computer_philosopher’s diary

谷田部牛久線のヒマワリ~つくば市とその周辺の風景写真案内(1334)

谷田部牛久線の日本工営中央研究所にはいる道の角に、ヒマワリが咲いています。

 

撮影日は、11月24日です。

 

写真1 研究所の案内板

 

写真2 谷田部牛久線のヒマワリ

 

写真3 谷田部牛久線のヒマワリ

 

 

 

写真4 谷田部牛久線のヒマワリ



 

 

 

 

 

 

 

主流メディアの凋落

1)アメリカの主流メディア

 

カーロ・ベルサノ氏は、次のように言っています。(筆者要約)

トランプは1年半前からCNNの取材には応じず、ベトデービッドのようなインフルエンサーポッドキャストに出演した。ジョー・ローガンのポッドキャストに出演した際は、3時間の対談が1週間で4000万の再生回数をたたき出した。この数字は3大ネットワークのニュース番組の視聴者数を合計し、倍にしたよりも多い。

 

トランプのデジタル戦略を任された大富豪イーロン・マスクは11月5日、メディアは死んだも同然だと宣言した。X(旧ツイッター)で2億人のフォロワーに向かい、「今やあなた方がメディアだ」と述べた。

 

CNNの政治コメンテーターのスコット・ジェニングズは、「メディアは過ちを犯した。この2週間、報道は真実を伝えなかった」と言った。

 

メディアの影響力の低下はトランプ以前から始まっていた。

 

全米のケーブルテレビは、2010年に約1億500万世帯が加入していたが14年間で35%減少し、2024年は6800万世帯まで落ち込んだ(筆者注、数字の不整合は、元のまま)。

 

新聞の発行部数は2000年から半減した。無数の地方紙が廃刊か紙版の発行をやめた。1989年から2012年までに記者の数が全米で39%減少。2018年にはアメリカ心理学会が、日常的に新聞を読む高校1年生は全体のわずか2%だと報告した。

 

いくつかの全国紙は早くからデジタル化に取り組み、逆風を跳ね返した。ニューヨーク・タイムズ(NYT)は軽いコンテンツを充実させ、1000万を超える電子版購読者を獲得した。だが変革によって、東海岸のリベラル派が圧倒的多数を占める有料購読者に合わせて、紙面を作らねばならなくなった。

 

民主党寄りのワシントン・ポスト紙は、オーナーであるジェフ・ベゾス氏の判断でハリス氏への支持を見送ると発表した。投票日直前の同紙の発表に読者が反発し、購読解約は20万を超えた。

 

ギャラップ社の調査では、アメリカ人の半数以上がメディアに「大いに」あるいは「まずまずの」信頼を置いていると答えたのは、2003年が最後だ。

<< 引用文献

選挙予測大ハズレ、トランプに「大惨敗」...凋落した主流メディアに未来はあるのか 2024/12/22 Newsweek カーロ・ベルサノ

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2024/11/525644.php

>>

 

ニューヨーク・タイムズの復活に関連して、次のようなニュースが入ってきています。

 

米ケーブル報道局CNNが10月1日、同社サイトの閲覧を一部有料化したことが分かった。米国でケーブルテレビの視聴者数は縮小傾向にある。同社の記事をサイトやアプリ経由で直接閲覧しにくる読者に課金(価格は月3.99ドル(約570円、年契約は29.99ドル)することで、収入源の多様化を目指す。

 

CNNは約1年前にマーク・トンプソン氏が最高経営責任者(CEO)に就任した。英BBCの会長を経て、米新聞大手ニューヨーク・タイムズ(NYT)のCEOを務めた人物だ。ほかの新聞社と同様にネットの台頭で苦戦していたNYTを、任期8年間でデジタル時代に対応した新聞社に改革した手腕で知られる。

 

通信社のロイターも10月1日、ニュースの閲覧を有料化する方針を明らかにした。購読料は週1ドル。契約すると、記事や動画などが無制限で閲覧できるようになる。

 

まず10月上旬にカナダで有料サービスを始め、欧州の一部や米国にも広げる計画という。ロイターは通信社として、ほかの報道機関に記事や写真などの素材を提供することを主な役割としてきた。今後は一般の読者向けにも直接情報を提供して、新しい収入源に育てる。

<< 引用文献

報道局CNN、ネット記事の閲覧を一部有料化 ロイターも 2024/10/02 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN0202S0S4A001C2000000/

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トランプ氏はCNNより、ネットの動画を優先して、視聴者を稼ぎました。

 

米国でライブテレビの視聴方法がMVPD(リニアケーブル/衛星テレビ)からvMVPD(配信経由でリニアのテレビチャンネルを提供するバンドルサービス)へと加速しています。

 

2023年第3四半期(7―9月)のデータでは、全米の大手MVPDは合計約180万人の解約者数でした。(前年同時期は約169万人)。同期にvMVPDは約133万人の新規契約(前年同時期は130万人)を獲得しています。 この結果、大手有料テレビプロバイダー事業者の契約者数は合計7,150万人。内訳は、ケーブル会社トップ7社で3,490万人、衛星・テレコムが2,190万人、大手ライブテレビ配信サービス(vMVPD)が1,470万人と推定される。

<< 引用文献

米国でvMVPDのシェアが20%に 躍進著しいYouTube TV 2024/01/16 MO民放omline

https://minpo.online/article/vmvpd20youtube-tv.html

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Brad Adgate氏は、「YouTube TVが米ケーブルTV業界を駆逐する」といいます。(筆者要約)

現状のvMVPDの総加入者数は約1820万人で、YouTube TVはこの市場の800万人(40%以上)を占めるリーダーだ。2位のディズニーのHulu + Live TVの加入者数は460万入、3位のディッシュ傘下のSling TVの加入者数は210万入とされている。

 

YouTube TV の成長の背景には、NFLなどのスポーツ中継の独占配信権の獲得が挙げられる。グーグルは、NFLのサンデーチケットのために年間20億ドル(約3000億円)以上の費用をディレクTVに支払い、全米の試合の独占ストリーミング権を獲得したと報じられている。昨年10月のデータによると、サンデーチケットの加入者数は130万人で、ディレクTVが配信していた時代の加入者数の120万人から増加した。

 

YouTube TVの月額料金は、2017年の開始当初に35ドルだったが、その後は2倍以上の73ドルに引き上げられた。Hulu + Live TVは現在、広告付きを月額77ドル、広告なしを月額90ドルで提供している。スポーツ中継に特化したfuboの価格は月額75ドルだ。

 

グーグルはYouTube TVに関する財務情報を一切公表していないが、モフェットナサンソンは、昨年の売上高が約60億ドル(約9100億円)だったと推定している。

 

YouTube TVが2026年末までに最大の有料TVサービスになると予測するモフェットナサンソンはまた、このサービスが今年、黒字化を達成するとも予測している。2023年にYouTube TVは3億ドルの損失を出したが、今年は2億ドルの営業利益が見込まれている。

<< 引用文献

米ケーブルTV業界を駆逐するYouTube TV、有料会員が800万人突破 2024/04/12 Forbs Brad Adgate

https://forbesjapan.com/articles/detail/70257

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一方、コリン・ディクソン氏は、ケーブルテレビは、衰退しているが、YouTube TVも頭打ちになったといいます、(筆者要約)

今年後半の損失が今年前半と同じであれば、従来の有料テレビ業界は2024年に700万人の加入者を失い、2023年の12%の減少を維持することになります。

 

YouTube TVやSling TVなどのvMVPDは、2023年末に加入者数が1,780万人に達しました。しかし、業界は2024年に連続成長記録を終えました。2024年第1四半期に50万人、第2四半期に20万人が減り、上半期末の加入者数は1,710万人となりました。

<< 引用文献

米国のトップ10のライブリニアTVプロバイダーのうち4つはvMVPDである 2024/09/09 nscreenmedia コリン・ディクソン

https://nscreenmedia.com/top-ten-live-linear-tv-providers-q2-2024/

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米国で、メディアグループがFAST(Free Ad-Supported StreamingTV)チャンネル(この広告付き無料ストリーミングサービスのチャンネル)を充実させています。

 

YouTube TVが頭打ちになった原因は、FASTチャンネルであると考えている人もいますが、詳細は不明です。

 

2)日本の主流メディア

 

サム・ポトリッキオ氏は、トランプ氏の選挙を次のように分析しています。(筆者要約)

 

選挙とは、候補者が示す選択肢を比較するものだ。大統領選候補者討論会を除けば、今回の選挙戦で最も決定的だった比較の1つは、ハリスが人気ポッドキャスト司会者ジョー・ローガンの番組に出なかったことだ。一方、トランプは3時間も出演した。

 

アメリカンドリームはもうない。私の両親の世代は90%の確率で前の世代より多くの収入を得た。私の子供たちは何かが劇的に変わらない限り、この確率が50%を下回る公算が大きい。私が生まれた年の住宅購入者の年齢の中央値は38歳。今は54歳だ。

 

トランプは投票率の低い有権者を投票に向かわせる、という特異な形で選挙の様相を一変させた。彼らはトランプが出なければ投票に行かない。2022年の中間選挙民主党が善戦したのはそのためだ。

<< 引用文献

米大統領選の現実を見よ――その傲慢さゆえ、民主党は敗北した 2024/11/21 Newsweek サム・ポトリッキオ

https://www.newsweekjapan.jp/sam/2024/11/post-129.php

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アメリカンドリームはもうない。私の両親の世代は90%の確率で前の世代より多くの収入を得た。私の子供たちは何かが劇的に変わらない限り、この確率が50%を下回る公算が大きい。私が生まれた年の住宅購入者の年齢の中央値は38歳。今は54歳だ」という説明は、そのまま、現在の日本にあてはまります。

 

アメリカンドリームのように、一生懸命働けば、成功するのであれば、金融教育の必要性はありません。金融教育より、科学技術立国のための教育を優先するべきです。

 

そうならない原因は、政府が、もはや日本経済は成長しないと考えていることを示しています。「中国製造2025」のような技術開発ビジョンがない理由も、これで、説明できます。

 

