- 飲料産業は全世界で2兆円の規模をもつ巨大産業。CO2排出量は年間5億4300万トンにのぼり、環境負荷が問題視されている
- Canaは自宅で様々な飲料水を製造できる「分子飲料プリンター」、Cana Oneを開発・製造する
- 飲料製造が自宅で可能になることで、飲料産業をよりパーソナライズ化していくための新たなプラットフォームが生まれる可能性がある
はじめに
飲料産業は全世界で2兆円の規模をもつ巨大産業です。パッケージングも含む産業全体のCO2排出量は年間5億4300万トンにのぼり、そのうち大部分を占めるのは、水の製造、パッケージとなるプラスチックや缶の製造、そして流通によるものです。
世界各地の工場で飲料を製造し、流通させる代わりに、自宅の水道水を使い、好きな飲料を自由につくることができたら、飲料産業による環境負荷を抑制することができるのではないでしょうか?今回はそのようなアイデアから生まれた、どんな飲み物でも家庭で作る「分子飲料プリンター」(Molecule Beverage Printer)を展開するCana Technology, Inc.(カナ テクノロジーズ、以下Cana)をご紹介します。いったいどのような企業なのでしょうか。詳しくみていきましょう。
分子飲料プリンター(Molecule Beverage Printer)を展開するCanaとは?
Canaは2018年にアメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコにて創業された、コンシューマ向けの「分子飲料プリンター」を展開するを展開する企業です。2022年1月には4年弱のステルスを経て最初のプロダクトCana One(カナワン)を公開、さらに、食・農業・生命科学分野で投資事業を展開するThe Production Board(プロダクション ボード)から3000万ドル(約41億円)を調達しました。
同社の製品Cana Oneはソーダからコールドブリュー、カクテルまで、数千種類もの飲み物を、自宅の水道水と内容成分のカートリッチとなる「スーパーカート」を使って製造してしまうという家庭用の飲料製造機です。どのような飲料もその主成分は水で、95%の水に対して5%の成分が味や香りを決定しています。Cana Oneは、飲料の内容成分を特定し、カートリッジからそれらの成分を適切な量だけ注入することによって何千ものドリンクのバリエーションを作り出します。利用者は、Cana Oneに内蔵されたタッチスクリーンから飲料を選択するだけで飲みたい時に飲み物を得ることができ、カフェイン増量、低アルコール、電解質増量、砂糖不使用など、ボタン1つでカスタマイズが可能です。
Cana Oneの価格は900ドル(約12万3000円)です。カートリッジは約1カ月間使用でき、新しいカートリッジは自動的に無料で発送されます。顧客は飲み物1本につき約10セントから5ドル(約13〜680円)の範囲で支払いを行い、各飲料の値段は各ブランドが決定します。
飲料のサプライチェーンの分散化は新たなプラットフォームを生む可能性を秘める
自宅で数千種類もの飲料が製造可能となるということは、新しい種類のサプライチェーンが発明されたことを意味します。すなわち、分子飲料プリンターで使用する材料のほとんどが水道水などであれば、従来の工業的なサプライチェーンを消費地となる家庭内に移すことができ、エネルギーや炭素の使用量も少なく、運用コストも低く抑えることができるのです。
消費者にとっても、各家庭に分子飲料プリンターがあれば、飲料を取りに行ったり運んだりする面倒な用事がなくなり、冷蔵庫や食器棚にスペースができ、お金の節約にもなります。さらに、従来のすべての飲料カテゴリーにおいて、低糖質、低アルコール、ビタミン強化、カスタムフレーバーなどのパーソナライズされた製品の選択肢が広がり、クリエイターがデジタル専用の飲料ブランドを構築するためのプラットフォームが生まれる可能性も考えられます。
現在はベータ版を提供、2023年度第四四半期に製品を展開予定
2022年12月現在、Cana Oneはベータ版を提供しています。このベータ版にはアイスコーヒーからカクテル、スポーツドリンク、炭酸飲料、スパークリングウォーターまでの複数のプロトタイプが含まれています。
最近開発を終えた飲料として、低糖質のブラックチェリーモヒート、スウェーデンのビルベリーからヒントを得たカフェイン入りスパークリングウォーター、ビタミンB3、B5、B6を含む運動後のブルーベリー・オレンジの水分補給飲料があり、2023年度の第四四半期に一般向けに展開していくことを見据え、ハードウェア、ソフトウェア、飲料カタログの改善を進めています。
まとめ
いかがでしたか?今回は、家庭用飲料水製造ソリューションを提供するCanaをご紹介しました。同社はサプライチェーンの混乱、部品コストの上昇、材料供給の遅れなどにより2023年の第4四半期に最初の生産を開始することを目標としています。
飲料製造が自宅で可能になることで、飲料産業をよりパーソナライズ化していくための新たなプラットフォームが生まれる可能性もあります。同社は今後どのように事業を展開していくのでしょうか。今後の動向が注目されます。