アンミカのポジティブ正論に何も言えなくなる、「婦人公論」のきょうだいインタビュー(2023/07/02 16:00)|サイゾーウーマン
[女性誌レビュー]「婦人公論」2023年7月号

アンミカのポジティブ正論に何も言えなくなる、「婦人公論」のきょうだいインタビュー

2023/07/02 16:00
島本有紀子(ライター)
婦人公論」(中央公論新社)2023年7月号

 「婦人公論」7月号(中央公論新社)が発売中です。今月号の特集は「きょうだいの壁」。これまで同誌では、“夫・母・子ども”関連の話題が取り上げられがちでしたが、そこに“きょうだい”も加わってきました。いわく、大人になって距離ができていたきょうだいでも、年を取るにつれて「親の介護や看取り、相続のほか、病を抱えたきょうだいのサポートなどで、再び向き合う機会が増える」のだとか。

 由紀さおり・安田祥子姉妹、ビリー・バンバンなど、実に「婦人公論」的なシブいきょうだいたちがインタビューに登場し、きょうだいの良さを語っていますが、読者アンケートのコーナーでは「関係が悪く、疎遠になったきょうだいはいますか」の質問に「はい」と答えた人が84%と出ています。果たして、中高年きょうだいの現実とはどんなものなのでしょうか。早速、中身を見ていきましょう!

<トピックス>
◎読者アンケート 私たちが絶縁した理由
◎読者体験手記 金の切れ目が縁の切れ目!?
◎アンミカ 押し寄せる試練で深まった5人の絆

みんなが由紀さおり・安田祥子みたいにはいかない

 中高年きょうだいに迫る特集「きょうだいの壁」。由紀さおり(76歳)・安田祥子(81歳)は、姉妹デュオ41年目を迎えた歴史を語ったり、ビリー・バンバンの菅原進(75歳)は、兄の菅原孝(78歳)から「親の顔が見たいよ」と言われると「同じ親だろ」と返す“きょうだい鉄板ネタ”を明かしたり、和やかなインタビュー記事が続きます。

 しかし、読者アンケート「私たちが絶縁した理由」では一転。不穏なタイトルからも察しが付くとおり、「関係が悪く、疎遠になったきょうだいはいますか?」の質問に「はい」と答えた読者は84%、「会う頻度はどれくらい?」の質問に「絶縁状態である」と答えた読者も46%に上りました。「距離を置いた理由」の回答第1位は「相続」。「妹が、私と弟の知らぬ間に父の印鑑を使って遺産を妹夫婦のものにしようとした」(75歳)、「父が亡くなった途端、8年ほど音信不通だった弟が実家に来て長男面をした」(49歳)、など憎しみがにじみ出る回答が紹介されています。


 「専門家が教える 介護と相続で仲違いしないヒント」というコーナーに登場する税理士・秋山清成氏の見解によれば、ずばり「財産が少ないほど争いは起きやすい」そう。「お金持ち一族の相続争いは、一度も見たことがない」「そもそも資産が多い家は、あらかじめ相続対策をしっかりと行っている」とのこと。耳が痛い話であるとともに、読者アンケート回答層の切ない経済事情が垣間見えた気がします。

金の切れ目できょうだいの縁が切れた読者たち

 読者体験手記の紹介コーナーも、テーマはきょうだい間の金銭トラブル。姉の息子が借金を作ったことで相続放棄せざるを得なくなった女性(73歳)と、父親のきょうだいに悩む女性(40歳)の投稿が紹介されています。後者の投稿者の父親は、父親の弟・妹、合計4人に金銭的援助をしすぎているとのこと。自分が興した会社にも雇ったうえ、その会社のカネまで使い込まれている……とか。

 父親の言い分は、両親の「きょうだい仲よく」という言葉を守っただけというものですが、「家に入れるお金より、弟や妹たちに費やした金額のほうがはるかに多い」「この人たちは生来の守銭奴だ」と憤る投稿者。事故で脳に損傷を負った父親に代わり、「彼らと闘い続ける」「逃げるわけにはいかない」と煮えたぎる思いをつづっています。その決意を支えるのは、「父の財産は、母や私の財産でもあるのだ」という思い。父親の弟・妹側は、「兄の財産は、私たちの財産でもあるのだ」「姪は生来の守銭奴だ」と思っているかもしれないな……と想像すると複雑です。

 前述の税理士が言う「お金持ちは相続で揉めない」が真実とすると、人の金をあてにせずともそこそこ満足して生きられるくらいに、日本の財政が復活してくれることを願うしかないのかもしれません。

アンミカの「感謝」「絆」あふれる壮絶過去話に漂うもの

 由紀さおり・安田祥子やビリー・バンバンの平和なきょうだいインタビューと、読んでいると気が重くなってくる読者の中高年きょうだい事情。その間には深い河が流れているようですが、そのどちらとも違う次元のオーラを漂わせているのが、アンミカのインタビュー「貧困、いじめ、早すぎる両親との別れ 押し寄せる試練で深まった5人の絆」です。


 アンミカは兄・姉・妹・弟の5人きょうだい。アンミカいわく、それぞれが自分の特技を生かして自立しており、年末年始はアンミカ夫妻に伴ってハワイで過ごしたり、LINEでしょっちゅうやりとりしたり、物理的距離はあっても「心はずっと繋がって」いて、「強い絆」で結ばれていると語っています。その理由はというと、「一緒に困難を乗り越えてきた」から。貧困・韓国人差別・いじめ・ヤングケアラー・中学時代の母親の死・20代での父親の死など、壮絶な困難を前に、互いを支え合ってきたのだそうです。

 そんなアンミカきょうだいが大事にしているのは、「感謝を忘れないこと」。いじめを受けたときに相談した神父の言葉――「神様はその人をより幸せにするために、その人にしか乗り越えられない苦労をお与えになる」「自分から被害者意識を取り除くことが大事」を胸に生きてきたと語ります。こすり尽くされた感もある自己啓発書的な言葉が並びますが、できすぎた物語的な人生を送るアンミカに言われると、何も言えなくなります。

 読者アンケートや体験手記コーナーを読んでいるうちに、「お金持ちには相続争いが起きないとか言われてもねぇ……今はこんな時代だから、みんなお金に困っているのはまあ、しょうがないよな……」という諦めの気持ちがわいてきましたが、だんだん脳内に、アンミカの「被害者意識持つだけじゃアカンねん!」「神様ってな、乗り越えられない苦労は与えないねん!」「どんなときも感謝と笑顔だけは忘れたらアカンねん!」(内容・関西弁ともに想像)という声が響くようになりました。

 この、誰しもどこかで聞いたことのあるであろうポジティブ正論を、疑問を持たず堂々と言えるようになることが、物語的な人生を歩む第一歩なのか? そんなことを考えさせられるアンミカインタビューでした。


島本有紀子(ライター)

島本有紀子(ライター)

女性ファッション誌ウォッチャー。ファッションページから読み物ページまでチェックし、その女性誌の特性や読者像を想像するのが趣味。サイゾーウーマンでは、「ar」(主婦と生活社)と「Domani」(小学館)レビューを担当していた。

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最終更新:2023/07/02 16:00
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