊を見渡して各自の安全を確認し、細かく天気予報の情報を教えてくれるのはギョー隊員こと宮本行さん。全体のフォローを考えられる隊員が全くいない超イビツな捜索隊なので、ギョー隊員の存在は本当にありがたい。アタシは捜索しつつも川の全容を把握するために、落ち着いて川を観察した。すると小判発見地帯の荒砥鉄橋から上流の全体像がみえてきた。
おそらく近年に施工された荒砥側の護岸工事によって、川の流れが大きく変わったのだ。荒砥側に広がる『アマ壁』が昔は鮎貝側まで広がっていたのだろう。しかし川の流れが変化したことにより、荒砥側には『アマ壁』が残ったが川の中央部を境にして鮎貝側には土砂が堆積し『アマ壁』が埋まってしまったのだ。だから荒砥側と鮎貝側では川底の様子が全く違っていたのだと、鋭く推察した。
午後3時過ぎまで休憩を取らずに捜索を決行。ギョー隊員から「夕方から雨が降る予報で、上流部では降り始めました!」との報告を受け、一度みんなで集まって意見を集約。確かに川の流れが更に強くなって濁りも出てきた。しかし皆が「まだやれるから、捜索を続けたい!」と言うので、続行することに。大石をめくるたびに湧き出る期待感はずーっと続き、捜索隊は作業に没頭した。捜索を始めた下流部から200メートルの範囲を探したが、小判発見には至らず。午後4時半、上流の降雨でだいぶ増水したため仕方なく作業を終了する。もっとやりたかった気持ちは皆同じで無念さはあったが、一同に「ココには確実にある」という実感があったので、明日も引き続き荒砥側の川を捜索することに決めた。
とうとう「お宝」に通じる場所を見つけた充実感と明日の捜索への期待感を抱えて荒砥側の堤防に引き上げる一同を堤防上からじーっと凝視する影があった。アタシは早々に気付いていたのだが地元の方に「おめーら何してんだ!」と怒られるのを恐れて、わざわざ離れた堤防に上がった。「いやー、結構水を飲んじゃいましたよ」「俺、これを小判と見間違えちゃって叫びそうになりました」と、小判と見間違えた石を見せ合ったりキャッキャしていたら、その影が段々と近付いてくる。アタシは地元のヒトと思わしきその人物の風体を見て「あれ? どっかで見た事があるぞ」とモヤモヤしたのだ。身長は低く、推定150センチ。ツルッパゲで顔中の毛がない。真っ黒に日焼けして、ヨレたタンクトップに鼠色のスラックス姿。腰にビニール袋をいくつもぶら下げている。
「あれだ! 水木しげる先生の描く『妖怪・油すまし』に似てんだ!」胸のつっかえが取れてスッキリしていると、油すまし氏が甲高い声で「キャンキョーテョーサか?」と聞いてきた。なんて言っているのか聞き取りにくい。「あ、すいませんー」なんてヘラヘラして害意はないことをアピールしつつ道を譲ろうとすると、油すまし氏はアタシの前に立ち止まって再び「キャンキョーテョーサか?」と聞いてくるのだ。油すまし氏の口には、下の前歯の2本しか無くてアタシはその不気味な口内をみて、ディズニーのキャラクターの「チップとデール」を思い出した。あのリスだかネズミだかのどっちかがこんな歯の生え方してなかったか。
油すまし氏はほとんど歯がないので発音すれども口から空気が漏れてしまい、言葉がヒジョーに不明瞭なのだ。するとゴーイチ隊員が「マツーラさん、多分、環境調査かって聞いてます」と教えてくれた。ああ、よかった。もしかしたらアタシにしか見えていない妖怪かもという不安があったのだ。「あ、違います。ちょっと遊びに来てまして」「水飲んじゃダメだぞ」油すまし氏の独特の発音に戸惑いながら「あ、なんでっすか?」と、聞いてみる。
「上流の豚小屋からうんこ流れてるぞー」それを聞いていたウラヤマ隊員がえづき始めた。長話をして我が捜索隊を疑われても嫌なので「マジっすか、気を付けます」と言いながら荷物を抱えて「じゃあ、失礼しますー」と立ち去りかけたら「小判か?」と、油すまし氏が言ったのだ。アタシは「小判」というワードが油すまし氏から発せられた事に驚いて、動けなくなってしまった。「小判だろ?」「あー、いや」「あん時はオレも拾ったさ。中学しぇいの頃だな」「ええ!小判拾われたんですか!」「うん、まだあるぞ」「あの、60年前の飛脚小判ですよね?」と意気込んで質問すると「あんたりゃ、どこに泊まってんだ?」と、なんだか不機嫌そうにはぐらかしてくる。
「まあ、こっから車で20分くらいの宿舎に泊まってます」すると、油すまし氏は急に会話を打ち切って挨拶もなく立ち去ってしまったのだった。あれ? なんか失礼な事しちゃいましたか? ウエダ隊員が「いるんですね、当時の関係者」と不思議そうに言っている。確かに。もっと突っ込んだ話を聞きたかったが仕方ねえや。それより食う物も食わずに捜索していた我々は、危機的に腹が減っていたので優良スーパー「おーばん」で今晩の夕食用に再び焼肉を大量に買い込み、本日の捜索の手応えを土産に意気揚々と宿舎に帰ったのだった。
次回へと続く。
(出典/「2nd 2024年12月号 Vol.209」)
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