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一言で日銀のオペレーションと言っても無数にあり、それがすべて政策金利にかかわっているわけではないですし、関わっているとしても関わり方は多様で、簡単に「こうだ」と説明できるものではない。 だからここでは、「政策金利を操作するためのオペレーション」に的を絞って説明します。なお、ここで言う「政策金利」とは「無担保コール翌日物」のこととします。 「無担保コール翌日物」とは、銀行がその日の営業終了時刻までに資金を調達し、翌朝には返済する取引のための市場です。なんだって銀行は明日の朝には返済するような資金を調達するのか、ということですが、これは「所要準備制度」(法定準備制度)とかかわっています。 「所要準備制度」とは、各銀行が預金者から受け入れている預金金額に応じて、営業終了時刻時点で、各銀行が日銀に開設している当座預金口座に、一定の残高(預金額x所要準備率)を保有していなければならない、というルールです。ただし、計算根拠となる預金者の預金金額は毎月1日から末日までの平均で決まるのに対し、その金額に合わせて所要準備を積まなくてはならないのは毎月16日から翌月15日、と若干ずれがあります(「同時後積み方式」)。所要準備率は16日から翌月15日までの平均で満たされておればよく、毎日、満たしていなければならないわけではない。教科書には、法定準備制度は常に満たしていなければならず、しかもその基準も現在の預金残高に対して現在の準備残高を満たしていなければならないような書き方になっているのですが、現実には営業終了時刻の一瞬(と言っても翌朝まで預金も準備預金も動きませんから、実際には夜間及び休日の間ということになりますが)だけ、それも1か月の平均で、半月ほどのずれを持って、満たせていればよい。 ですから銀行は、その日の営業終了時刻時点で自行の手許にある準備預金残高を推計して、その日の営業終了時刻で必要となる準備預金残高との差額を営業終了時刻までに調達しなければならない。手持ちの準備預金が手余りになりそうな銀行は、市場では「出し手」として運用しようとするし、不足しそうな銀行は「受け手」として、出し手になった銀行から資金を借りようとします。これが無担保コール翌日物市場です。 ですが、実はこの市場は市場の力に任せていたのでは金利なんか決まらない、という特徴があります。というのは、日中の営業時間中に銀行が必要とする準備預金の額と、この所要準備のために必要とする額、そして実際に銀行が日中に保有する準備預金の額の間には大きな開きがあり得るからです。特に日本の場合、納税や公務員給与支払い、公共事業代金の支払い、公的年金給付が、月のうちのある日数に集中する傾向があります。納税が集中する時期など、すべての銀行が一斉に準備預金不足傾向になります。また盆暮れやゴールデンウイークなどの休日前には、多くの銀行から一斉に預金が払い戻しされます。政府への納付や預金者の払戻しに際しては、預金と準備預金とが同時に同額減ります。所要準備率は、預金種目や金額によっても変わりますが、全体的に見れば1%程度しかありませんから、預金と準備預金とが一斉に同時に同額減少すれば、市場全体が準備預金の供給不足になります。他方で、公務員給与や年金の給付日には、準備預金と預金とがすべての銀行で一斉に同額増えます。当然、市場では準備預金が過剰になります。勿論、所要準備は月の平均で満たせていればいいのですから、そこまで緊喫ではないかもしれませんが、さりとてそんなに時間的余裕があるわけでもない。 問題は、この「準備預金」(日銀当座預金)というのは、預金者の預金払い戻し準備、銀行間の決済、政府と銀行の取引、にしか、使い道がない、ということです。ですから、無担保翌日物コール市場全体で準備が不足してしまうと、他の市場で使われている資産を売り払って資金を調達する、というわけにもいかないし、過剰になったからと言って他の資産を購入するわけにもいかない。そのため、ほんの少しでも市場全体で過剰になれば、金利はたちどころにゼロにまで下がってしまうし、ほんのわずかでも不足があれば金利は所要準備未達のペナルティー金利水準まで上昇してしまう。もし中央銀行の政策金利目標がプラス圏なら、準備が過剰になることが予想されるときには日銀はすぐに売りオペレーションをして準備預金を回収する必要があるし、もし政策金利目標が所要準備未達のペナルティー金利より低いのなら、準備が不足することが予想されるときにはすぐに買いオペをして、銀行が必要とする準備預金を市場に流すことが必要になります。 日銀は、この買いオペ・売りオペの際の金利(利回り)を決めることで、無担保コール翌日物市場の金利を操作することができます。準備不足の銀行にしてみれば、ペナルティーを避けるためには市場で準備預金を入手しなければなりません。もし出し手銀行の出す準備預金が十分でなければ金利は急上昇しますから、日銀の言い値で国債を譲渡せざるを得ません。逆に言えば出し手銀行側は、日銀が指定する国債利回り以上の金利で運用しようとしても、借り手はつかないでしょう。ですから日銀が買いオペに際して指定する国債利回りが、無担保コール翌日物市場の事実上の上限になります。市場全体で準備が過剰な場合には、出し手銀行は日銀から国債を購入することで得られる金利収入を下回る金利しかオファーしない受け手銀行に融資することはないでしょう。ですから日銀の売りオペの金利(利回り)が、同市場の金利の下限となります。 なお、こうした形で日銀が政策金利を維持するためには、民間銀行が必要とする準備預金を過不足なく市場に供給することが必要になるわけです。そのため、常に政府および銀行と密接に連絡を取り合って、その日の夕刻までに必要な準備を過不足なく提供できるようにすることが必要になります。 ただし2008年に準備預金自体に金利を支払えるようになったことで、日銀のこのオペレーション作業はかなり軽減されることとなりました。というのは、所要準備を上回る日銀当座預金に金利を支払うようにすれば、銀行にとっては事実上、国債を保有しているのと同じことです。それ以前は、政府が国債を発行するときには、日銀は事前に、あるいはそれと同時に、ほぼ同額の買いオペレーションをすることが必要でした。なぜなら、市場には国債を購入することができる準備預金が存在していないからです。ですか日銀が国債を銀行から買い取り、銀行はその資金(準備預金)で新規発行国債を買い取る、という手間がありました。ですが2008年に付利制度が導入されたことで、民間銀行の手許には過剰な準備預金があることになり、政府の国債発行も、この過剰な利付きの準備預金を支払代金に充てることができるようになりました。銀行にしてみれば国債を保有していても超過準備を所有していても、何の違いもなくなったわけです。日銀は、この「超過準備に対する付利制度」の金利を上げ下げすることで、従来の国債の買取価格(利回り)を上げ下げするのと事実上、同じことをやっていることになります。 付利制度の結果、法定準備制度には政策的な意味がなくなってしまいました。準備には金利が付かない、かつ、所要準備があり、未達するペナルティーがあることで、このオペレーションには意味があったのですが、準備に金利が支払われ、すべての銀行が常に超過準備を保有するようになってしまえば、もはや所要準備率操作には何の意味もありません。そのためアメリカでは現在の所要準備率は0%で、事実上の制度廃止です。他にもカナダやイギリスなど、ほとんどの主要国では法定準備制度は廃止されました。日本ではいまだに所要準備制度が残されていますが、実際には日銀による民間銀行への利払いがわずかに節約されている程度の意味しかありません。

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