不安ですよね。私も不安でした。 ただ、ご質問の回答としては、質問者様のおっしゃる通りです。 文脈（文章の流れ）から意味を判断するしかありません。 助動詞「べし」は意味が多様にあり、その記述は参考書によって異なります。 意志（強い意志、決意）・推量（確実性の高い推量）・当然・義務・予定・適当・勧誘・命令・可能……など。 たくさんの意味を当てている参考書もあれば、一部の意味を記載していない参考書もあります。 その結果、ある参考書では「義務」となっている例文が、別の参考書では「当然」に分類されていることも出てくるのです。 そのため、「べし」の意味にはあまり神経質にならずに考えるのが宜しいかと思います。 ただ、それだけだと学習する上で不安になると思います。 多くの参考書で記載されている、人称による判断を基本としながら、どのように考えたら良いのかを、私なりに整理してみました。 考えるための目安・手がかりとして参考になれば幸いです。 ＊私もまだ整理途中ですので、次に回答する時には、中身が変わるかもしれません。 一 人称による判断とは何か。 多くの参考書では人称による意味の判断を勧めています。 改めて記載しておくと……。 ・一人称（「私」）が主語の時……意志 ・二人称（「あなた」）が主語の時……命令（適当・勧誘・当然） ・三人称（上記以外の人物）が主語の時…推量（当然） この分類を基本として、「できる」と訳せる時は可能といった説明を加えています。 ＊また「可能」の意味になる時は、打消を伴うことが多いと記載してある本もあります。 ＊「当然」の意味になる時は連体形が多く「はずだ」と訳せる書いてある本もあります。 なぜ、このような記述がされているのでしょうか。 まずは、現代語で考えてみます。 Ａ 花は当然咲きます。 Ｂ 企画書は当然（私が）出します。 同じ「当然します」の形ですが、Ａは確かな推量（強い期待、予測）の意味を、Ｂは、主語を話し手（＝私）だと判断する限りにおいて、意志の意味を感じるのではないでしょうか。 今、Ｂの例文について、「主語を話し手（＝私）だと判断する限り」と注意しました。 次の文を見てください。 Ｃ 企画書は当然、彼が出します。 このように主語が「私」から「彼」に変わっただけで、意志ではなく推量（強い期待）または当然・義務の意味が強く感じられるのではないでしょうか。 それでは、次の文はどうでしょうか。 Ｄ 忘れ物をした人は、当然居残り掃除をします。 Ｅ 鳥は当然飛びます。 Ｆ 猫は当然飛びません。 Ｇ 落書きは当然許しません。 Ｄの例文は、先生が生徒に言い聞かせている場面を想像してください。言い方は「します」となっていますが、「残って掃除をしなさい」という命令の意味を持っていることが分かるのではないでしょうか。あるいは義務だと述べているのかもしれませんね。 ＥやＦの例文は並べてみると「飛ぶことができる/できない」と可能の意味を感じるのではないでしょうか。同様にＧも「許すことができない」の意味で解釈できそうです。 以上、現代語で確認をしてきた通り、同じ「当然します」という形であっても、その意味するところは文脈によって異なるのです。 現代語であれば、それを「推量」だの「意志」だと言わなくても、「当然します」の形でその微妙な違いを理解できるはずです。 古語だと、その微妙な違いを完全には把握できないので、とりあえずの方法として意味を区別して訳しているのです。 その区別の目安となるのが、人称です。 ＡやＣのように「当然する」と第三者のこと・ものについて述べるのであれば、それは強い予測・期待を感じますよね。 Ｂのように「当然する」と自分のことを述べるのであれば、そこに意志が生じることがあります。 Ｄのように「当然する」と相手に求めるのであれば、それは命令の感じがでます。 ＥやＦのように能力に関わる場合、Ｇのように許可や許容に関わる場合などは、当然という言葉に「可能」の意味を読み取ることができるのではないでしょうか。 このように「当然する」という基本的な意味を中心として、人称によって微妙なニュアンスが加わることで、他の意味で解釈ができるようになるのです。「僕は部長だから、当然掃除もやるよね」であれば意志の意味が、「君は部長だから、当然掃除もやるよね」だと命令の意味が「当然やるよね」という言葉の周りに生まれてくるのです。 もちろん、これは絶対的な判断ではありません。 あくまで強いて意味を分類するなら、そういう傾向がありそうだという判断です。 ただ、法則に当てはめても、例外となる場合もたくさんあります。 また、主語が明確でない場合もあります。 現代語ですら、上述の例で見たように厳密には解釈が定まらないのです。 