第二十四夜/二十五夜 Strange Epilogue @Istanbul:風に吹かれて Ⅱ:SSブログ
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第二十四夜/二十五夜 Strange Epilogue @Istanbul [Turkey]

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楽しい昼食のひと時を終え、市場を奥まで歩きつくすと今度は問屋街が広がっていた。

通りを大きな荷物を担いだ作業員が行き交い、店の奥ではなにかを加工する手を休めず働いている。
時折、店先をチャイを乗せたお盆をブラ下げた出前が小気味よくすり抜けていく。
そう、商談の前に「まずチャイでも」となるのがアラブ系の国々の習慣だ。
商品に正価はなく「いくら出す?」からはじまり、「それは無理だ」という話から徐々に商談に入っていく。
アクセサリーひとつでも土産物ひとつでもその調子で、
時間に縛りのある旅行者にはまったく向いてない商習慣なのです。

活気ある問屋街の通りの角、唐突にリアカー引きのオッサンが現れ、
威勢よく物売りの声を上げる、スイカ売りだ。

その声を待っていたかのように店から若い衆がオッサンのもとを訪れ、慣れた感じで買っては店に戻っていく。
オッサンはリアカー前で客をあしらいながら、バカデカイスイカを手際よく切り捌いている。
左手でスイカを持ち、これまた小刀ぐらいあるバカデカイサイズの包丁を使い、
手際よく食べやすい大きさに切り分けては器に落とし込み、客に手渡していく。

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夏はやっぱりスイカ、いや、旅先ではスイカだわさ、スイカジュース・クレイジーはわたしです。

実をいうと『フンドゥクル駅』近くの船着き場でもスイカ売りに出会っていたのだが、
歩きはじめたばかりだったことと日向に置かれたスイカはきっと温かいだろうなあ、と邪推して買わずにいた。
この邪な考えが失敗でその後、スイカ売りに出会うことがなく、買い逃したことを大いに後悔していた。
そんなときにリアカーのオッサン登場、きっと遅めの昼飯が終わるのを待っていてくれたに違いない。

「ほおお、スゴイなあ、上手、上手。こっちにもひとつね」

日本語で驚嘆の声を上げながら、「ひとつ」を意味するように指を一本立てると
オッサンはこちらを見てニヤリと笑った。
スイカ一盛り5トルコリラ、あれ、サンドイッチと同じってちょっと高くないか。(写真3)
食べたさにつけ入られてフッカケられたか、
なにしろスイカ欲しさに他の人がいくら払っていたかも確認していなかったから。
まあいいか、こうしてフレッシュなスイカを頬張れるのだから、でも冷えてはないけど。

オッサンの「ニヤリ」が気になってはいたが、
去ろうとすると「ほら」という感じでフォークを突き刺してくれた、
そんなやさしさで金額はどうでもよくなっていた。

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スイカを頬張りながら問屋街を抜け、無手勝流に歩き続けていると大きな広場に出会った。
どこかの公園かと思い、目の前の塔を確認すると『Bayezid Kulesi(バイェズィド塔)』と書かれている。
どうやら『Istanbul Universitesi(イスタンブール大学)』のキャンパスにぶち当たったらしい。
夏休み中であろうキャンパスに学生の姿はなく静かで、陽射しを避ける木陰が市民の憩いの場となっていた。

その後もおもしろそうな方角を見定め、歩き続けた。
途中、暑さにへばりそうになるとモスクのひんやりした空気の中で小休止、
とある街角では眼の前で絞ってくれる「生オレンジ・ジュース」屋を見つけ、水分補給。(写真4)
こいつは1トルコリラでオレンジを2つも3つもコップを満たすまで絞ってくれて、
ちょっとゼイタクな気分を味わえる。
モロッコ放浪時にもハマって毎日飲んでいたお気に入りの一品だ。

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旅先のいつもの悪いクセで歩き過ぎていた、
革のデッキシューズの靴底ガあたり、両足のウラには大きなマメができていた。
陽が落ちる頃にはぎくしゃくとぎこちない歩き方になり、なんとかホステルに帰り着くことができた。