ポトリッキオ氏は、トランプ氏は、視聴率を稼いだだけでなく、民主党が、「アメリカンドリームはもうない」という問題に向き合わなかったことが、選挙で負けた原因であると考えています。

 

ポトリッキオ氏の分析をよむと、アメリカと日本の政治状況は、似ています。

 

産経新聞は、Xで、財務省批判が増えているといいます。

財務省のX(旧ツイッター)公式アカウントの投稿に対し、10月27日の衆院選以降、批判的なリプライ(返信)が殺到している。選挙前に比べて返信の数は15倍以上に増え、そのほとんどが「財務省解体」「ザイム真理教」など同省を批判・中傷する内容だ。背景には、国民民主党が打ち出した「103万円の壁」撤廃論に財務省が抵抗を示したことへの批判があると指摘されている。

<< 引用文献

財務省への批判がXで急増、リプライは衆院選後15倍以上に 殺到の批判コメントを可視化 2024/11/23 産経新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/6a75008bd0a73f7144d118ece63cecf451bed4fc

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「103万円の壁」問題は、税制の線引きの問題ではありません。「私の子供たちは何かが劇的に変わらない限り、前の世代より多くの収入を得る確率が50%を下回る公算が大きい」ことに対する不満です。

 

30年間実質賃金が下がり続けています。政府、与党、野党の多く、主流メディアは、この問題に向き合っていません。それどころか、前岸田政権は、「所得倍層計画」といった、根拠のないキーワードを出しては、取り下げています。

主流メディアは、株価が上がった、大企業が、空前の黒字をだしたと報道します。しかし、労働者の手取りは増えていません。筆者は、「103万円の壁」問題は、労働者の手取りを増やす良い方法であるとは思いません。しかし、国民民主党以外の政党は、労働者の手取りを増やす方法について何も提案しませんでした。

 

株価が低迷したり、大企業が赤字であれば、労働者の手取りを増やすことは困難なことはわかります。しかし、株価は高騰し、大企業は黒字です。一方、労働者の手取りは減りつつけています。主流メディアは、この問題を無視しています。



兵庫県知事選挙では、SNSの効果が大きかったという人もいます。こう考えると、日本の主流メディアは、凋落しているのか気になります。

 

NHKの契約数は、減少しています。

2023度末時点でのNHKの契約総数は4107万件で、2019年度末の契約総数は4212万件から、その後4年で100万件以上減少しています。

<< 引用文献

NHK受信契約が4年で100万件減、不払いは倍増「テレビ離れがどう影響しているか答えるのが難しい」 2024/06/29 読売新聞

https://www.yomiuri.co.jp/culture/tv/20240627-OYT1T50088/

>>

 

しかし、ファクトに基づかない怪しい主張が多くあります。

 

例えば、次のような主張です。

 

「全体の視聴時間ではテレビの方が長い」

 

「テレビが好きな10~20代の男性が増えている」

 

モバイル社会研究所の調査結果は以下です。(筆者要約)

NTTドコモ モバイル社会研究所では、2024年1月にスマホ・ケータイ所有者が週1回以上アクセスし、日常的にニュース情報(報道)を得ているメディアについて調査しました。 

 

日常的にニュースを得ているメディアは2024年でも一番多いのは「テレビ」約7割、「新聞」は15年で年々減少して4割弱。

 

10~20代は「ソーシャルメディア」、30~70代は「テレビ」がトップ。シニアでは「新聞」も健在。

 

10~30代のX利用者の約6割がXでニュース情報を収集。



<< 引用文献

ニュースを得ているメディア「テレビ」15年間横ばいで7割・「新聞」は減少傾向続き4割弱・10~30代のX利用者の約6割がXでニュースを収集 2024/05/30 モバイル社会研究所

https://www.moba-ken.jp/project/lifestyle/20240520.html

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この調査は、 Webを使い、 全国の15から79歳男女を対象に、有効回答数6440人で行われました。

 

この調査は、2次情報です。

 

新聞の発行部数のデータには、水増しがあります。

 

なので、信頼できる新聞の1次情報データはありません。

 

しかし、傾向はアメリカに似ています。

 

テレビのアメリカのデータは、契約数データなので、信頼度のレベルが違います。

 

テレビが減っていないのは、本当でしょうか。

 

ガベージニュースは、次のように書いています。

テレビ視聴率は日本国内では、現時点ではビデオリサーチ社のみが計測を行っている。しかし同社ではデータの大部分は非公開としている。そこで主要テレビ局の中から【TBSホールディングス・決算説明会資料集ページ】にある各種短信資料などをチェックし、「決算説明会の補足資料として」掲載されている主要局の視聴率を逐次抽出。グラフの作成を行うことにした(他局の短信資料で補足・確認の精査も併せて行っている)。

https://www.garbagenews.com/img24/gn-20240529-05.png

 

<< 引用文献

各局とも凋落続く…主要テレビ局の複数年にわたる視聴率推移(最新) 2024/05/30 ガベージニュース

https://garbagenews.net/archives/2020115.html

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調査は、2023年度下期までです。

 

HUT(全日)で見ると、2021年上期から2022年下期の2年の間に、10ポイント下がり、2023年下期は、32%付近になっています。

 

図は、引用していませんが、HUT(ゴールデンタイム)も似た傾向で、2023年下期は、49%と50%をきっています。

 

正確なデータがないので、不明な点が多いですが、大筋では、日本でも、アメリカと同じような、主流メディアの凋落が起こっていると考えられます。

 

その進展は、アメリカを追いかけるように、なっていると思われます。

 

つまり、主流メディアの凋落に伴うトランプ現象は、今後の日本でも、頻繁に見られると予想できます。

 

GIMP 3.0 RC1のリリース

GIMP 3.0 RC1がリリースされています。

www.gimp.org

 

なお、Gimp 3.0.0-RC1 (Windows) をインストールし、マスターから darktable をビルドしてインストールしましても、Gimp の「環境設定」/「画像のインポートとエクスポート」に dt がリストされないようです。

 

この問題は、次のバージョンアップで解決されると思われます。

 

discuss.pixls.us

エビデンスの何が問題か(6)

10)エビデンスとビジョン

 

「中国製造2025」は、5か年計画、10か年計画の拡張になっています。

 

5か年計画は、ソ連社会主義経済で、採択された方法で、資本主義にはなじまない面もあります。とはいえ、政策実現までに、長い時間が必要とされる課題の場合には、中期計画や長期計画(ビィジョン)があれば、場当たり的な政策の無駄を回避することができます。

 

EBPMの問題は、ビジョンと結びついているので、この点を考察します。

 

10-1)利権と政策効率

 

前節では、筆者は、次のように書きました。

EBL3のEBPMに基づけば、39兆円は、半分以下で十分と思われます。つまり、EBPMに基づけば、減税と財政収支の均衡が可能になります。

 

もちろん、その場合には、パーティ券と天下り先は消滅してしまいます。

 

この問題を、もう少し考察します。

 

パーティ券と天下り先が消滅することは、見方をかえれば、現在の政策は、パーティ券と天下り先(議員と官僚の利権の確保)で決まっているとも言えます。

 

つまり、現状では、政策の効率性は全く考えられていません。

 

政策の効率性は、タブーになっています。

 

これが、「39兆円は、半分以下で十分」と主張する根拠です。

 

政府は、2024年の補正予算で低所得世帯と子育て世帯に給付金を配布する計画です。

 

この政策は、選挙対策に過ぎません。

 

低所得世帯と子育て世帯の生活が困窮しているのは、事実(ファクト)です。

 

しかし、因果モデルで考えれば、その原因は、税制、労働市場のない雇用制度(年功型雇用)、その結果としての低賃金(可処分所得)にあります。

 

給付金には、徴税のコストと給付金の事務コストがかかります。

 

減税で対応すれば、これらのコストは不要です。

 

政権与党は、給付金によって、低所得世帯と子育て世帯の支持率があがると考えていますが、この政策では、低所得世帯と子育て世帯以外の納税者の支持率が下がる可能性があります。



なぜ、このような非効率な政策が採択されるのでしょうか。

 

恐らく、政府の幹部の人事権を政治家が持っている(政治主導)ので、忖度が働いていると思われます。幹部以外の官僚の人事権は、幹部が持っているので、非幹部の官僚は、政策が、非効率であるとわかっていても、付き合っていると思われます。

 

給付金は、政府が、所得の少ない世帯の収入の確保に関するビジョンをもっていないことを示しています。同様に考えれば、年金問題も、ビジョンのない場当たりであることがわかります。

 

ジョブ型雇用のGoogleでは、幹部の経営方針に疑義があれば、社員から、質問が飛びます。幹部の説明に納得できない社員は、転職しています。

 

政府が、Googleのようなジョブ型雇用であれば、交付金のような意味のない政策を提示すれば、転職する職員が出ると思われます。

 

現在の政府は、年功型雇用ですが、新規採用の希望者は減っています。また、中途で転職する職員も増えています。

 

ジョブディスクリプションがない雇用形態の教員と医師では、人手不足が慢性化しています。

 

公務員の世界でも、同じことが起こっています。

 

交付金のような非効率で意味のない(より効率的な代替政策がある)政策を採用すれば、政府は内部から崩壊していきます。

 

これが、政治主導が引き起こしている現象であると思われます。

 

10-2)EBPMと政策効率

 

EBPMは、効果のない政策と非効率な政策を削除します。

 

EBPMは、効果のない官僚機構と非効率な官僚機構を削除します。

 

つまり、EBPMを使うと、歳出が削減され、減税が実現できます。

 

EBPM 推進委員会は、利害関係者ですから、非効率な政策と非効率な官僚機構が削除されることはありません。

 

これが、EBPM 推進委員会が、EBL3ではなく、EBL1とEBL2で活動している理由です。

 

例えば、EBPM 推進委員会は、<2024年9月より、全府省庁のシートが、「行政事業レビュー見える化サイト」で一元的に一般公開されたところ。今後も「見える化」やデータ利活用について改善方策の検討を進めていく>といいます。

 

見える化」は観察研究であり、EBL2になります。

 

効率化をはかるためには、反事実(EBL3)が不可欠になります。

 

これは、次の2つの比較が必須条件になるためです。

 

第1は、事実(現状、EBL2)の政策または、官僚機構です。

 

