仮想仕事の原理というのは,最も重要な原理のひとつです。
まずつり合い式やひずみの定義とか構成則は,たいていは
局所理論,つまりある x の近傍の微分方程式で表されて
います。つり合い式は σ・∇+X=0, ひずみはε=1/2(∇u+u∇),
構成則は,例えばHooke の法則ならσ=C:εといったように。
仮想仕事の原理というのは,局所的な支配方程式ではなく,
ある領域で平均的に成立する原理になりますから,例えば
∫_V v・(σ・∇+X) dV = 0
のように,つり合い式がちょっとだけ仮想的に変位 v した
ときに,物体全体 V で成立する式に変換できます。物体内
のある点のつり合っている力に仮想的な変位 v を掛け算し
たので,それを仮想仕事と呼んでいて,それを対象とする
ある領域全体で足し算した合計を仮想仕事の原理と呼んで
いるわけです。
ところで,全ポテンシャルエネルギーの停留原理というのは
ご存じですよね。突然ですが・・・全ポテンシャルを
Π=1/2∫ ε:σ dV - ∫ X・v dV - 境界条件についてのポテンシャル
と定義して,実は上の局所理論,つり合い式などは,このΠ
が停留する原理だよ,という奴です。つまり
δΠ = 0
という第一変分(関数で微分することをざっくりと変分と呼ぶ)が
ゼロになるという条件が,つり合い式とかひずみの定義とか
構成則が局所的に成立するものと同じなんだよぉ,という原理
のことです。エネルギー保存則とはちがいますよ。
実は,この第一変分がその仮想仕事そのものなんです。つまり,
上の仮想仕事の式の仮想変位 v を変位の変分量 δu で置き換えた
式が,この停留原理と一致するわけ。
δΠ = ∫_V δu・(σ・∇+X) dV = 0
なわけです。
有限要素法というのは,ある任意の物質点 x の局所的な微分
方程式を解くかわりに,ある小さい領域(有限要素 V )を
取り出して,V の中の個々の物質点ではなく,その V の中
で「平均的に局所的なつり合い式などを満足する近似解が
求められたらいいなぁ」という願望を実行したものです。
ですから上の仮想仕事式 δΠ=0 の u に変位関数を多項式で
近似定義して,積分することによって,代数方程式
K U = F
という代数方程式に変換したわけだ。これを解けば,有限要素
の節点の変位 U の近似値が求められますよ。だって,基礎と
した式は仮想仕事式だったし,仮想仕事式というのは,物質点
での厳密な式じゃないけど,ある小さい領域で平均的に
力学が満足すべきつり合い式・ひずみの定義・構成則を
に満足してるでしょ,という考え方なわけです。
仮想仕事というのは,実は関数の内積なわけです。もうわからな
いですか? ある関数 f と別の関数 g の内積を,フーリエ解析など
では
<f, g> ∫ f(x) g(x) dx
のように定義しているんです。これがユークリッド幾何とそれを
一般化した線形代数空間の内積をさらに無限次元の関数空間に
拡張した概念なわけ。で,仮想仕事というのは
< 厳密解, 近似解 > = 0
という表現なわけで,厳密解への「ベクトル」と近似解への
「ベクトル」が「直交している」ことから,近似解の集合の
中のベクトルのうちの厳密解に最も近い解が求められますよぉ
ということになっているわけだ。これが有限要素法の原理。
上の第一変分も
<δu, (σ・∇+X)> = 0
という式でしょ。
上に述べたようにこの内積はフーリエ解析・フーリエ級数で
使っていますよ。例えば sine 関数は上で定義した関数の内積
で直交します。やってみましょうか
f=sin(2πx), g=sin(5πx)
だったとして
<f,g>=∫_0^2π f g dx = 0
になりますよね。つまり,fとgは内積がゼロなんだから
お互いに直交していると呼ぶわけ。これが成立するから
フーリエ係数は例えば
a_n=1/(2π)∫ f * sin nπx dx
のように計算できたりするわけよ。材料力学や構造力学の
多くの原理は仮想仕事の原理,内積がゼロになる原理を
使っています。相反定理,カスティリアーノの定理の基礎,
最小仕事の原理,単位荷重法・・・・