朝鮮半島や日本における「始祖王の父は天(空)の神、母は水(海)の神」というモチーフは、東アジアに広くみられる“天空神と水界の神との間に生まれた王”という神話構造の一例と考えられます。両者(①高句麗神話/②日本神話)は「空(天)から来た神」と「水(海・川・湖など)を司る神」の結合によって“特別な起源をもつ支配者”が生まれる、という点でよく似ています。ただし「水神」と一口にいっても川の神・湖の神・海神などさまざまあり、そこに各地域・時代の事情や信仰が反映されていると考えられます。
① 高句麗神話における父=天神/母=水神
• 代表的な例として、高句麗建国神話の朱蒙(チュモン)がよく挙げられます。
• 父は日光や天神の化身(解慕漱:ヘモス)とされ、母は河伯(ハベク:川の神)の娘・柳花(ユファ)とされるなど、“天(太陽)の神”と“河川を司る神”の結合で英雄王が生まれる、という構造になっています。
② 日本神話における父=天神/母=海神
• 日本神話で「天孫(てんそん)降臨」を経た子孫たちが海神の娘と婚姻する物語が有名です。
• たとえば『古事記』『日本書紀』に登場する海神(わたつみ)の娘・豊玉毘売命(とよたまひめ)と邇邇芸命(ににぎのみこと)の孫である火遠理命(ほおりのみこと)との結婚などが典型例です。
• その系譜から最終的に神武天皇へとつながっていくので、「天(高天原)の神の血統」と「海神の血統」が合わさって“特別な皇統”ができあがる、という形になっています。
①と②の関係・共通点と相違点
1. 共通点
• 「天からの神性」と「水界の神性」が合わさることで、創始者(始祖王)や特別な支配者が誕生するという構造。
• “地上(人間界)に超越的な正統性をもつ支配者”を立てるうえで、「天」「水(海・川)」といった自然の力を結合させるモチーフは、東アジアに限らず各地の神話に見られる普遍的パターンでもあります。
2. 相違点
• 「水神」が具体的に何を司るかが異なる。
• 高句麗建国神話など、朝鮮半島の例では“河川(川の神)”が比較的重視される傾向がある。
• 日本神話では“海”の神が特に際立っている(列島の地理的背景も影響)。
• その結果、生まれた神(あるいは王)がどのように正統性を示すか、あるいはどのような英雄譚として語られるかは、それぞれの地域・民族の歴史・社会環境によって微妙に異なります。
まとめ
「朝鮮半島の高句麗神話(①)」と「日本神話(②)」は、いずれも“天神(空の神)と水神(海・川など)の結合による始祖王(あるいは王統)の誕生”という共通点をもつ神話的パターンとして理解できます。ただし、水神の性格(川・海)やその後の王の活躍や系譜の語られ方などは、それぞれの文化・地理的背景に根ざして少しずつ異なっています。
したがって、①と②は同じ「天と水という二大自然要素の結合」という構造を共有しつつも、川の神か海の神かなど、各地域の事情に応じて異なるバリエーションをもつ“似て非なる神話”といえるでしょう。