初めて回答します。不手際があったらすみません。
私見ですが、女性作家のことを考えるのならばその母親の人物像も理解しておいた方がいいと思います。
作家の作品が今ひとつ理解できないとき、その作家本人の生涯や世相を調べてみるのは私も妥当なことだと思います。確かに一葉は分類しづらい作家だと思います。書いている女主人公はいつも「現状に満足していない女」ですよね。前向きな終わり方の作品も数編ありますが、冒頭はやっぱり不満か不安を抱えた女性の登場です。この「不満、不安」って何であるんだろうかと思いました。
一葉は東京(内幸町)で生まれ東京で生涯を送っています。この人の作品のストーリーには江戸も明治の東京も感じられません。よく伝記に書かれているような「大変優秀な女性で、高潔で、清貧のうちに亡くなった」ということに私も違和感を感じていました。そうではなくて、田舎から出てきて立身出世を夢見て、歯を食いしばって生きているような強情な感じです。
娘はそれが共感であれ反発であれ母親からの影響は大きいでしょう。母は多喜と言い、父の則義と同じ農家の娘だったそうです。結婚を反対されて江戸へ駆け落ちするそうです。江戸時代に恋愛をして周囲の反対を押し切ってすごいなあと思ったりうらやましく思ったりします。その後父は人づてに江戸の蕃書調所の小使の職を得ます。
でもその時の母親の行動が全く謎で結婚後生まれた娘藤を里子に出し、自身はお金持ちの乳母として働き給料をもらいます。当時江戸では子供を育てながら内職している女性はいっぱいいます。駆け落ちしてまで好きな相手との子供を、里子に出すなんて普通の母親では考えられないです。赤ちゃんはかわいいはずなのですが。そこまでして貯蓄に目が行っていたとしか言いようがないです。
一葉は私立青海学校小学高等科第4級を修了した後、進学を希望します。父親は一葉に進学させたかったのですが、この母親が「女に学問は不要」という頑迷さで進学を強行に反対し実行させます。これは特殊なことで、この時代家長の意見に逆らうことはあり得ないことなのです。例えば、一世代後では、沢村貞子(女優、エッセイスト)が日本女子大学に進学を希望し、娘の願いを叶えるべく母親が父親に助言しています。「学費で迷惑をかけません。生意気になりません」と誓約書を書かせてようやく家長の父親が進学を許します。二世代後では、幸田玉(幸田露伴の孫)が東京女子大で勉強したいことを悟った母親の文が手続き一切をしてくれて、露伴には黙っておくという奇作を練って入学の手助けをしています。途中で露伴にはバレますが、最終的には家長である露伴が許します。そのように昔は家長の意見がとても強いのです。
生まれた子供を給金の欲しさに里子に出す女、家長の意見を強引に止めさせる女、「女に学問は不要」と主張する頑迷な女。頭は悪いが向上心や虚栄心は強烈で、子供への愛情は薄い女と思わざるを得ません。頭の悪い人の努力は往々にして人に迷惑をかける結果になります。一葉もおおいに迷惑をかけられた1人でしょう。
>公務員なのに何でそんなに借金があったのですか?
一葉の父親はまず東京府庁に勤務する傍らその立場を利用して副業(不動産、金融:無許可)に精を出します。お金に関してはかなりがめつい人です。その副業が調子がよかったので役所を辞めて副業を本業にします。一葉が4〜9歳までの間です。でも本当に商才があったのではなかったようで、役所との関係が希薄になるころに行き詰まり、これを止めて一葉が9歳のときに警視庁に就職します。そして一葉が15歳の時にまた辞め、事業を始めます。17歳のときにこの事業も頓挫して止めまもなく亡くなります。このときの借金でしょう。
>また、相続放棄すれば借金はチャラですか?
相続放棄という概念がないのではないでしょうか。一葉は利息を生涯払い続けています。
>兄がいたそうですが、何で母と妹と3人暮らしだったのでしょうか?
長兄は両親のお気に入りで明治法律学校へ行きますが、1年半で止めています。そのあと大阪へ商売に行きこれがうまくいかず1ヶ月でもどり、大蔵省に就職しますが数ヶ月で病になり亡くなります。一葉が15歳のときです。
次兄は両親と折り合いが悪く一葉10歳のときに陶芸師見習いとして家を出ています。でも父親が警視庁を辞めて家を売る状況になったとき、次兄の借家に父、母、一葉、妹で一時期転がり込んでいます。でもあの強欲母親だから、次兄と母親のけんかが絶えなかったそうです。
>明治なんだから、兄や親戚に頼ればいいのにと思いました。
父親が亡くなったときにまた母、一葉、妹で転がり込んでいますよ。でもまたしてもあの母親と次兄でけんかが絶えなかったそうです。もうどうしようもないばか女です。あの母親を助けようとする甲斐の親戚はいないでしょう。でも一葉を助けようとする人はいて歌塾「萩の舎(はぎのや)」の中嶋歌子先生が一葉を女学校の先生に推薦しようとします。でも学歴が低すぎて実現しませんでした。これもあの愚かな母親のせいです。しかたがないので「萩の舎(はぎのや)」の住み込みの内弟子にしてもらいます。母と妹は近くの借家に住まわせ内職で生計を立てます。
その後3人で暮らせるようになるのですが、内職をしたり、小商いをしたりしているうちに「萩の舎(はぎのや)」の先輩の成功で小説で身を立てる決心をして職業小説家へとなります。
また、一葉自身は次兄は仲はよかったと思いますよ。「うもれ木」で陶芸師の兄とその創作活動を支える妹の話がありますよね。好きな作品の1つです。
これを書いていて思ったのですが、一葉にとって切っても切れない関係は「女と男」のような瑣末な関係ではなく、あの我の強い母親との関係「娘と母」の関係のような気がします。教養がないから欲望をあらわにしてしまう、創作のモデルにはしやすかったのではないですか。一葉のように頭のいい人なら冷めた目で観察できたと思います。
以上、私見を書いてみました。参考にして下さい。