以下は、古典文法にもとづいた一例としての品詞分解(形態素解析)です。古典の係り結びや助動詞の活用形など、文法学派によって細部の説明や呼称が異なる場合がありますので、その点はご了承ください。
いでていなば心かるしと名やたたんつもる嘆きを人の知らねば
1. いでて
• いで(動詞「いづ(出づ)」連用形)
• て(接続助詞)
2. いなば
• いぬ(動詞「いぬ(去ぬ/往ぬ)」未然形)
• ば(接続助詞)
3. 心
• 心(名詞)
4. かるし
• かるし(形容詞「かろし(軽し)」終止形)
• ※古典文法の「ク活用」終止形として「かろし」、または「かるし」と表記されることがあります。
5. と
• と(格助詞[引用の「と」])
6. 名
• 名(名詞)
7. や
• や(係助詞)
• ※疑問・反語を含意する係助詞。
8. たたん
• たた(動詞「たつ(立つ/評判が立つ)」未然形)
• ん(助動詞「む」連体形)
• ※係助詞「や」による係り結びで、連体形「ん(む)」になっています。
• 「名が立つ」の意から、「評判になる/噂になる」のような意味合い。
9. つもる
• つもる(動詞「つもる(積もる)」連体形)
• ※四段活用動詞は終止形と連体形が同形。
10. 嘆き
• 嘆き(名詞)
11. を
• を(格助詞)
12. 人
• 人(名詞)
13. の
• の(格助詞)
14. しらね
• しら(動詞「しる(知る)」未然形)
• ね(打消の助動詞「ず」已然形)
• 「ず」の活用:未然形「ざら」/連用形・終止形「ず」/連体形「ぬ」/已然形「ね」/命令形「ざれ」
• 「~ねば」で「~ないので/~ないから」の意。
15. ば
• ば(接続助詞[已然形接続])
全体の意味のめやす
「(もし)出て行ってしまえば、(私が)“心かるし”(=思いやりがない・あっさりしている)などという評判が立つだろうか。だが実は、誰も知らない深い嘆き(が重なっている)のに……。」
人々はわたしの真意を知らないので、外見だけで「薄情だ」と思われてしまうかもしれない。そうした嘆きを詠んだ歌だ、と解されます。