第2は、反事実(効率を向上する提案、EBL3)の政策または、官僚機構です。

 

因果推論を使えば、エビデンスに基づいて、この2つを比較する因果モデルをつくることができます。

 

そして、2つを比較して、効率のよい方を残せばよいことになります。

 

政府は、防災省を設置する計画です。

 

防災省の設置も、次のEBPM問題です。

 

第1は、事実(現状)の防災省のない官僚機構です。

 

第2は、反事実(効率を向上する提案)の防災省のある官僚機構です。

 

EBPMに基づけば、この2つの案のどちらが効率的であるかという問いに対する答えが出せます。



時事通信政治資金規正法の改正案について、次のように報道しています。

 自民党が11月21日に取りまとめた政治改革案の多くは、先の通常国会で成立した改正政治資金規正法で積み残した要検討事項をおさらいする内容にとどまった。「本丸」の企業・団体献金の扱いは表立った議論がほとんどされず、派閥裏金事件の真相解明に向けた取り組みも手付かずのまま。

 

 法改正の案として盛り込まれた(1)政治資金の支出を監査する第三者機関設置(2)外国人による政治資金パーティー券購入の禁止(3)規正法違反事件などで党所属国会議員が起訴された場合の政党交付金停止―はいずれも改正法の付則で検討事項としたもの。新たな打ち出しに乏しい。

<< 引用文献

見直し限定的、解明手付かず 焦る首相、「裏金」幕引き優先 規正法再改正、年内決着不透明〔深層探訪〕 2024/11/23 時事通信

https://news.yahoo.co.jp/articles/e20efd329c42677fc536d250bf36e848ea77b1c7

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自民党の議員は、利害関係者ですから、政治資金規正の大幅な改正ができると考える理由はありません。過去30年間、自民党の議員は、利害関係者として、政治資金規正の大幅な改正を避けてきました。

 

利害関係者が意思決定をする場合には、利害を度外視して意思決定をすると期待することは現実的ではありません。

 

EBPM 推進委員会も同様に利害関係者で構成されています。

 

本来であれば、EBPM 推進委員会は、デジタル庁や子ども家庭庁の設立の時に、エビデンスに基づく、効果の検証をしていたはずです。それができていない理由は、EBPM 推進委員会が、利害関係者で構成されているためと思われます。

 

大手テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は、次期トランプ政権で、政府効率化省(DOGE)で活動する計画です。

 

トランプ氏は、この組織の任務は、「政府の官僚主義を廃し、過度な規制を削減し、無駄な支出を減らし、連邦政府機関を再構築する」ことという。またトランプ氏は、米国の独立宣言から250年にあたる2026年7月4日までに、DOGEを解散すると述べています。

 

<< 引用文献

マスク氏が主導する政府効率化省(DOGE)の課題 2024/11/22 NRI  木内 登英

https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2024/fis/kiuchi/1122

>>

 

ここでの論点は、マスク氏は、何を基準に、「政府の官僚主義を廃し、過度な規制を削減し、無駄な支出を減らし、連邦政府機関を再構築する」かという点になります。

 

筆者は、その手法は、EBPMになると考えます。

 

アメリカ政治がイデオロギーで動いていると考える人は、プラグマティズムを無視しています。EBPMは、プラグマティズムの手法であり、イデオロギー形而上学)より優先します。

 

マスク氏とトランプ氏は、自分たちの好み(利害関係)や、イデオロギーに基づいて、「政府の官僚主義を廃し、過度な規制を削減し、無駄な支出を減らし、連邦政府機関を再構築する」のではありません。

政府効率化省(DOGE)は、全省庁を対象にするので、利害関係を優先する可能性は低い(物理的に不可能)です。

 

科学的な方法(EBPM)によって、「政府の官僚主義を廃し、過度な規制を削減し、無駄な支出を減らし、連邦政府機関を再構築する」と思われます。

 

日本のマスコミは、政府効率化省は無理筋であるという説明を繰り返しています。

 

しかし、2026年7月4日までに、、政府効率化省(DOGE)が解散できなくとも、一度、EBPMを「政府の官僚主義を廃し、過度な規制を削減し、無駄な支出を減らし、連邦政府機関を再構築する」部分に組み込めば、後戻りすることはありません。

 

ここまでの説明の読者であれば、EBPM 推進委員会は、政府効率化省(DOGE)と同じ働きをすることに気づかれたと思われます。

 

EBPM 推進委員会は、第3者機関でなければ、機能しないのです。

 

一度、EBPMを「政府の官僚主義を廃し、過度な規制を削減し、無駄な支出を減らし、連邦政府機関を再構築する」部分に組み込めば、その後の実施は、ボット(コンピュータの自動実行)でも可能です。

 

コンピュータが、過度な規制、非効率は事業(無駄な支出)、非効率は組織をリストアップしてくれます。

 

10-3)ヴィジョンの問題

 

利害関係者が暗躍する場合には、ビジョンは作れません。

 

利害関係者の間の調整は、生産性の向上には、全く寄与しません。

 

したがって、利害関係者が暗躍すれば、生産性が低下して、国は、どんどん貧しくなります。

 

これが、日本の現状です。

 

マスク氏は、人類を火星に送るビジョンを持っています。

 

テスラの自動車は、自動運転のビジョンを掲げています。

 

2024年時点では、ロボタクシーの実績は、Googleのウエィモ(Waymo)が他を圧倒しています。

 

テスラは、路上での実証試験をほとんどしていません。

 

とはいえ、テスラは膨大な学習用のデータを持っています。

 

NVIDEAは、バーチャル空間で、ロボットを学習させるシステムを販売しています。

 

同様に考えれば、テスラは、路上での実証試験をしなくとも、バーチャル空間で、ロボタクシーを学習させることができると考えているのかも知れません。

 

バーチャル空間であれば、実空間の数百倍の速度で、学習をすることが可能です。

 

さて、マスク氏は、政府効率化省(DOGE)でどのようなビジョンを持っているのでしょうか。

 

筆者は、それは、ロボタクシーと同じような政府の自動運転ではないかと考えています。

 

DXを究極まで進めた姿を想定します。そこから、逆算してビジョンをつくれば、最大速度で、DXが進みます。

 

到達点から、逆算する思考法が、マスク氏の特徴です。

 

マスク氏は投稿サイトのツイッター(現X)を買収後に、ツイッターの事業を継続しながら最終的に従業員の約80%を削減しています。

 

しかし、政府効率化省(DOGE)は、各組織を直接運営するわけではありません。その点を考えると政府効率化省(DOGE)の活動は、EBPMの徹底になると考えられます。

 

アメリカ政府のルーチンワークを、DXで置き換えることができれば、政府の生産性が劇的に向上します。経済学の基本は、非効率な部門を、効率的な部門に置き換えれば、生産性があがり、経済成長が促進されるというもので、微分法方程式で、モデル化できます。



エビデンスの何が問題か(5)

9)政府とEBPM

 

岡村麻子氏は、日本政府がEBPMを推進しているといいます。

 

今回は、この点を検証します。

 

9-1)エビデンスの階層とブリーフの固定化法

 

最初に、前⽥裕之氏の「エビデンスの階層」を復習します。

 

表1 エビデンスの階層

 

階層  内容

 

EBL4 メタアナリシス

EBL3 RCTやエビデンスに基づく研究

EBL2 観察研究

EBL1 個人の経験談・専門家のエビデンスに基づかない意見

 

<< 引用文献

経済学はどこに向かうのか 前⽥裕之

https://www.mof.go.jp/pri/research/seminar/fy2023/lm20231102.pdf

>>

 

筆者は、以前、次のように書きました。

前⽥裕之氏は、経済学は、近い将来、データサイエンスにのみ込まれるだろうと言う人もいるといいます。

 

これは、いい換えれば、すべての科学は、4つのエビデンスレベルのどこかに位置づけられるということです。

 

エビデンスの階層」が主張することは、EBL3とEBL4以外は、科学ではない(根拠となるエビデンスがない)ということです。

 

つまり、EBL1とEBL2の学問は、近い将来になくなるだろうということです。

 

今回の検討は、エビデンスに基づく政策形成です。

 

つまり、上記の「科学」を「政策形成」に置き換えることになります。

 

エビデンスの階層」が主張することは、EBL3とEBL4以外の政策は、科学に基づく政策ではない(根拠となるエビデンスがない)ということです。

 

EBL1とEBL2の政策は、科学的な間違いなので、時間の問題で追放されると予測できます。

 

エビデンスの階層と「政策形成」の対応は分かりにくいので、ここでは、参考までに、「政策形成」を含むパースの「ブリーフの固定法」との対応を示します。

 

この対応は、筆者の考えです。



表1 エビデンスの階層とブリーフの固定法

 

階層  内容

 

EBL4 メタアナリシス

EBL3 RCTやエビデンスに基づく研究          =>科学の方法

EBL2 観察研究                    =>固執の方法(前例主義)

EBL1 個人の経験談・専門家のエビデンスに基づかない意見=>権威の方法・形而上学

 

9-2)政府の対応

 

以上の準備ができたので、EBPMに対する政府の対応を検証します。

 

以前に、引用した2018年の岡村麻子氏の文献の日本のEBPMの普及を要約します。

2013 年、「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)に「エビデンス」という用語が使われた。

 

2014 年の統計改革(公的統計の整備に関する基本的な改革)で、公的統計が EBPMを支える基礎としての位置付けが明記された。

 

2016 年施行の「官民データ活用推進基本法」により、政府横断的なEBPM 機能を担う組織として、EBPM 推進委員会が設置された。

 

2017 年に、政府全体が証拠に基づく政策立案(EBPM)を進める方針が示された。

 

2018 年より EBPM 推進統括官(政策立案総括審議官又は政策立案参事官)が各府省に置かれた。

<< 引用文献

0.3 政策形成におけるエビデンスと「科学技術イノベーション政策の科学」2018 岡村麻子

https://scirex-core.grips.ac.jp/0/0.3/main.pdf

>>

 

2018年以降の活動のレビューの検索には、次の2点がヒットしました。

 

<< 引用文献

EBPM(証拠に基づく政策形成)の取組と課題 2020/03/17 国会図書館

https://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/document/2020/index.html

