「半分の月がのぼる空」電撃文庫
本編6巻+短編集2巻
※リメイク予定あり
ジャンル:恋愛小説
名作に数えられる作品の1つです。
高校2年生の冬に突然のA型肝炎で入院を余儀なくされた少年・戎崎裕一と、心臓を患い9歳から入院生活を続けている少女・秋庭里香の恋愛と、「彼らの人生の選択、生きる道」を描いた純愛作品です。
「人の死」「闘病」「引き裂かれる運命にある恋愛」、という重いテーマを扱っていながら、穏やかな日常や、学校生活、ライトノベル的な笑いの要素を加えることで「重すぎず軽すぎず」という絶妙なバランスを保ち、「悲劇」も「奇跡」もない穏やかなラストが、今までに無い感動を生んでいます。
また、「衰退する故郷を離れ、東京へ行くという夢」を選ぶか、「最愛の人、里香とともに生きていく将来」を選ぶか、という「究極の選択」を提示することで主人公の成長を描く辺りが、物語の紡ぎ方の巧さを感じさせます。
そのため、「闘病」「2人の心の触れ合い」など、「内面的部分」にスポットを当てることが多いジャンルの中で一際異彩を放っています。
2006年完結と、比較的古い作品ながら、未だに根強い人気を誇り、アニメ、漫画、テレビドラマ、ドラマCD化を2回、そして実写映画(今年4月3日公開予定)されています。
さらに、時期は未定ながら、ライトノベルのリメイク刊行が、著者の橋本紡自らの希望で実現するそうです。
「とある飛空士への追憶」ガガガ文庫
全1巻
ジャンル:悲恋・空中戦・ファンタジー
こちらも名作に数えられる作品の1つ。
「"かつて1度だけすれ違った、決して交わる事の無いはずの2人"の結ばれることの無い恋」を描いた作品で、「ローマの休日」をモチーフとしています。
突然の奇襲攻撃で敵地只中に取り残された次期皇妃、ファナ・デル・モラルを、かつて母親がモラル家で働いていた被差別人種パイロット「狩乃シャルル」が、敵哨戒網を潜り抜け、護衛無し・単機で本国へと極秘に送り届けるというストーリー。
「身分の差で結ばれない恋」というのは今までに何度も使われていますが、陳腐さ、既視感を感じさせないように仕上げているのはさすが。
文章力が凄まじく、比喩、情景描写、心理描写、すべてのシーン描写がとても綺麗。
特に終章の物語の締めくくり方は素晴らしく、この作品の爽やかさを引き立てています。
敵制圧下の海を、護衛無しで単機翔破するというあまりに危険すぎる任務の重圧、圧倒的な描写力で描かれる戦闘機同士の格闘戦、さらには危機を超えて二人の間で芽生えるとても美しい恋心、ラストの胸が締め付けられるような切なさ、物語の美しさが話題を呼び、「2009大学読書人大賞2位」を受賞、映画化が決定しました。
「とある飛空士への恋歌」ガガガ文庫
既刊3巻 続巻中
ジャンル:冒険・空中戦・学園ラブコメ・ファンタジー
「とある飛空士への追憶」の世界観を引き継ぎ、「続編」として刊行されている作品。
かつての改革で、皇国皇子"カール・ラ・イール"から少年"カルエル・アルバス"へと転落した少年、改革の旗頭でありカルエルの永遠の仇敵の"ニナ・ヴィエント"、カルエルの義妹、"アリエル・アルバス"。
そして、航空士官学校で出会う仲間達を中心として描かれる、「空飛ぶ島"イスラ"により、空の果てを見つける」という名目に飾り立てられた、「過去の遺物の島流し」と、彼らの青春劇、そして戦いを描いた冒険・学園ラブコメ作品。
前作とは打って変わって基本的に穏やかな流れで、1巻が半分以上がプロローグ、2巻は学園ラブコメディ風の学園生活パート、3巻は前半までが学園生活パートで、3巻後半で一気に加速します。
2巻半をかけて作り上げられた「平和な日々」を、たったの半巻で破壊してしまう構成は大胆というほかありません。
3巻後半は殆どすべて空中戦で、イスラと、大事な仲間達を命を賭して守ろうとするキャラクター達の姿勢にはただ心を動かされます。
やはり描写力が圧倒的に高く、特に3巻後半の空戦シーンは圧巻の一言。
緊迫感、焦燥感、そして仲間を失う悲しみが、視点の移動、構成、登場人物達の心の揺れ動きなどあらゆる要素を巧みに使い、硬質な文章で濃密に描かれます。
ちなみに、飛「空」士です。飛「行」士ではありません。