蕁麻疹は瘙痒を伴う一過性の発疹(紅斑と膨疹)が現れる皮膚疾患である。多くが原因不明で、患者の半数は6週間以上症状が持続する慢性特発性蕁麻疹(CSU)である。標準治療の抗ヒスタミン薬を中心とした既存の薬物療法に効果不十分な患者がおり、それらの患者に対する治療薬として2017年に登場したのが、蕁麻疹の炎症を引き起こすIgEの作用を抑える抗IgE抗体のオマリズマブだ。近年、蕁麻疹の病態生理の研究が進み、新たな分子標的薬の開発も活発化している。日本大学皮膚科学分野の葉山惟大氏は、第121回日本皮膚科学会(6月2~5日)でオマリズマブの実臨床での有効性、開発中の新薬候補品に対する期待を述べた。
蕁麻疹の約7割は原因不明、慢性化する例も
蕁麻疹は有病率1%と発症頻度の高い、ありふれた疾患である。一過性の急性蕁麻疹(発症期間が6週間以内)、症状が持続する慢性蕁麻疹(発症期間が6週間を超える)などに分類される。
蕁麻疹は皮膚の真皮に存在する肥満細胞(マスト細胞)になんらかの刺激が加わることで活性化し、皮膚組織内にヒスタミンやロイコトリエンといった炎症を引き起こす化学物質が放出されて起こる。これらの炎症性メディエーターが皮膚微小血管と神経に作用し、血管拡張や血漿成分の漏出により紅斑や膨疹が現れ、知覚神経が刺激されて痒みが生じることも多い。
蕁麻疹の約7割は原因不明(特発性)で、症状が数カ月から数年にわたり持続して慢性化することもある。このようなCSUでは抗ヒスタミン薬が第一選択となるが、同薬に抵抗性を示す患者もおり、そのような例では治療に難渋することも少なくない。これらの患者には、次のステップ(ステップ2)としてロイコトリエン受容体拮抗薬、H2受容体拮抗薬、ジアフェニルスルホンなどを補助的に用いるが、効果は限定的な場合が多い(ロイコトリエン受容体拮抗薬、H2受容体拮抗薬は蕁麻疹には保険適用外)。これらの治療を行ってもコントロール不良の例には、ステップ3として免疫抑制薬シクロスポリン(保険適用外)、短時間の経口ステロイド薬、抗IgE抗体のオマリズマブによる治療が推奨されている。オマリズマブは日本では蕁麻疹の病型の1つであるCSUに対し2017年3月から保険適用となった。
葉山氏によると、日本で皮膚免疫アレルギー学会の会員を対象とした調査で、オマリズマブを使用したCSU患者の約半数が抗ヒスタミン薬に補助的治療薬を併用しても効果が不十分な例であり、『蕁麻疹診療ガイドライン2018』の薬物治療でオマリズマブと同列の位置付けの経口ステロイド薬などより優先して用いられるケースが多かったという。同氏はその背景として、「ステロイド薬の副作用や保険適用を考慮した対応と考えられる」と指摘した。
オマリズマブは9割に効果も、IgE低値例では有効性低い可能性
葉山氏は、CSU患者に対するオマリズマブの有効性および再発予測因子について検討したイタリアの研究グループの後ろ向き研究結果を紹介。難治性CSU患者にオマリズマブを投与した470例の実臨床成績を解析したもので、慢性蕁麻疹の活動性の指標であるUAS(1日の膨疹数、瘙痒スコアの合計)を直近7日間合計したUAS7スコア(42点満点)が、7日以内に0点(膨疹および瘙痒が完全消失)になった割合は44.9%、12週間以内に0点になった割合は25.9%、12週以内に30%以上改善した割合は20.2%、無効例が9.6%だった。この結果について、同氏は「全く効果を示さない患者は1割弱で、9割もの患者で効果が得られた」と評価した。
同研究で、オマリズマブの有効例と無効例で投与前の平均血中IgE濃度を調べたところ、有効例では131.6IU/mL、無効例では42.1IU/mLだった。同氏は「IgE濃度は無効例では有効例の3分の1と低値を示した。血中遊離IgE濃度が低値のCSU患者はオマリズマブの効果が得られにくい可能性がある」との見方を示した。
