来年の春、桜が咲く季節にさくらとめえはいないが、2頭が除草した桜山で咲き誇る桜景色はきっと特別なものになるだろう。
ー終わりー
根岸森林公園
住所/横浜市中区根岸台1−2
2018(平成30)年10月上旬、はまれぽ編集部に一本のメールが届いた。
「根岸森林公園にヤギがいます」
ヤギか・・・またか(笑)。
過去に大学で除草するヤギや戸塚駅のホーム付近にいるヤギを取材したからだろうか、半年に1度くらいのペースでヤギについての情報が寄せられる。
今回は、「草刈り隊」と呼ばれる2頭のヤギだ。昨今、ヤギの除草は一般家庭からも依頼があるほどの人気を集めており、そこまで物珍しいものではない。根岸森林公園の広い敷地を自由に駆け回って除草しているのであれば、それはそれで『アルプスの少女ハイジ』っぽくて面白い絵だ。
ということで、早速ヤギに会いに行くことに。バスで中区の「旭台」を目指す。
取材日はすこぶる天気が良かったので撮影日和。「ヤギは白いから白飛びしないかなぁ~」なんて、ちょっとウキウキしている自分に気付く。
根岸森林公園を管理している横浜植木株式会社の沼田久代(ぬまた・ひさよ)さんによれば、「『桜山』という場所を3等分にして、いまは真ん中にいます」とのこと。残念ながらヤギが芝生を駆け回る“ハイジの世界”はおあずけのようだ。
草刈り隊
芝生広場から桜山へ向かう途中、桜山方面に白いテントのようなものが見えた。
ほどなくして、桜山に到着。
特に大げさな感じもなく普通にヤギがいる。しかし、食休み中なのか小屋の中から一歩も出てこない。近くに立てられていた看板に2頭の名前が書いてあったので、試しに名前を呼んでみる。
「さくらさーん、めえさーん」
そうかそうか、やはり今は眠いのだな。まぁいい、気長に待つか、と思ったその時、お散歩中のおじさまが2頭の元へ寄ってくる。
出てきた~! 顔なじみのおじさまの声に反応したのか、スッと出てきた。
おじさまは、「ここには毎日来てるけど、草の様子は全く違うよ。この間なんて切り株に登ってモグモグしていたから、きっと新芽が好きなんだろうね。いつもはめえの方が呼べば来てくれるんだけどね、今日は眠いみたいだな」と2頭に優しい笑顔を向ける。
さくらとめえの愛称は一般から募集して決定、任期は2018(平成30)年9月8日~12月1日までという。
小屋の前で観察していると、「ヤギだって~!」と足を止める親子、「出てこーい」と覗き込むご夫婦、ランニング中のランナーも目を小屋に向けていた。
そういえば、看板には性別に関しての記載がなかった。
念のため沼田さんに確認すると「2頭とも、いわゆるオネェなんですよ。オスは発情期になると匂いが強く出るみたいで、いろいろな場所に派遣されるヤギさんたちなので去勢をしたと聞いています。ちなみに2頭とも富山県から派遣されたヤギさんです」とな。
可愛いだけじゃないわよ
もともと桜山の除草作業は専門業者に委託していたが、環境保護や費用の観点からヤギによるエコ除草に注目。
2頭が担当している桜山は通常立ち入り禁止で、春先と秋口の年に2回除草作業を行っている。ヤギの管理には逃亡や侵入を防ぐための電気柵を設置する必要があるため、普段からロープ柵で囲ってある桜山を草刈り隊の就任地に選んだという。
以前は人件費(機械代や燃料費も含む)や草の処分代などおよそ60万円強かかっていたものが、ヤギを導入することで費用は3分の1ほど削減。
草刈り機の騒音や二酸化炭素の排出はなく、桜の木を傷付けないように作業する必要もないので、環境にも懐にも優しい。加えて、公園へ遊びに来る子どもたちの情操教育や地域住民の楽しみにも繋がり一石三鳥どころではない。
また機械では入れないような狭い場所や傾斜、デコボコな場所でもヤギなら問題なく食事ができる。糞尿は肥料となって土壌が安定するので、桜山にとってデメリットはほとんどないのだ。
一番重要な除草技術に関しても、本能で作業(食事)に取り組んでくれるので実力も申し分ない。
沼田さんは、「最初2頭に会った時、骨がゴツゴツして骨ばっているから栄養失調なのかと思ったんですけど、そういう種類みたいです。1日にだいたい3kgの草を食べるそうですよ」と話す。
主食が草だから当たり前かもしれないが、辺り一面の好物を食べつくしても太らないなんてうらやましい。
2頭で作業するのにも理由がある。ヤギは群れで生活する動物なので、仲間がいることで安心して食事ができる生き物なのだ。
この愛らしくも無心にエコ除草に励む姿は、来園者から可愛がられ、人を見つけると寄ってくるらしい。(なぜ筆者が呼んだ時はこなかったのか・・・)
さくらとめえが就任してすぐ、「家が小さいんじゃない?」「雨や風は大丈夫?」と一般の方から2頭を気遣う問い合わせもあったのだとか。沼田さんが2頭のオーナーに確認したところ、「元来は野生の生き物なので台風も平気だし保護しなくても大丈夫です」と回答があったようなので安心した。
本業は除草作業だが、訪れる人々の心を癒す一面も大いに担っている。そのご褒美と言ってはなんだが、2頭が喜びをあらわにする時間がある。
草以外を嬉々として食べている2頭が見たい場合は、午後3時の時間帯がオススメだ。
11月11日には「馬とのつどい2018」と題したイベントではさくらとめえが芝生広場に放たれ、馬の博物館からは在来馬も参加。ヤギと馬、ダブルで触れ合えるのでキニナル方はぜひ足を運んでみてほしい。