商業作品(小説やドラマなど)を「参考文献」として扱うかどうかは、実のところかなり難しいところです。なぜなら、商業作品はあくまでも“エンターテインメント”としての完成度を重視しているので、実際の病気や医療行為を正確に描写しているとは限らないからです。いくら有名作家やテレビ局の作品だとしても、必ずしも医療専門家のチェックが入っているとは限りません。したがって「商業作品だから、もし誤りがあればネットで叩かれているだろう」というのはあまり当てにならない面があります。
1. 商業作品を参考にする際の注意点
1. 創作的な演出が含まれている可能性
小説やドラマでは、ストーリー上の都合やキャラクター描写のために、病気の症状や経過をあえてドラマティックに脚色しているケースがあります。作品の世界観やテーマに合わせて、あえて現実とは違う設定を採用しているかもしれません。
2. 医療考証の精度が作品ごとに異なる
医療考証にかなり力を入れる作家・ドラマ制作チームもあれば、最低限の監修しか入れずに進めるところもあります。「この作品はすごくリアルだった」と評判になっていても、実は“ある分野だけ”特に力を入れているだけかもしれません。そのため、「他の小説やドラマでそう描かれている」という理由だけで安心するのは危険です。
3. 作家・制作側が批判を受けにくい構造もある
過去に商業的に成功した作品だとしても、読者や視聴者の多くは専門家ではありません。そのため、設定に多少の矛盾や誇張があったとしても気づかれない・大きく問題視されないケースがあります。よほど医療関係の方が「これはあり得ない」と声を上げない限り、大騒ぎにならない可能性もあるのです。
2. 病気のリアリティを高めたい場合のアプローチ
1. 専門書を再度当たる
既に専門書を数十冊読まれているとのことですが、もし「こういう症例って本当にないの?」と疑問をお持ちなら、もう一度少し視点を変えて調べると何か発見があるかもしれません。たとえば、国内だけでなく海外の事例や論文を調べてみるなど、情報ソースを広げてみる手もあります。
2. 専門家のアドバイスを受ける
書籍だけでは得られない“現場での感覚”や“実際のレアケース”を知るには、医師や看護師、臨床心理士など、実際の医療従事者にヒアリングしてみるのが一番確実です。時間や費用はかかるかもしれませんが、リアリティを追求されたい場合には大きな助けになります。
3. 類似症例や関連分野からヒントを得る
“まったく同じ病名・症例”が見つからなくても、近い症状や進行パターンをもつ別の病気を探して組み合わせたり、自分の中で再構成したりすることで、説得力を持たせることができます。現実の医学でも、患者さんによって症状の現れ方が変わることは珍しくありません。
4. 創作ならではの「割り切り」をする
どうしても既存の医療知識の範疇におさまらないようなケースを描きたい場合は、「これはフィクションとしての設定です」と断る姿勢もひとつの方法です。たとえば作品の冒頭や巻末に「この作品に登場する病気・治療法は、フィクションとして脚色されています」というような作者注やあとがきを入れてしまう、といった形です。読者に「これは完全なリアルというより、フィクション寄りの描写」と伝わるようにすれば、万が一指摘された際にも「意図した演出です」と説明しやすくなります。
3. まとめ
• 商業作品はあくまでも“エンタメ重視” であることが多く、その描写が必ず正確とは限りません。
• 病気描写の正確さを重視するなら、専門書・専門家の情報に当たるほうがベター です。
• 自作でオリジナルケースを描く場合は、「フィクションである」というスタンスを示す工夫 をすると読者の納得が得やすくなります。
小説の魅力は、必ずしも“現実をそのまま再現する”ことだけではなく、むしろ「リアルさと物語としての演出とのバランス」にあると思います。ご自身が「物語のテーマに必要だ」と思う設定であれば、そこをどう説得力ある形に仕上げるか、そして読者にどんなメッセージや世界観を届けたいのかを重視してみてください。
参考になる情報があまり見つからない状況は、逆にいえば「誰も描いていないユニークなテーマを描けるチャンス」でもあります。ぜひご自身の創作を存分に楽しまれてくださいね。