角通を自任する玄人向けの興味深いご質問のテーマです。
先ず最弱横綱ですが、私が思うに、先代春日野親方の栃ノ海をおいて他に居るまいと不名誉のワーストクラスのパッとしない在位中の成績でした。在位17場所の内、皆勤は半分程度の9場所で、休場場所数が残り半分未満を占める8場所。全休は3場所、出場しても勝ち進めず途中休場に追い込まれること実に5場所という惨状振りでした。皆勤して務め上げた場所に於いても、3場所連続8勝7敗止まりの体たらくで、クンロク大関より劣る弱小横綱でした。横綱の威信にかけ、二桁勝ち星に到達した場所でも及第点の13勝は僅かに1度きりのマークで、残りは10~11勝と角界の最高位にして活躍して目立つことはありませんでした。小兵軽量の力士で、取り口は先々代春日野親方(元横綱栃錦)譲りのタイミングを外さない出し投げが光りました。スピード感もあり、きびきびとした速戦即決タイプで、現在のクンロク大関日馬富士に近い感じの技巧派でした。王者大鵬との直接対戦では健闘しており、やはり現在の王者白鵬に時たま番狂わせを誘う日馬富士と似ていると言うか、共通項が見出せます。しかし、再三再四指摘するように横綱でありながら、トータルではクンロク大関よりも劣る芳しくない成績に終わっています。
既出の回答にある昭和末期の双羽黒は廃業時、弱冠24歳ということで暴力沙汰を起こしていなければ優勝するチャンスは訪れたと見ます。大乃国の長期休場は言わば、延命の為の陥落制度のない横綱の特権行使の側面も肯定でき、皆勤して大勝ちし復活の狼煙を上げた気勢があり、千代の富士の連勝ストッパーで一矢報いましたし、伸び盛りの貴花田(のちの貴乃花)、琴錦に敗れなかったのは意地の表れで男気を魅せました。三代目若乃花は、平成11年初場所では当時関脇の千代大海に逆転優勝を許していますが、優勝同点となっていますし、前場所には史上初の未曾有の2度目の平幕優勝を飾った琴錦に唯一の土を付けていて要所要所で締めています。
横綱を射止めていても、殊更、面妖ではなかったのはやはり、大関も成らなかった最高位関脇の琴錦です。5場所連続して三賞を獲得したり、息長く三役の常連にして上位キラーとして名を馳せました。唯一無二の金字塔である複数回に及ぶ平幕優勝は番付制度が絶対の大相撲の常識を覆した特筆に価する出来事です。千代の富士は引退直後、解説や評論に回る際、本場所の優勝争いの予想では、いつも琴錦を主軸に据えて展望していましたし、弟弟子の北勝海よりセンス、素材とも上の認識で、自らの後継者に尤も相応しい実力者という見立てでした。琴錦が思いのままの飛躍、出世を遂げられなかったのは、かなりの数の星を売りまくったせいだと言われています。