1968-1970年は世界的に学生運動・社会運動が起きた〈政治〉の時代。 生きることにまつわる問題の原因として、体制や制度といった自己の〈外部〉に目が向けられた。 1987年はバブル期。 生活が豊かになり政治的なものへの関心は喪われ、生きることにまつわる問題への対応として自己という〈内部〉に目を向けるようになり、自己啓発や心理学・精神医学が注目される〈心〉の時代を迎えていた。 学生運動は少数の「遅れて生まれてきた人々」による残滓のようなものがある程度（大学構内には立て看板がパラパラとあり、自称全学集会はたまにという感じ）。 〈僕〉的なノンポリ学生がそのノンポリ的態度について糾弾されることも自らが問うこともなくなっていた。 直接的に書かれはしなくとも（近年のものは知らないが）、村上春樹は政治的なものに向き合ってきた作家であり、このことが作品のさまざまな人物が抱える深い虚無感、罪障感、喪失感などの源泉となっていると言えるので（この点で私の中では森田童子などは村上春樹と同じ扱いとなっている）、『ノルウェイの森』の舞台が1987年頃になっていれば、もはやそれは〈村上春樹〉の作品と言えないように思う。