国内初、分散型電源のリアルタイム制御の実証実験 | KDDI Engineer Portal

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国内初、分散型電源のリアルタイム制御の実証実験

2022/03/09

はじめまして、KDDIにてAWS Wavelengthのプロダクトマーケティングを担当している海江田です。 現在まで、さまざまな業界のお客さまにau 5GとAWS Wavelengthを活用した実証実験を行っていただいており、私もこの1年間、できる限りそのお手伝いに努めて参りました。 お客さまの実証実験は製品開発に関わるものが多く、通常は守秘義務を負う内容のため情報公開はできないのですが、今回、エナリスみらい研究所さまより許可をいただけましたので、「どのように5GとMEC(マルチアクセスエッジコンピューティング)を活用しようとされていたか?」の観点で実証実験の内容もご紹介させていただきます。(背景が長めですが、参考にして頂けるのではないかと思いますので、最後まで読んでくださると嬉しいです。) 本件に関するプレスリリースはこちらとなります。また、弊社のイベントのKey Noteでもご紹介させていただきましたので、ぜひ合わせてご覧になってみてください。

エナリスみらい研究所とは

株式会社エナリスのR&Dにあたる組織です。エナリスさまは電力を必要とするユーザーが電気を自由に選択できる社会の実現を目指して2007年に創業した会社で、新電力において主に電気の需要と供給のバランスを取り続ける業務を24時間365日行っている企業です。日本のエネルギーインフラの一翼を担う会社ですね。(「24時間365日」という面では弊社のフィロソフィにある「365日、守るのが使命」と同様で、エナリスさまよりその使命感や思いを伺っていた時は沢山共感でき、なんだか嬉しく感じました。)

VPP(バーチャルパワープラント)とは

発電所と言えば誰もが想像する大きな発電所にて必要な電力を一手に担い発電するものですが、VPPとは、分散して存在する小型の発電機や蓄電池など単体では小さな電力のリソースを複数集めてその瞬間に必要な電力を提供するシステムとのことで、再生可能なエネルギー(再エネ)普及のためのコアな技術です。一方で、太陽光発電など変動しやすいエネルギーを取り扱うという面では、安定性の確保など技術的なチャレンジがまだまだ沢山あるそうで、壮大なチャレンジに取り組まれている方々を只々リスペクトしております。

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 VPPでは、その時に必要な電力をさまざまな電力リソースから組み合わせてあたかも1つの発電所のように電力を提供します。

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実証実験の目的

今回の実証実験は、再エネとしての小型発電機や家庭用蓄電池などの分散型電源が近い将来、更に普及した際のことを想定し、VPPの制御を高度化するためのシステムを実証する、ということが目的でした。 また、経産省の「令和3年度 分散型電源の更なる活用に向けた実証事業」プロジェクトでさまざまな実証を行う中、今回の5GとMECを活用した実証というのは、その1つのアイテムでもありました。「MECを用いた分散型電源のリアルタイム制御は日本初であり、また世界の中でも低圧リソースの活用が一番進んでいるのは日本であることから、もしかしたら世界でも初めてなのかもしれない」とのことで、これを伺った時には目が覚めるようなドキドキ感を覚えました。

実証内容

具体的に行った実証内容は、主に以下の2点です。 ① 周波数制御を想定した高速制御の実証 通常、蓄電池側の周波数を一定に保つためには制御が必要で、従来はローカルにて制御していましたが、今回はau 5Gと AWS Wavelengthにて制御する実証となります。周波数を取り扱うため、高速な状態把握と制御指示が必要です。 ② 特定エリア内でのエリア協調制御の実証 目標の電力供出を達成するため特定エリア内の蓄電池をグルーピングし、グループ内で出た不足分を他の蓄電池から補填したり、過剰分を充電したりして、制御の精度を高める実証です。制御精度が高まれば需要と供給について安定した調整が可能になるため、利用者側は安心して利用できます。 これらの実証実験は弊社KDDI DIGITAL GATEにて行われました。

au 5GとAWS Wavelengthの活用

従来、①、②の制御は下図「現行システム」のような構成で行っており、それぞれに課題がありました。 エナリスさまは、これらの課題をau 5GとAWS Wavelengthを用いて解決しようと考えました。構成としては、従来、専用端末で行っていた処理とクラウド側で行っていた処理の一部をAWS Wavelengthにて実行させ、専用端末を汎用の5Gルーターに置き換え、かつリアルタイムの制御を行うことにチャレンジしました。

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試験結果と考察

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以下は、エリア協調制御での制御結果のサンプルです。目標値(折れ線グラフ)に対して、複数の蓄電池の出力(棒グラフ)がピタッと追従しているのが分かります。「リレー」とあるところは、蓄電池のグループを変更・バトンタッチして出力させた結果で、この切り替わりもピタッと追従していて素晴らしいと思いました。

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今回の実証でAWS Wavelength(MEC)にて端末側の処理と一部のクラウド側の処理を行い、リアルタイムでの制御が可能なことを確認できました。また、将来的にMECが各地域へ拡張されればその地域ごとに分散型エネルギーのシステム構成がとれることも見出せました。これは分散システムのコンセプトとしても分かり易いものになるのではないか、と思います。

最後に

カーボンニュートラル実現に向けた社会的な課題に対して真っ向から取り組んでらっしゃるエナリスみらい研究所のみなさまと一時でもご一緒に仕事ができたことは光栄でした。「今まで1分周期で制御できていたなら、それでも大丈夫なのではないでしょうか?」という私の素朴な疑問に対して、淡々とした口調で「その当たり前を変えていくのです。」と伺った時は、ご担当者さまの静かでも確固たるプライドを垣間見たように思えました。(エナリスさまの企業理念が「当たり前を変革する」とのことでした。) 社会課題や業界の課題、自社の課題、規模は違ってもさまざまな課題に対して地道に真摯に取り組んでらっしゃる企業を通信プラットフォームの側面より全力でご支援することでお役に立ちたい、と改めて思いました。 エナリスみらい研究所のエンジニアのみなさま、とても朗らかでまじめで前向きで、とても気持ちのいいお人柄の方々でした。最後に改めて御礼を申し上げます。

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         エナリスみらい研究所のみなさま