人称による判断は、その程度の規則だと思ってください。目安のようなものです。 二「べし」の意味とは何か。 先の例文で、すべて「当然します」という形で表現したと思います。 これには理由があって、私は「べし」の中心的な意味は「当然・必ず～する」「するに違いない」という確実性の高い予測・確信している気持ちを意味する助動詞であると思っています。 本によって記述は異なりますが……。 ・当然実現されると推定されること、まさに事実になろうとしていることを示す。 ・いかにもありそうなことを意味する。 ・確実性の高い推量の意味を持っている。 ・本来そうあるのが当然、必然の理である。道理からそう思われる。 などと説明されています。 先に述べたように、そうした基本的な意味を中心に、自分の行為であれば意志の意味が加わることもあり、二人称に対しては命令の意味が出てくることもあります。 ただ、あくまで基本の意味は「確実性の高い予測、確信している気持ち」であって、それを中心に解釈をするのが筋だと思います。 Ｈ 子になり給ふべき人なり。 Ｉ 毎度ただ得失なく、この一矢に定むべしと思へ。 Ｊ これより召さんには、皆かくのごとく参るべし。 まずは「べき」を「当然・必ず～する」「～するに違いない」で解釈してから考えます。 Ｈは「必ず私の子になる人」「子になるに違いない人」という基本的な意味を、現代語でどう自然に表現するか考えます。「なるはずの人」とすれば「当然」です。「予定（運命）」ととっても良いでしょう。 Ｉは「『必ずこの一矢で決める』と思いなさい」という意味からは、「一矢で決めよう」という意志や決意を感じるのではないでしょうか。 Ｊ「（呼ばれたら）必ず参る」という基本的な意味からは「参上しなければならない」「参上しなさい」と命令や義務の感じが出ていないでしょうか。 繰り返しますが、あくまで中心的な意味があって、そこに文脈や人称によって、意志や命令の意味が加わるのだと考えてください。 その中心さえ外さなければ、大まかの部分で間違えることはありません。 三 現実問題として、どう解釈するか。 繰り返しますが、「べし」に唯一の解釈方法があるわけではありません。 辞書によっては「一つの意味にとれるべしは少ない」と言い切っているものもあり、また文法書の中には「中古のにっては『べし』に意志の意を認めない」「勧誘や命令の意を積極的に認めない」と書いてあるものもあります。 専門的な本であるほど慎重に記述しているのですから、高校生の文法で何とかなるものではありません。 ただそんなことを言っていては、受験勉強になりません。 現実問題としてどのように解釈して練習するのが良いのでしょうか。 私なら、以下のようにすると思います。 １ お使いの参考書や受けている授業の方法をとりあえず忠実に実践する。 ２ 実践の中で自分の予測と模範解答が違う場合、【解釈の幅】で許容できるかどうか考える。 ３ 納得、理解できない場合は、身近な先達（先生や古典の得意な同級生）に助言をもらう。 そうする中で、自分なりの「べし」ができあがってくると、「これくらいで良いか」と思えるようになります。 【解釈の幅】の例です Ｋ 家の作りやうは、夏をむねとすべし。 （家を作る時は、夏を中心に考えるのがよい） 一般的に「適当」と言われる例です。私も適当で解釈すると思います。 ただ「夏を中心に考えなさい」と読み手に対して強く主張するように「命令」で解釈することが絶対に間違いだとは思えないのです。 また私が少数派かもしれませんが、私自身は次のような例で悩みました。 Ｌ 宮仕へに出だし立てば死ぬべし。 （私を宮仕えに出すならば、死ぬつもりだ） かぐや姫の言葉で、一般的に「一人称だから意志」だと解釈をしている文です。 ただ私は高校生の時分から、かぐや姫が自分の意志で死ぬ（＝自殺する）とは思えなかったのです。 宮仕えが悲しくて、身心共に弱っていき、衰弱死してしまう。その運命を予感しているのではないだろうかと思っていました。 しかし、どの参考書にも「意志」の例で掲載されています。 大人になっても疑問が解決されないままでいたところ、大野晋という学者が同じ場面を引いて「必然的に死んでしまうだろう（推量）」とも「死んでしまおう（意志）」ともとれるという意味のことを述べているのを見つけました。 このように解釈の幅が自分の中で許容できるようになると、「べし」が練習問題と少し違うからといって困らなくなります。 その上で、定期考査では授業で習った通りに答え、模試や入試では明確な区別ができるものしかでないだろうと期待して臨むのが、心穏やかに過ごす方法だと思います。 不安が少しでも解消されれば幸いです。