 

エビデンスに基づく政策形成の実践等に関する支援及び調査 2020/03 三菱UFJリサーチ&コンサルティング

https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000051.pdf

>>

 

内容は、岡村麻子氏の文献と大差はありません。

 

三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、レポートの最初に、エビデンスの用語について、分かりやすい説明をしていますので、引用します。

 

エビデンスとは何か

 

EBPM の基本的な考え方を理解する上では、まず「エビデンス」の定義から考える必要が

ある。エビデンス(Evidence)とは、一般的に「証拠」や「根拠」を意味するが、医療をはじめとした Evidence-Based の取組が先行する分野の蓄積に照らして考えれば、行政の政策評価プロセスにおいては「政策とその成果(アウトカム)の間の因果関係を示す証拠」と捉えるべきである。因果関係が証明できれば、当該政策には、その目的を達成する上で一定の成果があったか否かを評価することができる。一方、政策を立案する際に、社会課題やそれが生じている原因を明らかにするための事前分析を行う必要があるが、そこから得られる

事実(ファクト)や要因分析もエビデンスと呼ばれることがある。しかし、これらは政策の

因果効果を示すものではなく、あくまで政策立案の事前段階で活用され得る情報である。そ

こで本調査事業では、このような情報を「ファクト」と呼び、政策の因果効果を表す「エビ

デンス」とは区別して使用していく。

 

補足します。

 

因果モデルで使えるデータ(エビデンス)は、介入を伴う前向き研究で得られたものです。前向き研究とは、データをとる前に、因果モデルを設定して、収集すべきデータを選別して、原因の介入の前後の結果のデータを計測することです。これは、因果推論の科学のdo演算子に対応するデータになります。ここでは、RCTは必須ではありません。

 

観察研究で得られるデータは、因果モデルを前提としない観測で得られた値で、介入(do)にともなう属性をもっていないので、因果モデルでは使えません。

 

観察研究で得られるデータ(ファクト)は、交絡因子の影響があるため、因果モデルには使えません。

 

因果推論の科学でいえば、do属性を持つデータが、エビデンス、do属性を持たないデータが、ファクトになります。

 

エビデンスとファクトの区別を使えば、「エビデンスの階層とブリーフの固定法」は、次のように整理できます。

 

表1 エビデンスの階層とブリーフの固定法

 

階層  内容

 

EBL4 メタアナリシス

EBL3 エビデンスに基づく因果研究  =>科学の方法

EBL2 ファクトに基づく観察研究   =>固執の方法(前例主義)

EBL1 ファクトにに基づかない意見  =>権威の方法・形而上学



2023年4月、「EBPM推進委員会」が、デジタル庁から、行政改革推進会議内閣総理大臣が議長。行政改革に関する重要事項の調査審議等を実施)の下に、移管されました。

 

2023年9月26日に、行政改革推進会議の下で、最初(通算4回目)のEBPM推進委員会が開かれています。

 

議事要旨を以下に引用します。

第4回 EBPM推進委員会(令和6年9月26日)議事要旨

 

昨年から引き続き、EBPM推進委員会でお伝えしているように、レビューシートにおいて「政策効果の発現経路と目標をロジカルに説明し、事後的にデータに基づいて見直す」というごく当たり前のことを着実に行うことを徹底するという方針は変わらないのでよろしくお願いする。

 

1点目。今年度よりレビューシートなどの作成がシステム化され、9月より、全府省庁のシートが、「行政事業レビュー見える化サイト」で一元的に一般公開されたところ。今後も「見える化」やデータ利活用について改善方策の検討を進めていく。各府省庁においても、レビューシートの更なる質の改善に向けて幹部・管理職が責任を持って取組を継続してほしい。各府省庁の負担軽減につながるよう、引き続き行革事務局等からも支援をしていく。

 

 2点目。EBPMを各府省庁において継続的な取組とすることで、政策立案の質を高め、PDCAのA、事業の改善につなげることが重要である。原課担当者任せにせず、各府省庁の行政事業レビュー推進チームが積極的に関与して、事業の改善に向けた自己点検に取り組んでいただきたい。自己点検において、事後的にデータに基づいて見直すことで、その事業が改善につながっているかが明らかになり、レビューシートの予算編成過程での活用が進み、予算と政策の質の向上につながるものと考えている。

 

 3点目。デジタル行財政改革会議の取りまとめにおいてEBPMの推進を担う人材の育成が重要であるとされているところ。行革事務局でさらに議論を深めることとしているが、各府省庁においてはレビューの取組を通じて、幹部が考えている政策目的や課題認識、政策の目指す効果を広く共有することを意識していただきたい。これにより、コミュニケーションを活性化し、若手職員がこれまで以上にやりがいをもって政策立案に参画するプロセスを作っていただきたい。このほか、やる気がある若手職員が積極的にEBPMに取り組むことができる環境を整えることについても、各府省庁内で徹底してほしい。

<< 引用文献

第4回EBPM推進委員会(令和6年9月26日)https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gskaigi/ebpm/dai4/gijiyousi.pdf

>>

 

<レビューシートにおいて「政策効果の発現経路と目標をロジカルに説明し、事後的にデータに基づいて見直す」というごく当たり前のことを着実に行うことを徹底するという方針>で扱っている事後的なデータは、観察研究によるファクトであって、エビデンスではありません。

 

つまり、EBPM推進委員会は、EBPM(Evidence Based Policy Making)は、「証拠に基づく政策立案」推進員会ではなく、FBPM(Fact Based Policy Making)「ファクトに基づく政策立案」推進員会になっています。ファクトは、EBL2であり、科学的に間違った政策立案に相当します。

 

現在、実験ができないほとんどの学問は、EBL2に止まっています。

 

これから抜け出す(EBL3)には、因果推論の科学が必要になります。

 

つまり、エビデンスの階層は、実験系ではない多くの学識経験者にとって、不都合な真実です。

 

前⽥裕之氏は、経済学は、近い将来、データサイエンスにのみ込まれるだろうと言う人もいるといいます。しかし、前⽥裕之氏のように、率直な意見をいう人は例外で、多くの学識経験者は、利害関係を優先します。これは、科学の否定なのですが、その点については、口をつぐみます。

 

例えば、科学技術基本法には、改訂によって人文科学独自の科学的な方法があるとういう科学的に間違った記載が追加されています。

 

人文科学独自の科学的な方法のエビデンスレベルは、EBL1とEBL2であり、科学的に違ってます。

 

EBL3に達しない人文科学は、検証可能な科学の条件をみたしていません。

 

欧米では、EBL3の人文科学が進んでいて、「人文科学独自の科学的な方法」(EBL2とEBL2)は衰退しています。

 

これは、前⽥裕之氏が、経済学について述べたことと同じ状況です。

 

「人文科学独自の科学的な方法」による人文科学には、小説のようなフィクションとしての価値がありますが、科学ではありません。

 

エビデンスの階層」を認めない、あるいは、「エビデンスの階層」を歪曲する学識経験者が後を絶ちません。

 

ある学識経験者は、「因果関係が全てではなく、実質的な効果が重要」であるといいます。

 

その根拠は、伊藤 公一朗氏や中室 牧子氏・津川 友介氏の著書です。これらの著書は、特定分野の事例を紹介したもので、EBPM全般を扱っていません。また、ルービン流の因果モデルになっています。

 

「因果関係が全てではない」という主張は、パール流の因果モデルでは否定されています。

 

つまり、この学識経験者は、都合のよい文献だけを権威(EBL1)の方法として、引用しています。

 

この引用の偏向は、日本語のウィキペディアに似ています。

 

現在、EUでは、実務につかうためのEBPMのガイドラインが出ています。

 

EBPMについて、国会図書館三菱UFJリサーチ&コンサルティングに調査を依頼することは、無駄で非効率です。

 

EUの実務につかうためのEBPMのガイドラインを自動翻訳すれば、より詳細で、正確な情報が入手できます。

 

これは、国会図書館三菱UFJリサーチ&コンサルティングの人の能力の問題ではありません。

 

EUでは、2000年頃から、EBPMを採用し始めて、その実績を元に、EBPMのガイドラインを作成しています。

 

EBPMのガイドライン作成のコストと手間を考えれば、日本語の文献に価値はありません。

 

エビデンスの階層に基づいて説明すれば、「EBPMとは、EBL1とEBL2の効果のない政策をやめましょう」ということです。

 

政府は物価高対策などを盛り込んだ総合経済対策の規模について、2024年度補正予算案の一般会計の支出を13兆9000億円程度、民間支出を含めた事業規模を39兆円程度とする方向で最終調整に入りました。石破首相は2024年11月22日の閣議で対策を正式に決定し、11月28日召集の臨時国会で、財源の裏付けとなる補正予算案の成立を目指す考えです。

 

EBPMに基づけば、39兆円が、EBL1とEBL2で構成されている場合、政策効果に科学的根拠のない政策(効果のない政策、無駄づかい)が含まれていることになります。

 

EBL3のEBPMに基づけば、39兆円は、半分以下で十分と思われます。つまり、EBPMに基づけば、減税と財政収支の均衡が可能になります。

 

もちろん、その場合には、パーティ券と天下り先は消滅してしまいます。

 

しかし、EUでもアメリカでも、政府は、EBPMに向かって進んでいます。

 

アメリカの大統領選挙では、巨額の寄付金がありました。つまり、EBPMが効いていない世界もあります。

 

しかし、アメリカは州の権限が強く多様性があります。EBPMが効いている世界もあります。いったん、政策にEBPMが採用されれば、後戻りすることは、困難と思われます。

 

EBPMにくらべれば、「106万円の壁」撤廃による税収源の変化は、問題にならないくらい小さいです。

 

9-3)EBPMの具体例

 

加谷珪一氏は、<教員の仕事に対する前向きな感情を引き下げているのは授業以外の業務であり、問題の根本原因を考えると、(政府の)年収を一律に引き上げる方策は効果を発揮しない可能性が高い>といいます。

 

<< 引用文献

モンペ(モンスターペアレント)対応、無制限残業...教員の「ブラック労働」の改善は、日本全体の「生産性向上」の試金石に 2024/11/21 Newseek 加谷珪一

https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2024/11/post-302.php

>>

 

