- あれこれたとえ話を読むより、自分で導出して相対性理論を理解しよう!, 2011/9/1
- 最近の話ばかりで、どれも知ってることばかり。多少の興味はプライベート話ばかりだが……, 2011/11/2
- 基本的な主張に独自性はなく、通俗的な消費文明批判につなげる我田引水に失望。, 2011/8/29
- 死体関連のネタ満載。この分野のおもしろさを何とか知らせて認知度をあげようとする著者の熱意が結実。, 2011/7/15
- パターン化して弛緩した感想文集。, 2011/6/28
- 初歩から最先端の成果までを実に平易に説明、日本の研究水準紹介としても有益。あとは値段さえ……, 2011/6/27
- だれかの設定に基づくアニメの話だけで、一般性ある「自己/自我」の話はできない。, 2011/6/27
- いろいろ並べて矢印でつなげただけの本。, 2011/6/27
あれこれたとえ話を読むより、自分で導出して相対性理論を理解しよう!, 2011/9/1
相対性理論の式を導いてみよう、そして、人に話そう (BERET SCIENCE)
- 作者: 小笠英志
- 出版社/メーカー: ベレ出版
- 発売日: 2015/12/04
- メディア: Kindle版
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相対性理論解説書なんて、すでに山ほど出ているので、新しい本が差別化を図るのはむずかしい。この本は、新しい切り口を見つけてそれを実現した珍しい本。高校数学と物理の知識から、相対性理論を自分で導いて、しかもそれを人に説明できるようになろう、という本。
相対論を高校数学(中学数学とあるけれど、さすがにつらいのでは)で導くのは、山本義隆が高校の受験数学で相対論まで話を進めた有名なエピソードもあることだし、決して無理ではないが、かなり特殊な話だとみんな思うし、自分でやろうとは思わない。この本はそれを実地にやろうと言う。そして、自分で導くだけじゃなくて、人に話して説明してみようという。そうすることで理解が深まるから、と。
相対論の話としても、そして人の勉強のあり方の提案としても、とてもよい本だと思う。ただ本の中身は、むろん他人にどう話すかというところまでは面倒みきれていない。そうやると理解が深まるよ、というお話。でも、それ自体としてはその通り。頭のいい高校生や大学の輪講とかに使うと勉強になるんじゃないかな。個人的には、マックス・ボルンの相対性理論本で高校時代に勉強会をしたけれど、ローレンツ収縮から先に進めなかった苦い思い出があるが、この本があれば E=mc2 まで到達できたんじゃないか。
最近の話ばかりで、どれも知ってることばかり。多少の興味はプライベート話ばかりだが……, 2011/11/2
- 作者: ウォルター・アイザックソン,井口耕二
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/11/02
- メディア: ハードカバー
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下巻はジョブズがアップルに戻ってくるところから始まる。
で、そこで何が起こるか、もうみんな知ってるん。iMac出して、iPodでiTunesでiPhoneでiPad。そこで何か知らないことがある? ソフトとハードの融合したトータルなユーザー体験を重視——知ってます。ユーザーのコントロールの余地をなるべくなくし——知ってます。マイクロソフトはセンスがないと言っていて——知ってます。音楽が——知ってます。ああ、それと最後にもう一つ——知ってます。
とにかく目新しいこと皆無。アメリオをクビにするときにどんな罵倒をしたか、新しくわかることといえばそれに類する話ばっかり。グーグルへの罵倒くらいかなあ、知らなかったといえば。あとは家族がらみの話とプライベートな死を前にしたあれこれくらい(インチキ代替治療にはまって寿命を縮めたとか)。で、オチがつかず最後はジョブス語録みたいなのを羅列しておしまい。
また、本書は正直と言いつつ、ジョブズのヘマとかは書かない。二〇〇一年にかれが性能的に見劣りしてきたマックを正当化すべく行った、失笑モノの「メガヘルツの神話」プレゼンのこととかは触れていない。iPhone4のトラブルのプレゼンも、ぼくは本書で書かれたほど見事なシロモノとは記憶していない。言い訳がましく、話を本当の問題からそらそうとするいやらしいマーケット屋的プレゼンだった。それそこういう形で美化するのはぼくはインチキだと思う。そしてそれは、本書がジョブズのイメージ戦略にいかに荷担しているかを示すものだ。
ある意味で、この伝記が今出たのは幸運でもあり(ジョブスの葬式景気で売れるだろうから)、不幸でもあったと思う(みんな記憶が新しすぎて何を書いてもあくびをされてしまうから)。みんなが知ってる部分で目新しさを出そうとしてiナントカに後半ものすごい分量を割くがそのために些事の羅列になってなおさらまとまりがなくなるという。構成の悪さは否めないし、かれの業績がまだ十分に対象化できるほど時間がたっていないこともある。
