2020年、K-Popに氾濫した「ドゥンバキ」楽曲はなぜ生まれた? 音楽的側面から解説! 21年はaespaとStray Kidsに注目!? (2021/01/04 19:10)|サイゾーウーマン
K-POPタテ・ヨコ・ナナメ斬り【番外編】

2020年、K-Popに氾濫した「ドゥンバキ」楽曲はなぜ生まれた? 音楽的側面から解説! 21年はaespaとStray Kidsに注目!? 

2021/01/04 19:10
サイゾーウーマン編集部
BTSが世界を席巻した2020年

 BTSが米国進出で大成功を収め、日本ではNiziUが話題を集めた2020年。「K-Pop」というコンテンツが世界的に評価される動きがあった20年は、どんな1年だったのだろうか。K-Popに関するメディア出演や、イベントを主催するキーパーソン3名に、20年のK-Pop動向を音楽面から振り返ってもらった。

<座談会出席者プロフィール>

■e_e_li_c_a 2006年からDJを始めヒップホップ、ソウル、 ファンク、ジャズ、中東音楽、 タイポップスなどさまざまなジャンルを経て現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」を主催。楽曲的な面白さとアイドルとしての魅力の双方からK-POPを紹介して人気を集める。

■DJ DJ機器 K-POPオタク。現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」「Liar Liar」をe_e_li_c_a と主催。block. fmのK-POP番組『HB STUDIO』にレギュラー出演中。

■ラブ子 K-POPオタク。昨年K-POPファンの間で広まった「ドゥンバキ」というワードを最初に言い出した人。主なオタ活拠点は現場とTwitter。


“安直な”K-Popが目についた20年

ーーe_e_li_c_aさんとDJ機器さんが、昨年12月に出演されたTBSラジオ『アフター6ジャンクション』で、2020年のK-POPにおける音楽的な傾向に触れていましたが、あらためて全体的な潮流はどうでしたか?

e_e_li_c_a BTSの「Dynamite」によってディスコに火がつきましたが、K-POPアイドルはディスコサウンドの楽曲は今までもたくさんリリースしていましたよね。ディスコ以外だと「ニュートロ」の傾向もありました。EVERGLOW 「LA DI DA」とかTWICE 「 I CAN’T STOP ME」あたりでしょうか。

ラブ子 ディスコもニュートロもそうですが、全体的に2010年代頃のいわゆる「K-POP」の原点に戻ったように感じました。BTSが売れすぎて、各事務所も何が正解なのかわからない状態なのかもしれません。

DJ機器 そうですね。楽曲として何が売れるかわからなくなっている。世界的に見てもどんなジャンルがはやっているのか本当にわからない時代だと思います。だって、ビルボードでBTSの「Dynamite」の下に「WAP」(Cardi B feat. Megan Thee Stallion)があるわけで(笑)。

ラブ子 BTSが売れた理由を明確に説明できる人はほとんどいないですよね。私はBTSが成功した要因として、メンバーの個性とバックグラウンドがストーリーとして作品とリンクし、共感を得たことが大きいと思っているんですけど、2020年はストーリーではなく「K-POP」という「音楽ジャンル」の正解を見つけようとして各自奮闘していた1年だったのではないかと思うんですよね。ストーリーを効果的に生み出せるサバイバル番組が不祥事などもあり、大々的にやりづらくなったというのもあるかもしれません。


 その流れの中で、ガールズグループはK-POPとして満遍なく面白いものを全部やってくれたのかなと思っています。コロナの渦中でも、ちゃんとエンパワメントしてくれた。次のブームを予感させるような斬新な楽曲もリリースされたし、今までと路線を変えて頑張っているグループも自分らしさを失わなかったように感じます。Weeeklyの新人アイドルらしい王道のK-POPも良かったですね。

ーーボーイズグループの難しさというのは、楽曲としてヒットがなかったということでしょうか?

ラブ子 やっぱりBTSが“上がっちゃった”感じはありますよね。BTSとアワードを争い続けてきたEXOも兵役でグループとしては活動が制限されしまった。

DJ機器 BTS、 EXOの下の椅子に座る明確な2番手グループがいないように感じますね。3、4番手あたりに固まっているように見えます。

e_e_li_c_a 世代的な話ではなく、売り上げやコンサートをやる規模みたいなものを考えると、2番手にはGOT7とSEVENTEEN、MONSTA X、NCTあたりが入ってくるとは思いますし、世代的な話でいうとVIXXやBlock Bなどのメンバーは兵役に行っていて、残っているメンバーでソロ活動をできる人がしているという印象です。

ラブ子 K-POPアイドルって昔から「3年目ぐらいで殻を破らなきゃいけない」という意識が、どのグループにもあると思うんですけど、まさにその3、4番手の世代を中心に、多くのアイドルが同じ方向性ーー「ドゥンバキ」に走ったイメージがあるんですよ。

ーー20年、SNS上で「赤黒ドゥンバキ」「ドゥンバキ」という、いわゆる「K-POPぽい」ドゥーン、バキバキーッとした印象の楽曲を表現するワードが多用されていました。ラブ子さんがネーミングされたそうですね?

