「平成の30冊」への山形の投票 - 山形浩生の「経済のトリセツ」

「平成の30冊」への山形の投票

朝日新聞が、「平成の30冊」なる企画をするのでアンケートをされた。回答すると、図書カード3000円だそうで。3000円だとあまり深く考える気も起きないし、また山形の選評とかがどこかに載るわけではなく、トップ30を選ぶために集計されるだけなんだよね。

通常、こういう本を選んでくれという企画だと、いろいろひねった選書をしてドヤ顔をしてみたい感じになるんだけれど、集計されるとなると、ひねりすぎて誰も知らない本を選んだところで、有象無象に埋もれるだけで終わってしまう。ケインズ美人投票の話と似たように、他のみんなも選びそうで(故にトップ30に入る可能性があり)、しかもその中でまともな重要な本が上位に行くように考えると、まあベストセラーっぽいものから選ぶようなことになってしまうなあ。

てなことを考えただけで3000円ではすでに足が出ていると思うが、そんなこんなで、次のような投票をしてみましたよ。さて、どんなもんでしょうね。もっと科学っぽいものとか入れたかったけど、5つしか選べないし……

第1位:岩田規久男『デフレの経済学』

デフレの経済学

デフレの経済学

平成は、日本経済がバブル絶頂期から果てしないデフレに突入し、そしてそれがようやくアベノミクス/黒田日銀のリフレ策により回復して元の状態になんとかたどりつこうとした、長くつらい転落と回復の時代だった。それを早めに認識し、インフレ誘導を主張し、やがては日銀副総裁としてそれを実践する立場に回った岩田規久男のこの本は、それを評価する人もしない人も、平成という時代の大きな背景を作ったものとして忘れてはならない。

 リフレなんかダメー、と思う人もいるだろうけれど、でもそれが平成という時代を左右したのはまちがいないことなので、これは鉄板です。

第2位:アラン・ソーカル&ジャン・ブリクモン『知の欺瞞』

「知」の欺瞞―ポストモダン思想における科学の濫用

「知」の欺瞞―ポストモダン思想における科学の濫用

バブルと同時にニューアカポストモダン思想が一気に凋落した。ポモをありがたがっていた日本の言論界が、同時期に存在感を一気になくした。平成はそれを克服するため、無内容なポモ言説を無内容なものだと認め、それを廃し、地に足のついた中身のある議論を再構築するプロセスの時代だった。その動きの先鞭をつけ、多くの人々の蒙を啓き、知識人とその物言いに大きく貢献した重要な本。

第3位:トマ・ピケティ『 21世紀の資本

21世紀の資本

21世紀の資本

世界的に驚異のベストセラーとなり、現代の世界における格差問題についての人々の関心を明らかにすると同時に、経済学のモデル偏重から実証への動きを示してくれた重要な本。平成の日本の様々な経済的背景も、様々な格差をあらわにするものでもあり、それを改めて世界的な動きと関連づけてくれた本となっている。

第4位:村井純『インターネット』

インターネット (岩波新書)

インターネット (岩波新書)

平成はパソコン普及からインターネット普及、さらにはケータイとスマホの普及を通じて人々の情報環境が大きく変わった時代。この中で、妨害に遭いつつもインターネットの急激な普及に尽力し、それを実現させた人物によるインターネットの解説本。もちろん今はすでに古いものの、当時何が考えられ、どんな希望があったのかを理解するのに重要。いま改めてふりかえり、現状と比較する中で平成も見えてくる。

第5位:J・K・ローリングハリー・ポッターと秘密の部屋

ハリー・ポッター文庫全19巻セット(箱入)

ハリー・ポッター文庫全19巻セット(箱入)

言わずとしれたハリポタの第一巻。2000年に出た本書は、21世紀児童書、ひいては小説のスタンダード。世界的な大ヒット作になると同時に、ネットでの評判の広がり、メディアミックスなど様々な形で、従来の本とはちがう動きを示したし、また最終刊が出るまで、平成の中盤はこのシリーズへの期待と共にあったと思う。(だんだん尻すぼみになっていったのも平成らしい、かな)

付記:ツイッターで、「第一巻は賢者の石だろ!」とご指摘いただく。そうだった!まあいいや。

これを挙げるなら、アメリカでは電子書籍普及に貢献したラーソン「ミレニアム」もありかな、とは思ったが、ちょっと新しいので。


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