中国在住日本人です。駐在ではなく土着です。自動車も運転します。
中国市場は世界最大の自動車市場であり、2022年には約2,600万台の自動車が販売されました。これは、世界全体の販売台数の約30%に相当します。対して、日本の市場規模は約420万台に過ぎず、明らかに中国市場の重要性が際立っています。日本メーカーが、この市場から安易に撤退すべきだとか、中国市場からの撤退が正しい判断だという意見を聞くことがありますが、それは非常に短絡的で、リスクの高い判断です。もし、中国市場から撤退することになれば、売上の15〜20%が失われるだけでなく、数千億円規模の損失が生じ、日本経済全体に重大な影響を及ぼします。日本の自動車産業がGDPの約10%を占めることを考えると、その損失は、日本全体に波及するでしょう。
トヨタや日産、ホンダのような日本メーカーは、中国市場で大きなシェアを持っています。例えば、トヨタは2022年に約194万台を中国で販売しており、これは、トヨタの世界全体の販売台数の約19%に相当します。もしこのシェアを失えば、トヨタをはじめとする日本の自動車産業は、深刻な打撃を受けることになります。特に、国内の雇用や経済成長に対しても悪影響が避けられません。自動車関連産業は日本国内でも多くの雇用を支えており、工場閉鎖やレイオフが相次ぐでしょう。
さらに、もしトヨタが中国市場を完全に失うことになれば、競争力の低下は世界全体に波及します。トヨタは長年にわたり、品質や技術力で高い評価を得ていますが、中国市場でのシェア喪失はグローバル市場におけるトヨタの影響力低下を意味します。他の国際的な自動車メーカーが台頭し、日本車のブランド力が低下する可能性が高まります。エンジン車に依存し続ける限り、日本メーカーはますます競争力を失い、未来の市場に対応できなくなるでしょう。
日本の自動車メーカーは、得意のエンジン技術と蓄電池技術を活かして、ハイブリッド車ではなく、PHEV(プラグインハイブリッド車)を推進すべきです。 特に、BYDなどの中国メーカーがPHEVで大きな市場シェアを獲得している現状を踏まえ、日本メーカーもPHEV市場に本格参入すれば、大きな可能性があります。もし、日本メーカーがBYDと同等、もしくは少し高いくらいの価格でPHEVを提供できれば、中国市場のみならず、世界市場でも大きなシェアを獲得できるでしょう。 現在、PHEVはEVに比べて電力インフラに対する依存度が低く、長距離ドライバーや充電インフラが未整備の地域でも受け入れられる可能性が高いため、これは非常に大きな戦略的優位性となります。
一方で、中国のEVメーカーは急速に成長を遂げており、BYDなどの企業が主導しています。BYDは2022年に約186万台の車を販売し、特にEVとPHEVの分野で圧倒的な存在感を示しています。今後5年以内に、中国市場を支配するのは中国メーカーが中心になるでしょう。ここで日本メーカーが競争力を失えば、もう巻き返すチャンスはないかもしれません。現状を見れば、中国からの撤退は短期的にはコスト削減のように見えるかもしれませんが、長期的には日本の自動車産業全体を破壊する結果を招くでしょう。
また、韓国や中国でのEV火災事故の報道が目立っていますが、これを理由にしてEV全体を否定するのは誤りです。実際、私自身も中国でEVの火災事故を見たことがありませんし、周りでそんな話をする人もいません。どの技術にも初期の課題はありますが、EVは日々進化しており、安全性も急速に向上しています。問題があるからといって、全体を否定することは短絡的です。中国のEV市場の成長と技術革新を無視することは、日本の未来に対する視野を狭める結果になりかねません。
もし日本メーカーがこの流れに遅れ、中国市場から撤退するような事態が起きれば、それは単なる市場の喪失だけでは済みません。日本経済そのものに深刻なダメージが及び、自動車産業に依存する地域経済も崩壊するリスクがあります。中国市場の現実を無視した結果、日本車は世界市場での競争力を失い、グローバルでの影響力が大幅に縮小するでしょう。
日本国内では、こうした現実に対する関心が低すぎます。特に、「中国市場から撤退すべきだ」といった意見が出ているのは、非常に危険な兆候です。もし本当にEV市場や中国市場の現実を疑うのであれば、一度中国に来て、自分の目で市場を確認してみるべきです。街中にはEVがあふれており、日々進化するこの市場のダイナミズムを目の当たりにできるはずです。安易に「撤退が正しい」などと言うのではなく、今こそ日本メーカーは、この市場で競争力を持ち続けるための戦略を真剣に練る必要があります。日本が、この流れに乗り遅れれば、世界の自動車市場での立場を完全に失うことになるでしょう。