加谷珪一氏は、政府の対策は、因果関係を無視していると批判しています。

 

政府は、学校に専門のカウンセラーを配置しました。

 

しかし、カウンセラーは、夕方5時になると帰宅します。

 

時間外のカウンセリングは、結局、教師の負担になっています。

 

政府は、カウンセラー配置(原因)が、問題のある生徒の治療(結果)や、教師の負担軽減(結果)に結びついているというエビデンスを検証していません。

 

政府の政策の効果は疑わしいものになっています。

 

KYODOは、医師の偏在について、次のように伝えています。

 日本医師会(日医)の関連組織「日本医師会総合政策研究機構(日医総研)」は、2022年5月に公表したレポートで、次の指摘をしています。

 

 1:内科系の医師が増えていない。一方で、美容外科は絶対数は少ないものの、顕著な伸びを示している

 2:診療科の偏在解消以前に、保険外の自由診療の診療科に従事する医師の流出を防ぎきれてない

 3:過去には、若手医師が主たる診療科として美容外科を選択することはほとんどなかったが、2020年は診療所の35歳未満の医師1602人のうち、15.2%にあたる245人が美容外科で勤務している

 「いくら医師養成数を増やしても、保険診療ではなく(美容外科や美容皮膚科などの)自由診療を主とする診療科への医師の流出が避けられない状態にある」

 

 2024年3月に、共同通信が高度医療を担う特定機能病院を対象に実施したアンケートの結果、回答した57病院の7割近い39の病院が、働き方の改善のために必要なこととして「診療科の医師偏在解消」を挙げています。

 

ある専門家は次のように言っています。

 

 ―地方で働く医師を確保するため、国や医療機関はどんな対策をとるべきか

 

 医師の地域的偏在対策のため、初期研修、専門医研修を通じて地方に定着してもらえる工夫が必要だ。そうでなければ居着くことは少ない。各地の大学病院は研修先としての魅力を向上する努力をすべきだ。

<< 引用文献

保険診療はもう限界」追い詰められた若手医師、次々に美容整形医へ… 残った医師がさらに長時間労働の「悪循環」 #令和に働く 2024/11/22 KYODO

https://news.yahoo.co.jp/articles/4dd6e2c41e0664ff6305f901eabd55e42e556aca?page=1

>>

 

ここには、教員問題と共通性があります。

 

第1に、労働市場がありません。

 

第2に、公的部門では、ジョブの分担ができていません。

 

教師も医師も、ジョブ記述がなく、なんでもさせられています。

 

教師と医師の仕事のかなりの部分は、AIで代用することができます。しかし、こうした対応はとられていません。

 

第3に、これが、最大の課題ですが、エビデンスに基づいた解決策がとられていません。

 

共同通信が紹介した専門家は、医療関係者です。日常でEBMに接しているはずです。

 

にもかかわらず、提案している解決策(各地の大学病院は研修先としての魅力を向上する努力)は、因果モデルになっていません。

 

つまり、提案している解決策はEBL2であって、エビデンスに基づく解決策(EBL3)ではないので、効果はないと推測できます。

 

トランプ氏は、大統領に就任したら、教育省を廃止するといっています。

 

法手続きの上で、大統領に、教育省を廃止する権限がないという指摘もあります。

 

教育省が廃止されるか否かは、わかりませんが、権限と予算は縮小されるでしょう。

 

トランプ氏のこの政策は、教育を荒廃させるでしょうか。

 

国の教育の権限を、州に移譲する政策が成功するか否かは、州の政策に関わっています。

 

州が、エビデンスにもどつく効果のある政策を実施すれば、アメリカの教育は改善される可能性があります。

 

日本のマスコミは、トランプ氏に対して、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」になっています。

 

日本も中央政府が、エビデンスに基づかない効果のない政策を継続するのであれば、中央政府を解体した方が、問題解決が進む可能性を否定できるでしょうか。

 

9-4)因果推論と未来予測

 

前節の問題の場合、政策の効果は、政策を実施する前には、わからないはずであると考える人が多いと思います。

 

因果関係は、役に立たないという意見です。

 

しかし、因果推論の科学では、政策の効果は、政策を実施する前にわかると考えます。

 

これは、科学を使って未来を予測できるかという一般的な問題の一部です。

 

英語版のウィキペディアカール・ポパーの一部を引用します。

偽証と帰納法の問題

 

ポパーの哲学への貢献の中には、哲学的帰納法の問題を解決したという主張がある。彼は、太陽が昇ることを証明する方法はないが、毎日太陽が昇るという理論を定式化することは可能であると述べている。もし特定の日に太陽が昇らなければ、その理論は誤りであり、別の理論に置き換える必要がある。その日まで、理論が正しいという仮定を否定する必要はない。(中略)

 

ポパーは、明日も太陽が昇るだろうという心理的信念がしばしば存在し、過去に常に昇ってきたというだけの理由で、明日も昇るだろうという仮定に論理的な正当性はないという点でデイヴィッド・ヒュームに同意した。ポパーは次のように書いている。

 

私はヒュームを通して帰納法の問題に取り組みました。帰納法は論理的に正当化できないと指摘したヒュームの考えは完全に正しいと私は感じました。

 

問題は2つに分かれます。

 

第1は、「毎日太陽が昇るという理論を定式化することは可能」と言っているように、法則を定式化することです。

 

第2は、「明日も昇るだろうという仮定」、つまり、法則が継続するという仮定を受け入れるという点です。

 

ポパーの議論は、帰納法を対象にしていますが、一般の法則についても適用できます。(注1)

 

例えば、物理学は、ニュートンの法則で未来を予測します。

 

第1は、ニュートンの法則の定式化です。

 

第2は、法則が継続するという仮定を受け入れることです。

 

パール氏は、「因果推論の科学」で、次のように、このポパー流の整理を採用しています。

 

第1は、エビデンスに基づく因果モデル(因果構造)の定式化です。

 

第2は、因果モデル(因果構造)が継続するという仮定を受け入れることです。

 

第2の部分には、科学的な根拠はありません。

 

パール氏は、第2の部分は、主観的な判断になると言います。

 

筆者の家の近くにパン屋さんがあります。

 

パン屋さんの例をあげます。

 

第1は、「毎日パン屋さんにいけば、パンが手に入る」という法則になります。

 

第2は、この法則の継続を受け入れることになります。

 

筆者は、パン屋さんの店主が高齢化していることを知っています。

 

恐らく、パン屋さんは、店主の引退に伴って、閉店するか、新しい後継者を見つけることになるでしょう。

 

第2の条件は、第1の因果構造がどこまで、継続するかという判断になります。

 

筆者の主観は、パン屋さんの店主が高齢化を見ながら、因果構造が継続しない場合も想定しています。

 

有権者の間で、このような因果構造の継続性に関する主観が一致すれば、因果モデルをつかって政策を実施する前に、将来の政策の効果を判定することが可能になります。

 

EBPM 推進委員会は、2016 年施行の「官民データ活用推進基本法」により、政府横断的なEBPM 機能を担う組織として設置されています。

 

しかし、EBPM 推進委員会は、EBL1のアベノミクスに対して、全く機能しませんでした。

 

効果が検証されない政策が、これほど長期にわたって継続した例は、世界的にも稀です。

 

その理由は、議事録をみれば、わかります。

 

第4回EBPM推進委員会の議事録には、「幹部が考えている政策目的や課題認識、政策の目指す効果を広く共有することを意識」と書かれています。「幹部が考えている政策目的や課題認識、政策の目指す効果」は、EBL1です。これは、EBPM 推進委員会が、EBL1で活動することを求めていることを示しています。EBPM 推進委員会は不都合な真実エビデンス、EBL3)に触れることを禁止しています。

 

「幹部が考えている政策目的や課題認識、政策の目指す効果」は、ブリーフの固定化でいえば、EBL1の権威の方法になります。

 

最初の問いは、「日本政府がEBPMを推進しているか」でした。

 

結論は、「EBL2のファクトでなく、EBL3のエビデンスに基づくEBPMは、推進されてない」ことになります。さらに、EBPM推進委員会は、EBL1の権威の方法を尊重するように求めています。

 

つまり、因果推論の科学でみれば、政府の政策に効果があるとは期待できないことになります。

 

注1:

 

ポパーの科学哲学は、物理学をモデルにしています。

 

物理学では、交絡因子が問題になることは稀です。

 

相関と因果の違いが問題になることも稀です。

 

エビデンスの何が問題か(4)

8)ODの問題の行方

 

オーバードクター(OD)問題が、繰り返されています。

 

8-1)政府の手引き

 

時事通信は次のように伝えています。

博士号を取得した専門人材の就職を支援するため、政府がまとめる企業や大学向けの手引の骨子案が2024年11月20日、明らかになった。

 

 企業に対し、博士人材に見合う初任給の設定を求めたほか、大学と企業のトップ会談や共同研究所の設置を通じて産学連携を一段と強化する方針も盛り込んだ。

 

 21日に開く経済産業省文部科学省有識者会議で骨子案を示す。来春にも手引をまとめ、企業や全国の大学などに配布する方針だ。

<< 引用文献

博士号に見合う初任給を 専門人材の就職支援で手引案 政府 2024/11/21 時事通信

https://news.yahoo.co.jp/articles/6ad31ee6acf47edea37fbf8a583fbedb95d2d556

>>

 

これは、労働市場を無視した社会主義政策です。

 

英語版のウィキペディアは資本主義を次のように説明しています。

資本主義は、生産手段の私的所有と営利目的のその運用に基づく経済システムである。資本主義を定義する特徴には、私有財産、資本蓄積、競争市場、価格システム、財産権の承認、 自己利益、経済的自由、能力主義、労働倫理、消費者主権、経済効率、営利動機、信用と負債を可能にするお金と投資の金融インフラ、起業家精神、商品化、自発的な交換、賃金労働、商品とサービスの生産、そして革新と経済成長への強い重点が含まれる。市場経済では、意思決定や投資は富や財産の所有者、資本や金融市場における生産能力を操作する能力によって決定されますが、商品やサービスの価格や分配は主に商品やサービスの市場における競争によって決定されます。

