VR卓球ゲーム開発の裏側 | COVERedge

VR卓球ゲーム開発の裏側

※本記事は2023年12月1日にカバー公式noteにて公開された記事を再掲載したものです。

カバー株式会社は2023年から技術ブログのCOVER Techを開始しましたが、アドベントカレンダーも始めることになりました。
初日は私、CTOの福田が執筆させていただきます。
普段の技術ブログCOVER Techとは別な軸で面白いことを題材にしたいと思い、カバー株式会社の原点でもあるVR卓球ゲームのPing Pong Leagueについて書くことにしました。

何故、VRゲームとして卓球を開発したのか、どんな技術や思想が現在のホロライブアプリに繋がっているのか、そして、開発において、どのような苦労をしたかについて話をします。

カバー株式会社 Advent Calendar 2023 の 1日目の記事です。
https://qiita.com/advent-calendar/2023/cover

何故、VRゲームの題材に卓球を選んだのか

2016年当時、スマホの次のプラットフォームとしてVRが期待されており、カバー株式会社でもVRゲームを集めたプラットフォームを作ることを目標としていました。
そのため、卓球はあくまでも数あるゲームの中の一つに過ぎず、バスケットボールのフリースロー、ロッカーの中に隠れることができたりと色々な仕組みを作り、VR内で自由に遊べることを目指していました。

また、2016年当時、VRゲームが盛り上がることで東京オリンピックを控えているのもあり、スポーツは面白くなりそう、その中でも、卓球は盛り上がる競技かと思い、卓球を選択しました。

作ってから気がついたのは、VR HMDのトラッキング範囲が卓球と非常に相性が良く、現実に近い体験を作ることが可能なことでした。

プレゼンスを大事にするトラッキング技術とオンラインマルチプレイ技術

VRコンテンツではプレゼンス(実在感)が非常に重要だとされております。

オンラインマルチプレイ技術はマルチプレイゲームのためのミドルウェアであるPhoton Engineを使わせていただきました。
物理的な地理上で離れたところにいるプレイヤー同士が、VR内では目の前に相手がいるという感覚を持てるところに、VRとオンラインマルチプレイをかけあわせた新しいコミュニケーションの可能性を感じました。

今までのオンラインゲームと違う点としては、体の動きをトラッキングするため、本当に、そこに人がいるということを動きだけでも感じることができる点です。

トラッキング技術は、卓球で使用していたVRシステムのHTC Viveのトラッカーをトラッキングで用いることで当時は珍しい1時間以上のリアルタイム配信を実現しました。
その後、更にプレゼンスを上げるために光学式のモーションキャプチャシステムの導入などに繋がっています。

オンラインマルチプレイ技術は、その後、ホロライブアプリにおいてスタジオの複数人トラッキング、カメラ、ギミックの同期、自宅配信時のコラボ配信の仕組みに応用されました。

また、プレゼンスで重要なのは、その場にいるという臨場感であるため、体育館の3Dの表現は、ライティングや影であったり、窓から見える雲を動かしたりと工夫をしておりました。

VRゲーム、物理エンジン、オンラインマルチプレイの組み合わせの難しさ

私が初めてのゲーム開発で、勝手が分かっていなかったこともあり、この無謀な組み合わせを選択してしまいました。

オンラインゲームで重要なのは相手との状況の同期となります。
自分と相手の状況がずれてしまうとゲームになりません。

グローバルのネットワーク通信において、光の速度は案外遅いと言われますが、格闘ゲームなどでは事前に入力パターンを予想して、後から答え合わせをするなどの仕組みがあります。

一方、今回はVRゲームとなります。
今回の卓球ではコントローラーをラケットに見立てて動かします。
ラケットは直前に向きを変えるかもしれないですし、回転をかけるためにひねる可能性もあり、予想を立てることができません。
ラケットとボールの衝突も物理演算によるシミュレーションとなり、無数のパターンが起こりうる可能性があるため非常に相性が悪かったのです。

唯一救いだったのは、卓球はプレイヤー同士の接触のない、ある意味ターン制のやりとりだったので、打った瞬間の情報を相手に送信することで、他の状況はローカルで計算することができ、ある程度の精度が出せました。もし食い違う状況になったとしても、お互いに打った瞬間毎に補正を行うことでゲームとして成り立つようになりました。

Human Fall Flat、Fall Guysなど、物理エンジンとオンラインマルチプレイのゲームが人気を博しており、やはり無数の可能性があるゲームは面白いということを証明しているかと思います。

おわりに

結果的にはVTuber事業にピボットしたため、VRゲーム自体は失敗に終わりました。
しかし、VTuberは、技術の総合格闘技です。VRゲーム開発で培われた技術は、その後に活かすことができ、今に繋げることができました。
これからも、新しい技術開発を行い、VTuber、そしてメタバースに対して新しい体験を作っていきます。

※SteamのPing Pong Leagueですが現状はメンテナンスされていないため最新機種では遊ぶことができない可能性があります。

ポルカさんに遊んでみていただいておりますので、是非、そちらを御覧ください。

次回は @kura_cvr さんの「カバーにおけるUnityプロジェクトのアーキテクチャ例 その1 」となります。是非、御覧ください。