総胆管結石(CBD結石、Common Bile Duct Stone)は、胆管内に結石が存在する状態で、肝機能を示すAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)やALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)を確認する必要があります。以下に、その理由を詳しく説明します。
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### 総胆管結石と肝機能検査の関係
1. **胆汁の流れの障害が肝機能に影響を及ぼす**
- 総胆管結石は、胆管を部分的または完全に閉塞することがあります。この閉塞によって胆汁の流れ(胆汁排泄)が妨げられると、**胆汁うっ滞**(cholestasis)が生じます。
- 胆汁のうっ滞により肝臓内で炎症が生じ、肝細胞にダメージを与えることがあります。肝細胞がダメージを受けると、肝細胞内に含まれるASTやALTが血中に漏れ出すため、これらの値が上昇します。
2. **胆道感染症や肝機能障害の早期発見**
- 総胆管結石に伴う閉塞が長引くと、胆汁に細菌が感染し**胆管炎**(cholangitis)が起こる可能性があります。この状態では、肝機能がさらに悪化する危険があります。
- ASTやALTの上昇を確認することで、胆管炎や肝機能障害を早期に認識し、適切な治療(抗菌薬や結石の除去)が行えるようになります。
3. **肝臓の直接的な影響**
- 肝臓は胆管と解剖学的に密接な関係にあります。総胆管が閉塞すると肝臓内で胆汁が逆流し、肝細胞の炎症や壊死を引き起こすことがあります。これもASTやALTが上昇する原因となります。
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### ASTとALTを見る理由
1. **ASTとALTは肝細胞ダメージの指標**
- **ALT(GPT)**:主に肝細胞に多く含まれる酵素で、肝臓に特異的です。胆汁うっ滞や肝細胞の障害によって血中濃度が上昇します。
- **AST(GOT)**:肝臓だけでなく、心筋や骨格筋などにも存在するため、ALTほど肝臓特異性は高くありません。ただし、ALTと併せて評価することで肝細胞障害の程度をより正確に把握できます。
2. **AST/ALT比の評価**
- 総胆管結石における肝機能障害では、ASTとALTがともに上昇しますが、急性の場合はALTがより顕著に上昇することが多いです。
- AST/ALT比が高い場合(AST優位)は、肝細胞外の病変(例えば、肝外胆道閉塞や肝外病変)を示唆することがあります。
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### 他の肝機能指標との組み合わせ
ASTやALTだけでなく、以下の指標も併せて確認することが重要です:
1. **γ-GTP**(ガンマグルタミルトランスフェラーゼ)
- 胆道系に特異性が高く、胆汁うっ滞の検出に役立ちます。
2. **ALP**(アルカリホスファターゼ)
- 胆汁排泄障害時に上昇します。特に胆管閉塞がある場合に顕著です。
3. **総ビリルビン(T-Bil)**
- 胆管閉塞が進行すると、血中に間接型や直接型ビリルビンが蓄積し、黄疸が発生します。
4. **アミラーゼ/リパーゼ**
- 総胆管結石が膵管を圧迫する場合、膵炎(胆石性膵炎)が併発する可能性があり、これらの値も確認します。
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### 臨床的意義
- **早期診断と治療方針の決定**
- ASTやALTの上昇は胆管の閉塞や炎症を示唆する重要な手がかりとなります。
- 値が大きく上昇している場合、胆管内の閉塞が重大であることを示す可能性があり、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)や手術による迅速な対応が必要です。
- **重篤化の予防**
- ASTやALTだけでなく、他の指標とともにモニタリングすることで、肝機能障害が進行して肝不全に至るリスクを軽減できます。
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**まとめ**
総胆管結石におけるASTやALTの測定は、胆管閉塞による肝細胞へのダメージや胆道感染症の進行状況を把握し、適切な診断と治療を行うために非常に重要です。他の肝機能指標と組み合わせて総合的に評価することが、患者の予後改善に役立ちます。
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