ラブ子 まずビジュアルのコンセプトとして、19年の年末から20年の年明けにかけて、複数のグループが割と似通ったダークなイメージ――「赤」と「黒」の2色でカムバックして、今までのイメージを打ち破ろうとしていたんです。THE BOYZの「REVEAL」や、PENTAGONの「Dr.BEBE」、イ・デフィ(AB6IX)のソロ楽曲「ROSE, SCENT, KISS」等がそうですね。

 4月に始まったMnetの『Road to Kingdom』という番組では、その世代周辺のアイドルが集められて、お互いに競いながら色々なステージを披露していたのですが、そこでもやはりダークなコンセプトがほとんどでした。もちろん印象に残る良いステージもたくさんありましたが、どちらかといえば楽曲そのものよりも、ステージでの見せ方を追求するパフォーマンスの多さに違和感がありました。

 元々自分は歌謡祭やアワードで見せるような「見せ場」として唐突に挟まれるダンスブレイクに食傷気味だったのですが、言ってしまえば『Road to Kingdom』はそれが延々と続く番組だったんです。そこで出てきた言葉が、原曲をTrap風にアレンジしてバキバキに踊ればカッコいいんだ、という安直さを揶揄した「ドゥーンバキバキ」だったんです。

 番組が終わった後も「赤と黒」や「ドゥンバキ」のイメージを打ち出してカムバックするアイドルが続々出てきて、2つを組み合わせた「赤黒ドゥンバキ」という言葉もいつのまにか生まれていました(笑)。

ーー3番手の世代が、そうした方向性にいったんですね。印象的なグループはいますか?

ラブ子 やっぱり自分の中ではTHE BOYZですね。彼らは楽曲を自作したり、制作面で苦悩するグループというよりは、与えられた楽曲で元気に活動するタイプのグループで、個々のキャリアやスキルの成長をストーリーとして見せていくグループではなかったんです。そこに「赤と黒」や「ドゥンバキ」というダークでシリアスなコンセプトを打ち出されても、“借りてきた感”が否めなかったんです。方向性の転換が唐突すぎたように感じたんですね。

e_e_li_c_a たしかに。でもTHE BOYZに関しては、その方向性でアルバム売上枚数や音源チャート、音楽番組での1位獲得など成功と言っても良い成績でしたからね……。

DJ機器 VERIVERYも、今年は<Face>シリーズでダークな路線を打ち出してきてはいたけど、「G.B.T.B」でトドメを刺した感じでしたね。

ラブ子 「ドゥンバキ」で検索するとVERIVERYファンが一番動揺していたように感じました。シリーズとして見ても、ここまで培ってきたコンセプトを変えてまでやる曲なのか、という疑問があるんですよね。VERIVERYに限らず、ドゥンバキに走ったグループの中には音楽的素養に恵まれたアイドルもたくさんいるのに、安直な戦略に巻き込まれて、こぞって赤と黒に乗ってしまったんではないかと。イメージ脱却のツールとして、ダークなコンセプトを安易に使わないでほしかったなと私は思いますね。特に今年はコロナで大変な年だったから、シリアスな路線より元気をもらいたかったです。

ーーいわゆる「K-POPっぽさ」という定型が完成した、ともいえるんでしょうか?

DJ機器 「K-POP」をやりたい人たちからすると、ああいう感じがいいのかもしれませんね。

ラブ子 手堅いというのもあると思うんですが、アイドル本人にもそれが大衆にウケるという認識があるのかもしれないですね。先日見た、『YG宝石箱』というサバイバル番組では、評価の過程でいろいろなステージを用意するのですが、どの練習生もちゃんと自分の持ち味を生かした素敵な楽曲を選ぶんですよね。その中でラッパーとしてもクリエイターとしても才能に溢れたヒョンソクという、一見アイドル的な楽曲とは無縁そうな練習生が、最終評価の直前で真っ先に何の迷いもなくWanna Oneの「Boomerang」を選んだことが本当に印象に残っているんです。洋楽が好きで、本格的なソウルやヒップホップの素養を持った練習生でも「勝つためのK-POP」というイメージを持っていたり、みんなの頭の中になんとなくひな形となる「K-POP」のイメージがあるんだなと思って。

DJ機器 なんらかのぼんやりした「K-POP像」みたいなものができてしまっているのかもしれません。先日、出演したラジオ番組でドゥンバキ系の曲が流れたときにパーソナリティの方から「なんかK-POPって感じですね!」っていうコメントが出た際に、いつもK-POPをそこまで聞いていない人からしても「最近よくあるK-POP」という認識があるんだなと思ったんです。ということは、韓国の事務所や業界内の人たちにも「外から見たかっこいいK-POP」のイメージになりつつあるのではないでしょうか。

ーー逆にドゥンバキが様になる人たちはいますか?

DJ機器 声質など楽曲との相性はもちろんあると思いますが、説得力をもたせる何かが重要だと思います。東方神起は元々テーマカラーがパールレッドというのもあるのですが、もうオーラと言うか迫力がすごいですし、MONSTA Xはジュホンの声質の他にも、ヒップホップの濃い部分をやってきているので、良い意味で治安の悪さと相性がいいように感じます。一見線が細く見えるグループは、どうせなら爽やかなほうが似合うのではないかと思ってしまうんです。

ラブ子 K-POPにはいわゆる「トンチキ」と呼ばれるようなユーモアやユニークな部分も大事ですよね。ドゥンバキにもそういった部分がもっとあっても良いんじゃないかと考えていて、私自身はSHINeeの「Everybody」がドゥンバキの最高峰だと思っているんですよ。初めて見た時は本当にものすごい衝撃で。この衣装で、こんな面白い動きで踊っていいの? って。でも、ちゃんとステージの上では成り立っているんですよね。純粋にかっこいいものとして。

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