ジョブスに心酔して、かれのやること言うこと一挙一動一言半句がありがたいと思う人は、本書を読んで「スティーブ、ありがとう」とか「スティーブは天才」とか書いて五つ星評価をつけるだろう。でもそういう人は、半年たてばすべて忘れているはず。伝記として見た場合、本書は本当に満足のいくものとは思えない。
基本的な主張に独自性はなく、通俗的な消費文明批判につなげる我田引水に失望。, 2011/8/29
- 作者: 山本義隆
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2014/10/10
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山本義隆が福島の原発事故をめぐって、それが経験則にもとづかない科学理論だけを過信したもので、産業としても批判がなく、政治的に癒着してあれこれで原子力村で、うんたらかんたらで人間は原子力をコントロールすることはできない、という話。
おっしゃることはわかるが、別に目新しい話ではない。結論も、田崎さんが自分のウェブページで述べていた感想といっしょ。買って読む価値はない。資本主義の危機からニューディール政策を経てマンハッタン計画から原子力推進という流れで、ここぞとばかり資本主義批判につなげようとする論調も、ぼくはあさましいと思うし、別にそれが論旨に特に影響するとは思えない。
そして最後が、大量消費社会と成長ばかりでない新しい社会のあり方を——そんなつまらないことしか言えないなら、いっそ黙っていてほしい。原子力はダメと思うんなら、それはそれで結構。でも別に原子力がなくったって大量消費社会や経済成長の根本にはまったく影響がない。それを認識せずに、たまたま並行して進んできただけのものを、こっちがダメだからあっちもダメにちがいない、という本当にだらしない理屈も何もない、我田引水の感情論をたれながす山本には山本義隆だからこそなおさらがっかり。それに、原子力イヤイヤはいいけどさ、いまある原発はどうすればいいの? それを何とかするには、物理や原子力工学はちゃんと続けなくてはいけないんだけど、それを考えずに「やめましょう」では話にならないでしょう。
死体関連のネタ満載。この分野のおもしろさを何とか知らせて認知度をあげようとする著者の熱意が結実。, 2011/7/15
- 作者: 藤井司
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2011/02/28
- メディア: 新書
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おもしろい! タイトル通り、法医学者が死体のあれこれを並べた本で、中身的には昔ぼくが書評した、 Death to Dust: What Happens to Dead Bodiesと同様(ただしあっちは五百ページもある本でこっちは新書だから中身的には薄くなる)。あっちは、法医学者がもっと臓器提供をしてもらおうというのを基本的な動機として書いたもので、こっちは法医学者が、もっと死体に興味をもってもらおう、関連分野の学生を増やそう、という動機で書いている。だから、おもしろいネタをいろいろ集めようという熱意がみなぎっているし、九相詩絵巻をカラーで載せたりとサービス精神も旺盛(ぼくもちゃんと見たのは初めて)。
小著ながら、知らなかったネタも満載。特に驚いたのは、よく推理小説なんかで、青酸カリでだれかが殺されると「アーモンドのにおいがした」と書かれるけれど、あれはみんなの思ってるアーモンドの匂いじゃないんだって! あれはローストしたときの香りで、青酸の匂いというのはその前の、生の実の状態のにおいで、全然ちがうんだって。あとは、うんこずわりができるかどうかは、慣れの問題ではないとか、あれやこれや。その他、Soap lady の話とかも出ている。著者にはいつか、フィラデルフィアのムター博物館を訪れて訪問記を書いてほしいところ。
それにしても、法医学関連の学生は減ってるのか。テレビドラマの CSI や Bones やパトリシア・コーンウェルの小説なんかで、結構認知されて人気が出てるのかと思っていたよ。
一度出た本を、更新して新書にしたとのこと。いったん世間のフィルターにさらされて市場の審判を経ているだけあって、よい本。スプラッターホラーなんかで喜ぶようになった中高生あたりからおすすめ。
パターン化して弛緩した感想文集。, 2011/6/28
- 作者: 橋本五郎
- 出版社/メーカー: 藤原書店
- 発売日: 2011/06/20
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ぼくも某新聞で書評委員をやっているけれど、絶対に避けたいと思っているのがこの手の書評。書評じゃなくて、ただの感想文なんだもの。自分では感想文ではないつもりでいるらしいんだが、これが感想文でなくて何?
