the をつけると singer that everyone knows は彼ひとりということになるか、彼のことが前文で話題になっていたという文脈になります。
冠詞の用法
【a/an の基本用法】
a/an は元々は one です。one の弱形を文字に写し取ったのが an で、さらに子音の前では n がリンキングしないために脱落するのを反映したのが a です。
元は one なので、「ひとつ」という意味があり、数えられる名詞の単数形につきます。さらに、one には(a/an にも)「とある」という意味があり、不特定であることを示します。名詞の前に the, this, that, my, your, his, her, its, our, their などがつくと、その名詞は同種の他のものとは区別される「特別なひとつ」という意味になります。そういった語がつかない可算名詞の単数形に a/an がつくのです。
【the の基本用法】
the は元々 that/those です。a/an と違って、「数えられる名詞につく」とか「単数形につく」という縛りはありません。数えられない名詞にもつきますし、複数扱いの名詞にもつきます。
the の基本は話し手と聞き手の間で「ああ、あの〜ね」という共通理解が成立している名詞につく、というものです。よく「特定の」という説明を鵜呑みにして混乱する人がいますが、この「特定の」というのは話し手・聞き手がどちらも心の中で同じ存在を「あれ」と指し示すことができる、という意味です。
たとえば話し手と聞き手が同じ生活圏に暮らしていて、「公園」といえば「ああ、いつものあの公園ね」という共通理解がある場合、いきなり
Let's go to the park.
という発言が可能です。これが旅先の話をしていて聞き手は知らない公園なら
I took a walk in a park yesterday.
と a をつけることになります。
これの応用のひとつに「さっき話に出た名詞につく the」があります。さっき話に出たものなら、2回目以降は聞き手も「ああ、さっきのあの〜ね」と思います。もっともこの場合は the と名詞を併せて代名詞にしてしまうことも多いでしょう。
もうひとつ、「ひとつしかないものにつく the」があります。ひとつしかなければ誰もが「ああ、あの〜ね」と思います。the sun や the moon がこれにあたります。
また、話し手が「聞き手も当然、なんのことを言っているかわかるだろう」と考えてつける the もあります。
Close the window(s).
などがこの例に当たります。