小説 カテゴリーの記事一覧 - 山形浩生の「経済のトリセツ」

小説

Newman ”JULIA": オーウェルの顔を長靴で踏みにじる粗悪なフェミ二次創作

Executive Summary オーウェル『一九八四』をジュリアの視点から語り直した、フェミ版『一九八四』というふれこみで出てきた小説だが、その中身はというと、実はジュリアは体制側のスパイで、下々の男たちはみんな、ジュリアにハニーポットで陥れられただけ…

ラヴジョイ『存在の大いなる連鎖』第10講:ロマン主義と充満の原理

ラヴジョイの続きです。 cruel.hatenablog.com 最後の第11講では、この存在の連鎖とか充満の原理、さらにその元になっている神様の異世界性とこの世性の両立が不可能だというのがあらわになって、それが一気に忘れ去られる様子が述べられていた。 cruel.hate…

ラヴジョイは「冷笑系」:非ビリーバーの優位性

ラヴジョイ『存在の大いなる連鎖』を勝手に翻訳している話をした。 cruel.hatenablog.com で、引き続きやっていて、第2講もいまのところ、なかなかおもしろい。まだ前半だけだけれど、言われていることはやはり単純だ。 頻出する観念として「異世界性」と「…

オーウェル『1984年』序文からわかる、ピンチョンのつまらなさとアナクロ性

Executive Summary トマス・ピンチョンのオーウェル『1984年』序文は、まったく構造化されず、思いつきを羅列しただけ。何の脈絡も論理の筋もない。しかもその思いつきもつまらないものばかり。唯一見るべきは、「補遺;ニュースピークの原理」が過去形で書…

カブレラ=インファンテ『煙に巻かれて』:葉巻をめぐる、愛情あふれるウンチクと小ネタとダジャレ集。気楽で楽しい。

Executive Summary カブレラ=インファンテ『煙に巻かれて』(青土社、2006) は、葉巻をめぐる歴史、文学、映画、政治、その他ありとあらゆるエピソードを集め、さらにダジャレにまぶしてもう一度昇華させた楽しい読み物。著者が逃げ出したキューバへの郷愁も…

ウルーソフ『遠い蟻たちの叫び』

以下の本に収録。 現代ロシア幻想小説 (1971年)作者: 川端香男里出版社/メーカー: 白水社発売日: 1971メディア: ?この商品を含むブログ (2件) を見る 当時のソ連ならではのテーマを、当時のソ連において唯一可能だった文学という形式でしか書けないやり方で…

ウィリアム・ギブスン:意匠だけのファッションショー小説

Executive Summary ウィリアム・ギブスンの1990年代三部作と、2000年代三部作は、いずれの小説としての体をなしていない。ストーリーはどれもほぼ同じで、まったく必然性のない探索を、まったく必然性のないアート系女子が、大金持ちに依頼され、必然性のな…

マイクル・コーニイの気恥ずかしさ

その昔、1980年代末かな、『SFの本』という雑誌に、福本直美という非常に優秀な評論家が「マイクル・コニイはお小説様の作家である」とかなんとかいう題名の、実に鋭い評論を書いていて、ぼくはそれを読んで、マイクル・コニイってあまりソリがあいそうにな…

フエンテス『テラ・ノストラ』:英訳で読んだときと感想は同じ。力作だけど(それ故に)アナクロ。

http://honto.jp/netstore/search_10%E3%83%86%E3%83%A9%E3%83%BB%E3%83%8E%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9.html?srchf=1honto.jp なんと、カルロス・フエンテス『テラ・ノストラ』の日本語訳が出てしまった! 出る出る詐欺にはひっかかるまいと思って英訳版を…

大森『時空間を打破するミハイル・ブルガーコフ論』:論としては「ふーん」だがフロレンスキーの話はおもしろい。

時空間を打破する―ミハイル・ブルガーコフ論作者:大森 雅子成文社Amazonミハイル・ブルガーコフについての博士論文をベースに本にしたものだそうな。ぼくはブルガーコフが大好きなので、高い本だけれど、お手並み拝見ということで買って読みました。主張とし…

華麗なるギャッビーと戦争

Executive Summary フィッツジェラルド『華麗なるギャッビー』は、当初それほど評判はよくなかったし、フィッツジェラルドも晩年は不遇だった。だが、第二次世界大戦の米軍兵士慰問用の推薦図書に含まれたことで、その命運は変わった。つらい戦場の兵士にと…

コルタサル『かくも激しく甘きニカラグア』:無邪気な、それゆえに悲しい本

かくも激しく甘きニカラグア (双書・20世紀紀行)作者: フリオ・コルタサル,田村さと子出版社/メーカー: 晶文社発売日: 1989/04メディア: 単行本この商品を含むブログを見るコルタサル『八面体』を読んで、もちろん本そのものも素晴らしいんだけれど、ぼくが…

宮内『ヨハネスブルグの天使たち』:嫌いではないが背景設定が無理すぎ

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)作者:宮内悠介早川書房Amazon うーん、困ったなあ。 全体的な雰囲気は嫌いではない。トーンはモノローグ調。戦争あるいはスラム化等した雰囲気の中で、荒んだ心を抱える語り手がある種の人間的…

モーム『パーラーの紳士』:せっかく全訳あるので

The Gentleman In The Parlour作者:Maugham, W. SomersetVintage ClassicsAmazonサマセット・モームは、決して好きな作家ではない。大学一年生の英語(およびその前の受験英語)でいろいろ無理に読まされたが、気取っていてもったいぶって古くさいと思ったし…

イーガン『しあわせの理由』:坂村健の解説にびっくり

しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)作者:グレッグ イーガン早川書房Amazon イーガンは、順列都市もディアスポラもたいへん気に入って、たぶん高校か大学時代なら全作品を読みあさったところだろうけど、いまはそうならないのは、ぼくがすれっからしの読者にな…

カルロス・フエンテス『我らが大地 (テラ・ノストラ)』: その5 読了!!

