コンビニチェーンのファミリーマート(ファミマ)がこども食堂運営に乗り出すらしい。「ファミマこども食堂」を全国で展開 |ニュースリリース|ファミリーマート「大企業」「全国2000店舗」というスケール感は従来のボランティアに支えられたこども食堂にはなかったものだ。この件について、僕は「スゴイ!物好きだなー!」というポジティブな第一印象を持ったのだけど、世の中は賛否両論みたいだ。賛否はそれぞれの考えや立場からのものだから別にいいのだけれども、「大企業」「営利」「こども食堂の運営きっつー」というぼんやりしたイメージで意見をいっている人が多いように見えた。ひどいものになると助成金目当てではないかという声も見かけた。企業ガー!ボランティアガー!理念ガー!意見をぶつけあうのは大変時間と精神に余裕があって結構だが、その議論が、こども食堂運営にかかる数字を把握しないでなされているものであったら意味がないのではないだろうか。
実は数年前、当時勤めていた会社でこども食堂への参入を考えたことがある。きっかけは夕刻のママさんパート確保に難儀していたからだ。様々な要因があったけど「小学生の子供を育てているから」という声が多く、それなら、こども食堂をやったろうという単純な動機からである。貧困対策や地域貢献という本来のこども食堂の理念からではなく、ひたすらマイナーな一企業の雇用問題からであった。
役所にこども食堂の要件を問い合わせた。1年以上運営する能力、毎月1回以上開催、毎回10食以上提供。食品衛生責任者の設置。各自治体で多少の違いはあったけれど要件はだいたいこんなものだった。そこで【平日夕刻の3時間運営/10人規模/利用料1回100円】こども食堂のコスト試算をした。商売の基本は「ヒト」「モノ」「カネ」である。
まずヒト。人件費として時給1000円パート(毎日4時間20日勤務)を想定し1,000円×4時間×20日×付加率20%として月額96,000円。スタッフは1人でいいのか?4時間は短くないか?という疑問はとりあえず棚上げしておく。
つづいてモノ。場所代、什器備品は寄付や協力を前提にゼロ円とした。水光熱費はざっくり月1万円。食材はワンプレートを想定して1食当たり250円(例/コロッケカレー130円:サラダ70円:副菜40円:汁物10円)とし10名分×20日運営なので月額50,000円。月コストは人件費96,000円と光熱費10,000円と食材費50,000円で計156,000円(1回当たり7,800円、この数字あとで使います)。利用者から1回100円もらって10名利用20日運営で収入20,000円。ざっくりだが「こども食堂」一ヵ月当たりマイナス136,000円となる。
この試算(かなり甘く条件を設定してても)で「こども食堂単体では飲食ビジネスとしては成立しない」ことがお分かり頂けると思う。それゆえ助成金頼みとなる。時に「助成金ビジネス」と揶揄されるが、その助成金があればこども食堂の運営は成り立つのか。答えは否である。助成金もきっつー、なのだ。
各自治体のこども食堂事業者への助成金(ホームページに掲載されている)を調べてみる。大和市(神奈川)は初期投資10万円 運営費81.6万円
池田市(大阪)はそれぞれ同15万、15万
板橋区(東京)は1回当たりで1万円(最高年24万円)である。
いろいろな自治体のホームページを確認したが、だいたい数十万の助成金を設定している。例にあげた中で一番助成金が高い大和市で816,000円。さきほどの試算で運営コストは156,000円。「やはり助成金ビジネスではないか!」と仰る方は落ち着いて欲しい。助成金816,000円は年額である。つまり月額に換算すると68,000円。156,000円のコストから引いても毎月88,000円のマイナスとなる(月利用料20,000円を加味しても毎月68,000円のマイナス)。比較的条件のいい自治体でこの状況なのでその他はより厳しい状況が考えられる。このように「こども食堂は助成金ビジネスとして成立しない」のである。
「こども食堂」では助成金があっても、ボランティアや寄付や協力が不可欠なのだ。善意の無償ボランティアと協賛者の協力、そして助成金があってはじめて運営ができるともいえる。だが善意は素晴らしいけれども脆い。もし善意の無償ボランティアが病気になったり辞めてしまったとき善意の後任は見つかるのか?見つからなかったら閉店でいいのか?そもそもボランティアだから無償でいいの?
ここでファミマのこども食堂をざっくり試算してみる。全国2千店舗で10人規模、利用料は1回100円。開催頻度がわからないので月2回と仮定。先ほど試算したこども食堂の1日1店舗あたり7800円を流用して試算すると、年間コストは7800円×月2回×12月×2千店舗で374,400,000円(3億7千400万円)。対して利用料収入は100円×10人×月2回開催×12月×2千店舗で4800万円である。 マイナス326,400,000円。マイナス約3億2千600万円!ファミマスゲエ。
もちろんファミマレベルのパワーがあれば、スケールメリットで食材コストはぐぐっと下げられるだろうし、既存施設とスタッフをそのまま利用するのでコストもここまでにはならない。そもそも普通の食堂の試算を大手コンビニチェーンに持ち込むのはいかにも乱暴だ。だが、それでも莫大なマネーが必要となるのは間違いない。実は僕がいた会社はマイナス試算でも「こども食堂」開設に進んでいた。だが断念した。それは営利を追及する団体には助成金は交付しないという条件に当たってしまったからだ。ファミマも同様の理由で助成金は無理だろう。そもそも前述のとおり助成金ビジネスは成り立たないのだけど。
子供食堂の理念や理想は大事だ。草の根ボランティア運営のこども食堂でしか提供できないものもあるだろう。だが、こども食堂としてそれなりのサービスを提供されるのなら、ファミマのような大企業が利益を度外視して参入することはいいことなのではないか。そこに営利(宣伝効果)や売名があったとしても。皆さんもお気づきだと思うが僕はこの文章で意図的にかなり大袈裟で雑な試算をしているが、こども食堂の運営の厳しさはわかっていただけたと思う。こども食堂運営の問題は、その運営母体が何であるかよりも、《助成金なければ1食堂当たり月136,000円の赤字》《無償ボランティアと協力・寄付に依存せざるをえない》この実態を僕らがどうとらえるか、なのである。ファミマに続く企業があらわれ、助成金が増額されて、ファミマのような企業型、有償ボランティアにより運営される従来型、二種類のこども食堂が棲み分けして両立するのがいいのではないか。「こども食堂助成金増額…そういう税金の使い方なら納得できるのだけどね…」と綺麗ごとを吐きつつ、実際に「こども食堂増税」なるものが実施されることになったら真っ先に反対してしまう、心の汚れた僕なのである。(所要時間37分)