異物除去や添加剤処方の見極め、
品質管理への取り組み
Smart Appliances & Solutions事業本部
要素技術開発部
研究員 荒井 辰哉
(2019年11月22日時点の所属と役職)
水比重分離や風力選別で異物を取り除き、素材を分類
リサイクルプラントでは、異物の除去や異なる種類のプラスチックを可能な限り分類しますが、難しい場合は一旦破砕した後に選別処理を行います。選別処理では、回収したい素材と、除去したい素材の物理的性質の差を利用します。例えば、複合部品の破砕品からPP※1を回収したい場合、水に浮かぶPPの性質を利用した「水比重分離」で、水より重いプラスチックやゴム、金属などの重い異物を取り除くほか、風の力を利用した「風力選別」を用いて、スポンジやラベルなどの軽い異物を取り除くことで、高純度のPPを回収しています。選別する素材の組み合わせによって水比重分離や風力選別の条件が異なりますので、実験を連日繰り返して、最適な条件をみつけるのに苦労したことが記憶に残っています。
- ※1 ポリプロピレン
プラスチックの性能修復や、付加価値を持たせる添加剤の処方
家電製品はさまざまな環境で使用されていますので、回収したプラスチックの物性や耐久性は低下しています。これらをリサイクル材料として再利用するためには、どこが傷んでいるのか、どの性能が落ちているのかを正確に把握して適切な添加剤、人間でいうお薬のようなものを与えることで、新しい材料と同等に修復します。
また、特性の異なる2種類のプラスチックをブレンドしたり、剛性や難燃性、抗菌性などを付与したりすることで、新たな付加価値を持たせたリサイクル材料の開発も進めています。
添加剤の種類や適切な量を見極めるためには、何度も繰り返してテストを重ねなければなりません。根気のいる作業で苦労が多いですが、新たなものを生み出せるという楽しみもあり、やりがいのある仕事です。
スクリーンメッシュで小さな異物を除去
添加剤を配合後、溶融・押し出しをして最終的にペレットにします(詳しいフローはこちら)。この押し出しの工程では、溶かしたプラスチックをスクリーンメッシュ(金網)に通し、「水比重分離」や「風力選別」で取りきれなかった小さな異物を除去します。メッシュの網目が大き過ぎると異物が取りきれませんし、小さ過ぎると異物が詰まって生産性が落ちるため、最適なスクリーンメッシュを見つける必要があります。
品質管理はリサイクルの要。
基準づくりからスタート
Smart Appliances & Solutions事業本部
要素技術開発部
研究員 上田 拡充
(2019年11月22日時点の所属と役職)
加速劣化試験で、求められる耐久性を確認
リサイクル材料の開発で最も重要なのは品質管理と考えています。回収したプラスチックは、使用環境や使用時間、メーカーが回収したタイミングによって違いますので、劣化等の度合いは常に一定ではありません。このため、リサイクル材料が家電製品の材料として一定の品質基準を満たしているかを確認することがとても重要です。
例えば、「長期間使用しても耐える強度があるか」という耐久性を判断するためには、リサイクル材料のテストピースを高温の実験槽に数か月間入れることで、長期間使用したと同様の状態にして、劣化具合を判断する加速劣化試験を行います。ここでどのような条件で劣化を加速させ、どのような基準で判断すれば家電製品の素材として品質が確保できるのか、その判断基準を決める必要があります。回収したプラスチックは劣化具合のバラつきが大きいため、納得できる基準を設定するまでにとても苦労しました。
再生プラスチックの採用事例
冷蔵庫
洗濯機
車載用プラズマクラスター
イオン発生機ハンディターミナル
素材の採用位置
再生プラスチックの種類 | PP |
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パーツ名 | 仕切り板 |
原料 | 冷蔵庫 野菜ケース |
素材の採用位置
再生プラスチックの種類 | PP |
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パーツ名 | ダクトカバー |
原料 | 冷蔵庫 野菜ケース |
素材の採用位置
再生プラスチックの種類 | 難燃PS |
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パーツ名 | 電装ボックス |
原料 | 薄型テレビ 背面キャビネット |
素材の採用位置
再生プラスチックの種類 | PP |
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パーツ名 | 運搬取っ手 |
原料 | 洗濯機 上面板、外キャビネット 他 |
素材の採用位置
再生プラスチックの種類 | PP |
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パーツ名 | エバポレーターカバー |
原料 | 洗濯機 脱水槽、バランサー 他 |
再生プラスチックの種類 | PP |
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パーツ名 | 水槽 |
原料 | 洗濯機 水槽 |
再生プラスチックの種類 | 難燃PC+ABS |
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パーツ名 | 車載用プラズマクラスターイオン発生機(構造部品) |
原料 | 薄型テレビ 背面キャビネット |
再生プラスチックの種類 | 難燃PC+ABS |
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パーツ名 | ハンディターミナル充電器 |
原料 | 薄型テレビ 背面キャビネット |
新たな価値を付与した再生プラスチックの開発
近年、使用済みプラスチックによる環境汚染が深刻化する中、国連では「持続可能な開発目標(SDGs)※2」が採択され、世界各国では使用済みプラスチックの資源循環に関する法整備や輸入規制が強化されるなど、さまざまな取り組みが進められています。一方、日本国内では「プラスチック資源循環戦略※3」が策定され、使用済みプラスチックのリサイクル体制が整備されつつあります。使用済みプラスチックを取り巻く社会状況は大きく変化してきており、適正な処理と再資源化の重要性はますます高まっています。
このような状況を踏まえ、再生プラスチックのさらなる用途拡大を目指す新たな取り組みとして、回収した使用済みプラスチックを新材同等に再生し、同種部品に再利用する水平リサイクルに加え、新たな価値(難燃性、耐候性、高剛性など)を付与するアップグレードリサイクル技術の開発を推進しています。
- ※2 2015年に国連で採択された、国際社会が持続可能な発展のために2030年までに達成すべき17の社会的目標
- ※3 3R+Renewable(再生可能資源への代替)を基本原則に、資源・廃棄物制約、海洋プラスチックごみ問題、地球温暖化、アジア各国による廃棄物の輸入規制などの幅広い課題への対応を目指す(2019年5月31日策定)
自己循環型マテリアルリサイクル技術にかける思い
「何度も繰り返してプラスチックを再生利用すること」が、私たちが目指すリサイクルの原則であり、この取り組みを継続して拡大させることがメーカーの責任であると考えています。
これまで、家電製品に使用されている主要なプラスチックの「自己循環型マテリアルリサイクル技術」を開発し、使用済み家電製品から回収したプラスチックを当社製品に再生利用してきました。しかし、回収したプラスチックの中には、リサイクルが難しいなどの理由で使われていない素材がまだまだたくさん眠っています。
今後は、まだ使われていない素材を有効活用できるようなリサイクル技術や、リサイクル材料の用途を広げるアップグレードリサイクル技術(機能性付与、色調コントロールなど)、プラスチックの回収が容易で解体しやすい製品の開発に注力していきたいと考えています。
現在は、自社内での取り組みに限られていますが、将来的には私たちのリサイクル技術を業界や国を越えた形で展開することによって、地球規模で懸念事項となっているプラスチックごみ問題や地球温暖化防止の一翼を担うことができればと考えています。