故意の要件としては、①構成要件に該当する事実の認識、②違法性を基礎づける事実の認識、③違法性の意識が問題となります。 すなわち、故意があるというためには①, ②, ③どこまでが必要なのかという話です。 簡単にいえば、①, ②は事実の認識、③はその事実が法律に違反しているという認識です。 「故意責任の本質は反規範的人格態度に対する道義的非難である。」というのは、③に関する論証ではないですかね。 ①,②があれば反規範的な人格態度が認められるので、③違法性の意識までは必要ないという。 出典はたぶん団藤重光『刑法綱要総論』第3版1990年、創文社、316頁かな。 以下に該当箇所を引用しますが、団藤先生は故意の要件として①, ②は必要としますが、③そのものは不要とします。 で、以下は要するに、違法性の意識が故意の要件として必要だとするとこんなおかしな結論になる、だから違法性の意識は故意の要件ではないということを言っています（ただし、さらにこの後の論証で、違法性の意識の「可能性」は故意の要件であるとするのですが、それはまた別の話）。 「道義的責任論をとるとすれば、はたして違法性の意識を故意の要件と考えることが必然的な結論であろうか。 もし、違法性の意識の有無・強弱が非難の大小を決定するものとすれば、犯行の反覆によって違法性の意識が減少した常習犯人に対しては、規範意識が強い抵抗力をもっている初犯者よりも、かえって軽い非難しか加えることはできない。 しかし、人格責任論の立場からすれば、常習犯人は違法性の意識が減少するに至ったこと自体に、人格形成についての非難を受けるべきである。当の行為につき、規範を意識してこれに違反しようという意思ではなく、人格態度の直接的な反規範性が、故意責任の本質をなす。 かようにして、犯罪事実を表象・認容して、しかもあえて行為に出る以上、そこには直接的な反規範的人格態度を認めることができるので、違法性の意識は故意の要件ではないと考えるべきである。」 まあでも論点自体が難しいのに加えて、団藤先生の書き振りもめっちゃ難しいですね。