スノーデンの公表した日本関連文書 - 山形浩生の「経済のトリセツ」

スノーデンの公表した日本関連文書

昨日、スノーデン関連の本をざっとレビューしたとき、小笠原みどりの『スノーデン・ファイル徹底検証』についてかなり論難した。

これはほとんどが、 Interceptが出したスノーデン文書をネタにしたものだった。でも、そもそもこのInterceptの出した文書というのはどういうもので、どんな文脈だったのか? 小笠原本があまりにひどかったので、好奇心にかられて見てみました。そして、そっちがあまりにまともだったのでおどろいた。というわけで、勝手に翻訳したからみなさんも読んでね。

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(原文はこちら)

小笠原本は、この記事と開示文書をもとに、一言一句に自分語りと自分のイデオロギーをまぶして本一冊にふくれあがらせたものだった。そしてとにかく日本はNSAと協力してる、陰謀に加担して、あーおそろしい、いやいや、秘密保護法いくない、アベガー、という話になっていた。

でも、この記事を読んでみて、みなさんはどう思っただろうか? ぼくはそんなに日本やべー、という印象は受けなかった。むしろ、日本がんばってるじゃん、という印象だった。なんでもアメリカの言いなりかと思ったら、そうじゃないよね。自分の立場も保って、おかげでアメリカ側もかなり気を使っている。大韓航空機事件から諜報の提携が始まっているというのも興味深いところ。

それ以外の話はどうだろうかNSAが日本に拠点を持っている——まあ持ってるだろうねえ。日本がその施設建設費とか運用費用とかを負担させられている——日米安保思いやり予算とかあるからなあ。その範囲内ではそういうこともあるだろう。諜報だって軍事活動の一環なんだから。小笠原本は、日本の三沢基地でのSIGINTがアフガンとかの爆撃など作戦行動に使われるといって、人殺しの片棒担ぎだと騒ぐけど、ぼくはそれがそんな騒ぐことだとは思えない。建前やお題目はどうあれ、軍事基地なんだし、そこにある戦闘機や銃器が戦闘で殺傷に使われないはずがない。そこで集めた情報がその支援に使われることだってあるだろう。そしてその細かい内容がわからないのは、日米安保という枠組みで国の基本機能である防衛の一部を委ねている代償としてのお約束事だ。その仕組みを受け入れるなら、ぼくはここに書かれたような内容はそれほど衝撃だとは思えない。

それを衝撃だと言いたい人たちはもちろん、日米安保という仕組み自体を受け入れたくない、ということなのかもしれない。が、それは話の次元がちがってくる。

一方、NSAは日本に対しても諜報活動を行っているとか、アメリカにいる日本人に対して盗聴を行ってるとか、まあ気分はよくないけど、でもそれはそういうもんだろう。日銀なんて盗聴するだけ無駄だとは思うけど。ぼくの一家ですらやられたし。

cruel.hatenablog.com

捕鯨委員会でNSAが盗聴してじゃましくさって、モラトリアム継続になったって、テメーら許せん! と日本人のプライドがうずく面はあるけれど、国際会議はそういうかけひきだしなあ。

唯一アレなのは、日本にXKEYSCORE提供しているという話。どういう使い方してるんだろうね。これは興味ある部分ではある。

でもそれ以外は、小笠原本のように、とにかくやばい、まずい、監視国家、日本も加担、ろくでもない、という話にはぼくは感じられなかった。日本は自分で各種の諜報活動をしているし、その中には当然ながら自国民に対するものもあるだろう。でもそれはNSAともスノーデンともほとんど関係ない話だ。それを無理にからめたために、小笠原の本は話が本当にわけわからなくなっている。

この文書はNHKのクローズアップ現代との協力で公開されたものなんだけど、小笠原本は丸一章かけて、その番組の中で共謀罪の話が出なかった、というのをウダウダ言い続け、それが政府へのソンタクだ、国家の情報統制だとわめきたてる。でもこの記事を見ると、単にほとんど関係ないから、というだけの話にしか思えない。土屋大洋が番組内で、むしろ公表資料は日米間の協力ができている話と見るべきでは、とコメントしたのも偏向発言であるかのように言うのだけれど、彼の言う通り、一方的に指図されているのではない関係が十分に見える資料だと思う。

さらに小笠原本は、人工衛星受信用の巨大アンテナについて、近隣住民が電波で健康被害を訴えて〜とかいうヨタを平気で垂れ流す。この記事にもあるとおり、アンテナが巨大なのは微弱な人工衛星の電波を受信するためであって、送信してるわけじゃないんだから、電波で健康被害なんてあるわけないじゃん。

有益な議論をしたいなら、きちんと話を切り分けないと。まずこの記事くらいの中身をきちんと紹介し、歴史と文脈を考えたうえで、それをもとに自分の主張をからめるならいいけど、とにかく思いつきでなんでもくっつけるだけでは、まったくお話になりません。