「やあ、お帰り、チャイ飲むかい?」

陽が落ちても水分ならなんでも摂り込みたい気温が続いていたので、
オーナーのやさしい申し出を受け入れ、テラスに腰を据えることにした。

「日本の人だって? 僕はさっきチェックインしたばかりなんだ。チリから着いたばかりさ」

チャイの小さなグラスに角砂糖を落とし、かき混ぜていると別の男性に話しかけられた。

「チリ? サンチアゴから?? トルコまではどういうルートで来るんだ?
 ペルー、ブラジル、ボリビア、アルゼンチンは行ったことあるけど、
 チリはまだ行ったことないいつか行きたい国なんだ」

「そう言ってくれるとうれしいな。なにせヒドイときはアフリカの国と間違えられるからね」

屈託ない笑顔で握手を求めてきた彼に雑なスペイン語でアイサツし、笑いを誘いながら自己紹介をした。

「え? 日本の人なの? 僕はフランスから。以前『ジュージュツ』をやっていたから日本に興味があるんだ」

今度は隣のソファーでタブレットをいじっていた男のコが語りかけてきた。

「すごいね、『柔術』か。となると『道着』を着てプレイしてたの? 
 『カラテ』や『ジュードー』じゃなくて『ジュージュツ』なんだね」

「フランスでは『ジュージツ』はわりとメジャーなんだよ。
 そう、『ドーギ』を着て『タタミ』で『ケイコ』をしていたよ」

パリから来たという大学生の彼は4歳から『柔術』を学び、
ブラック・ベルトではないようだが段位も持っているらしい。
時折、英語に混ざる『ドージョー』や『レイ(礼)』といった日本語がやけにリアルだ。
その彼が『柔術』を学んだこと自体をすごく感謝しているという。

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「『ブドー』を極めると『ゼン(禅)』とか『レイ』とかそういうところに発展していくでしょう?
 僕は『ジュージュツ』に心の在り方を教えてもらったような気がするんだ」

「なんでそういう風に感じるんだい?」

「ティーンネイジの頃は荒れるというか、道を外れたいというか、そういう衝動ってあるでしょう?
 おそらく『ジュージュツ』を学んでなかったら、大きく踏み外していたかもしれないんだ」

「武道、格闘技なのにものすごく宗教的というか、哲学的ななにかを学んで今があるという感じなんだね」

う~ん、まさかイスタンブールで日本の武道談義に花が咲くとは思わなかった、
しかも崇高な「心の在り方」の話にまで膨らむとは。
それにしてもこの旅はいろいろな場所で、いろいろな人と話し、
いろいろなことを教えてもらい、いろいろな刺激を受けた。

誰かが「あなたはオープンマインドだから」と言ってくれたことがあったが、
それは単に一人旅だからだろう、独りに浸り、閉ざしてしまえばなにも広がっていかない。
窓を開き、扉はノックしないとね、そうじゃないとなんのために旅をしているかわからない。

そんな心持ち以上にバルカンの国々は治安がよくて、物価が安くて、人が擦れていなくて、
静かな時間が流れていて、そういう気分になりやすかったのかもしれない。

旅しやすいといわれる東南アジアより歩きやすく気楽だったのは事実だ、
だがその時間もここイスタンブールで終わりに近づいている。

「ごめん、もっとキミタチと話しをしていたいんだけど、もう空港に行く時間なんだ。
 シャワー浴びて着替えないといけないし、別れの時間だよ。旅ももうフィナーレなんだ」

「これから日本に? じゃあ無事に日本に帰ってね。あとはSNSで交流しましょう」

そういって彼らと、そして短い滞在に世話になったオーナーと握手を交わし、お別れの儀式。

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ミニバスは21:20、『Ataturk International Airport(アタテュルク国際空港)』に到着した。
 
『タクシム広場』からは「ハワタシュ」というシャトルバスで空港に向かった。
11トルコリラで一時間弱、地下鉄ならその半分ほどの金額で行けることは知っていたが、
両足の裏のマメは盛大に剥けていて、足を引きずり、疲れたカラダを引きずり、
荷物を引きずって歩く気にならなかった。