基本的には、なんか私的な前振りをおいて、あらすじ紹介して、きいたふうな一節引用して「重要である」「考えさせられる」とか書いておしまい。すべてがワンパターン。読んでいて、工夫やひねりのある書評がちっともなくて、後から読み返す価値があるとは思えないし、こうして本にまとめる意義もなかったと思うんだが、あの藤原書店がどうしちゃったの、という感じ。
まともな分析や切り込みのある書評は全然ない。そうした能力に欠けるからだと思う。たとえば本書は「『けなす書評』もなりたつだろう。しかし、私はその道はとらない。読者が買って損はしなかったと思ってほしいからである」(p.2) と言うんだが、だったらなぜある本を買うべきでないか(出すべきでないか)を説明する「けなす書評」だっていいはずでしょうに。本書の収録文ものには、このように明確な論理性があまりない。また2011年の震災で行方不明者が一ヶ月たっても多数いることについて、これが文明国なのかと義憤を表明しておいでだけれど (p.319)、津波で流されてしまった方もいるし文明国だからどうにかなる話でもないんですけど。でもその程度の想像力もない。そしてその直後に本当にお定まりのアームチェア文明批判談義。これでは鋭い書評を望むべくもない。
ちなみに著者は、万年筆ベストコーディネイト賞2008年なるものを受賞したのがずいぶんご自慢のようだけれど……何これ?
初歩から最先端の成果までを実に平易に説明、日本の研究水準紹介としても有益。あとは値段さえ……, 2011/6/27
- 作者: 太田邦史
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2011/01/21
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みすず書房で「画期的概念の創出へ」などと帯の背に書いてあるもんで、また例によってDNAのトンデモ解釈に変な現代思想をからめて悦に入ってるようなアホダラ経じゃねえだろうなあ、と警戒して読みはじめたが、まったくの杞憂。実にすばらしい本。
DNAとは何か、という初歩の話を、ワトソン=クリックのエピソードもからめて楽しく説明、その後だんだん高度な内容にまで入る。DNA修復の話と時差ぼけ解消の日向ぼっこの関係、有性生殖の意義など、おもしろい話も(ちゃんとまじめな内容と関連づけて)満載。そして、その有性生殖の話を一つの核に、遺伝子の組み換えと、本書のタイトルでもある自己変革につながるあたりは、面倒な話を本当にわかりやすく説明していて、見事の一言。一卵性双生児でも歳を取ると遺伝子がちがってくるなど、多少は分子だの遺伝だのについて知っているつもりの人間でも「えっ!」と驚く話も満載。
また、意図的なことだが日本人研究者の各種の研究があちこちで言及され、それがきわめて重要な役割を果たしていることが示されているのも、非常に心強く感じるし、これをもっと多くの人が読めば「おお、日本もやるな、もっと予算つけていいかも……」と思うんじゃないか。他の分野ではしばしば、嫉妬心などからか他の日本人の業績に敢えてふれなかったと思える残念な例が多く、それが結局カニバケツ状態となってつぶし合いになっているようなケースも感じられるが、こうやって出してもらえれば一般人も(そして学生なども)、自分だって可能性があるように思えてくるはず。そうした試みも立派。
値段が3000円近くて高いのは残念。とても親しみやすい書きぶりだし、書かれている内容もごく初歩のところからかなり先端の話まで網羅しており、非常に勉強になるので、初学者(できれば頭のいい高校生くらいから)に気軽に手にとってほしい内容。この値段と、みすず書房だから敷居が高そうという感じがするのとで、損をしている。まったく同じ内容でブルーバックスにでもできないもんか。
なお、最終章で生物学外の話をするというので身構えたが、それも杞憂。特に経済学がらみの話は実に的確で驚いた。反デフレ派の人は pp.218-19 で感涙にむせぼう。
だれかの設定に基づくアニメの話だけで、一般性ある「自己/自我」の話はできない。, 2011/6/27
SFで自己を読む 『攻殻機動隊』『スカイ・クロラ』『イノセンス』 (青弓社ライブラリー)
- 作者: 浅見克彦
- 出版社/メーカー: 青弓社
- 発売日: 2014/08/09