Terra Nostra (English Edition)作者:Fuentes, CarlosFarrar, Straus and GirouxAmazon やったー、昨日から100ページほど残していた部分完読! 読み終わったぜー! 最後の部分は、エル・セニョールの死……なんだが、そこになぜか、現代に生まれ変わったイ…

カルロス・フエンテス『我らが大地』: その4 第3部「次の/別の世界」(の途中)

Terra Nostra (English Edition)作者:Fuentes, CarlosFarrar, Straus and GirouxAmazon さて第二部でも話はだんだん動きを持ち始めていたが、最後の部分になって、やっと話が本格的に動きを見せ、俄然読みやすくなる――とはいっても、相変わらず面倒にはちが…

カルロス・フエンテス『我らが大地』: その3 第2部「新世界」読了

Terra Nostra (English Edition)作者:Fuentes, CarlosFarrar, Straus and GirouxAmazon(この前の部分はこちら)さて一番短い第二部「新世界」は、六本指の私生児三人のうち、砂浜に投げ出されて発見した船乗りこと「巡礼」の語り。かれはスペインから新世界…

カルロス・フエンテス『我らが大地』: その2 やっと第一部「旧世界」読了

Terra Nostra (English Edition)作者:Fuentes, CarlosFarrar, Straus and GirouxAmazonこの小説は三部構成になっていて「旧世界」「新世界」「次の(彼方の)世界」となっている。最初の「旧世界」が、全780ページのうち350ページほどで半分近く、いちばん長…

パワーズ『ガラティア2.2』:がっかり。人工知性の実現とテメーのちんけなうじうじと、どっちがだいじだと思ってんだ!

ガラテイア2.2作者:リチャード パワーズみすず書房Amazon なぜかパワーズをちゃんと読むのは初めて。本書とか囚人のジレンマとか幸福遺伝子とか、科学っぽいネタを使った小説が得意というのは知っているけど、これまで敬遠していた。でも、本書でがっかりし…

ミッチェル『クラウド・アトラス』:中編六本たばねたら長編になると思ってまちがえた失敗作。

クラウド・アトラス 上作者:デイヴィッド・ミッチェル河出書房新社Amazonエドガー・アラン・ポーだかコルタサルだかの短編小説作法というのがあって、それはつまり、ポイントは一つ、ということ。ある主題やある場面、それだけがあって、それをいかにもり立…

寺尾『魔術的リアリズム』:ラテンアメリカ文学の流れの手際よい紹介。

魔術的リアリズム―二〇世紀のラテンアメリカ小説 (水声文庫)作者:寺尾 隆吉水声社Amazon20世紀ラテンアメリカ文学のとっても手際よい紹介。シュルレアリズムに連なる流れとして魔術的リアリズムを位置づけて、超現実主義のパリに行ったアストゥリアスとカル…

フエンテス『誕生日』:シャーリー・マクレーンに捧げられている時点で警戒するが、中身はバロウズ風ナボコフ。

誕生日作者:カルロス・フエンテス作品社Amazonすでに見切ったフエンテス。この作品も、難解と言われて、難解なのに/だから傑作とも言われているとか。しかし実際にはかなり簡単な話で、ある家で起きた殺人だか一家心中だかのような事件があって、その死に至…

バルガス=リョサ『小犬たち/ボスたち』:あぶなげない中短編集。社会問題に拘泥せず、着想の展開と書くこと自体の喜びで書かれている。

小犬たち・ボスたち (1978年) (ラテンアメリカ文学叢書〈7〉)作者:M.バルガス=リョサAmazon なんだかツイッターを見ていると、今日はバルガスリョサの誕生日なの?(追記:ちがった。先月末じゃん!) 記念でもう一冊。バルガス=ジョサ唯一の短編集(いまで…

フエンテス『聖域』:神話構造を現代に重ねる習作。根底にあるナルシズムのためにいやな小説になっている。

Executive Summary フエンテス『聖域』(国書刊行会) は、メキシコの大作家フエンテスの習作。神話的な物語を現代に重ねて、大女優の母親にエディプス的に焦がれる自分を書いたものだが、最終的にその焦がれる対象が自分になるで、すべてがナルシズムでしかな…

ディレーニ『ダールグレン』:長いだけが取り柄のナルシスティックな本。誰も読まないことで得をしている。

ダールグレン(1) (未来の文学)作者:サミュエル・R・ディレイニー国書刊行会Amazonダールグレン(2) (未来の文学)作者:サミュエル・R・ディレイニー国書刊行会Amazon 長ったらしくてみんな読んでないから、問題作とか話題作とか野心的なナントカとか言う…