１． ＞憲法における義務とはどういう意味を持っているか、教えてください。 日本国憲法の国民の三大義務は、勤労の義務、納税の義務、教育を受けさせる義務の3つだと思いますが、それぞれ制度上の対応が異なっているように感じるため、義務とは何か、よく分からなくなりました。 日本国憲法の国民の三大義務を理解するためには、 憲法と法律の違いを理解するのが早いと思います。 （１） 「立憲主義の憲法」と言う場合は、 「人権保障を“目的”として、その【人権】を守る“手段”として統治機構」があります。 そこで、 フランス人権宣言では「人権保障を目的とする以上、【三権分立】でなければならない」とした訳です。 フランスの専制国王制で、なぜ独裁となり国民の人権侵害が起きたのかについて理由を突き止めた結果、国王が、三権全ての国家権力を握っていたからです。 そこで、フランス人権宣言で、 全ての国家権力から ・まず、国家権力から立法権を抜いて、議会に任せて ・次に、国家権力から司法権を抜いて、裁判所に任せて ・残った国家権力を行政権として内閣に残した訳です。 こうして、三権分立が成立した訳です。 そうすると、立憲主義の憲法の目的は、国民の人権保障ですから、 憲法をころころ変更されると、 国民の人権保障が危なくなる訳です。 （２） 立憲主義では ・「憲法」は国家を法的に縛る役割であるのに対して ・国民を法的に縛る役割は「法律」であるという 役割分担があることに尽きます。 したがって、 憲法尊重擁護義務（９９条）は、国民には課されていないので、 国民は憲法を守る「法的義務」はなくて、単なる「倫理規定」となります。 しかし、国会の議決で制定された「法律」の場合には、 例えば、税金に関する「税法などの法律」の場合には 当然に、国民には「法律」を守る「法的義務」があります。 そうは言っても、 国会の議決で制定された「法律」がやりたい放題であったならば、 国民の人権侵害につながりますよね。 そのために、憲法９８条が憲法の「最高法規性（憲法＞法律）」を定めて ・やりたい放題の法律を制定してはいけません、 ・憲法の範囲内での法律制定しなさい というように憲法が国家権力に歯止めをかけている訳ですよ。 ２． 例えば 日本国憲法が定める、国民の三大義務のひとつとして ・「納税の義務（30条）」 が規定されています。 しかし、この義務は、国民に対しては ×「法的義務」ではなくて、 〇単なる「倫理規定」と言われています。 なぜなら、「憲法尊重擁護義務」（憲法99条）は 国民には課しておらず、権力者に課しているからです。 そもそも、 ・立憲主義の「憲法」の役割は、国家権力を縛る役割であり、 ・その一方で、国民を縛る役割は「法律」ですから、 「憲法尊重擁護義務」（憲法99条）は、権力者にのみ課すことで十分となる訳です。 この意味で、立憲主義の憲法は、 国家に対して「法的義務」を課している訳であり、 国民に対しては「法的義務」は課してはいません。 ３． （１） 具体的に、納税の義務（30条）の条文を見てみましょう。 「憲法第30条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。」 ① 国民に対しては、30条は、法的意味はなくて、単なる「倫理規定」となります。 ② 一方、国家に対しては、30条は「法的義務」となります。 30条には「法律の定めるところにより」という文言があるので、 ・国民に対して「納税の義務」を課す場合には、「その前に、法律を制定しなさい」という義務です。 ・昔の時代劇水戸黄門に登場する悪代官みたいに、法律の根拠がないのに、国家が無理やり年貢を取り立てる行為は認めないということです。 （２） 次に教育についても同じです。 第26条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。 「法律の定めるところにより」という文言があるので、 「国民の権利保障」を目的として、国家に対して「法律」制定の法的義務を課している訳ですよ。 「国民の教育を受ける権利」を目的として、国家に対して「法律」制定の法的義務を課しており、具体化した「教育基本法」という法律が制定されています。 （３） 勤労の権利義務も同じです。 全て、国民の労働する権利保障のために 国家に対しても各種の「法律」制定する義務を課している訳ですよ。 「憲法第２７条１項 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」 ① 国民に対しては倫理規定に過ぎませんが、国家に対しては、法的義務となります。 ② 国民の労働環境を整えるための整備を義務付けていることになります。 労働組合法や最低賃金法などの法律で、労働者保護をしている訳ですね。 ③ それでは、 「無職の人に労働義務を命ずる」みたいな法律制定は可能なのでしょうか。 「憲法１８条後段 犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」 憲法１８条後段規定により、 犯罪処罰による刑務所の懲役刑を除いて、強制労働を命ずる法律を制定出来ません。 したがって、現行憲法下では、 「無職の人に労働義務を命ずる」法律を制定してしまうと、違憲になるとされています。 ４． それでは、 なぜ、国民には憲法を守る法的義務を課す必要はないのでしょうか。 理由は明確です。 なぜなら、国民に対する「法的義務付け」は、 間接民主制の下では、 国会での自由な審議討論により「法律」で決定するべきだからです。 言い換えれば、国家が「憲法」で介入するべき問題ではありません。 立憲主義の憲法は、国家権力を縛ることにより、国民の権利自由を守るものですから、 もし、憲法で国民の権利を「法的に制限」してしまうと、 法律制定のための国会での自由な審議討論を「憲法に書いてあるから」のひと言で、封じる危険が大きくなります。 結局、 ・「憲法」は国家を法的に縛る役割であるのに対して ・国民を法的に縛る役割は「法律」であるという 役割分担があることに尽きます。 したがって、 憲法尊重擁護義務（９９条）は、国民には課されていないので、 国民は憲法を守る「法的義務」はなくて、単なる「倫理規定」となります。 しかし、国会の議決で制定された「法律」の場合には、 例えば、税金に関する「税法などの法律」の場合には 当然に、国民には「法律」を守る「法的義務」があります。 ５． そうは言っても、 国会の議決で制定された「法律」がやりたい放題であったならば、 国民の人権侵害につながりますよね。 そのために、憲法９８条が憲法の「最高法規性（憲法＞法律）」を定めて ・やりたい放題の法律を制定してはいけません、 ・憲法の範囲内での法律制定しなさい というように憲法が国家権力に歯止めをかけている訳ですよ。