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押井守のSFアニメをもとに、自己とか自分とかいう概念のふしぎさと奥深さみたいなものを記述しようとした本だが、成功していない。
自己というテーマはおもしろいし、それを考えるうえで、アンドロイドや人形——押井守が好きなテーマ——に対する人間の態度が重要、というのは事実。でもそれぞれのレベルで何を語らせるかが重要。小説やアニメの登場人物の行動、学者の単なる感想文、多少は説明に使えそうな仮説、実証的な裏付けのある理論、それらをきちんと分けないと、著者として何に何を説明させたいのかがさっぱりわからず混乱するばかり。
ところが本書は、それらをすべていっしょくたにして、草薙素子のXXに自己のナントカ性が示されているのという話を延々と続ける。でも基本的に、アニメの登場人物が何をしようともそれは押井守がそういう設定にしたからではないの? そしてそれが自己についての一般的な議論としてどこまで展開していいの? またフロイトが「不気味なもの」なる雑文で書いた単なる感想文をもとに、著者は「人間性の死こそが『不気味なもの』の背後にある真実だということが、ここにもはっきり確認できる」(p.172) と書くが、なんで? 単にフロイトがそう思ったってだけでしょうに。
ちなみに著者はp.198前後で、スカイクロラが必ずしも評判よくないことについて、それは観客が自我とかいうテーマを理解できず馬鹿だ(そして自分がえらい)とでも言いたげな議論を展開する。でも一方で、押井が著者の喜ぶような自己云々といったテーマをうまく作品として消化し切れていなかったという面も大きいと思う。そもそもこのような本が一種の解説書として出ること自体が、その消化不足の反映ではないの?
そしてこの手の自我や自己、意識その他のありようについては、すでに脳科学や進化生物学でいろんな成果が挙がっているし、著者が本書であれこれ言っているようなことも(いやそれより遙かに過激なことも)、かなりもっときちんと科学的な分析が進んでいる。その時代にあって、「アニメ見て自己について考えてみましたよ」なんてシロモノになんか価値があるのか? ぼくは、ないこともないと思うが、むずかしい。そして本書はその水準に達していないと思う。着眼点は悪くないところもあるので、もう少し整理した議論を展開してくれることを(ちょっとだけ)期待。
いろいろ並べて矢印でつなげただけの本。, 2011/6/27
- 作者: 山本眞人
- 出版社/メーカー: BMFT出版部
- 発売日: 2011/06/17
- メディア: 単行本
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無料で献本いただいたが、すみません、ほめるところがありません。現在の大量生産、線形、合理的、階層構造云々かんぬんに対するアンチテーゼ(だと著者が思っている)非線形とか自己散逸構造とかセミラティスとかリゾームとか、クリエイティブクラスとかエコロジーとか、複雑系とか創発とか、農村との結びつきとか先住民のチエとか、あれやこれやをだらしなく並べて、似てるの似てないのとはしゃぐだけの本。
そういうのはぼくが学生時代にも延々、現代思想だのエピステーメーだのがやっていて、使える部分もあるけれど、結局いまの産業社会の周縁的なものとして存在するだけではないの、とか、それに対するあくまで刺身のツマではないの、とか、産業社会のおかげで豊かになったからこそ可能になった、一部エリートのぜいたくでしかないんじゃないの、といった基本的な疑問には答えられない。別の可能性があるとか、ちがう考え方があるとか羅列するだけでは何の役にもたたず、それが既存の社会や経済の仕組みとどう相互作用するのかが重要なんだが、そうした視点はまったくなし。著者がいろいろお勉強しましたといってそれを並べただけ。
「現代の世界は、大きな困難と悲惨なできごとにみちみちています」と著者は思っているそうだけれど、ぼくはそうは思っていない。現代の世界ははるかに大きな喜びをもたらしたし、それが実現した各種の可能性をぼくは個人的にも大きく享受している。その事実についての認識と敬意がない人の語る二十一世紀思考なるものを、ぼくは微塵も信用していない。
ついでにp.58ジェイコブズの本ですが、一年以上も前に全訳が拙訳で出ておりますので。