 

ナンシー・フレイザーは、 多くの著者による「資本主義」という用語の使用について、「主に修辞的なものであり、実際の概念としてよりも、概念の必要性に対するジェスチャーとして機能している」と述べている。



2024年2月に、博士号を持つ高度な専門人材の確保で日本が大きく遅れをとっている、経団連がそんな調査結果をNHKが報道しています。

博士人材の活用などの実態について経団連が調査結果をこのほどまとめました。

 

従業員1000人以上の企業を中心に全国の120社余りが回答したのですが、なかなか厳しい実態がわかったんです。

 

2022年度に理系の博士人材の採用がゼロだった企業は、23.7%。

 

さらに、今後5年程度先の採用方針を尋ねると、「増やしていく」と回答した企業は新卒、経験者いずれも2割以下にとどまりました。

 

調査を担当した経団連長谷川知子常務理事は、次のように指摘しています。

 

産学官が連携し、それぞれ役割を果たさないと博士人材の育成・活用は進まない」

 

産学官が連携することが必要だとしています。

 

企業の中にはインターンシップに力を入れたり、大学の中にも新しい教育プログラムを導入するなど、実はさまざまな取り組みが行われています。

 

しかし、その周知やお互いの理解が不足しているのが現状で、その改善も必要です。

 

さらに、取り組みを広げるための政府の支援も欠かせません。

 

経団連は調査結果を踏まえた提言の中で「教育は国家百年の計」と表現していました。

<< 引用文献

博士人材が足りない!2024/02/21 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/special/sakusakukeizai/20240221/629/

>>

 

産学官が連携することが必要だ」というのは、長谷川知子常務理事の意見に過ぎません。

 

理系の博士人材を活用できないお馬鹿企業であれば、中期的には、市場から撤退するリスクが高いです。

 

そのような企業に無理をして採用してもらっても、解雇になるのは、時間の問題です。

 

因果モデルで考えれば、ODが就職できない理由は、専門知識が訳に立たない(科学的に間違っている)という仮説も成り立ちます。

 

経団連の調査は、日本企業に限定されています。しかし、ODの就職先は、日本企業に限定されません。高度人材には、国際労働市場があります。

 

実際に、役に立つODは、GAFAMなどの海外企業に就職しています。

 

経団連は、高度人材の国際労働市場が存在しない前提で推論しています。

 

時事通信によると<政府は2024年10月30日、(岸田政権から継続する)「新しい資本主義実現会議」を首相官邸で開き、総合経済対策に盛り込む賃上げなどに関する重点施策を取りまとめました。>

 

<< 引用文献

石破首相「賃上げ最優先」 経済対策の重点施策、政労使協議へ―新資本主義会議 2024/10/30 時事通信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024103001010&g=eco

>>

 

時事通信は次のように伝えています。

経団連が2025年春闘に向けて策定する経営側の指針「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)の原案が5日、分かった。23年と24年の春闘で実現した大幅な賃上げについて「社会全体に波及させ、定着させることが、経団連と企業の社会的責務だ」と明記。働き手の約7割を雇用する中小企業や、非正規労働者の賃上げがそのカギを握っていると強調した。 

<< 引用文献

賃上げ定着、「社会的責務」 春闘指針の原案判明―経団連 2024/11/05 時事通信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024110501063&g=eco

>>

 

春闘は、社会主義政策です。

 

春闘の前提には、国際労働市場は、存在しないという前提があります。

 

日本の大企業では、海外の売り上げや、労働者の数が、日本国内を上回っている場合も多くあります。海外では、年功型雇用も、春闘もありません。つまり、2つの労働市場を抱えている企業があります。2種類の雇用の労働生産性が一致することはないので、どちらかが、非効率になっているはずです。春闘を問題にすることは、2種類の雇用が併存するという不合理をタブー視していることになります。<23年と24年の春闘で実現した大幅な賃上げについて「社会全体に波及させ、定着させることが、経団連と企業の社会的責務だ」>という発言は、こうした背景をもとに理解する必要があります。

 

過去の2年間の実質賃金は、インフレの影響でさがり続けています。

 

<< 引用文献

9月の実質賃金、0.1%減 2カ月連続マイナス、物価高に追い付かず 2024/11/07 時事通信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024110700353&g=eco

>>

 

これから、同じデータは、次のように書くこともできます。<23年と24年の春闘で実現した実質賃金の賃下げについて「社会全体に波及させ、定着させることが、経団連と企業の社会的責務だ」>

 

この2つの表現は、経済学では、等価です。

 

「中国製造2025」では、海外の高度人材の誘致、中国人の頭脳流出の回帰が積極的に図られています。国際労働市場を無視すれば、中国との技術開発競争で、負けると思われます。

 

テレビ新潟は、次のように報道しています。

 

東京電力が再稼働を目指す柏崎刈羽原発日本経済団体連合会経団連が2024年11月21日に視察しました。経団連の十倉会長は「関東圏の経済を支える電源立地」としたうえで「一刻も早い柏崎刈羽原発の再稼働を大いに期待している」と話しました。

<< 引用文献

東電が再稼働を目指す柏崎刈羽原発経団連が視察 「一刻も早い原発再稼働を大いに期待」《新潟》2024/11/21 テレビ新潟

https://news.yahoo.co.jp/articles/1b33f18ee29509b4ad18a1ddbcbdf7e31ec873f0

>>

 

統計学を習得した人であれば、「一刻も早い原発再稼働」と「一刻も早い原発事故リスクの再開」は、同時に起きることがわかります。

 

経団連は、「一刻も早い原発事故リスクの再開」を無視して、「一刻も早い原発再稼働」ができると考えているのでしょうか。

 

これは不可能なので、科学的には、経団連は、「一刻も早い原発事故リスクの再開」も期待していると言えます。

 

経団連には、発言の自由があります。しかし、統計学と経済学のメンタルモデルがあれば、経団連の発言を解釈しなおすことができます。




8-2)インターネットの影響

 

「ホイッグ史観」を例に、インターネットの影響を考えます。

 

日本語のウィキペディアで、「ホイッグ史観」を調べると次のような内容がでています。

 

定義

栄田卓弘によるホイッグ史観の定義は以下の通り[1]。

(中略)

歴史

(中略)

日本への影響

(中略)

参考文献

和書・論文

[1]栄田卓弘「ハーバート・バタフィールドとウィッグ史観」『社會科學討究』第39巻第3号、学術雑誌目次速報データベース由来、1994年、955-983頁、

(省略)

訳書

ハーバート・バターフィールド著・越智武臣他訳『ウィッグ史観批判──現代歴史学の反省』未來社、1967年。

非日本語文献

Lois G. Schwoerer, ed., The Revolution of 1688-1689: Changing perspectives, Cambridge University Press, 2003(Paperback, first published 1993). ISBN 0521526140

 

これは、日本語のウィキペディアで広くみられる現象ですが、引用文献のコピペではじまります。これは、訓詁学の権威の方法になっています。科学的には、間違った記載法です。

 

日本語のウィキペディアの見出しは、「ホイッグ史 Whig history」です。

 

最初に、「ホイッグ史 Whig history(またはホイッグ史学、Whig historiography)」と書かれています。

 

つまり、「ホイッグ史観」は、本来は、「「ホイッグ(党)史 」が語源になっています。

 

日本語のウィキペディアの「ホイッグ史観」で、英語の引用文献は、1本だけです。

 

インターネットが普及する前であれば、英語版のウィキペディアはありませんでしたので、日本語のウィキペディアの「ホイッグ史観」のように、日本人の専門家の話を傾聴することが、知識を得る唯一の方法でした。

 

しかし、2024年現在、インターネットがあり、英語版のウィキペディアの「ホイッグ史」にアクセスすることができます。英語版のウィキペディアの「ホイッグ史」は、自動翻訳で、日本語に変換することができます。

つまり、ここに、2種類のデータがあります。

 

第1は、日本語のウィキペディアの「ホイッグ史観」(2500字)です。

 

第2は、自動翻訳された英語版のウィキペディアの「ホイッグ史」(10000字)です。

 

この2つでは、間違いやデータ不足の多い、第1を選択する理由はありません。

 

つまり、インターネットの普及は、翻訳専門家を不要にしています。

 

これは、一例ですが、教科書も、日本語版を使うより、自動翻訳でも、英語版を使うべきであると考えます。生態学と生物学の著名な英語の教科書で、日本語翻訳が出ているものもあります。翻訳が、原著の改訂に追いついていませんので、古い紙の日本語訳と新しい自動翻訳を比べることになります。後者をとるべきです。

 

ロイターは、次のように伝えています。

[20日 ロイター] - オープンAIとNPO(非営利組織)のコモン・センス・メディアは20日、人工知能(AI)とプロンプト作成を分かりやすく説明する教師向けの無料トレーニングコースを開始したと発表した。

 

コースは幼稚園から高校までの教師が対象で、授業内容の作成や会議の効率化など、さまざまな教育用途におけるチャットボットの使用法を解説する。コモン・センス・メディアのウェブサイトで閲覧できる。

オープンAI、教師向けに無料AI活用講座 教育支援を強化 2024/11/21 ロイター

https://jp.reuters.com/economy/industry/3BIZA33JDRJOJF4THMRRJQ7DFY-2024-11-21/

 

政府は、教育は、国内で閉じているという前提で、政策を考えていますが、高度人材養成については、インターネットを無視する時代遅れの前提になっています。

 

8-3)何が残るか

 

前⽥裕之氏は、「経済学はどこに向かうのか」という講演で、「エビデンスの階層」を提示しました。

 

表1 エビデンスの階層

 

階層  内容

 

EBL4 メタアナリシス

EBL3 RCTやエビデンスに基づく研究

EBL2 観察研究

EBL1 個人の経験談・専門家のエビデンスに基づかない意見

 

<< 引用文献

経済学はどこに向かうのか 前⽥裕之

https://www.mof.go.jp/pri/research/seminar/fy2023/lm20231102.pdf

>>

 

前⽥裕之氏は、経済学は、近い将来、データサイエンスにのみ込まれるだろうと言う人もいるといいます。

 