一方、同氏の施設でオマリズマブの投与を受けているCSU患者を対象に、同薬の有効性を検討した結果も報告。同薬投与2日目にUAS7スコアが急速に低下し、早期に有効性を示したfast群とUAS7スコアが緩徐に低下するslow群で、オマリズマブの効果持続期間や悪化しやすさなどを比較した。その結果、fast群では投与4週目以降も効果が持続した一方で、slow群では同薬の次回投与前に症状が悪化する傾向が見られた。さらに、投与24週時点の評価でfast群の80%以上がUAS7スコア6点以下(コントロール良好)を維持していたのに対し、slow群の達成率は46.7%にとどまっていた(図)。
同氏は「慢性蕁麻疹はQOLを著しく低下させる場合もあるので、患者に自己評価してもらい、QOLが障害されていることが確認できれば積極的にオマリズマブを使っている。少し遅れて効く場合もあるので、患者に事前に説明してから開始する」と説明。海外の蕁麻疹の診療ガイドラインでは、オマリズマブの投与を6回継続することを推奨しており、日本においても最低3回できれば6回程度は続けてほしい」と強調した。
開発中止の新薬候補も
オマリズマブ以外の分子標的薬の開発も国内外で活発化している。オマリズマブと同じ抗IgE抗体ligelizumabはオマリズマブと比べIgEに対する親和性が40~50倍で、米食品医薬品局(FDA)からブレークスルーセラピー(画期的治療薬)の指定を受けた。ligelizumabの第Ⅱ相試験ではオマリズマブに対する優位性を示したものの、第Ⅲ相試験では示せず、CSU患者を対象とした試験は開発中止となった。一方、同じく抗IgE抗体のUB-221はオマリズマブと比べてIgEに対し8倍の親和性があり、遊離IgEへの結合能、CD23阻害能を有する化合物で、現在臨床開発が進行中だという。
また、アトピー性皮膚炎治療薬の抗IL-4/13受容体抗体デュピルマブもCSUを対象に第Ⅲ相試験が実施されており、オマリズマブと同等の効果が示されている。しかしオマリズマブ無効例を対象とした解析ではプラセボ群との間に有意差は見いだせず、現在ではオマリズマブ未治療CSU患者対象の試験のみが継続されている。しかし、海外ではオマリズマブ無効のCSU患者に対する有効性も報告されている。今後の開発、症例の蓄積が望まれる。
有望視されるBTK阻害薬
新薬候補品の開発中止が相次ぐ中で、オマリズマブの次の分子標的薬として有望視されているのが、マスト細胞内のシグナル伝達に重要な役割を果たすブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬remibrutinibだ。CSUにおける炎症プロセスの重要な促進因子であるIgE/FcεRI経路を阻害して効果を発揮すると考えられている。BTK阻害薬はB細胞系腫瘍(血液がん)に有効とされているが、近年アレルギー性疾患への臨床応用が検討されている。
remibrutinibの第Ⅱb相試験では抗ヒスタミン薬に効果不十分なCSU成人患者にremibrutinibとプラセボを投与し、4週時、12週時におけるUAS7スコアのベースラインからの変化量を調べた。remibrutinib群では有意な改善が認められ、全ての用量で良好な安全性プロファイルが示された。UAS7スコアが0点および6点以下(疾患活動性がコントロール良好)を達成した患者の割合は、全てのremibrutinib群で1週目から投与期間を通じて改善効果を示した。日本ではCSUの有効性、安全性を検証する第Ⅲ相試験が現在進行中である(表)。
表. 慢性蕁麻疹に対する分子標的薬の開発状況
(葉山惟大氏の発表を基に編集部作成)
また、別のBTK阻害薬fenebrutinibの第Ⅱ相試験では、同薬の200mg群と150mg群はプラセボ群と比べ、投与8週目の評価でUAS7スコアの改善が認められた。自己免疫性蕁麻疹に対する有効性も確認され、FcεRI抗体の量が用量依存性に減少し、抗体の減少率は臨床症状の改善と有意に相関していた。
さらに、日本の企業が開発したBTK阻害薬TAS5315(開発コード)が今年(2022年)7月にCSUを対象に第Ⅱa試験が開始される予定だ。
これらの結果を踏まえ、葉山氏は「BTK阻害薬はIgE値にかかわらず、CSUへの効果が期待できる可能性がある」と展望を示した。