政治、社会問題
パワハラ県政を是認した兵庫県民への疑問 ―証拠と事実が示す民主主義の後退― ──── 斎藤元彦氏のパワハラ問題について、兵庫県職員約9,700人へのアンケートで140人が直接的な目撃・経験があり、2,711人が人づてに聞いたと回答し、合計で42%もの職員が認識していた事実があるにもかかわらず、なぜ兵庫県民はこれを軽視したのでしょうか。複数の職員が「人生で初めてこのような扱いを受けた」と証言し、本人も2024年8月30日の県議会百条委員会で「厳しい叱責」や「机を叩いた」ことを認め、謝罪までしているのに、どうしてこれを「捏造」と切り捨てることができたのでしょうか。 NHKの出口調査で、投票の参考にした情報源の第1位が「SNSや動画サイト」で30%を占め、その70%以上が斎藤氏に投票したという結果が示されています。9年前の2015年には動画投稿サイトを投票の参考にする人はわずか0.9%だったのに、これほど短期間で情報源が変化した県民の判断力は、果たして民主主義の根幹を支えるに足るものだったのでしょうか。 読売新聞の出口調査では斎藤氏の県政運営について「評価する」が71%に達したとありますが、パワハラという重大な人権侵害を働いた人物の政策を、なぜそこまで高く評価できるのでしょうか。政策の実現のためなら人権侵害も許容するという、危険な価値観を兵庫県民は共有しているということなのでしょうか。 64万人の登録者を持つYouTubeチャンネルで、立花孝志氏が「テレビや大手新聞は知事がパワハラしていたことについて、何の根拠もなく噂話で報じている」と66本もの動画で主張を展開しましたが、本人が認めた事実すら「根拠のない噂話」と切り捨てる言説を、どうして批判的に検証せずに受け入れてしまったのでしょうか。 JFCの検証で明らかになったように、「斎藤知事の公約実現率98.8%」という投稿は、本人が述べた「着手率」を意図的に歪曲した誤情報でした。このような単純な事実確認すら行わず、SNSの情報を鵜呑みにして一票を投じた県民は、自らの民主主義的な権利を放棄したと言えるのではないでしょうか。 「改革派の斎藤知事VS既得権益層としてのマスコミ」という単純な二項対立の構図に陥り、事実に基づく報道よりもSNSの扇情的な主張に流された兵庫県民の判断は、地方自治における民主主義の成熟度に深刻な疑問を投げかけています。今後、パワハラ問題が再燃したとき、県民はどのような言い訳をするのでしょうか。自らの一票の重みと責任を、どこまで理解していたのでしょうか。 [参考] ●斎藤前兵庫県知事はパワハラしていない? 職員の4割が見聞き、本人は厳しい叱責など認めて「必要な指導」【ファクトチェック】 https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/politics/false-saito-governor-harassment/ ●「斎藤氏の支持者がデマを熱狂的に信じた」という言説の落とし穴 兵庫県知事選・後編【解説】 https://www.factcheckcenter.jp/explainer/politics/explainer-hyogo-election-2024-2/ 出典元:日本ファクトチェックセンター (JFC)