これは、いい換えれば、すべての科学は、4つのエビデンスレベルのどこかに位置づけられるということです。

 

エビデンスの階層」が主張することは、EBL3とEBL4以外は、科学ではないということです。

 

つまり、EBL1とEBL2の学問は、近い将来になくなるだろうということです。

 

EBL2は、過去と同じことがおこる場合には、有効です。因果が不明で、EBL2を採用する場合もあります。しかし、その場合には、人間は、AIに必ず負けます。なので、あえて学問として、EBL2を取り上げる必要はありません。

 

8-4)ODの就職

 

今回の検討は、ODの就職でした。

 

企業が、EBL1とEBL2のODを採用するメリットはありません。

 

AIが進めば、EL2の仕事は、ほとんどが機械に置き換わります。

 

これは、自動運転で、運転手が失業する状況です。

 

この状況になると自動車学校(運転手の学問)は、消滅します。

 

同様に、EBL1とEBL2の学問を教えている大学の講座はなくなると思われます。

 

自動車学校と同様に、多くの現職の大学の教員が失職すると思われます。

 

もちろん、政府は、博士号を取得した専門人材の就職を支援しています。

 

同様に、政府は、失職しそうな多くの現職の大学の教員に補助金をばら撒くかもしれません。

 

しかし、そのようなことをすれば、日本経済は、火の車になって、政権が転覆します。

 

2024年現在、日本は、生産性で、シンガポール、韓国、台湾に勝てません。

 

経済成長と技術開発で、中国に勝てません。

 

日本の後方には、インド、マレーシア、タイ、ベトナムインドネシアが追いかけています。

 

企業が、EBL1とEBL2のODを採用すれば、これらの国に逆転されます。

2024年11月には、政府は、103万円の壁引き上げの議論をしています。

 

ここには、「中国製造2025」のような技術開発の議論はありません。

 

東南アジアの発展途上国は、「中国製造2025」をモデルに、技術開発に力を入れています。

 

日本は、所得の再配分とつけ回しの議論ばかりしています。

 

5年後、10年後の日本には、現在の政策の結果が効いてきます。

 

世界の幻滅(Entzauberung der Welt)

1)世界の幻滅

 

世界の幻滅(世界の魔法を解く、Entzauberung der Welt)という概念は、マックス・ウェーバーの「職業としての科学」の一部です。



「職業としての科学(Wissenschaft als Beru)」は、日本語では、「職業としての学問」と訳されていますが、Wissenschatの英語は、scienceなので、ここでは、「職業としての科学」と訳します。

 

ドイツ語のウィキペディアの「職業としての科学」の位置づけの説明は以下です。

 

「職業としての科学」は、社会学者で経済学者のマックス・ウェーバーによるエッセイです。これは、マックス・ウェーバーが 1917 年 11 月 7 日に「自由学生協会」主催の会議の一環として行った講演に基づいています。バイエルン地域協会」は、ミュンヘンの書店シュタイニッケのアートホールで連続講演会「職業としての知的労働 Geistige Arbeit als Beruf」を開催しました。 ウェーバーはラウエンシュタインの文化会議で若者たちにインスピレーションを与えることができる講演者であることを証明し、テーマ別の接点があった後、この講演テーマを提供しました。また、話題は「彼の心に近い」ものでした。この講義の増補テキストは 1919 年 7 月に出版されました。

 

ドイツ語版のウィキペディアには、世界の幻滅(Entzauberung der Welt)の見出しがあります。次の「世界の幻滅」は、「職業としての科学」の中の重要な概念です。

 

世界の幻滅は、経済学者で社会学者の マックス・ウェーバーが、特に後に発表した1917年の講義「職業としての科学」の中で引用した概念であり、この概念で彼は、発展に伴う知的化と合理化から生じる発展を要約しています。科学の発展は密接に関係していますが、すでにユダヤ教、特に旧約聖書預言者から始まっています。

 

ウェーバーは「職業としての科学」の中で次のように述べています。

 

知的化と合理化が進むということは、自分が置かれている生活条件についての一般的な知識が増えるということではありません。むしろ、それは別の何かを意味します。つまり、それについての知識またはそれに対する信念です。つまり、望めばいつでもそれについて知ることができ、原則として、それに役割を果たす神秘的で予測不可能な力は存在しないということです。むしろ、すべてのことは - 原則として - 計算によって習得できると知ることができます。しかしそれは、世界の幻滅を意味します。もはや、そのような力が存在していた未開人のように、霊を制御したり霊に訴えたりするために魔法の手段に頼る必要はありません。これは技術的手段と計算によって達成されます。

 

最後の部分の「すべてのことは - 原則として - 計算によって習得できると知ることができます。しかしそれは、世界の幻滅を意味します。もはや、そのような力が存在していた未開人のように、霊を制御したり霊に訴えたりするために魔法の手段に頼る必要はありません。これは技術的手段と計算によって達成されます」は、筆者には、計算科学とデータサイエンス(AIの基礎)の出現を予言しているように読めます。

 

「すべてのことは - 原則として - 計算によって習得できると知ることができる」という主張は、evindence baseの信念です。

 

つまり、「職業としての科学」の従来の日本の解釈には、バイアスがかかっていた可能性があります。

 

筆者が、「職業としての科学」を調べた問題意識は、次にあります。

 

2)科学者のルール

 

一般には、映画「オッペンハイマー」のように、科学者は、倫理のルールの問題に直面します。

 

生成AIの開発について、倫理条件が必要かといった議論です。

 

しかし、科学は、バージョンアップします。

 

WidowsのようなOSや、アプリの古いバージョンを使い続けることによる問題は、次の2点です。

 

第1に、便利な新しい機能が使えません。

 

第2に、セキュリティの脆弱性が増します。

 

しかし、古いバージョンのソフトウェアを使い続けることは、決定的な間違いではありません。

 

政府は、紙の保険証を、マイナンバーカードに切り替えるといいます。

 

しかし、納得できない人もいます。その理由は、古いバージョン(紙の保険証)を使い続けても、合法であるからです。

 

それどころか、政府(役所)は、常日頃は、行政の継続性という科学的に間違った主張をして、バージョンアップを拒んでいます。

 

鹿児島市では、マイナンバーカードをスマホに紐つけて、スマホがあれば、マイナンバーが不要になるサービスを始めています。しかし、そこまで、バージョンアップしている自治体は他に例がありません。

 

科学は、バージョンアップします。

 

科学者は、バージョンアップに対応しないことは許されません。

 

サリドマイドは1950年代末から60年代初めに、世界の十数カ国で販売された鎮静・催眠薬でした。

 

あるときに、この薬を妊娠初期に服用すると、胎児の手/足/耳/内臓などに奇形を起こす(催奇形性)ことが、確認されました。

 

それまでは、サリドマイドは、安全な鎮静・催眠薬と考えられていました。しかし、催奇形性の確認によって、サリドマイドは、妊婦には処方してはいけないと、知識をバージョンアップする必要が生じました。

 

科学では、常に、「古い間違った知識を、バージョンアップするルール」になっています。

 

「古い間違った知識を、バージョンアップするルール」は、仮説の検証過程に対応していて、科学の方法論の基本を形成しています。このルールは、倫理のルールより優先します。

 

「古い間違った知識を、バージョンアップするルール」は、権威主義訓詁学と対立します。

 

例えば、ダーウインが進化論を提案した時には、遺伝子はまだ、発見されていませんでした。ダーウインの提案した進化論で、遺伝子に関係した部分は、当然、間違っています。

 

だから、「進化論は間違いである」という主張も、ダーウィンは権威であるから、「進化論は正しい」という主張も、間違いです。

 

これらの主張には、「古い間違った知識を、バージョンアップするルール」が、含まれていないので、科学のルールに、違反しています。

 

ここで、言葉がなければ考えられない点に注目すると、「古い間違った知識を、バージョンアップするルール」が必要であるかを容易に判定できます。

 

例えば、ダーウィンの場合には、「遺伝子」という言葉の有無が、決定的なポイントになります。

 

現代の進化論は、ダーウィンの進化論を「遺伝子」の言葉を使って、バージョンアップしたものになっています。

 

青山士氏(1878年 - 1963年)は、日本の伝説的な土木技術者で、パナマ運河建設、荒川放水路の建設、信濃川大河津分水路の改修工事にかかわっています。

 

しかし、青山士氏の時代には、生物多様性などの生態学の言葉(概念)はありませんでした。青山士氏は、生態学の言葉をもっていませんでしたので、青山士氏の担当した工事は、十分な生態学の配慮をしたものではありません。

 

筆者は、科学のルールに従えば、青山士氏の担当した土木工事が、生態学の言葉を使って、バージョンアップしたものになっているべきであると考えます。ここでは、その判断は保留します。しかし、少なくとも、現在の河川工事で使われている生態学の言葉は、エコシステムエコロジー以前の、種の保存の古いバージョンに止まっています。言葉がないのです。

 

さて、筆者の関心は、ウェーバーが、「職業としての科学」のなかで、科学者のバージョンアップルールに言及していたかにあります。



3)職業としての科学

 

ウェーバーは「職業としての科学」の内容を、ウィキペディアで確認します。

 

第1は、ドイツ語版(Wissenschaft als Beruf)です。

 

内容

 

ウェーバーは講義の中で、まず科学者としてのキャリアの長所と短所についての立場をとります。彼はドイツとアメリカの大学制度、講師の昇進の機会と給与を比較し、すべての科学者のキャリアにおいて無視できない役割を果たす偶然の要素を強調します。彼はまた、個人としての科学者と科学一般との関係、およびそれらが持つべき前提条件についても考察しています。科学のために、そして科学から生きていかなければなりません。

 

ここで彼は、科学的成果は専門化によってのみ達成できる という立場をとります。

 

「厳密な専門化を通してのみ、科学者は人生で一度、そしておそらく二度とないであろう完全な感覚を実際に得ることができます。私はここで永続的な何かを達成しました。」

 

マックス・ウェーバー著「職業としての科学」セクション: 科学者の個人的要件としての情熱

 

