不確実性が高い時、「直感」が役に立つ
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サマリー:ベストセラーとなった入山章栄教授の『世界標準の経営理論』。前回に引き続き、実施したアンケートをもとに読者の最もお気に入りの理論「読者が選ぶベスト理論」を紹介していく。今回は「ダイナミック・ケイパビリテ... もっと見るィ理論」を著者直々に解説してもらおう。(聞き手/DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部 小島健志) 閉じる

──前回の記事:「知の探索・知の深化の理論」は日本企業に最も不足している視点だ(連載第21回)

不確実性が高い時は「論理思考」よりも「直感」のほうが正しい

読者が選ぶベスト理論:『世界標準の経営理論』第17章 ダイナミック・ケイパビリティ理論

理由:ダイナミック・ケイパビリティ理論に、「エコシステム」という新しい産業構造をつくりあげるための基礎理論としての可能性を感じます。成果はまだ出ているようには見えませんが、経営者がいま、まさに実践していることだと思います。
(東京都、40代の会社員、部長級の男性)

――ダイナミック・ケイパビリティ理論が選ばれました。デジタル革命によって、競争優位を獲得するうえで、組織の経営資源(ケイパビリティ)を有形から無形に、静的から動的に変化することが求められています。変化の激しい時代をとらえている理論ともいえます。

入山(以下略):今回もありがとうございます。どうやったら大胆に経営を変化させるか、経営者の多くの方が悩んでいます。そこに答える理論の一つがダイナミック・ケイパビリティ理論です。

 拙書『世界標準の経営理論』では、ダイナミック・ケイパビリティを「急速に変化するビジネス環境の中で、変化に対応するために内外の様々なリソースを組み合わせ直し続ける、企業固有の能力・ルーティン」と定義しています。

 当然、企業はこの力を高めるためにどうするかと考えます。その点、個人的には、(スタンフォード大学のキャスリーン・)アイゼンハートの「シンプル・ルール」という考え方がしっくりきています。

――シンプルなルールだけを組織に徹底させ、後は状況にあわせて柔軟に意思決定することで、大きな環境変化にも対応できるという考え方ですね。

 ええ。それもいま、経営において「直感」の重要性が多くの場で語られているからです。シンプル・ルールが説いているのは、実はその直感と関係しているのです。

 『世界標準の経営理論』第21章の「意志決定の理論」で紹介したように、(認知科学者ゲルド・)ギゲレンザーという人が、周囲の環境の不確実性が高い時においては、「論理思考よりも直感のほうが正しい」と述べています。もちろん、それは素人の勘ではなく、玄人の勘でなければならないのですが、神経科学的に直感が分析に勝る場合があると言っているのです。

 ギゲレンザーの論文が面白いのは、アイゼンハートの論につながるところです。なぜなら、シンプル・ルールというのは、変化が激しい時、ルールはシンプルに決めるけれども、それ以外のことは直感で決めてしまおうと。あまり深く考えず、とりあえず直感で進めてしまうほうが、変化に対応できるという考え方なのです。

――直感がいまの経営に求められるということですね。以前の勉強会でも企業の方の人気が高かった一方、「未完成の経営理論」として取り上げているところも特徴的です。

 やはり、実ビジネスを知っているビジネスパーソンの腑に落ちるところがあるのでしょう。『両利きの経営』(チャールズ・オライリー著)でも、実はダイナミック・ケイパビリティについて書いています。イノベーションを考えるうえで重要な視点で、僕が解説で指摘しています。

 その意味で、読者の方がこの理論に可能性を感じてくださるのは本当に嬉しいです。まだ経営理論としては確立していないため、「経営理論のようなもの」ですが、経営学者もいま知的興奮がかき立てられていて研究が進んでいる分野なのです。

【動画で見る入山章栄の『世界標準の経営理論』】
ダイナミック・ケイパビリティ理論
意思決定の理論
松下幸之助が「会社は9割が運命で決まる」と語った理由、レジェンド経営の組織論

【著作紹介】

『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)

世界の経営学では、複雑なビジネス・経営・組織のメカニズムを解き明かすために、「経営理論」が発展してきた。
その膨大な検証の蓄積から、「ビジネスの真理に肉薄している可能性が高い」として生き残ってきた「標準理論」とでも言うべきものが、約30ある。まさに世界の最高レベルの経営学者の、英知の結集である。これは、その標準理論を解放し、可能なかぎり網羅・体系的に、そして圧倒的なわかりやすさでまとめた史上初の書籍である。
本書は、大学生・(社会人)大学院生などには、初めて完全に体系化された「経営理論の教科書」となり、研究者には自身の専門以外の知見を得る「ガイドブック」となり、そしてビジネスパーソンには、ご自身の思考を深め、解放させる「軸」となるだろう。正解のない時代にこそ必要な「思考の軸」を、本書で得てほしい。

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