ちょっと長くなりますよ。
仮に、挑戦者が最初に選んだ扉をA、残りの2つの扉をB, Cとします。
このとき、扉Bと扉Cは、挑戦者から見て何の違いもなく完全に対等なので、例えば、
「『司会者がハズレの扉Bを開ける』という事象が起こったときに『Cが当たりである』という事象が起こる確率P₁」
を考えても、
「『司会者がハズレの扉Cを開ける』という事象が起こったときに『Bが当たりである』という事象が起こる確率P₂」
を考えても、結果として全く同じ確率になるはずです。
そして、P₁=P₂であるなら、いっそ扉Bと扉Cの区別をなくしてしまって、
「『司会者がA以外のハズレの扉(BまたはC)を1つ開ける』という事象が起こったときに『開いていない扉のうちAでない方(CまたはB)が当たりである』という事象が起こる確率P₃」
を考えても、その確率はP₁, P₂と全く同じになります。
よくある
「扉A, B, Cのうち、Bが当たりの場合もCが当たりの場合も、開いていない2つの扉のうちAでない方が当たりになるので、扉を変更したときに当たりになる確率は2/3である」
というような説明で求めているのは、上のP₃です。
そもそもP₁やP₂のようにBかCかどちらか特定の一方を開けたときの確率を直接求めているわけではないので、開けた方の扉が当たりである確率を除外する必要はありませんし、むしろ除外すればP₃は求まらなくなるので、除外してはいけません。
このようにして求めたP₃ちゃんとP₁, P₂と同じ確率になるということです。
Aが当たりである確率についても勿論同様であって、司会者が開けた扉がどちらであるか区別せずに求めた確率は、2つを区別してどちらか特定の一方を開けたとして求めた確率と同じになります。
とはいえ、多分これで納得というわけにも行かないでしょう。
例えばP₁のように、開けた扉がBである場合に限定して考えたときに、なぜ単純なAとCの2択という話にならないのかという説明にはなっていないからです。
ということで、「司会者がハズレの扉Bを開ける」という事象が起こったときの、「扉Aが当たりになる確率」「扉Cが当たりになる確率」がどうなるか、直接求めてみます。
まず、これはいわゆる条件付き確率なので、
「Bが開けられたときにAが当たりである確率」
=「Aが当たりであり、かつBが開けられる確率」/「Bが開けられる確率」
「Bが開けられたときにCが当たりである確率」
=「Cが当たりであり、かつBが開けられる確率」/「Bが開けられる確率」
です。
また、ハズレ扉Bが開けられた場合はAかCのどちらかが当たりなので
「Bが開けられる確率」
=「Aが当たりであり、かつBが開けられる確率」+「Cが当たりであり、かつBが開けられる確率」
となります。
よってあとは「Aが当たりであり、かつBが開けられる確率」と「Cが当たりであり、かつBが開けられる確率」をそれぞれ求めれば問題の確率が求まることになりますが、ここで問題の条件を再確認しておきます。
もともとA~Cの3つの扉が当たりである確率はどれも同じ1/3ずつです。
また、扉を開ける司会者は、どの扉が当たりかを予め知っており、
・挑戦者が選んだ扉が当たりのときは、残り2つのハズレ扉のうちの一方をランダムに開ける。
・挑戦者が選んだ扉Aがハズレのときは、残り2つの扉のうち、当たりである方を避けてハズレの方を開ける。
という行動をとります。
したがって、挑戦者が選んだ扉Aが当たりである場合、司会者はBとCのどちらかを1/2の確率で開けるので、
「Aが当たりであり、かつBが開けられる確率」
=「Aが当たりである確率」×「Aが当たりであるときにBが開けられる確率」
=1/3×1/2
=1/6
それに対し、挑戦者がCが当たりである場合は、司会者は必ずBの扉を開けるので、
「Cが当たりであり、かつBが開けられる確率」
=「Cが当たりである確率」×「Cが当たりであるときにBが開けられる確率」
=1/3×1
=1/3
よって、求める条件付き確率はそれぞれ、
「Bが開けられたときにAが当たりである確率」
=「Aが当たりであり、かつBが開けられる確率」/「Bが開けられる確率」
=(1/6)/(1/6+1/3)
=(1/6)/(1/2)
=1/3
「Bが開けられたときにCが当たりである確率」
=「Cが当たりであり、かつBが開けられる確率」/「Bが開けられる確率」
=(1/3)/(1/6+1/3)
=(1/3)/(1/2)
=2/3
となり、Cが当たりである確率はAが当たりである確率の2倍になります。
つまり結局のところ、Bが開けられたときに「単純なAとCの2択で確率は1/2ずつ」ということにならないのは、Bが開けられた時点で、Aが当たりである可能性とCが当たりである可能性は同じではなくなるからです。
ただ、それはよく言われるように、扉Bの持っていた確率が扉Cに引き継がれるだとか、扉BとCの確率がCに集中するだとかいうファンタジーじみたことが起こって扉Cの確率が2倍になるのではありません。
むしろ逆で、扉Cが当たりである可能性は扉Bが開けられても全く変わらないけれども、扉Aが当たりである可能性は扉Bが開けられると半分に減ってしまい、結果として、Cの方が2倍確率が高くなるのです。
扉Cが当たりである場合は開けられる扉はもともとBに決まっているのに対し、扉Aが当たりである場合は、Bが開けられる可能性とCが開けられる可能性の両方があり、Bが開けられた時点で、その一方の可能性がなくなってしまうからです。
扉が100個ある場合などについても同じことです。
例えば挑戦者が100個のうちの32番目の扉を選び、司会者が32番目と74番目の扉を残してそれ以外をすべて開けたとします。
確かにこの時点で「32番目が当たり」か「74番目が当たり」かどちらかの可能性しか残っていません。
しかし、もし74番目が当たりであれば司会者は必ずその74番目を開けずに残すことになるのに対して、32番目が当たりである場合は、司会者は32番以外の99個の扉のうちのどれを残しても構わないのであって、たまたま74番目を残す可能性は非常に低いということになります。
したがって、「32番が当たりでたまたま74番が残された」という超レアなことが起こった可能性より、「74番が当たりで必然的に74番が残された」ということが起こった可能性の方がずっと高いということになるので、扉は32番から74番に変更した方がよい、と考えられます。
以上が、特定の扉が開けられた場合の条件付き確率としてモンティ・ホール問題を考えた場合の答えになります。
しかし、勿論、開ける扉を区別せずに考えるアプローチが間違っているわけではありません。
どちらの考え方で求めた確率も当然等しくなります。