苗字は無くても、苗字の代わりに使う言葉はあった。
…そうでないと、同じ名前で苗字の無い者どうしの区別に困ってしまう。
村の外に行けば、「○○(村)の」と、村の名を苗字のように使い、村の中では家の場所や家の目印になるものを使い…一軒一軒の区別のための、屋号というものもあったし、職業を苗字のように使うことも…。
山のふもとに住んでいれば「山下の」「山本の」…谷に住んでいれば「〇谷の」「〇沢の」…川の側なら「川ばたの」「沢はたの」「〇川の」…周りが田んぼなら「田中の」「〇田の」…海辺なら「〇浜の」「〇磯の」…家の目印になるような木があれば、その木の呼び名が…などなど…定めようとしなくても、他の家からそう呼ばれるようになる。
苗字を定める前から苗字のように使っていた言葉があるなら、それをそのまま苗字として使えば、分かりやすく、周囲にもすんなり受け入れられて使いやすい。
自然系の苗字は「家がそう呼ばれていたから」「地名がそうだったから」というのが多いだろう。
「苗字を決める前から、そう呼ばれていた」という人達が、公家や殿様風の苗字にするということは…例えば「田中の権兵衛さん」が「今日から俺は徳川だ」と言い出したら、笑いものになるだろう。
身分の違いを感じていた時代なら、「そんな苗字、恐れ多くて名乗れない」と避けもするだろう。
明治時代の農民なら、当然のように公家や殿様風の苗字を避けるだろう。