彼はまた、「科学の価値」の問題も扱っています。科学には新しい発見や立場に到達するためのツール(方法)がありますが、なぜそれらが表現する価値があるのか​​を直接推測することはできません。意味するのは、倫理や哲学とは対照的に、より狭い範囲の自然科学です。後者は価値の問題を検討することに専念しなければなりません。

 

前提条件のない科学はなく、前提条件が否定されると科学の価値は失われます。

 

「すべての自然科学は、生命を技術的に習得したい場合はどうすればよいかという質問に対する答えを与えてくれます。しかし、私たちがそれを技術的に習得する必要があるのか​​、そして習得したいのか、そしてそれが最終的に実際に意味があるのか​​どうか: - 彼らはそれを完全にオープンのままにするか、自分たちの目的のためにそれを想定します。

 

マックス・ウェーバー「職業としての科学」セクション: 科学の基礎としての「究極の」理由の欠如

 

人生の意味の問題は、たとえあったとしても、自然科学だけでは答えられません。

 

最後のセクションでウェーバーは、講堂(教室)に「政治」を持ち込むべきではないと強調しています。

 

「講堂(教室)では、(教師は)聴衆(生徒)の向かい側に座っているので、聴衆(生徒)は黙っていなければならず、教師は話さなければなりません。学生が昇進するために教員大学に行かなければならないのは無責任だと思います。これに批判で反論する人は誰もいないが、それは彼の仕事であるように、彼の知識と科学的経験を聴衆に役立てるためではなく、彼の個人的な政治的見解に従って聴衆(学生)に太鼓判を押すためです。

 

–職業としての科学におけるマックス・ウェーバー、セクション: 科学的研究の文脈における個人的信念の抑制の公準

 

解釈

 

伝統的な解釈によれば、ウェーバーの講義は価値のない科学の概念に向けられている、とハンス・ウルリッヒ・グンブレヒトは「今日の人文科学の課題」と題した2004年の論文でコメントしています。そして彼は、対照的に、ウェーバーの議論ははるかに複雑であるという彼の評価を説明しています。グンブレヒトによれば、ウェーバーは主に科学の目標である革新的な思考に関心を持っています。ウェーバーは、アイデアの革新的な価値とその実用化を区別することを提案しています。この二つの間には偶然の関係があるだけです。グンブレヒトは、学者が大学特有のルールに従って「不快な真実」を生み出すこと、そして大学の社会的有効性は変化の可能性にあるということを意味しているとウェーバーを解釈しています。

 

ドイツ語版は、他の言語版にはない「世界の幻滅(Entzauberung der Welt)」と「ハンス・ウルリッヒ・グンブレヒト」氏の解釈を紹介している点で貴重です。

 

しかし、Google翻訳の精度が悪い点もありますが、それ以前に、内容がこなれていません。

 

次は、日本語版です。

 

日本語版(職業としての学問)

まず、講演の前段では、アカデミックな職業人生に伴う現実的な問題を明らかにする。

 

たとえば、学者を志す者が、果たして将来教授などのポストを得られるか、それともそうはならずに人生を棒に振ってしまうかということは、そのほとんどが、その人の研究成果ではなく、運や偶然で決まってしまう。また、運よく大学教員になれたとしても、研究者としての評価と教育者としての評価の乖離の問題などを説明することで、ウェーバーは、大学教員としての人生について学生が抱く幻想を打ち砕く。

 

次に、本段では、学問の動向を踏まえて、学問にできることと学問にはできないことについて説明し、学問をすることの意味に対して疑問をつきつける。

 

近代の自然科学では、主知主義化や合理化が行われた("脱呪術化"・"魔術からの解放")。また、学問の専門領域が分化した("神々の闘争")。そのため、「真なる存在への道」という理想は失ってしまっており、もはや生の意味を学問に求めることなどできはしない。したがって、学問はもはや人々に価値を示すことはできず、究極的には学問をする意味などない。

 

また、それと関連して、学問と政策の峻別をすべきである。したがって、教師は自身の講義の中で、学生に自己の主張を説いたり、それを強制したりしてはならない(価値判断の回避("価値自由"))。

 

また、学生をはじめとする若者が何らかの体験を得ようとするために結社の類を作ろうとする場合、そのような行為は、結局は小さな狂信的集団に陥るとも述べている。

 

最後に、講演の結びでは、学問が前段に述べられているようなものでしかないことを踏まえつつ、それでも敢えて学問に意義を見出そうとするならば、それは個人が「自己の立場の明確化」を助けることになるという。しかし、学問に伴う宿命、つまり自らが主体であり続けるということに耐えるという宿命を受け入れられないような人は、おとなしくキリスト教への信仰に戻り、非アカデミックな職業に就いて、そこで日々求められる役割を果たし、人間関係の中で生きるべきであるとする。

 

筆者は、この解説では、ウェーバーの主張が散漫になっていると感じます。

 

「まつき」さんも要約を書いています。

 

最後の結論の部分は、以下です。

ウェーバーは学問が持つ意義を物事の考え方とそのための用具と訓練を与えるものと定義しました。即ち、ある対象物に対して特定の論理法則にしたがい、体系だった論理構成のもと事実を示すということが役割だという立場に立ちます。

<< 引用文献

要約≪職業としての学問≫ 02023/03/19 まつき

https://note.com/matsu805/n/nc70b10ecad90

>>

 

「まつき」さんの要約は、日本語版のウィキペディアより正確です。

 

最後は、英語版です。

 

英語版(Science as a Vocation)

ウェーバーは著書「職業としての科学」で、大学で科学や人文科学を学ぶ学者としてのキャリアを選択することの利点と欠点を比較検討した。ウェーバーは「科学の価値とは何か」という問いを探求し、科学者としてのキャリアの根底にある倫理の本質に焦点を当てている。ウェーバーにとって、科学は説明の方法と立場を正当化する手段を与えるが、そもそもその立場を保持する価値がある理由を説明することはできない。これは哲学の仕事である。いかなる科学も仮定から自由ではなく、仮定が否定されると科学の価値は失われる。

 

講義の中で、ウェーバーは芸術家の仕事の性質を科学者のそれと比較しています。芸術家の仕事は達成できるが、科学者の仕事は、その性質上、超えられるよう設​​計されていると彼は主張しています。

 

ウェーバーは、科学は、人々に、どのように生きるか、何を大切にするかといった人生の根本的な問いに決して答えることはできないと論じている。価値は宗教などの個人的な信念からしか得られないと彼は主張する。さらに彼は、理性と信仰はそれぞれの分野で独自の位置を占めているが、交差すると機能しないとして、理性と信仰を分離すべきだと主張している。

 

ウェーバーは政治においても事実と価値を区別しています。教師は生徒に知識を与え、問題を論理的に明らかにする方法を教えるべきだ、たとえ政治問題であってもです、しかし教師は教室を利用して自分の政治的見解を教え込んだり説教したりしてはならない、と彼は主張しています。

 

ウェーバーは研究と教育についても実際的なコメントをしています。優れた学者が劣った教師になることもあり、優れた学者や優れた思想家となるための資質が必ずしも優れたリーダーや模範となるための資質と同じではないと指摘しています。

 

英語版のウィキペディアには、感心させられることが多いですが、今回も脱帽です。

 

「科学者の仕事は、その性質上、超えられるよう設​​計されている」は、科学では、常に、「古い間違った知識を、バージョンアップするルール」になっていることに対応しています。

 

ウェーバーにとって、科学は説明の方法と立場を正当化する手段を与えるが、そもそもその立場を保持する価値がある理由を説明することはできない。これは哲学の仕事である。いかなる科学も仮定から自由ではなく、仮定が否定されると科学の価値は失われる」は、「エビデンスの階層」の出現を予言しています。

 

つまり、「エビデンスの階層」は、ウェーバーの考えでは、「哲学」になります。ウェーバーは、「哲学」と「哲学の伝統(プラググマティズム)」を区別していませんが、厳密には、「エビデンスの階層」は、「哲学の伝統」になります。



表1 エビデンスの階層

 

階層  内容

 

EBL4 メタアナリシス

EBL3 RCT(ランダム化比較試験)エビデンスに基づく研究

EBL2 観察研究

EBL1 個人の経験談・専門家のエビデンスに基づかない意見

 

ウェーバーの研究は、EBL2です。

 

エビデンスの階層では、十分なエビデンスのある研究は、EBL4とEBL3に限定されます。

 

「いかなる科学も仮定から自由ではなく、仮定が否定されると科学の価値は失われる」は、ウェーバーのEBL2の研究の価値が失われることに対応しています。

 

前⽥裕之氏は、エビデンスの階層を説明して、経済学は、データサイエンスの一部になるという人もいるといいます。

 

EBL2の経済学が、EBL3のデータサイエンスに置き換わることは、ウェーバーが、「いかなる科学も仮定から自由ではなく、仮定が否定されると科学の価値は失われる」といった予言の実現になります。

 

<< 引用文献

経済学はどこに向かうのか 前⽥裕之

https://www.mof.go.jp/pri/research/seminar/fy2023/lm20231102.pdf

>>

 

4)世界の幻滅

 

最後に、世界の幻滅に戻ります。

 

世界の幻滅とは、「すべてのことは - 原則として - 計算によって習得できると知ることができる」ことでした。そこでは、「未開人のように、霊を制御したり霊に訴えたりするために魔法の手段に頼る必要はありませんでした。これは技術的手段と計算によって達成」されます。

 

「すべてのことは - 原則として - 計算によって習得できると知ることができる」は、「エビデンスに基づく政策立案 Evidence Based Policy Making(EMPM)」に対応しています。

 

日本の首相が、アメリカの大統領にあって、ゴルフをすれば、政策立案が、変わるのであれば、それは、「エビデンスに基づく政策立案」ではなく、科学を無視した「魔法の手段に頼」っていることになります。

 

忘年会や社員旅行をすれば、企業の業績がよくなると考えることは、「エビデンスに基づく経営立案」ではなく、科学を無視した「魔法の手段に頼」っていることになります。

 

ウェーバーは、「科学が進めば、そのような時代は終わる」だろう。そして、そのことは、「魔法の手段の消滅になり、世界の幻滅(世界の魔法が解かれてしまう状態になる)」と予言していました。

 

データサイエンスに飲み込まれるのは、経済学だけでは、ないのです。