フライトの時間は日付が変わった0:40と余裕があったが、
マイレージ発券ながら「ビジネス・クラス」のチケットなので、
来たときと同様に広くて豪勢なターキッシュ・エア(TK)の『CIP Lounge』でゆっくり過ごす目論見だった。
ところが道路の混雑もなく、ミニバスは順調で出発の3時間以上前に空港に着いてしまったわけだ。

早過ぎて「チェックイン・カウンター」が開いているか不安だったが、
そこはTKのお膝元、しかもビジネス・クラスなので専用カウンターのスタッフが笑顔で出迎えてくれた。

ちなみに行きはTKの成田~イスタンブール直行便でだったが、帰りは直行便が取れず、バンコク乗り継ぎに。
しかたなくバンコクからは全日空のビジネスで羽田着、という楽しみな妥協点を見つけ、マイレージを費やした。

「バンコク行きの便で最終は日本行きですが、もうチェックインできます?」

便名と出発時間を告げると、カウンターの若い女のコは手際よくチェックインの手続きをはじめてくれた。
差し出したパスポートを見ながら彼女が言う。

「あら、あなた、日本の人なのね。ああ~、英語が通じて助かるわ」

「なんで? どうしたの?」

疲労感の混ざった彼女の言葉尻が気になって問いかけた。

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「この前もあったんだけど、日本の人は英語の通じない人が多いのよ。
 悪く言っているんじゃないの、こちらの言っていることが通じなくてものすごく困ることが多いのよ」

どうやら悪態をついているわけでなく、本当に苦労している感じで話続けてくれた。

「つい昨日もだけど『プラーグ』に行く年配の夫婦がいたわけ、
 彼らがプリントアウトして持参した紙にそう書いてあったの。
 でもそのご夫婦、『ぷXX』とかナントカっていうばかりで、『プラーグ』をわかってくれないのよ」

「ああ、チェコの首都のことだね。日本だと『ぷらは』っていうんだ」

「そう、それよ、そのナゾ『プラなんとか』を繰り返し言っていたわ、紙を指さしながら。
 おまけにそれが『ヴィエナ』乗り継ぎの便だったの、そうしたら今度は『ヴィエナ』が通じないのよ。
 いくら説明しても『違う、僕らは「びえな」にも「ぷらぐ」にも行かない』っていうんだもの」

「ガイドさん、一緒じゃなかったの?」

「個人旅行だったのよ、もうわたし泣きたくなったわ。
 ビジネスクラスのお客さんだからキチンと丁寧に対応したかったし。
 このところそういう日本の人が多くて、ホント困っちゃうの。
 悪い人たちじゃないことはわかっているんだけど、こちらの説明をわかってもらえなくて。
 こうして日本人のあなたと会話していることが奇跡に思えるわ」

「日本語だと地名や国の名前の呼び方が違うからね。
 このところ日本ではおたくの会社がプロモーションしているから、そういうお客が増えると思うよ」

実際、この春からTKのビジネスクラスを使ってヨーロッパを旅するツアーが人気を集めていた。

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「実情や背景を聞けてよかったわ、わたし、もう少しで日本人恐怖症になるところだったわ。
 はい、ボーディング・パスよ。バンコク~羽田のボーディングも出せたわよ」

「お! 席番号<1番>だね! なんだかうれしいな。
 ありがと、じゃあ『ばんこく』経由で『はねだ』に帰ります」

搭乗券を受け取りながら、地名をお道化て日本風に発音してみせた。

「そうよ<1番>よ。
 うちの会社の『ビジネス・クラス』は専用の『パスポート・コントロール』があるからそっちを通るといいわ」

そう言って笑顔で送り出してくれた。

彼女が示した先には小さな『パスポート・コントロール』があり、
TKの「C」と「F」の客だけが通れるゲートになっていた。
誰もいない通路で出国手続きを済ませ、扉を出るとなんとそこは『CIP Lounge』のど真ん中、
一瞬、どこかわからず、ラウンジはどこですか、と係員に尋ねそうになったが
来たときに見た風景と重なり、ここがラウンジ内だと気づかされた。
さすがターキッシュ・エアのお膝元、それにしてもこんな造りになっている空港は初めてだ。(写真7)
一社専用の「パスポート・コントロール」ってなんだよ?!

