分布を拡大した外来鳥,いなくなった外来鳥 | バードリサーチニュース

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分布を拡大した外来鳥,いなくなった外来鳥

バードリサーチニュース 2020年7月: 1 【活動報告】
著者:植田睦之(全国鳥類繁殖分布調査会/バードリサーチ)

「ピャ ピャーピャー」
植木畑の藪の中から声。いったい何の声だ?
 一昨年の夏,30年以上通いつづけているツミのフィールドで,聞きなれない声。おかしな声を出すヒヨドリなのか,それとも迷鳥か? と声の主を探すこと十数分。頭の中の候補にも入っていなかった外来鳥のカオグロガビチョウだということがわかりました。ここから20㎞くらい離れた西多摩では分布が拡がっていると聞いていましたが,この辺りでは初めての記録です。その後,昨年,今年と継続して見られています。

 今年度末の完成を目指して行なわれている「全国鳥類繁殖分布調査」では,これまでに29種の外来鳥が記録され,インドクジャク,コクチョウ,ダルマインコ,サンジャク,カオジロガビチョウ,ヒゲガビチョウ,インドハッカが今回新たに記録されました。カオグロガビチョウのように,以前はほとんどいなかったものが,分布を拡げて定着している種も多くいましたが,逆に記録されなくなった種もいました。
 ガビチョウやソウシチョウ,コジュケイ,ホンセイインコについては,このニュースレターでもすでに何度も紹介していて,メジャーどころとして図鑑等にも掲載され,情報があります。しかしそれ以外の種については,あまり情報がないので,ぼくのカオグロガビチョウでの経験のように,見かけても,パッと思い浮かべることができません。そこで,分布を拡大している種について,繁殖分布調査で分かった分布の状況とその姿や声について紹介したいと思います。もし,この分布図に示した場所以外で最近観察されている方は,分布図に反映したいと思いますので,ぜひ以下のサイトよりご報告ください。
http://www.bird-atlas.jp/bbaq.html


・カオグロガビチョウ
 元々の生息地は中国中南部とベトナム。東京から群馬にかけての関東で定着し,分布を拡大している。全長30cmと日本で記録されているガビチョウの仲間では最大。声も姿もヒヨドリに似ていて,目のまわりの広い範囲が黒いのが特徴。声は単純なピャーという声の組み合わせで,けたたましく鳴く。ほかのガビチョウ類は,森の鳥という感じだが,カオグロガビチョウは農地や住宅地に林の点在するようなより開けた環境に生息する。

図1 カオグロガビチョウの分布の変化(撮影:内田博)



・カオジロガビチョウ
 元々の生息地は中国や東南アジア。群馬などの北関東に定着し,分布を拡大している。全長23cm。赤褐色で,顔が白く目から後頭部へ線が引かれており,中国の仮面のよう。声は,チュン チューン チュチュチューンと昭和のテレビゲームの射撃音のような声。藪の発達した平地林に生息するが,林が点在するような開けた場所にも生息する。

図2 カオジロガビチョウの分布の変化(撮影:平野敏明)



・ヒゲガビチョウ
 元々の生息地は中国南部からインドにかけて。四国で定着し,分布を拡大している。全長24cm。虹彩が淡色のため,きつい感じに見える。また,赤褐色で,初列風切が灰褐色の部分があり,頭部,三列風切,尾羽などに白黒の模様があるためか,カケスっぽい印象を受ける。声はソウシチョウやガビチョウと似た系統の声だが,か細い感じがする。藪の発達した林に生息する。

図3 ヒゲガビチョウの分布の変化(撮影:谷岡仁)



・ハッカチョウ
 元々の生息地は,中国南部,台湾,東南アジア。大阪から兵庫,香川にかけて定着し,分布を拡大している。関東でも横浜で定着しているが,東京では1980年代は各地で一時定着していたものの,現在は見られなくなった。全長27cm。全身黒色で,くちばしの根元に冠羽がある。飛ぶと翼の白斑が目立つ。ムクドリに似た声で鳴くが,もっと澄んだきれいな声もだす。農耕地など開けた環境に生息している。

図4 ハッカチョウの分布の変化(撮影:渡辺美郎)



今回記録されなくなった種
 過去に記録されていて,現時点で情報がないのが,コリンウズラ,セキセイインコ,オキナインコ,ヤマムスメ,ベニスズメ,コシジロキンパラ,ギンパラ,キンランチョウ,ヘキチョウ,ブンチョウ,コウカンチョウです。
 特にベニスズメは1970年代は全国的に見られ,繁殖も始め,定着したと思われていましたが,今回は記録されていません(図5)。鳥類標識調査でも,2000年代からは記録が極めて少なくなっていて(山階鳥類研究所 2014),2010年以降は放鳥記録がないそうです(山階鳥類研究所 2020)。以前は「格安の」飼い鳥としてたくさん輸入され,お祭りなどでも売っていたそうですが,鳥インフルエンザの影響もあって,現在は輸入がほとんどなくなり,逃げ出す個体がいなくなったのが原因の1つだと思われます。ギンパラも同様でした。

図5 ベニスズメの分布の変化

 

 全国鳥類繁殖分布調査で得られているこうした分布情報は外来鳥対策にも役立つものです。分布拡大のパターンからガビチョウでは積雪や都市の存在が分布拡大の障壁になっていることがわかってきました(菊地ほか 2019)。これだけ拡がってしまうと,対策は難しいのですが,こうした障壁の先で重点的に捕獲などの対策を行なえば,別の個体がさらに入ってくることは少ないと考えられるので,これ以上の分布拡大は効率的に抑えられるかもしれません。また新たな外来鳥の定着がないようにすることも重要です。定着種はチメドリ科(ガビチョウやソウシチョウの仲間)の鳥が多く,チメドリ科の鳥は逃げ出すと定着しそうなので,ペットとしての輸入しない方が良いくらいしか,現時点では言えませんが,もし,どんな習性をもつ種が定着し,どんな種が定着できないかとか,一般的に言えるようになれば,水際対策がすすみそうです。それには,定着した種,定着しかけたけどできなかった種の情報が重要で,こうした情報を今後も蓄積していきたいと思います。

引用文献
菊地智久・藤田剛・植田睦之・宮下直 (2019) 分散障壁と生息地に着目した特定外来種ガビチョウの分布拡大パターン解析.日本鳥学会2019年度大会講演要旨
山階鳥類研究所 (2014) 平成26年度 環境省委託業務 2013年鳥類標識調査報告書
山階鳥類研究所 (2020) 平成31年度 環境省委託業務 2018年鳥類標識調査報告書