キンプリ・永瀬廉と高橋海人のアンサンブルが最も映える楽曲は? アルバム『ピース』名曲解説(2024/10/14 15:00)|サイゾーウーマン
キンプリ『ピース』の隠れた名曲

キンプリ・永瀬廉と高橋海人のアンサンブルが最も映える楽曲は? アルバム『ピース』名曲解説

2024/10/14 15:00
伏見瞬(批評家・ライター)
『ピース』(通常盤)の画像
King & Prince『ピース』(通常盤)

 CDアルバムを聞いたとき、シングルカット曲やリード曲ではないけれど、「これは名曲だ!」と感じる作品を発見したことがある人は少なくないだろう。批評家・ライターで『スピッツ論 「分裂」するポップ・ミュージック』(イースト・プレス)の著者として知られる伏見瞬さんにKing&Prince(以下、キンプリ)の5thアルバム『ピース』(通常盤)から“隠れた名曲”候補をセレクトしてもらった。

目次

King&Prince『ピース』(通常盤)収録曲
キンプリはアイドルとしての責務と歓びに自覚的
名曲候補1「分かってるつもり」
名曲候補2「Recolor」

※2023年9月30日公開の記事を再編集しています。

King&Prince『ピース』(通常盤)

リリース:2023年8月16日
レーベル:Johnnys’ Universe
収録曲
・静寂のパレード
・My Love Song(リード曲)
・なにもの(13thシングル)
・That’s Entertainment
・分かってるつもり
・かた結び
・ワレワレハコイビトドウシダ(高橋海人のソロ曲)
・CHASE IT DOWN
・TLConnection
・Recolor
・きみいろ(永瀬廉のソロ曲)
・君に届け
・Happy ever after
・TOGETHER WE STAND

キンプリはアイドルとしての責務と歓びに自覚的――5thアルバム『ピース』レビュー

 King&Princeが永瀬廉と高橋海人の2人体制になって最初のアルバム。「静寂のパレード」と題された冒頭曲に顕著なように、3人のメンバーと袂を分かつことになった寂しさを受け入れながらKing&Princeを続けていく、というのが本作で描かれる物語だろう。

 管楽器が勇壮に鳴る三連符のマーチの上で、「願わくばもう一度/笑いあえるように」と歌う言葉は、ファンの寂しさの大きさに応える力を持っている。その後は、「My Love Song」「かた結び」「君に届け」でKing&Prince王道のストリングスが華やぐラブソングを届け、「なにもの」「CHASE IT DOWN」では、これからへの思いを示す。

 「TLConnection」では、(TLCを意識したであろう)90年代風R&Bに乗せて、エロティックな欲望を肯定する。リスナーとの関係を楽曲で重視するのはジャニーズグループの伝統だろうが、King&Princeは特にその関係性に重きを置いていることが伝わってくる。さすがファンを「シンデレラガール」に見立てた曲でデビューしたグループだけある。

 そして、事務所に直談判して自らの望む形でグループデビューを実現させたエピソードにも表れるように、彼らが描く物語は他人からの押しつけではない。アイドルとしての責務と歓びに自覚的であることが、King&Princeというグループの魅力なのだろう。

キンプリ『ピース』名曲候補1「分かってるつもり」:
聞けば聞くほど好きになる佳曲

 フルートで吹かれるメロディの寂しい暖かさと、その後ろで鳴るギターカッティングの爽やかな涼しさ。ロックバンド・Tempalayの小原綾斗が作詞・作曲を担当した本曲は、「夏が横切って行くわ」というフレーズ通り、夏の終わりに流れる空気のようなミドルテンポのナンバー。同じメロディラインを、永瀬廉が歌う最初のパートはメジャーコード、続く高橋海人のパートはマイナーコードにしており、その変化が歌でしか出せない曖昧なフィーリングを生み出している。

 2番の終わりに挟まれる転調も、夏から秋へ、昼間から夕方へ変わる様を表していて見事。コーラスのかかった左右のギターと渋い音質の鍵盤との絡みも、2番でのリズムパターンの変化も心地よく、楽曲と演奏共に効果的な工夫が為された美しい佳曲。変わっているような変わっていないような微妙な感覚を、景色と恋愛関係双方にかけるリリックは巧みで、「あまりにも夏は激しく求めあって」から「でも忘れてしまうの」までの間にある感情と関係の機微が、穏やかな曲調と親密に混じり合う。そして、決して確かさへとたどり着かない二者の関係を、「分かってるつもり」という一語で切り取るコピーライティングも素晴らしい。聞けば聞くほど好きになる。

キンプリ『ピース』名曲候補2「Recolor」:
グループの再出発とも重なる楽曲

 メジャーとマイナーとセブンスが混じり合って、長調とも短調ともつかない洒脱な気配をもたらす、良い意味で都会的なR&Bソング。永瀬のクールで少し低い声と、高橋の少し高い優しい声のアンサンブルは、こうした楽曲で最も映えるように思う。ラップパートも、「That’s Entertainment」の速いジャズソングより、こちらのレイドバックしたリズムのほうがハマっている。「風に吹かれて/駆け抜けるHighway」といったさりげない三連符のライミングも心地よい。

 2人でのドライブに、キャンバスに色を加えるメタファーを重ねるリリック。恋愛の絶頂ではなくリラックスした風景を切り取るような世界観において、「呼吸を求める」「重ねた温度に焦がれる」「こんな夜に溺れていたい」と、性的なフレーズを紛れ込ませるバランス感覚。優しさ、クールさの中に、潤ったセクシーさが息づく2人のボーカルは言葉の中のエロティシズムをつかみ取って、退屈に陥りそうな感情をRecolorしていく。

 そして、色を塗り直すという主題は、グループとしての再出発とも重なる。歌のフィクションの中での恋愛関係、永瀬と高橋のグループ内の関係、グループとのファンとの関係が、ひとつの楽曲の中に織り込まれている。



伏見瞬(批評家・ライター)

伏見瞬(批評家・ライター)

文筆家/批評家。 音と言葉に関わる文化全般に関する執筆を行いながら、 旅行誌を擬態する批評誌『LOCUST』の編集長を務める。 2021年12月に初の単著となる『スピッツ論 「分裂」するポップ・ミュージック』をイーストプレスより刊行。

X:@shunnnn002

最終更新:2024/10/14 15:00
「アイドルとしての責務と歓びに自覚的」!