少し早目に空港に来たのは街で夕食を摂らず、ラウンジで楽しむ心づもりだった。
なにしろこのラウンジには専用のコックがいて、できたての料理を提供してくれるのだ、
これも充分、オドロキに値する。
街の食堂で残り少なくなったトルコリラを気にしながら、食事して旅を終えるのも悪くないけどね。

あらためてラウンジでシャワーを使い、コックさんにオーダーした料理でこの旅最後の食事とした。

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―DAY24― 8月28日(帰国まで2日)

日付が変わったころ、ゲートがオープンし、搭乗開始に。

優先搭乗で機内に進み、アテンダントに搭乗券を示すと入口扉の右手に広がるビジネスクラスではなく、
左側に進むように促された。
「こっちにもビジネス・クラスあるんだ?」と思ったものの、
そちら側はさっき見たビジネスクラスと造りが違っていた。

あれっ?

これって?

席番号<1番>って?

明らかにビジネスクラスと異なった形状のシートに戸惑った、ここファースト・クラスじゃん。(写真8)
こちらのエリアには1+1+1の配列シートが3列あるだけ、どうやら無償でアップグレードされたらしい。

後ろを眺めるとビジネスクラスのシートはすべて埋まっているようなので、
押し出されてアップグレードされたのかもしれない。
あるいは日本人との会話に気をよくした彼女がイタズラ心でアップグレードしてくれたのかもしれない、
いずれにしろ真実はわからないが、ファースト・クラスになったことだけは確かだ。

このエリアにはトルコ人のドクターだ、という男性と二人だけ、
バンコクまでファースト・クラスのフライトを満喫するだけだった。
シートはフル・フラットになり、パテーションで完全個室、
フル・フラットの隔絶した空間でしっかり睡眠をとればいいのだが、デカイモニターで映画を観続けた。
なにせコーヒーを頼むと淹れたてを、おまけにデザートまでつけて持ってきてくれるのだ、
寝ている場合ではない。
アルコールがイケるのなら、高級なお酒三昧となるのだろうけど、コーヒー三昧の安上がりな客。

一ヶ月のバックパッキング一人旅独身男のエピローグにしてはなんとも珍妙な演出、たまげたな。

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―DAY25― 8月29日(帰着日)

朝6:40、定刻通り羽田空港に到着、ANAのビジネス・クラスから放り出されると、
朝だというのにしっかりとまとわりついてくる日本の夏の蒸し暑さが出迎えてくれた。

こうして10ヶ国を歩き、25日間を費やした旅は終わりを告げた。


「バルカン半島放浪記」 全65話

2014年8月5日~8月29日

TK53 NRT/IST+TK1053 IST/ZAG & TK68 IST/BKK+NH850 BKK/HND +1


-完-



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コメント 4

reona

4travel.jpで詳しいご回答ありがとうございます。
トルコのチーズ、ナッツ、スパイスの価格を知りたく訪問させていただきました。

アーモンドは1キロいくらくらいなのでしょうか?
バザール、カルフールでも探す予定です。
ネットで調べてみたのですが、わからずコメントさせていただきました。
by reona (2017-05-05 18:23) 

delfin

>reonaさん

ご訪問ありがとうございます。

マーケットなら日本の半分ぐらいの値段かと。
この時はチーズは買いませんでしたが、
ナッツはパッキングされたものを友人の土産に(傷まないので土産向き)
スパイスは自分用に小袋で買い込みました。

具体的な価格を答えられず、すみません、
でもアーモンドは安いですよ~
日本で高いクルミがオススメ(笑
by delfin (2017-05-06 15:56) 

reona

delfinさん、こんばんは♪

回答ありがとうございます♪
初めて行くので不安もありますが、
トルコを楽しみたいと思います♪

半値で販売されてるのですね!!!
ナッツ、スパイスを買ってみます♪
クルミも好きなので買ってみます♪

本当にありがとうございます♪♪♪

by reona (2017-05-06 18:46) 

delfin

>reonaさん

初めて行かれるのですね~

言葉が通じなくても、臆せず、ガンバッて買い物してください!

それとトルコ人男性の強引さに負けないように(笑
by delfin (2017-05-07 22:54) 

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